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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
Jリーグの舞台で初めて実現したオレンジダービーは注目のオープニングマッチ。清水と愛媛の開幕戦はIAIスタジアム日本平です。
屈辱の降格を経験したのはわずかに3か月前。"オリジナル10"の誇りを胸に抱き、23シーズンに渡って戦ってきたJ1のステージから陥落し、J2でのリスタートを突き付けられた清水。迎えた心機一転のシーズンを託された指揮官は、大分、山形、徳島と3つのクラブに"初のJ1昇格"という歓喜をもたらしてきた小林伸二監督。言うまでもなく再起を懸けたこの大事な開幕戦に、オレンジのサポーターは選手バス入りから熱狂的な出迎えを。王国復権への一本道は聖地・日本平からその第一歩を踏み出します。
知将にして闘将の木山隆之監督に率いられ、昨シーズンのJ2は堂々の5位でフィニッシュ。挑んだ昇格プレーオフ準決勝はC大阪とスコアレスドローに終わり、規定上での敗退を強いられたものの、間違いなく最高峰のステージをその視界へ確実に捉えることとなった昨シーズンの愛媛。木山体制2シーズン目となる今シーズンの開幕戦は、いきなりの強豪相手となりましたが「清水にもちろん力があることは承知の上で、勝ち点をいかにして奪うかということを課題にして練習してきました」とは木山監督。目線の上がった新シーズンを良い形で滑り出しすべく、アウェイの90分間に臨みます。「たくさんのサポーターの方が来てくれて、本当に良い雰囲気を創ってくれた」と開幕スタメンを勝ち取った北川航也も話した通り、スタジアムには15453人の大観衆が。楽しみな一戦は清水のキックオフでスタートしました。
先に勢いを持って立ち上がったのはホームチーム。2分には三浦弦太の左ロングスローから、DFのクリアを本田拓也が拾い、六平光成が右へ展開したボールを石毛秀樹はクロス。ここもDFに弾き返されたものの、スムーズなパス回しでチャンスの芽を生み出すと、5分に福村貴幸が右から蹴ったFKは愛媛のGK児玉剛にキャッチされるも、7分にも大前元紀が左サイドからドリブルで中央へ持ち込んで左CKを獲得。大前が自らショートで蹴り出し、受けた本田のクロスはゴールラインを割りましたが、まずは清水がセットプレーを中心にペースを掴みます。
すると、最初の決定機もやはり清水。10分に鎌田翔雅のスローインを受けた石毛は丁寧なピンポイントクロス。中央に潜った大前はドンピシャヘッドで応えたものの、ボールはクロスバーの上へ外れ、思わずゴール裏のサポーターも頭を抱えましたが、「初めてのJ2の相手で『どういった感じかな』という部分はありました」と三浦も正直に明かした中でも、狙いの1つであるサイドアタックから決定的なシーンを。
さて、一方の愛媛で驚かされたのはスタートの布陣。3バックの中央が予想された西岡大輝は中盤アンカーの位置に入り、最終ラインは右から玉林睦実、林堂眞、浦田延尚、内田健太が並ぶ4バック。西岡の前に藤田息吹と小島秀仁を並べる4-3-3でゲームに入りましたが、「あれはもう監督が試合の始まる前にいきなり。まあ奇策だと思うんですけど(笑)」と笑ったのは西岡。ただ、「4バックにしてしっかりと相手を裏返すことができればもうちょっと違った展開になったと思うんですけど」と西岡が続けたように、あまりハマらなかった立ち上がりを見て、木山監督は10分も経たずに3-4-2-1へ回帰。いつもの慣れ親しんだ並びに戻します。
14分は愛媛。玉林の仕掛けで奪った右CKを小島が蹴り込み、ルーズボールに反応した玉林のシュートはDFがブロックして、清水のGK西部洋平がキャッチ。17分も愛媛。藤田が左へ振り分け、内田を回った河原和寿はニアサイドへクロス。突っ込んだ阪野豊史のシュートはヒットせず、西部がキャッチしたものの、「簡単に失点してしまったら元も子もないと思っていたので、無失点でそこを切り抜けるというのはまずマスト」(西岡)という最初の10分間を無失点で切り抜けた愛媛にも、少しずつ増えて行くアタックの回数。
