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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。

Jリーグレポート 2015年12月05日

冷静と情熱の指揮官。最後に切ったカードの意味(Jリーグチャンピオンシップ決勝第2戦 広島×G大阪@エディスタ)

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「広島の皆さん!優勝おめでとうございます!!」。3万6千を超える観衆の集まったスタンドに向かって、指揮官が絶叫する。続けて「皆さんの応援のおかげで、Jリーグ明治安田生命チャンピオンシップ、優勝できました!ありがとうございました!」と大会の正式名称を言い切るあたりが何とも彼らしい。初めて監督業に足を踏み入れてからわずか4年で3度目のリーグ制覇。敵将の長谷川健太監督も「本当に素晴らしい監督だと思います」と認める"ポイチさん"が、現役時代の背番号と同じ数字の7度宙を舞い、選手と紫に染まったスタンドの熱量は完全に融和した。


劇的な逆転勝利に加え、3つのアウェイゴールという強烈なアドバンテージを手にして第1戦を制した広島は、その3日前とまったく同じ11人をピッチヘ送り出す。一方のG大阪も出場停止となったオ・ジェソクと米倉恒貴が入れ替わった以外は、やはり第1戦と同じスタメンの構成。サプライズ先発に応えて先制弾を叩き出した長沢駿は、この日もキックオフの笛をピッチで聞くこととなり、最強のジョーカーとしてパトリックがベンチに控える格好となった。
スタンドは超満員。両チームのサポーターが創り出す素晴らしい雰囲気の中で開始されたゲームは、まず4分に柴﨑晃誠が東口順昭にセーブを強いるミドルを放ったものの、「ガンバさんは勝たなければいけないという状況で圧力を掛けてきて、ウチの選手も緊張が見られた」と森保一監督も口にした通り、最低でも2点が必要なG大阪が勢い良く立ち上がる。
8分には遠藤保仁とのパス交換から、右に流れた宇佐美貴史がアーリークロスを放り込み、ファーに飛び込んだ大森晃太郎のヘディングはわずかにクロスバーの上へ。9分には遠藤の左CKへ米倉が突っ込むも、DFが辛うじてクリア。12分にも今度は左から宇佐美が入れたアーリークロスを阿部浩之が枠内ボレー。ここは林卓人がファインセーブで凌いだが、G大阪が序盤から続けて繰り出す惜しいフィニッシュ。
この青黒のアタックを牽引したのは、ここまでのチャンピオンシップ2試合でなかなか輝きを放てなかった背番号39だ。前述の通り、8分には右から、12分には左から共にシュートへ繋がるアーリークロスを上げ切り、16分には大森のパスを受けて思い切ったミドル。ここはクロスバーを越えてしまったが、積極的な姿勢でチームに活力をもたらしていく。
20分もG大阪にビッグチャンス。右から阿部の上げたクロスはファーまで届き、フリーで待っていた大森が一呼吸置いて落とすと、飛び込んできた藤春廣輝がエリア内でシュート。間一髪で飛び込んだ青山敏弘が体でブロックしたものの、左右に揺さぶる形から決定的なシーンを創出。「ガンバの思うつぼにハマってしまった展開だった」と森﨑和幸が話せば、「選手がナーバスになっていて、良い判断ができずに相手のプレッシャーを受けてしまっていた」と森保監督。押し込み続けるアウェイチーム。
勢いの結実は27分。米倉の仕掛けで獲得した右CK。遠藤が正確なアウトスイングのボールを蹴り込むと、森﨑和幸のマークを巧みに外した今野が右足を振り抜く。確実にゴールへ向かい、佐々木翔がわずかに触れたボールはさすがの林も反応できずにゴールネットへ。これで今野は驚異のチャンピオンシップ3戦連発。「今日は先制点がカギになると思っていた」という長谷川監督の思惑通り、最初のゴールは青黒に。アグリゲートスコアは3-3。早くも広島のアドバンテージはアウェイゴールのみとなった。
30分近くシュートのなかった広島は34分、青山がミドルを放つも枠のはるか上へ。38分にカウンターから青山が右へ付け、ドウグラスが少し運んで上げたクロスは佐藤寿人に合わない。40分にはようやく決定機。左から柴﨑晃誠がサイドを変え、上がった塩谷司のシュートがDFに当たってこぼれると、エリア内から柴﨑が左足で狙ったシュートはわずかに枠の左へ。45+2分にも佐々木を起点に柴﨑がスルーパスを通すも、走った佐藤には届かない。「本当に素晴らしい戦いを前半にできた」と長谷川監督。ほとんど満点に近い前半をG大阪が過ごし、広島がわずかにアウェイゴールの分だけアドバンテージを握って、勝負は最後の45分間へ。


