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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
初出場か。それとも15年ぶりか。東京高校サッカー界もいよいよ大詰め。全国切符を巡る大成と国士舘のファイナルは、駒沢陸上競技場です。
近年は都内の各種大会でも上位に顔を出すことが多く、確実にその存在感を高めてきている大成。とりわけ今シーズンは新年度最初の公式戦となった関東大会予選で、その後のインターハイで全国16強を経験する國學院久我山を、2-0で下してベスト8へ進出するなど、その実力は早い段階で証明済み。迎えた今大会も初戦で暁星に1-0で競り勝つと、明大明治戦を1点差で、東京実業戦をPK戦で粘り強く勝ち上がり、初めて立った西が丘のピッチでは、強豪の成立学園を1-0で撃破して、この決勝戦へ。ただ、「決勝に勝たないとここまで来た意味がないので、決勝も頑張って行きたいです」とキャプテンの柴田憲伸(3年・府ロクJY)が話せば、「『西が丘に来るのが目標だったら、もうこれでおしまいでお祭りでいいよ』という話は準決勝の前にしています」とは豊島裕介監督。決勝進出で満足するつもりは毛頭ありません。
最後に全国切符を獲得したのは15年前。以降は5度に渡って西が丘までは進出しているものの、"あと一歩"の壁に阻まれ続けてきた国士舘。やはり西が丘での終止符を経て、立ち上がった今年度のチームは、夏前までなかなか思うような結果が付いてきませんでしたが、8月からの登場となった今大会は、1次予選を3試合19得点という圧倒的な力で勝ち上がると、2次予選は初戦で東工大附属に苦しめられるも、守護神の小松直登(3年・東京久留米FC U-15)が2本をストップしてPK戦で何とか勝利。以降は多摩大目黒に2-0、かえつ有明に延長で2-1と手堅く勝ち進め、先週のセミファイナルも都立国分寺を2-0で下して10年ぶりの決勝戦へ。「去年負けた西が丘を越えたので、次の決勝も去年の先輩たちの分まで頑張って勝ちたいと思います」とはサイドアタッカーの唐澤大地(3年・FC町田ゼルビアJY)。様々な想いを背負って、最後の1試合に挑みます。駒沢のスタンドには6,495人の大観衆が集結。楽しみなファイナルは大成のキックオフでスタートしました。
先にシュートを放ったのは大成。3分にルーズボールへ反応したボランチの宮脇茂夫(2年・練馬三原台中)が、得意の左足でミドル。軌道はクロスバーを越えたものの、ファイナルへの強い意欲を前面に。6分は国士舘。佐藤慶哉(3年・AZ'86東京青梅)のドリブルから獲得したFK。右からレフティの柳陽哉(3年・GA FC)が蹴ったボールは、大成のGK柴田にキャッチされましたが、まずはお互いに1つずつチャンスを創り合います。
以降はやや膠着した時間が続きつつ、「相手に結構持たれていましたね」と国士舘のキャプテンを託されている長谷川翔(3年・FCトレーロス)も話したように、宮脇と内田康平(2年・FC多摩)のドイスボランチを中心に、大成がボールを動かす展開の中で、チャンスは双方セットプレーから。13分は国士舘。サイドバックの村崎海斗(3年・世田谷砧中)も絡んで得たFKを右から菊地駿斗(3年・三鷹F.A.)が蹴り入れるも、きっちりDFがクリア。16分は大成。山梨雄也(3年・Forza'02)を起点に奪った左FKを今西奏真(2年・府ロクJY)が蹴り込み、突っ込んだセンターバックの佐藤イライジャ(2年・FC.GRORIA)はオフェンスファウルを取られましたが、あわやというシーンを。18分は国士舘。菊地の左FKは柴田がキャッチ。どちらもフィニッシュには至りません。
ただ、「圧は感じていたので、出るに出れなかった」と国士舘の上野晃慈監督も話したように、徐々に左サイドの推進力を生かしながら、ゲームリズムは大成に。20分には前線でスタメン起用された風岡信哉(3年・和光ユナイテッド川崎FC)がきっちり収めて左へ流し、大石勇冴(2年・FC多摩)のシュートは枠を越えるも好トライ。24分にもルーズボールを拾った内田は、果敢にミドルへチャレンジ。初の全国を渇望する大成が一段階踏み込んだアクセル。
