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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。

Jリーグレポート 2015年12月09日

『終わったな』と『打つな』の直後。最強の3位たる証明(J1昇格プレーオフ決勝 福岡×C大阪@長居)

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「タカさんが空振ったので『ああ、終わったな』と思いました」が末吉隼也が笑う。「正直『打つな!』と思いました(笑) 角度がないと思ったので『打つな』と思ってしまいました」とルーキーの田村友も笑顔で振り返る。『終わったな』と『打つな』の直後、「冷静でしたけどね」と語った中村北斗は右足を強振した。弾丸のようにボールがサイドネットへ突き刺さる。プロキャリアスタートの地へ7年ぶりに帰ってきた男の一撃。博多の男たちの絶叫が"アウェイのホーム"にこだました。


充実のシーズンだった。前年は16位。「スタート時に昇格を掲げた所で、やはり『何言ってんだ』と思われている方もたぶんいらっしゃったと思います」と井原正巳監督も正直な想いを口にする。その上、開幕から3連敗。ポジティブな要素はほとんどないように見えた。ただし、逆境を知り抜く男は強い。「『我々はやっていることを続けて行こう』という姿勢をブレずに続けられた」という指揮官に率いられたチームは、そこから11試合負けなしで一気に昇格プレーオフ圏内へ浮上。終盤を怒涛の8連勝で駆け抜け、得失点差で磐田に自動昇格こそ許したものの、3位としては初めてとなるプレーオフの勝利を長崎からもぎ取り、最後の決戦へと挑む。
苦闘のシーズンだった。前年はまさかの降格を経験。フォルランやカカウという大物も残留し、鹿島を率いた経験を持つパウロ・アウトゥオリ監督を招聘するも、第8節で早くも連敗を喫して9位まで後退。夏前から復調を果たしたとはいえ、自動昇格圏内には一度も届くことなく、リーグ戦の最終節を前に指揮官は退任。それでも強化部長からスライドした大熊清監督の下、先週のプレーオフ準決勝も愛媛とスコアレスドローで何とか勝ち上がり、とうとう1年でのJ1復帰へ王手という所まで漕ぎ付けてみせる。福岡がホーム扱いとなる長居に詰めかけた観衆は29314人。独特の緊張感がスタジアムを包む中、最後の1試合は福岡のキックオフで幕を開けた。


「最初の5分だけちょっと蹴って、それからはしっかり繋いでいく」(田代有三)共通理解の下にゲームへ入ったC大阪の出足が鋭い。開始わずか1分に山下達也の果敢なパスカットから、パブロが思い切ったミドルを枠の右へ外す。繋ぎ始めた5分以降も勢いを持続すると、10分には橋本秀郎が短く右へ出したFKから、関口訓充がクロス。田代が競り勝ったボールに突っ込んだ田中裕介はオフサイドを取られるも、長居のピッチで桜が躍動する。
一方の福岡はセットプレーに活路を見い出すも、末吉のキックにミスが目立つ。7分の左CKはファーへそのまま流れ、11分の無回転FKは枠を大きく外す。15分にショートで始めたFKも、亀川のリターンを受けた末吉のクロスは誰にも合わずゴールキックに。無回転FK自体は「序盤だったので中途半端に終わるよりシュートで終わった方が良いかなと思っていました」という意図があったが、味方に合わなかった2本のセットプレーは、「GKが大きい選手だったので、『そこを外して蹴ろう』と思ったら結構大きくなってしまった。なかなか難しかったですね」と素直にミスを認めている。さらに、24分には負傷した酒井宣福のプレー続行が難しくなり、金森健志との交替を余儀なくされる。流れはなかなか訪れない。
ポイントの1つはウェリントンと山下達也のマッチアップ。「やっぱりウェリントンは警戒される選手ですし、一番ヘディングの強い選手が付いている」と末吉も話したように、「別にそんなに怖い部分もなかった」と言い切るC大阪随一のストロングヘッダーが福岡が誇るストライカーと再三に渡って競り合っていたが、前者の勝率が後者のそれを上回る。そのセカンド回収も前半は山口蛍と橋本のユニットが上回り、福岡に連続攻撃を許さない。
38分には前半を、さらに両者を通じて唯一の決定機。右サイドでエリア内へ潜ったパブロが粘って残すと、田代は角度のない位置からニアサイドへ強烈なシュート。ここは福岡の守護神を託された中村航輔がファインセーブで弾き出すも、あわやという場面に上がるピンクのボルテージ。「ウチのペースでやれていたとは思います」と田代。「ある程度予想通りの展開になったのかなと思います」とは末吉。ややC大阪がゲームリズムを掴んで推移した前半は、スコアレスのままで45分間が終了した。