後半最大の焦点は選手交替のタイミング。「倉田とパトリックを入れてさらに圧力を掛けてという所」という長谷川監督の言葉を待つまでもなく、G大阪のポイントは倉田秋とパトリックをいつ投入するか。一方の広島も「ゲームプランの中に寿人から拓磨に代えるというプランは持っていました」という森保監督の狙いはシーズンを通して不変。そこに、第1戦のMVP男でもある柏好文という新ジョーカーを携え、この2枚のピッチインをどこで決断するか。ピッチ上はもちろん、ベンチの動向からも目の離せない後半はG大阪のキックオフで時計の針が動き出す。
開始わずかに40秒。大森のパスを受けた宇佐美は、狭いスペースで阿部とワンツーを敢行し、短い振り足ですかさずフィニッシュ。ボールはわずかに枠の右へ外れるも、際どいシーンにどよめくスタンド。49分もG大阪。遠藤の左CKへニアに突っ込んだ今野がボレー。ここは林がしっかりキャッチしたものの、大会4点目に向けて今野は意欲十分。54分は広島。青山が右へ振り分け、ミキッチがグラウンダーでクロスを送り込み、ニアで佐藤が潰れるとボールは柴﨑まで。食らい付いた米倉が寄せてシュートは弱く、東口が丁寧にキャッチしたが、お互いに出し合う手数。次の1点は果たしてどちらへ。
57分。長谷川監督が動く。「追い掛けるチームが先にカードを切らざるを得ないのは仕方ない」という指揮官の決断は大森と倉田のスイッチ。同じく57分。森保監督も動く。「ガンバさんが2点目を取りに圧力を掛けてくる時に、我々も受けるのではなく攻撃に出るんだという所」で切ったカードは佐藤に替えて浅野拓磨。倉田はそのまま大森のいた左サイドハーフに入り、浅野もそのまま佐藤のいた1トップの位置へ。注目された1人目の交替は両雄同じタイミングで。
64分。再び長谷川監督が動く。「(長沢は)ベンチから見ていてボールの収まりが悪くなって少し足が落ちてきたなと。前半あれだけ攻守において動いてくれていたので、最後はパワーがある選手を使いたい」と長沢を下げて、真打ちのパトリックをここでピッチヘ送り込み、1トップ下の宇佐美と倉田のポジションもチェンジ。直後の65分。森保監督も再び動く。「逃げ切ろうと試合を進めてしまうと、もしかしたらガンバさんの圧力に屈して2点目を奪われることに繋がるかもしれないと思っていた。そこで攻撃的姿勢を出しながら2失点目をしないようにという考え」で切ったカードはミキッチに替えて柏。「(相手の)交替のタイミングを見て交替させました」(森保監督)「相手の交代を見て、それに呼応するのは常套手段じゃないかなと思います」(長谷川監督)。2人目までの交替はまったく同じタイミング。極限で仕掛け合う心理戦。次の1点は果たしてどちらへ。
70分の攻防。林の蹴ったパントキックに西野貴治は目測を誤る。抜け出したのは浅野。ボレーを打ち切るタイミングもあった中で、慎重を期してトラップで収めると、懸命に戻った西野が間一髪で左足を差し出してクリア。天を仰いで悔しがる浅野。俯きながら胸を撫で下ろす西野。五輪代表候補同士が数秒間に渡り合った攻防。動き掛けたが、スコアは動かない。
76分の閃光。広島必殺のカウンター。ドウグラスが右へ展開すると、柏は少し運びながら意外なタイミングでクロスを送る。ドウグラス。今野泰幸。西野貴治。浅野拓磨。飛んだ4人の中で最も身長の低い、それでいて自ら「ジャンプ力は自信がありますし、背の高い選手にも負けない自信もあります」と言い切る浅野が頭に当てたボールは、懸命に伸ばした東口の右手を掻い潜って、左スミのゴールネットへ滑り込む。エディオンスタジアム広島、沸騰。「ここの所、ゴールから遠ざかっていましたが、チームに推進力を与えてくれるスイッチとして頑張ってくれた」と森保監督も評した浅野の一撃には、敵将の長谷川監督も「難しいシュートを決めてきた」と素直な感想を。この試合のスコアは1-1。再び両者の勝利条件は試合前のそれに引き戻された。
以降を「もう少し落ち着いてやれればという所だったが、2点取らなければという中でそううまくはいかなかった」と長谷川監督は振り返る。失点直後の79分には西野と替えた井手口陽介をボランチに送り込み、今野を最終ラインに下げる攻撃的な采配を振るうも、なかなか得点の香りを漂わせることができない。86分に米倉が送った右グラウンダークロスも林が弾き出し、詰めた宇佐美もシュートまでは持ち込めず。着々と時計の針は刻まれる。この時、突如として巻き起こったエディオンスタジアムを包む「HIROSHIMA NIGHT」の大合唱。
89分に森保監督は最後となる3枚目のカードを切った。シーズン終盤はその推進力でチームを牽引した清水を下げて、水本裕貴が3バックの左へ送り込まれ、佐々木が左ウイングバックへ一列上がる。「状況的には1-1でOKでしたし、ここから先は1点取られなければいいということを考えていたので、僕は『守備的な交替かな』と思っていましたけど、相手が放り込んできたのであるのかなと思っていました」という水本はすぐさまゲームに入り、チームに最後の活力を確実にもたらす。アディショナルタイムは4分。完全制覇まで、あと240秒。
90+5分。左サイドに流れた遠藤が左足で上げたクロスにパトリックが競り勝ち、宙を舞った米倉のバイシクルが林の胸に吸い込まれると、直後に鳴り響いたのはタイムアップを告げる西村雄一主審のファイナルホイッスル。交替でベンチに下がった佐藤とミキッチが、誰よりも速くピッチヘ駆け出して行く。「今日は本当にたくさんのサポーターの後押しのおかげで、選手がヘロヘロになっても戦えたことは間違いないと思います。今日は"広島力"で優勝を決められたと思います」と口にした森保監督が、その"広島力"の一端を担ったサポーターの見つめる中、現役時代の背番号と同じ数字の7度宙を舞い、選手と紫に染まったスタンドの熱量は完全に融和した。