ワンチャンスをモノにしたのは「普段も"ヒールキック"を使うと怒られるんで」と笑ったボランチの"禁断の一蹴り"。37分に柳が右から蹴ったCKはシュートへ持ち込めなかったものの、今度は左サイドからのCK。菊地がニアへ正確なボールを蹴り入れると、走り込んだ濱部響乃介(3年・FCトリプレッタJY)は「良いボールが来たので」"ヒールキック"でシュート。ニアサイドをすり抜けたボールは、ゴールネットへ滑り込みます。「一番鍵を握る部分だった」と指揮官も言及したセットプレーからの鮮やかな先制弾でしたが、濱部は「試合前も『オマエ、今日"ヒールキック"やったら即交替するからな』って言われていて(笑) でも、ゴールになったのでさすがに全然怒られなかったです」とニヤリ。国士舘がスコアを動かしました。
ビハインドを背負った大成にも、すぐさま決定的なチャンス。40分にここも風岡が正確なポストプレーで落とし、内田が右へ送ったボールを神谷琉(3年・FC府中)は丁寧にクロス。ファーへ飛び込んだ原田晃希(3年・Forza'02)が懸命に当てたヘディングは枠を捉えるも、左のポストを直撃する不運。「前半はとにかく0-0で御の字かなという所で、良い形でセットプレーで取れましたね」と上野監督も振り返った最初の40分間は、国士舘が1点のリードを携えてハーフタイムに入りました。
後半のファーストチャンスも大成。43分に神谷が短く付け、今西のクロスに飛び込んだ原田はオフサイドを取られたものの、悪くないサイドアタックを。44分には国士舘も唐澤が左へ流し、菊地の好クロスにファーで合わせた長谷川のヘディングはゴール左へ。52分にも国士舘に決定機。右サイドで得たFKを菊地が放り込むと、再び長谷川が打ったヘディングは柴田にビッグセーブで掻き出されましたが、国士舘が滲ませる追加点への気合。
56分は大成。佐藤が左へフィードを送り、大石がクロスを入れるも、3列目から飛び込んだ内田はシュートを打ち切れず。57分は大成に1人目の交替。基点創りに奮闘した風岡を下げて、「自分たちは弱者の戦い方で勝っていくしかないので、自分がキーマンになれるようにやろうと思っている」と言い切る児島進之介(3年・府ロクJY)をピッチへ送り込み、前線のパワーと推進力アップに着手します。
57分は大成。左から今西が蹴ったCKは、ストーンの濱部にきっちりクリアされましたが、60分には2人目の交替。右サイドハーフの神谷に替えて、阪口駿(2年・あきる野東中)をそのままの位置に投入し、攻守にサイドへテコ入れを。直後には宮脇のFKを内田が粘り強く残し、佐藤が枠へ収めたシュートは小松にキャッチされたものの、ジワジワと押し込み始める大成の圧力。
実った前への執念。61分に大成は入ったばかりの阪口がエリア内へパスを送ると、走った原田はマーカーともつれて転倒。ホイッスルを吹いた主審は、ペナルティスポットを指し示します。キッカーは原田自ら。ゆっくりとした助走から左へ蹴ったキックは、しかしGKの小松がファインセーブで弾き出し、リバウンドに反応した原田のシュートも、素早く間合いを詰めた小松がきっちりセーブ。「本当に嬉しくて。でも、セカンドをゴール前にこぼしちゃったので。本当にボールだけ見て突っ込みました。止めた時よりはプレーが切れた時に『ああ、良かったな』って思いました」と語る守護神のビッグプレー。同点とは行きません。
両ベンチが切り合うカード。64分は国士舘。サイドで上下動し続けた佐藤慶哉と莊原聡(3年・川崎白鳥中)を入れ替えると、65分にも柳とジョーカーの福田竜之介(3年・FCトッカーノ)をスイッチ。67分は大成。原田に替えて、杉田健(2年・三菱養和調布JY)をピッチへ解き放つ勝負の一手を。68分はまたも国士舘。前線で攻守に効いていた丸山龍基(3年・AZ'86東京青梅)が下がり、田中壮太(3年・VERDY S.S.AJUNT)が最前線へ。長島佑仁(3年・FCトリプレッタJY)と永吉風太(3年・FC多摩)で組むセンターバックコンビも抜群の安定感。いよいよファイナルも残り時間は10分間とアディショナルタイムのみ。
