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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
94回を数える高校サッカーの夢舞台がいよいよ開幕。東京B代表の駒澤大学高と大阪代表の阪南大学高が激突するオープニングマッチは駒沢陸上競技場です。
関東大会予選、インターハイ予選と代表権を勝ち取り、大野祥司監督も「昨年の方が良いチームだったとは思うんですけどね」という1つ上の代から一転、今シーズンは序盤からなかなか目に見える結果を出し切れず、苦しいシーズンを送っていた駒澤大学高。ところが、いくつかの方向転換を施した夏過ぎからチームには様々な変化が訪れ、リーグ戦でも7試合でわずかに1敗。その勢いを持って臨んだ選手権予選でも、準決勝で優勝候補の都立東久留米総合を1-0で振り切ると、決勝では堀越に2-0で競り勝って5年ぶりの全国へ。バックスタンドを赤く染めた応援団を筆頭に、完全ホームの雰囲気の中で開幕戦勝利を目指します。
近年はそのレベルが著しく上がり、どの学校の監督も「勝ち抜くのは相当難しい」と口を揃える大阪府を、3度目のファイナル挑戦で初めて制して全国へと勝ち上がってきた阪南大学高。プリンスリーグも含めて拮抗したゲームを数多くこなしていく中で、全体のレベルアップに成功したチームは計算できる選手を数多く有しているため、ゲーム中の交替カードもかなりの充実度。濵田豪監督も「良い準備はして、チームとしての力に手応えも持っている」と自信を口に。少なくない人数で駆け付けた青い応援団のためにも、年内で大会を終わらせるつもりは毛頭ありません。前述したように東京代表が登場する開幕戦ということもあって、スタンドには14,016人の大観衆が。気温は10.8度。日なたは汗ばむくらいの暖かい陽気の中、阪南のキックオフでゲームはスタートしました。
いきなりのファーストチャンスは2分の駒澤。左サイドでボールを持った野本克啓(3年・FC多摩)は丁寧なスルーパス。3列目から飛び出した竹上有祥(3年・ヴェルディSSレスチ)はフリーでエリア内へ侵入し、フィニッシュは鋭く飛び出した阪南のGK杉田裕哉(3年・ガンバ大阪堺JY)のワンハンドセーブに遭いましたが、3分と6分に藤本悠太郎(2年・ヴィッセル神戸伊丹U-15)の連続FKをこちらは駒澤のGK鈴木怜(2年・S.T.F.C)が続けてキャッチすると、8分には栗原信一郎(2年・FC多摩)のパスから、キャプテンの深見侑生(3年・FC東京U-15深川)が強引な枠越えミドル。10分にも竹上の果敢なボールカットから、春川龍哉(3年・Forza'02)が杉田にキャッチを強いる枠内ミドル。まずは駒澤の3年生が積極的なフィニッシュへの意欲を打ち出します。
そんな中で阪南が反発力を披露したのは11分。右サイドで吉田康平(3年・ディアブロッサ高田U-15)が仕掛けて粘ると、収めた徳網勇晟(2年・ガンバ大阪JY)は左足一閃。ボールは右のポストに激しく当たって跳ね返りますが、一瞬で突き付けた鋭い刃。17分には駒澤も右SBの高橋勇夢(2年・Forza'02)が素晴らしいサイドチェンジを送り、矢崎一輝(2年・大豆戸FC)を経由してSBの村上哲(2年・FC府中)が蹴ったグラウンダークロスは、ニアへ飛び込んだ栗原へわずかに届かず。逆に19分は阪南のチャンス。森井崚太(3年・長野FC)の落としから、吉田のスルーパスに飛び出した徳網は独走状態に。全力で戻った高橋が間一髪でクリアしたものの、この前後から少しずつゲームリズムは"アウェイ"チームへ。
19分は阪南。朴賢太(3年・東大阪朝鮮中)が蹴った左CKは駒澤のCB佐藤瑶大(2年・FC多摩)がファーでクリア。22分も阪南。再び左から朴が入れたCKはファーまで届くも、ここも「練習から対策はしていた」という佐藤がきっちりクリア。直後の右CKはレフティの藤本が蹴り込むと、高い打点で打ち切った小松拓幹(3年・A.C.Sakai)のヘディングはクロスバーを直撃し、主審はその直前のオフェンスファウルを取っていたものの、その迫力満点の一撃にどよめくスタンド。26分にも朴のFKがゴール前を襲うなど、セットプレーを中心に続く阪南の手数。
