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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。

Jリーグレポート 2015年12月03日

放たれた3本の矢、青黒の岩をも通す(Jリーグチャンピオンシップ決勝第1戦 G大阪×広島@万博)

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「どこかで取り返したい気持ちはありました」という森﨑和幸が相手のスローインを奪う。青山敏弘が1つ溜めて左へ返し、森﨑和幸はもう1つ左へ付ける。89分に放たれた山岸智がクロスを上げると、ドウグラスはシュートを打ち切れず、58分に放たれた浅野拓磨のシュートもDFに阻まれたが、ボールは69分に放たれた柏好文の足下へこぼれ落ちる。右足一閃。揺れるゴールネット。その時間、95分16秒。「シーズンを通して一部の主力選手だけでこのチャンピオンシップに辿り着いた訳ではない」と言い切る森保一監督が放った3本の矢すべてが絡んだラストプレー。強固な信頼関係をベースに、この土壇場で少しの運も味方に付けた広島の大逆転劇は、こうして完結を見た。


ここ3年のリーグタイトルを独占している両者の対峙。11年ぶりの開催となるチャンピオンシップのファイナルは、G大阪対広島という実力者同士の激突が実現する。リーグ戦の最終節から中9日でこの大一番を迎えた広島に対し、延長までもつれ込む浦和との死闘を制したG大阪は中3日でのホームゲーム。長谷川健太監督は1つのサプライズを携えて、このゲームへ臨む。最前線に立つのは背番号20。シーズン途中の7月に清水から呼び寄せた長沢駿を、加入後初スタメンに抜擢した。「中3日で120分を戦ったということで、フレッシュな長沢を起用しました」と指揮官。勝負師の勘は吉と出るか、凶と出るか。
出足の鋭さはG大阪。2分に阿部浩之が枠へ飛ばしたミドルを皮切りに、6分にはDFに当たったオ・ジェソクのクロスがゴールへ向かい、林卓人が何とかフィスティング。7分にも遠藤保仁の右CKを長沢がヘディングで狙うと、10分には決定機。1トップ下起用の宇佐美貴史が得意の左に流れて、右足でアーリークロス。大森晃太郎のスルーに反応した阿部の左足ボレーはクロスバーを越えるも、まずはホームチームが勢いを持って立ち上がる。
「入りは悪くはなかったと思う」と森﨑和幸も振り返った広島は、久々のゲームということもあってか、ややイージーミスの散見される序盤となったが、17分に青山のサイドチェンジから清水航平が思い切り良くミドルを放つと、直後に絶好の先制機。青山のパスを塩谷司が右へ繋ぎ、ミキッチのクロスはピンポイントで中央へ。完璧な間合いとジャンプで捉えた佐藤寿人のヘディングは、しかし枠の左へ。スコアは動かない。
19分には自らのミスに端を発したロストに対し、ややラフなプレーでイエローカードをもらうなど、気負いも感じられた長沢が、少しずつゲームに入り始める。24分には今野泰幸のクサビを、その長沢が巧みにフリック。受けた大森のパスから宇佐美が放ったシュートは、林がファインセーブで回避するも好アタック。28分にも右から遠藤が上げたクロスに、長沢が高い打点で競り勝ち、最後は林にキャッチされるもストロングの高さを披露。ボランチへのプレスバックも怠らず、空陸両面で流れに関わり出した192センチが打ち出す存在感。
以降はお互いに手数は繰り出したものの、ゴールを予感させるまでには至らない。43分に宇佐美がドリブルで運んで打ったシュートも枠は捉え切れず。「前半は0-0でしたけれど、点を取られてもおかしくなかったですし、奪っていてもおかしくなかった」と森保監督。拮抗した前半はスコアレスで45分間の終わりを告げるホイッスルを聞いた。