ハーフタイムを挟み、迎えた後半もC大阪が勢いを持ってゲームに入る。52分には両翼を使ったダイナミックなアタックで決定的なシーンを。山口が右サイドからファーヘクロスを届かせると、上がってきた丸橋祐介はGKとDFラインの間に正確な折り返しを通す。エリア内へ入っていた田代との呼吸が合わず、ボールは福岡ディフェンスに絡め取られたものの、ホームチームに漂うゴールへの香り。
世界を知るレフティが咲かせたセレッソ桜。その時は60分。山口からの縦パスをセンターサークルで受けた玉田圭司は、中原秀人の股間を抜き去り、食い付いた堤俊輔と末吉の門を通す。前を向いた関口は「前に出ようかと思ったんですけど、スペースが両サイドにあって、どっちにも行かれるような状態だったので、1回構えて限定しようかなと思った」濱田水輝の股間を通すラストパス。スピードを緩めずに走り込んだ玉田は懸命に左足を伸ばし、飛び出した中村航輔の股間を抜いて、ボールをゴールネットへ滑り込ませる。先手、先手、先手。福岡の選手の股間を3度通り抜けた結末は貴重な先制点。熟練の玉田がスコアを動かし、両雄のアドバンテージは一瞬で逆転した。
1点が必要になった福岡。65分には堤が持ち出し、亀川諒史がドリブルで運びながら中央へ折り返すも、末吉のシュートは味方に当たってオフサイドという判定に。69分にも亀川のドリブルで左CKを獲得するも、末吉がニアを狙ったキックは金森も合わせ切れずにゴールキックへ。「意外と相手が受け身になって結構下がったので、セカンドも拾えるようになりましたし、サイドも使えるようになった」と末吉が話したように、とりわけ左の亀川はサイドを切り裂き続けるものの、訪れない決定機。確実に進んでいく時計の針。
「ピッチサイドでも『慌てなくていいから』という話は選手たちには伝えていました」という井原監督の決断は73分。ボランチの中原秀人をベンチに下げて、坂田大輔を2シャドーの一角へ投入。城後寿がドイスボランチの一角へ移る攻撃的な采配をピッチヘ落とし込んだが、77分にエリアのすぐ外で奪ったFKのチャンスも、ウェリントンが直接狙ったキックはカベにハードヒット。スコアボードに浮かび上がる"1"と"0"。大熊監督も78分に1人目の交替を。奮闘したベテランの橋本に替えて、扇原貴宏をそのままボランチへ送り込み、「安定させながらもう1点というのを切らさずにという所はメッセージとしてピッチの中に入れた」(大熊監督)中で整える攻守のバランス。
福岡にも焦りの色が。81分に濱田からボールを受けた堤は、強引なミドルを枠の左へ。83分にも末吉の縦パスから、反転した坂田の左クロスにウェリントンが競り勝つも、エリア内で弾んだボールはキム・ジンヒョンが確実にキャッチ。井原監督最後の一手は84分。堤に替わるのは空中戦マスターの中原貴之。「最後の10分は2トップで行こうというような形で前もって話もしていた」という指揮官は、前線に中原貴之とウェリントンを並べ、中盤はアンカーに末吉、右に坂田、左に金森、頂点に城後のダイヤモンドへ。最終ラインには中村北斗、濱田、田村、亀川を並べ、4‐4‐2の布陣で最後の勝負へ。
「上げるために帰ってきた」北斗の煌めき。87分。右サイドで相手ボールを奪った中村北斗は縦へクサビ。中原貴之がダイレクトで巧みに落とし、坂田はすかさず左へ付ける。走った金森はカットインしながら一呼吸置いて、シンプルに外へ。全速力で左サイドを駆け上がった亀川がグラウンダーで送ったクロスに、ニアへ飛び込んだ中原貴之は触れない。「タカさんが空振ったので『ああ、終わったな』と思いました(笑) でも、北斗さんが走ってきていて」(末吉)、角度のない位置からシュートを狙う。「「正直『打つな!』と思いました(笑) 角度がないと思ったので『打つな』と思ってしまいました」という田村の考えはあながち間違っていない。「ちょっと抑えながらアウトに掛けながらというイメージでしたけど、意外とまっすぐでしたね」と軌道は本人の思っていたようには飛ばなかった。それでも、まっすぐに飛んだボールはサイドネットを豪快に捉える。「スタッフ、またアビスパ福岡の会社のすべての方の想いやスポンサーの方の想い、そしてサポーターの想いがあのゴールに乗り移ってくれたのかなという風に思っています」という井原監督の言葉はおそらく本心だろう。両雄のアドバンテージは、再び一瞬で逆転した。
89分に中澤聡太とエジミウソンを相次いで投入したC大阪は、もはやなりふり構わない。最前線に田代、中澤、山下と3枚のハイタワーを揃え、とにかくボールを放り込む。アディショナルタイムは4分。1点で良い。90+2分。キム・ジンヒョンのキックを丸橋が胸で落とすと、山下のシュートはゴール右スミへ向かう。中村航輔の伸ばした左手をすり抜けたボールは、わずかに枠を逸れて行く。「失点までは上手くできていた」(山口)のは間違いない。ただ、今は1点を追い掛けている。
90+5分。左サイドで獲得したFK。正真正銘のラストプレー。キム・ジンヒョンも前線へと駆け上がる。キッカーの関口が鋭いボールを蹴り込み、エジミウソンがバックヘッドで狙ったボールは、しかしわずかにクロスバーを越える。その瞬間、家本政明主審が3度吹き鳴らしたファイナルホイッスル。「『信じられないな』という感じでした。『奇跡が起きた』みたいな」と田村。「本当に我慢しなくてはいけないゲーム展開であっても、それを自分たちでしっかり受け入れながら、我々の主導権を握っていない時間帯も、そこをしっかりと全員の力でゲームを上手くコントロールして、そして少ないチャンスでもゴールを挙げると。選手たちにそういう逞しさであったり勝負強さというのは、この1年間でかなり付いたのではないかなという風に思います」と井原監督。プレーオフ準決勝後に「大阪でのセレッソさんのホームスタジアムでやらなくてはいけないという難しさはありますけど、そのへんも含めて我々はそういう状況でも今年はすべて覆して結果を残してきている」とその指揮官が自信を持って語った福岡が、"最強の3位"という称号にふさわしく、シーズンを通して掴んだアドバンテージを最後の最後で生かし、全ての逆境を覆して5年ぶりのJ1復帰を引き寄せた。