「普通であれば寿人をあの時間帯に判を押したように替えるというのはなかなか俺にはできないなと。そこは寿人との信頼関係がたぶんあると思いますが、そういうことを愚直に1年間通してやり通せるというのは、なかなか普通の監督ではできないという風に思います。やり方もずっと変えずにやれるというメンタルの強さも感じますし、そこをやり通すことによってチーム力を上げていく作業ができるのは、本当に素晴らしい監督だと思います」と敵将を評したのは長谷川監督。誰もが認める森保監督のブレない姿勢が、選手たちにメンバー選定を含む采配を納得させていることは想像に難くない。だからこそ、この日の最後の交替カードが水本だったという所に、私は森保監督らしさを感じていた。水本は今年の8月12日、セカンドステージ第6節の鹿島戦で137試合にも及ぶ連続フル出場記録が止まった。76分に彼と交替でピッチへ入ったのは、より攻撃力の高い塩谷。1点のビハインドという状況を考えれば当然の采配ではあるが、森保監督の人となりを考えると少し意外な気がしたことを覚えている。
セカンドステージ第16節でケガを負った水本は、ステージ優勝の決まった最終節の歓喜をピッチの外から見つめ、ベンチに復帰したチャンピオンシップ決勝第1戦も出場機会はなかったが、この試合の89分にフィールドプレーヤーに限れば4人の選択肢の中から、森保監督が最後に切ったカードは水本だった。その水本本人は「これは今日だけじゃなくてシーズン中もある交替だったので、みんな準備できていたと思いますし、今日だけに限った采配ではないので僕も準備はできていました」と特別な采配ではなかったと、ミックスゾーンで話してくれている。確かに試合終盤に水本と佐々木が縦に並ぶ左サイドというのは良く見た光景だ。ただ、もう少し誰かの意見を聞いてみたかったので、チームで森保監督と最も付き合いの長い森﨑和幸にも、89分の交替について質問した。「そこは監督に聞いてみないとわからない所ですけど」と前置きしたマエストロは、「時々そういう交替カードの意図というか、そういう部分を感じる時もあるので、そういう所は森保さんらしいと思います」と口にしてくれている。その話を聞きながら、「"89分の交替"に意味を見い出す必要はないんだな」と悟った。別にたった1試合の采配なんかで、選手から森保監督への信頼が揺らぐような次元ではない。それは、きっと8月12日もそうだったのだろう。冷静と情熱を併せ持つ指揮官。森保一、47歳。リーグ制覇の数が日本人監督最多になったことに水を向けられても「特別な想いはありません」と言い切り、「選手、スタッフ一丸となって日々ハードワークすることで勝ち獲ってきたものだと思いますし、クラブの勝利だと思います」と続ける"ポイチさん"に率いられたチームは無数の信頼を"結集"させて、この日3度目の日本一に立った。       土屋

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