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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
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【4】未成年の主張。帰ってきた19歳の逆襲
PK戦の順番は6番目だったという。「U-19の代表で蹴った時は『絶対に大丈夫だ』というメンタルでしたけど、今日はちょっと蹴りたくなくて『(足が)攣ってます』というアピールをしたんですけど、結局6番目でした(笑) 『みんな決めて!』って感じで(笑) 緊張しましたね」と明かしてしまうのが、何とも彼らしい。それでも、そんな19歳のCBはこの日、確実にレイソルの重要な戦力として杜の都で躍動していた。
リーグ戦の最終節から経過した時間は既に1カ月以上。「このチームは2015年から16年、同じ姿で継続することはないということが早々に決まっている中で、1つになることの難しさと大切さを嫌というほど思い知らされながらこの2、3ヶ月、彼らと共に戦ってきました」と退任が決まっている吉田達磨監督も口にするようなシチュエーションの中で、柏はこの日の天皇杯を迎えていた。ただ、チームとしての目標はただ1つ。三たび広州恒大に立ちはだかられ、ベスト8での敗退を余儀なくされたACLの出場権獲得。すなわち1月1日の元日決戦で勝利を収めることである。絶対に負けることの許されない大事な一戦。チームの最終ラインを支え続けてきた鈴木大輔の出場停止を受け、今シーズンのリーグ戦はわずか3試合の出場にとどまっていた中谷進之介を指揮官は代役に指名する。
今でも覚えているのは昨年のスタートミーティングでのこと。当時はダイレクターという肩書きだった吉田監督が、新加入選手として中谷を紹介する時にこう口にした。「彼の今持っている力で言えば、ちょっと他の選手と離れていると。それは正直に彼にも話はしています。まだやらなきゃいけないことはたくさんありますし、まだまだだよという話はしています」。なかなかこういう舞台で出てくる類の言葉ではない。でも、裏を返せばこういう舞台でそういう話をしても、彼なら十分に受け入れられるだけのキャパシティがあると確信していることの証明でもある。実際にその人間性は高校生の頃から際立っていた。
中谷がU-18に所属していた3年間、監督として指導に当たっていた下平隆宏監督は以前、彼についてこう語っていた。「進之介は話す声が大きいんですよ。だから、必ずどこにいるかわかるんです(笑) でも、それって結構大事なことで、どんな話でもオープンにできるし、裏表がないということでもありますからね」。彼の1つ上の代には現在もトップでプレーする秋野央樹、小林祐介、中川寛斗などタレントが多く揃い、中谷だけがフィールドプレーヤーの中で1学年下という試合が大半だった。それでも、最後尾から臆することなく大きな声を張り上げ、ピッチを離れると先輩たちにも積極的に絡んでいく彼の姿が印象に残っている。常に周囲には笑顔に包まれた人の輪が広がっていた記憶が強い。
ルーキーイヤーは第29節でリーグデビューを飾り、結果的に三冠王者となるG大阪相手の完封勝利に貢献すると、以降は残された5試合の内の4試合でスタメン起用を勝ち取るなど、シーズン最終盤の7連勝に大きく貢献してみせる。しかし、今シーズンは一転してなかなか出場機会を得られない。エドゥアルドの出場停止もあって、ようやくスタメンを掴んだファーストステージの浦和戦は終了間際に追い付かれ、2戦連続での先発起用となった広島戦もやはり終了間際の失点で競り負ける。すると次節のメンバー表から名前の消えた中谷に挽回のチャンスはなかなか訪れず、ベンチ入りもままならなくなったセカンドステージは結局1試合の出場も果たすことができなかった。公式戦のスタメンは前述の広島戦以来、ほぼ半年ぶり。言うまでもなく天皇杯は負ければ終わりのノックアウト方式であり、彼に掛かる重圧が計り知れないものであったことは容易に想像できる。
それでも「自分の中で今年2試合出たJリーグの試合がかなり悔しかったので、前半は落ち着いてやろうと思っていて、その中でうまくできたのかなと思っています」と自ら振り返ったように、しっかりボールを引き出しながらビルドアップをコントロール。18分にはハーフウェーラインを越えて、大谷秀和へ鋭い縦パスを送ると、その一連は工藤壮人のフィニッシュまで繋がるなど、下部組織時代から培ってきたストロングを披露する。ギャップで受ける奥埜博亮にはやや手を焼いたものの、ハモン・ロペスとウイルソンには「力強い選手だったらバンと当たれば、自分の強さを生かして自分の間合いに持って行けることもあった」と口にした通り、最後の局面は体を張って食い止め続ける。
それは105分のことだった。仙台のカウンターになりそうな縦パスに対し、自陣まで下がって受けようとしたハモン・ロペスを強靭なフィジカルで吹っ飛ばしてボールカット。そのまま味方に預けて前線まで駆け上がる。数的不利で1点のビハインドという場面。「何とかしたい」という気持ちがあの一連によく現れていたと思う。思い起こせば先ほども触れた昨年のスタートミーティングで、吉田ダイレクターは中谷を評してこうも言っていた。「彼は特に足が速い訳ではなく、ヘディングが凄く強い訳でもないですが、とても賢く、とてもサッカーを理解して、もちろんサッカーが好きで、レイソルでやるサッカーを愛しています」と。小学生の頃から積み上げてきたレイソルのサッカーをまだ終わらせたくない気持ちが、あのワンプレーへ凝縮されていたように感じた。チームは延長後半に追い付き、そのままPK戦を制して劇的に準決勝へと勝ち上がる。6番目だった彼に、PKの順番は回って来なかった。「いや~、『本当に順番来ないで』と思っていました」と明るく笑いながら話す彼の姿からは、重責を託された120分間をしっかりと戦い抜いた充実感が溢れていた。
準決勝は鈴木が出場停止から帰ってくる。エドゥアルドとのCBコンビはほぼ確実だろう。ただ、代わりに秋野が出場停止となる。茨田陽生のコンディション面を考えると、中谷のアンカー起用という選択肢もありえない話ではない。前回出場した浦和戦には苦い思い出がある。久々のスタメン出場ということもあって、試合中にすぐ息が上がってしまい、「自分で自分を苦しめてしまった」ことが脳裏に焼き付いている。そのリベンジを果たすという意味でも、決して順風満帆ではなかった今シーズンの総決算として29日の浦和戦が格好の舞台であることは間違いない。厳しい評価と大きな期待を併せ持ちながら、自身をプロのステージへと引き上げてくれた指揮官の花道を飾るべく、あと2試合を戦い抜く覚悟が19歳にはできているはずだ。
土屋
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