73分は国士舘。莊原の左FKは、大成のセンターバック金井渉(2年・FC多摩)がクリアしたものの、拾った唐澤のミドルは枠の上へ。75分は大成に決定機。今西がフィードを蹴り込み、エリア内へこぼれたボールを内田がシュートに変えるも、軌道はわずかにゴール左へ。77分は国士舘に4人目の交替。先制弾の濱部に替えて、井上優太(3年・インテリオールFC)をクローザー投入。79分は国士舘に絶好の追加点機。福田がクイック気味に蹴った左FKは、ファーでフリーの長谷川に届くも、ボレーの行く先は右のポスト。スコアは最小得点差のまま、正真正銘の最終盤へ
80分は大成に4人目の交替。今西と海老沢光(3年・JACPA東京FC)を入れ替え、3年生に託す最後の攻撃。アディショナルタイムの掲示は3分。覇権を懸けた180秒のラストバトル。80+3分は大成。左から宮脇が蹴ったFKは、DFが大きくクリア。80+4分も大成。左から阪口が投げ入れたロングスローも跳ね返されると、駒沢の青空へ吸い込まれたタイムアップのホイッスル。「自分たちは地区予選からやっているので、本当に最初の頃は全然全国なんて思ってなくて。でも、毎回一戦一戦勝とうというのはチームの中にあったので、その結果がこうなったのかなと思います」と濱部も口にした国士舘が、15年ぶりに全国の出場権を掴み取る結果となりました。
ゲームの流れを大きく左右したのは間違いなく62分のPKシーン。小松には勝算があったそうです。曰く「YouTubeに大成対東京実業の試合のPK戦があって、それを見たら全員自分の止めた方に蹴っていたので、蹴った人は違ったんですけど、そっちかなと思って飛びました。たまたまYouTubeを見てたらあったので、ちょうど良かったです」とのこと。小松は前述したように初戦の東工大附属とのPK戦で3本中2本をストップし、かえつ有明戦とファイナルで試合中のPKを止めているため、今大会のPKは驚異の阻止率80パーセント。「あまり得意という意識はないです」とは本人ですが、「ちょっと不安だったんですけど、なんか止めそうだなっていう感じはありました。練習でも昨日も結構止めていたので、何となく雰囲気はあったかなと思います」とは上野監督。おそらくチームメイトにも予感があったのではないでしょうか。
実は殊勲の小松ですが、2回戦の多摩大目黒戦は負傷で出ていませんでした。そのゲームで活躍したのが、同じ3年生GKの山田大晴。拮抗した展開の中で何度もファインセーブを繰り出し、完封勝利に貢献すると、スタンドで見守っていた小松は「大晴が全部止めて、周りで見ている人も『オマエもういらないんじゃね?』って言われましたし、自分でもそう思ったので、『アイツ、ちょっとやり過ぎかな』と思いました」と。そして「小松も山田も本当に甲乙付けがたい部分があって、2人ともチームのために活躍してくれる選手です。ただ、リーグを通して小松の方が経験値としてちょっと高いので、多摩大目黒以降は小松で行きました」という指揮官の決断を受けて、「危機感があったので、朝練習も毎日行って、練習もいつも以上に全力でやりました」と小松がこの大舞台でチームを救う大仕事を成し遂げてしまうあたりに、今の国士舘を取り巻く雰囲気が窺えます。
夢にまで見た冬の全国へ向かうに当たり、「国士舘は全国で勝っていないので、まずは1試合目を勝って、また新しい歴史を刻めたらなと思います」(濱部)「国士舘はまだ1回も全国大会で勝っていないので、そこは歴史を塗り替えるというか、今までにないことをやりたいですし、1回戦は必ず勝って、良い年越しができればと思います」(小松)と2人は声を揃えて"全国初勝利"への意気込みを。「凄くラテン的で明るい子たちなので、乗ればいいんですけど、乗らないともう。良いか悪いかしかないような子たちが、8試合を取りこぼさずに何とか引っ張り上げてきたというのは、相当な精神力がなければできませんでしたし、凄くチームとして春先よりは一体感は感じました」と上野監督。国士舘が全国という大海原へ力強く、堂々と、赤と青で彩られた希望の船を漕ぎ出します。 土屋
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