ハーフタイムを挟むと、後半もG大阪が再び出足で上回る。55分には長沢の巧みなポストプレーから、大森が左クロス。こぼれを叩いた藤春廣輝のシュートはDFにブロックされたものの、悪くない形を創出。森保監督の決断は57分。佐藤と替わるのは浅野。「自分の特徴というのはハッキリしていますし、期待されていることは感じる」と自らを語る、リーグ屈指の期待感を漂わせた1本目の矢を大舞台へ解き放つ。
"魔物"のいたずらは60分。最終ラインでのビルドアップは広島の日常。佐々木翔が後ろに下げたボールを、しかし森﨑和幸は見送ってしまう。千葉和彦の目前でかっさらった長沢のシュートが、青黒のサポーターが陣取る目の前のゴールネットに突き刺さる。「まずは自分が処理しようと思ったんですけど、千葉ちゃんが僕の名前を呼んだので、千葉ちゃんがOKみたいな感じだったのかなと思って、僕が触らずに任せようとしたらたぶん千葉ちゃんは僕から受けようとして名前を呼んだので、そこはコミュニケーション不足だった」と悔しがる森﨑和幸。「ほとんどシーズン中はああいうミスはなかった」(森﨑和幸)という、そのミスを見逃さなかった長沢の粘り勝ち。誰もが驚くスタメン起用に応えた20番が、青黒のサポーターのハートに火を付けた。
G大阪1人目の交替は62分。大森が下がり、倉田秋がそのまま左サイドハーフへ。広島2人目の交替は69分。ミキッチが下がり、柏がそのまま右ウイングバックへ。「(ベンチスタートに)悔しさもありましたけど、自分自身を信じて、自分の力なら出たら絶対に結果を残せると思っていました」と言い切る2本目の矢がピッチヘ駆け出すと、74分には青山のパスを引き出した柏がドリブルで運んでグラウンダークロス。ニアへ飛び込んだ浅野はシュートまで持ち込めなかったものの、「同じサイドの選手には『全部俺に付けてくれ。持ったら全部俺を見てくれ』ということを伝えました」という18番の躍動感がチームに推進力をもたらす。
G大阪2人目の交替は77分。「こちらの期待に応えてくれたと思っている」と長谷川監督も評価を口にした長沢はここでお役御免。登場するのは浅野と同じ番号を背負ったジョーカー、パトリック。その29番へ訪れた投入2分後の決定的なシーン。遠藤のFKに塩谷を振り切ったパトリックは、まったくのノーマークでヘディング。ところが、ボールはクロスバーを越えてしまい、広島を突き放すことができない。
煌めいた2本の矢。"パトリック直後"のゴールキックを繋ぎ、塩谷はシンプルに縦へ送ると、斜めに飛び出した浅野は東口順昭と1対1に。「ワンタッチでシュートを打つのか、GKをかわすのかという所でちょっと迷いはあった」浅野は後者を選択し、東口を振り切って角度のない位置からシュート。「打った瞬間、感触としては良かったですし、軌道を見ても入ったかなとは思いました」と振り返った軌道は左ポストを直撃するも、すかさず反応した柏の強烈なシュートにドウグラスが頭で食らい付いたボールは、左スミのゴールネットへ吸い込まれる。「普段ああいう所から打つかと言われたらあまりないかなと思いますけど、勢いに任せながらイメージは頭の中にはあったので、振り抜いて良かったのかなと思います」という浅野の思い切りと、「技術がなかったのでアウトに引っ掛からずに、インステップでまっすぐ飛んでしまった」と苦笑する柏の思い切りが呼び込んだ同点弾。80分。広島が貴重なアウェイゴールで追い付いた。
万博の乱気流。81分に右サイドで獲得したG大阪のFK。遠藤が丁寧に蹴ったキックは佐々木が懸命に弾き出したが、そこにいたのは今野。まるで教科書のような美しいボレーを繰り出すと、さすがの林も一歩も動けず。密集を抜けたボールが右スミのゴールネットへ突き刺さる。沸騰のゴール裏。沸騰のベンチ。執念とも形容できる今野の2戦連発弾。あっという間に両者の点差は2分前のそれに引き戻される。
万博の乱気流、再び。86分のアクシデント。右サイドバックのオ・ジェソクと左ウイングバックの清水航平が、ボールの転がる方向の偶然にも導かれ、逆サイドまでもつれ合う。倒れる両者。右手を挙げて迫る清水を、オ・ジェソクが両手で突き飛ばす。掛け寄る扇谷健司主審の掲げたカードは赤色。一発退場。破れたスコアの均衡に続き、人数の均衡も予期せぬ形で破れてしまう。リードしている10人とリードされている11人。次々に入れ替わるメインキャスト。書き換えられ続ける結末のシナリオ。89分に切り合う最後のカード。長谷川監督は宇佐美を下げて、米倉恒貴をそのまま右サイドバックへ。森保監督は清水と山岸智のスイッチを選択。3本目の矢としての重責は、今シーズン苦しんできたベテランに託された。
賢者が導いたアディショナルタイムの執念。90+1分のFKは広島。それまでに4度あったセットプレーをすべて中央に蹴り込んでいた柴﨑晃誠は、5度目の機会に突如として後方へ短く。まったくのフリーで受けた青山は、誰にも邪魔されることなくプレースキック並みの余裕を持ってピンポイントクロス。「僕を見て上げてくれたと思う」と話す佐々木の強烈なヘディングは、右のサイドネットへ力強く飛び込む。賢者の機転に賢者が応え、「本当に良いボールだったので強く叩けて良かったです」と振り返った佐々木がグサリ。「劣勢になっても粘り強く辛抱強く戦うという継続力」(森保監督)は強者の証。大き過ぎる2つのアウェイゴールで、広島がスコアを振り出しに揺り戻した。
「リスタートから一発やられて2-2になって、そこで少し落ち着きがなくなってしまったなと見ています」(長谷川監督)「正直誰か声を掛けた訳じゃなかったですけど、3点目を取りに行っていたというか、全体としてはそういう姿勢でプレーしていました」(森﨑和幸)。90+6分の狂喜。「こういう大きな舞台でミスを犯してしまって、チームに本当に申し訳ないなと思いながらも、そういうミスが起こるスポーツだと自分に言い聞かせて、何とかワンチャンスを活かそうと思って狙っていました」という森﨑和幸が今野のスローインを直接カット。受けた青山は一呼吸持って左へ返し、溜めた森﨑和幸がもう1つ左へ流すと、上がってきた山岸は冷静にマイナスへ。フリーのドウグラスは滑って打ち切れず、「相手より先に触らないといけないという焦りであったりとか、強いシュートを打たないといけないとか、色々思ってちょっとコースに飛ばすことは意識できなかった」浅野のシュートも丹羽大輝に弾かれたが、待っていたのは柏。「たとえ試合に出られなくても、サブだと思って練習はやっていなかった」18番がゴールネットを激しく揺さぶる。「試合を決めるのはスタメンだけでなく、交替で入ってくる選手がどれだけチームのためにプレーして活躍して、勝利をものにするかということだと思います」と森保監督。ベンチから放たれた3本の矢でしっかり青黒の岩を貫いた広島が、敵地での勝利と3つのアウェイゴールを携えて、ホームへ凱旋することとなった。