「1点やられてからまだ30分は時間がありましたし、そこで慌てないということは試合前のミーティングでも、こっちに来てからもそういう話はしていたので、そこで選手たちもゲームの中で自分たちのやり方というもので『90分間で最後に追い付けば良い』、または『ゴールを挙げれば良い』という想いはたぶんみんなが持ってくれていたと思います」と井原監督は試合後に語っている。確かにプロ1年目の田村は「リーグ戦で失点しても逆転して勝っている試合はあったので、その自信があって自分たちのプレーができたかなと思います」と話し、末吉も「個人的には全然焦りはなかったですね。前半ほどそんなにプレッシャーもなかったので、上手くボールを運べたらサイドで数的優位も創れていましたし、『1点入るだろうな』という気はしました」と振り返っている。当然根拠のない自信ではない。「今まで勝ってきた自信であったり、色々な苦しい流れでもそれをモノにしてきたというものが、選手の勝負強さに繋がっている」と井原監督。43試合で積み重ねてきた確固たるものが、この土壇場で相手をほんの少しだけ上回り、4回目にして初めて3位の昇格プレーオフ優勝という結果に辿り着いたのだ。末吉は「プレーオフに入る前と今とで改めて思ったんですけど、『やって良かったな』と思いますけどね。もちろん結果が出たからですけど、プレーオフでこんな勝ち方ができましたし、こんな引き分けでもOKで上がれるというのはなかなかないことなので、これで負けていてミックスゾーンに出てきていたことを考えると怖いですけど、この経験は本当に大きいと思います」と180分間を総括した。最後に尋ねてみる。「もう1回やりたいですか?」。即答が返ってきた。「いや、もういいですね(笑) 自動昇格が良いです(笑)」。3か月後。日本最高峰の舞台が彼らを待っている。
    土屋

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