主役の座を奪ったのは「スタンドがいっぱいになるくらい応援してくれる人がいて、自分たちはそういうのを見て奮起できたと思っている」と言い切るキャプテン。28分に右のハイサイドで相手ボールをうまく奪った栗原は、そのまま少し潜って中へ。「まず枠に決めようと思って、冷静にやろうと思ったらボールがすぐ足元まで来ていて、それでちょっと慌てた感じ」と振り返る深見が放ったシュートは杉田がストップしたものの、リバウンドへいち早く反応した深見がプッシュ。押し込まれたボールはゴールネットへ飛び込みます。「もちろん狙っていましたけど、本当に自分が決められるとは思っていなかったので嬉しかった」というゴールは劣勢を覆す大きな一撃。10番のキャプテンがきっちり結果を。駒澤が1点のリードを手にしました。
止まらない赤黒タイフーン。次の歓喜はわずか2分後の30分。GKとDFの連携が乱れた所に野本が詰め、左サイドでこぼれを拾った矢崎が粘って残すと、追い越した竹上はマーカーを巧みなフェイントでかわしながら右足でコントロールショット。綺麗な軌道を描いたボールは、右スミのゴールネットへ美しく吸い込まれます。「耐えて少ないチャンスで深見が1点目を決めてくれて、その流れの中で自分としては凄く良い形で得点できた」と話した竹上はそのまま応援席の前へ走り寄り、都予選に続く"でんぐり返し"のパフォーマンス。「みんなに『何かやってくれ』って言われてたんですけど、自分はあまり運動神経が良くないので、でんぐり返しぐらいかなと思って」と笑う3年生のゴラッソ。たちまち両者の点差は2点に広がります。
「あの時間がウチの時間になるとはまったく想定していなかった」と濵田監督も言及した"想定外"の好リズムの中で、あっという間に2点のビハインドを背負う格好となった阪南。32分には野本の左FKから村上のヘディングで、34分にも竹上の惜しいミドルで危ないシーンを何とか凌ぐと、「2点取られたので前半から良いリズムを創りたいなと思った」指揮官は34分に"想定内"の交替を決意。右サイドでの突破が目立っていた吉田に替えて、渡辺滉大(2年・ガンバ大阪堺JY)を送り込み、サイドの顔触れに新たな変化を。40分には左サイドをえぐった徳網が折り返すも、懸命に足を伸ばした駒澤のCB西田直也(1年・横浜F・マリノスJY追浜)が何とかカット。40+2分に左から藤本が蹴り込んだFKを、ニアで合わせた森井のヘディングは枠の左へ。「前半は決して良くはなかったと思うんですけどね」と大野監督も首をひねった駒澤が、それでも2点のアドバンテージを握って、最初の45分間は終了しました。
後半に入ると落ち着きの出てきた駒澤がスタートから冷静にゲームをコントロール。45分に深見が裏へ落とし、野本がうまいタイミングでマーカーと入れ替わったシーンはオフェンスファウルを取られたものの、47分にも「相手のハイサイドを狙っているので、そこをどんどん狙ってどんどん走ってというのを考えています」という竹上の飛び出しで得た左CKを野本がショートで蹴り出し、村上が果敢に狙ったミドルは枠の右へ逸れましたが、「後半の方が良かったと思うんですけどね。ボールも動かせるようになって」と大野監督も認めた通り、駒澤がペースを掌握しながら時計の針を進めます。
濵田監督の決断は2枚替え。48分にCBの溝脇逸人(2年・川上FC)と徳網に替えて、木戸口蒼太(2年・千里丘FC)と島田直樹(2年・IRIS生野)を投入。木戸口と渡辺を最前線に並べ、島田を左SHへ送り込み、左SHだった稲森文哉(2年・千里丘FC)を右SHへスライド。さらに、最前線にいた森井が最終ラインまで下がり、CBを務める大胆な配置転換を。
52分は阪南。藤本の蹴ったFKは「自分がリーダーシップを取って、引っ張って行かなきゃなというのは思っていました」という佐藤が大きくクリア。52分も阪南。相手の連係ミスを突いて、ルーズボールに突っ込んだ稲森は鈴木と接触してオフェンスファウルに。53分は駒澤が1人目の交替として、春川と武智悠人(2年・Forza'02)というボランチ同士の入れ替えを敢行。54分に島田とのワンツーから、クロスバーを越えた高畑亮祐(3年・長野FC)のミドルを挟み、56分には駒澤に2人目の交替。足を痛めていた高橋が自らプレー続行を断念し、岩田光一朗(2年・東調布中)をピッチへ。「1回だけ右サイドバックにしたことがあって、もうパッと閃いて」と苦笑した指揮官は高橋の抜けた右SBに深見を指名。「驚きでしたね。昨日の前日練習でちょっとやって『まさかやらないだろう』と思っていたんですけど」とこちらも苦笑した10番に右サイドを託します。