25分は清水。左右にボールを動かしながら、石毛のパスを引き出した六平のミドルは林堂がきっちりブロック。26分も清水。右CKを福村が密集を外して、マイナス気味に蹴り入れると、フリーで走り込んだ石毛のシュートはここも玉林が確実にブロック。27分も清水。左サイドで得たFKを大前が素早く蹴り出し、六平が狙ったミドルはクロスバーの上へ。「立ち上がりはプレッシャーを掛けて行って、ボールを取れるような気配もありましたけど、さすがにそこはエスパルスもボールを動かす技術があるので、ちょっと構えた守備をすることになりました」と木山監督。愛媛がきっちりセットした分、清水はボールキープこそ長いものの、縦へのスイッチはなかなか探り当てられません。
34分には中盤で前を向いた本田拓也が右のハイサイドへ送り、走ったSBの鎌田は届かなかったものの、ようやく破調の可能性が。36分にも本田のパスを受けた白崎凌兵は、左からカットインしながら枠の右へ逸れるミドル。39分にも三浦が左からロングスローを投げ入れ、ニアで犬飼智也が競ったボールは藤田がクリア。40分にも大前の左CKに、ニアで三浦が競り勝つも玉林が懸命ににクリア。エリア内でのフィニッシュは取り切れず。
そんな中で愛媛に訪れたビッグチャンスは43分。ここも玉林のドリブルで獲得したCKを右から小島が鋭く蹴り入れると、浦田は渾身のヘディングを枠内へ。ここは白崎がライン上で掻き出し、先制点とは行かなかったものの、「決定的なピンチ」と小林監督も振り返ったように、伊予のオレンジ軍団が懐に隠し持つ一太刀はやはり強烈。ボールは清水が持ちながら、愛媛もきっちり凌いだ前半はスコアレスで45分間が終了しました。
後半はスタートから愛媛に手数。48分に内田が蹴った左FKは西部にキャッチされましたが、49分には左サイドを使ったアタックから内田がクロスを上げ切り、ファーに突っ込んだ玉林はヘディングを当て切れなかったものの、両WBを使ったダイナミックな攻撃を。52分にも左サイドでボールを持った内田がスルーパスを通し、走った近藤はオフサイドを取られるも好トライ。「自分たちのマイボールになった時に慌ててボールを捨てずに、マイボールの時間を増やすということもある程度はできていたかなと思います」とは木山監督。愛媛に漂い出すゴールへの可能性。
57分も愛媛。藤田が右へ展開したボールから、玉林は左足でクロスを放り込み、ニアに入った阪野のシュートは枠の右へ。61分も愛媛。小島のパスを引き出した近藤はうまく前を向き、そのまま運んで中央へ。DFのクリアを収めた藤田のミドルはクロスバーを越えたものの、木山監督も「選手たちの中ではひょっとしたらもっともっと普段通り、アグレッシブに前からボールを追いに行って取りたいという想いはあったかもしれないですけど、そこは我々も去年の戦いを通して、意思統一してチームとして下がる時は下がる、行く時は行くということをやってきているチーム」と話した通り、守備をベースに置きながら愛媛が懐に忍ばせるのは鋭いカウンターの刃。
「後半になってきて、みんなもボールをテンポ良く回せるし、チャンスも創れるということがわかってきた」とは三浦ですが、そのボール回しがなかなか決定的なチャンスに結び付かない状況を見て、小林監督は71分に決断。石毛を下げて、切り札の村田和哉をそのまま右SHに送り込み、着手したサイドの推進力アップ。木山監督も同じタイミングで1人目の交替を。「河原も先週復帰したばかりなので、時間的にもうそろそろ厳しいかなと思って、河原を替える準備をしていたんですけど、阪野もちょっと足を攣ったというのがあったので、これから長いシーズンが続きますし、重要な選手なのでちょっとそこは方向転換して」、阪野とドリブラーの白井康介をスイッチ。近藤がCFに入り、シャドーは右に白井、左に河原という布陣で勝負に出ます。
73分は清水。右サイドを駆け上がった村田が中へ折り返し、北川が流したボールを大前がエリア外から狙いましたが、DFに当たった軌道はゴール右へ。その右CKを大前が蹴り入れると、ニアへ走り込んだ三浦のヘディングは枠の右へ。ようやくゲームリズムを再び引き寄せた清水は、77分に2人目の交替も。「後半相手が引いてきた中で自分がどうやってボールに関わっていくかという所で、ボールを受けてはたいてというのをもっともっとやらなくてはいけないのかなというのは感じました」と反省を口にした北川に替えて、ミッチェル・デュークをそのまま2トップの一角へ。80分に大前が蹴った右CKにデュークが頭で合わせるも、ボールは大きく枠の上へ。スコアレスのままでいよいよゲームはラスト10分間とアディショナルタイムへ。