「スコアが動いてからはなかなかシーズン中でも味わえないような展開になりましたけど、こういうことが起こるのがこういう大舞台だなと思いました」と最初の失点に関わりながら、決勝ゴールにも関わってみせた森﨑和幸はチャンピオンシップ独特の雰囲気を指摘する。率直に言って、堅い守備に定評のある両者の90分間に、これほどまでスコアの動く乱打戦が待っていようとは想像していなかった。そんな数々のイレギュラーが存在した試合を動かし、試合を決めたのは交替選手の躍動。「どんどん次から次へと入ってきた選手が良いプレーをして、得点に絡んでいるというのは今の広島の強みでもあると思います」と話した浅野は「控え組が控え組だけで満足できないという部分があるので、常にスタメンというのは誰もが狙っていますし、そこを奪い取れるように日頃の練習から100パーセントやれているというのは、凄くチームとして良い雰囲気が保てていると思います」と続け、殊勲の決勝弾を叩き込んだ柏も「チャンスが来た時に、僕だけじゃないですけど、みんなが準備しているし、それが今年の広島の強さだと思う」と口にすると、森﨑和幸がチームメイトの想いを代弁する。「今日の試合だけじゃなくて、シーズンを通して替わって入った選手が活躍するというのがほとんどの試合でそうでしたし、それがウチの強さだと思うので、自分たちは11人だけで戦っている訳じゃないというのは試合前から思っていました」。おそらく最後の1試合も、"3本の矢"を巡る争いは熾烈になるはずだ。ただ、その選ばれた"3本の矢"を認め、心から彼らの活躍を願ってピッチヘ送り出す準備が、今の広島にはできている。      土屋

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