すると、59分に阪南へ訪れた絶好の得点機。キャプテンの左SB岸元海(3年・千里丘FC)からボールを受けた木戸口がエリア内へ侵入すると、DFともつれて転倒。三上正一郎主審は迷わずペナルティスポットを指差します。キッカーは木戸口自ら。思い切り振り抜いた右足でのキックは、鈴木も良く触りましたがボールの勢いが勝ってゴールネットへ。沸騰する青の応援席。途中投入のストライカーが重圧を跳ね除け、堂々たるPK成功。両者の点差は最少のそれへと縮まりました。
何とか追い付きたい阪南ベンチは、66分に早くも最後の交替カードを。稲森に替えて、DF登録の村瀬悠介(3年・セレッソ大阪U-15)を最前線へ解き放ち、「ああいう交替でのパワープレーをチームで用意していた」と186センチのハイタワー投入でパワープレーへ移行しましたが、「嫌じゃなかったですね。8番の選手の方が苦手だったので、相手が大きい方が自分も競りやすいので大丈夫でした」と話したのは佐藤。逆にこの直後からラッシュに出たのは駒澤サイド。
67分に左から栗原の送ったパスに、飛び込んだ竹上のシュートはわずかに枠の左へ。68分には野本、武智とスムーズにパスを回し、岩田のシュートはクロスバーの上へ。71分にも岩田、矢崎と繋いで、栗原が枠を越えるミドルまで。まだまだ続くアタック。72分には矢崎のヘディングを受けた岩田が枠外ミドル。75分にも村上の左ロングスローを矢崎と栗原が頭で残し、竹上のボレーはDFに当たって枠の左へ外れましたが、野本とポジションを入れ替え、前線に上がった竹上は再三シュートを放った攻撃面のみならず、「もう前から前からとにかく相手に楽に蹴らせないようにというのを意識してやっていました」と、とにかくしつこくハイプレスを連続して。72分には左サイドで追い掛け回し、相手のクリアをタックルでブロックすると思わず力強いガッツポーズ。「竹上はたぶん見ている人が拍手を送ってくれたんじゃないかなと思います」と大野監督。17番の献身性がチームにもたらす大きな勇気。
「もう少しウチが押し込む準備をして来たんですけど」と濵田監督も口にした通り、なかなか押し込むことができずに相手ゴールへ迫れない阪南。77分に藤本が蹴ったFKも野本が確実にクリア。78分に左から藤本が投げ込んだロングスローも佐藤がクリア。80分に右から藤本が入れたCKもきっちり鈴木がパンチングで回避すると、左から朴が入れた直後のCKも混戦から森井が粘って残しましたが、最後は鈴木が丁寧にキャッチ。掲示された3分のアディショナルタイムを少し回ったタイミングで、聞こえたのはタイムアップのホイッスル。「前半ちょっと危ないシーンはあったんですけど、途中から駒大のサッカーをやろうという共通意識があって、駒大のサッカーができたかなと思います」と胸を張ったのは佐藤。駒澤が"ホームゲーム"を自分たちらしく制して、このチームで来年までボールを追い続ける権利を獲得する結果となりました。
「今年は『3年生がダメだ、ダメだ』と言い続けてきたもので、結果として綺麗なゴールじゃなくても深見と竹上が決めてくれて、それには私も感極まってというか、彼らがやっとこの選手権で結果を出してくれた」と大野監督も言及したように、駒澤にとっては3年生がきっちり結果を出したことが何より大きなことだったと思います。「東京都予選の決勝でも2年生が2点取る形で、大野先生には『俺の中では3年が点を取るイメージだった』と言われてしまって、本当に個人としても悔しくて、3年としても悔しかったですし、直前の合宿でも『3年がダメだ』と言われていたので、その中で自分と深見が決められたのは良かったと思います」と笑顔を見せたのは、殊勲の2点目を叩き出した竹上。この日の春川と野本の奮闘も目を見張るものがあり、2年生の佐藤も「3年生が前で体を張ったプレーで頑張ってくれるので、後ろが無失点で抑えて3年生に活躍して欲しいなというのはあります」と3年生への信頼をはっきりと口にしていました。シーズンを通じて厳しい言葉を最高学年の選手たちに掛けてきた指揮官も、「最後のこの大きな舞台は3年生が引っ張れないとダメだと思う」と当然ながら起用している3年生に大きな期待を寄せた上で、信じていることは間違いのない所。「直前で外れた3年生も、元々メンバーに入っていない3年生もいて、そういう3年生に対して自分が頑張れという風に言われていたので、とにかく結果が出せて良かったです」と同級生への想いを言葉で紡いだのは竹上。70人近い3年生の代表として確固たる決意で選手権へ臨んでいる彼らの冬は、まだまだ終わりません。 土屋
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