78分に2人目の交替として近藤と鈴木隆雅を入れ替えていた木山監督は、「後半ちょっとずつ相手に押し込まれる時間も増えましたけど、最後は3を取るというよりも、まあ3を取りたいけど、1は絶対に取って帰ろうと、ラスト10分弱ぐらいはそういう覚悟を持って試合をしました」と言及。これについては「僕たちは勝ち点を取れれば1以上の重みもあったでしょうし、3以上の重みもあったと思います。その中でゲームが進むにつれて全体的に重かったので、今回はアウェイということもありますし、しっかりと勝ち点さえ奪えれば次にポジティブな気持ちで臨めると思っていました」と西岡も同調。ピッチ内で統一された狙いは勝ち点の確保。
さらに、85分にはこの時間まで奮闘した河原を下げて、茂木力也をアンカーとして送り込み、その前に藤田と小島が並び、前線は鈴木と白井の2トップに。これに関しては「最終的にもう前からそんなにうまくプレッシャーが掛かる状態ではなかったので、相手もデューク選手を入れたり、最終的に横からパワーを持ってくるということだったので2トップにして、サイドハーフが高く上がって来るのを取った時に、うまく2トップがスペースに出て行ってカウンターをという形を狙っていました。あと、茂木は本当に能力があって、我々のチームで本当に経験を積ませていきたい選手なので、こういう雰囲気の中で、緊張感がある時にデビューさせた方が良いと思って最後に使いました」と木山監督。勝ち点獲得と今後を見据えた最後のカード投入。残された時間は5分間強。果たしてスコアは動くのか。
86分は愛媛。小島が粘って残したボールを、内田が思い切って狙ったミドルはクロスバーの上へ。87分には小林監督も最後の交替を。白崎に替えて「少し脇で受けたりドリブルできる」金子翔太を左SHへ送り込み、村田と金子の"槍"に託した勝負。90+1分は清水。福村が左から蹴ったFKは児玉ががっちりキャッチ。90+2分も清水。村田の仕掛けで奪った右CKを大前が蹴り込み、突っ込んだ犬飼は触れずに児玉がキャッチすると、これがこのゲームのラストチャンス。「なかなか決定的なシーンというのは創れなかったですけど、みんな想定内だと思いますし、意思疎通できていたので、みんなでもぎ取った勝ち点1だと思います」とは西岡。開幕戦はドロー決着。双方に勝ち点1ずつが振り分けられる結果となりました。
「我々の今できるプレーはできたんじゃないかという風に思います」と木山監督も認めたように、愛媛は納得のドローといった印象です。「選手たちに伝えていたことは、当然開幕戦で、勝ち点3は数字上は3なんですけど、相手がやはりエスパルスだということを考えると、ましてやこのアウェイのこのスタジアムでやるということを考えると、もし3を取れたら6どころじゃないと。非常に我々にとっては大きいと。仮に勝ち点1だったとしても、3に匹敵するくらいの価値が我々にはあると。強く戦おうと送り出しました」という指揮官のメッセージをゲームの中で見極めての勝ち点1獲得。今シーズンも愛媛はやりそうだなという感じを、多くの人が受けたのではないでしょうか。それでも、西岡は勝ち点1を評価しつつ「でも、やっぱり選手である以上は勝ち点3というものが絶対に必要なものだと思うので、試合は続くのでこれをポジティブに捉えて、次に向かってみんなが同じ方向を向くのが愛媛だとも思うので、しっかりと同じベクトルを向けてやっていきたいと思います」ときっぱり。2016年シーズンも愛媛がJ2を熱くさせてくれることは間違いなさそうです。
J2からのリスタートは引き分けでの幕開けとなった清水。「点は取れなかったですけど最低限の守備はキチッとできたと思うので、去年を考えての今年の開幕ということでいくと悪くはないと思う」と小林監督も話し、「失点ゼロで終われた所は評価しても良いかなと思う」と三浦も口にしたように、まずは立て直しが急務だった守備面に関して、西部以外は昨シーズンからの現有戦力で臨んだ一戦で、無失点という成果を残したことは十分ポジティブに受け取って良い部分かなと感じました。ただ、特に一巡目の戦いではこの日の愛媛のような戦い方を選択するチームが多いであろうことを考えると、「相手がなかなか出て来られなくて、そこの部分をドリブルだったりコンビネーションだったりで破るという所までは今回できなかった」と指揮官も話したアタック時のコンビネーションの部分はまだまだ発展途上。1枠残っている外国籍選手の獲得も含めて、攻撃面での上積みが今後の勝ち点獲得を左右するという現実も垣間見えた90分間でした。 土屋
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