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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。

その他の試合レポート 2015年11月16日

高校選手権新潟決勝 新潟明訓×帝京長岡@ビッグスワン

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1115bigswan.jpg「今年の新潟はどっちが勝っても全国で戦えると思っている」(新潟明訓・田中健二監督)「どっちが勝っても本当に日本でトップを目指せるようなチームだと思う」(帝京長岡・古沢徹監督)。文字通り新潟の頂上決戦。新潟明訓と帝京長岡のファイナルはデンカビッグスワンスタジアムです。
一昨年、今年とインターハイでは新潟を制し、夏の全国へと勝ち進んだものの、選手権予選ではここ2年続けてPK戦での敗退を余儀なくされるなど、不思議とファイナル進出でさえなかなか叶わなかった新潟明訓。ただ、1年生からレギュラーを務めてきた多数の選手が最高学年となり、「今年はもう勝負の年だったので負ける訳にはいかない」(田中監督)という覚悟で臨んだ今大会は新潟工業、新潟西、北越と相次いでプリンス北信越勢と当たる厳しいブロックに組み込まれながらも、その3校を5-0、5-0、4-0という圧倒的なスコアで下して、16年ぶりの戴冠に王手を。「チームを1つにして全国に出すというのが自分の使命だと思う」と言い切るキャプテンの加藤潤(3年・アルビレックス新潟JY)を中心に、最後の乗り越えるべき1試合に挑みます。
ここ最近の5年間で決勝まで勝ち進むこと4度。第91回大会では新潟県勢初となる全国ベスト8まで躍進し、名実ともに新潟を象徴する存在へと成長を遂げた帝京長岡。昨年度の選手権予選は準々決勝で新潟工業に苦杯を嘗め、3連覇の夢は途絶えたものの、大桃海斗(3年・長岡FC JY)や小林拓夢(3年・長岡FC JY)など2年前の全国を経験した選手を中心に、1年生から期待されてきたタレントが3年になった今年は彼らにとっても勝負の年。今大会も準々決勝で前回王者の開志学園JSCを延長の末に振り切ると、"長岡ダービー"となった長岡向陵との準決勝も3-0で快勝を収めてこのファイナルへ。今期は3度の対戦とも新潟明訓に0-1で敗れており、「まだ1回も勝っていない相手ですし、本当にアイツらとやるのも最後なので、ここで一泡吹かせてやろうというのはみんな思っている」と小林も決意を口に。4度目の正直を果たすべく、この80分間に臨みます。会場は「新潟でサッカーをやっている人だったら誰もが憧れる所」と新潟明訓のストライカー田辺大智(3年・アルビレックス新潟JY)も話すビッグスワン。完璧に整った舞台。問答無用のファイナルは帝京長岡のキックオフでスタートしました。


いきなりのチャンスは新潟明訓。まだ時計の秒針が1周する間もないタイミングで、田辺は積極的なミドルにトライ。このボールはDFにブロックされましたが、リバウンドを足に何とか当てるような格好で打った坂田純(3年・小針FC)のシュートは右のゴールポストを直撃。3分にもミドルレンジでボールを持った中村亮太朗(3年・グランセナ新潟FC JY)は枠内へシュートを収め、帝京長岡のGK深谷圭佑(2年・豊橋デューミラン)にキャッチされたものの、まずは新潟明訓が好リズムで立ち上がります。
一方の帝京長岡も6分には小林のドリブルから左CKを獲得すると、お馴染みのショートコーナーから高野歩夢(3年・FC CEDAC)が鋭いクロスを送るも、飛び込んだ吉田誠(3年・長岡FC JY)のヘディングはゴール右へ。7分は再び新潟明訓。相手のクリアミスにいち早く反応した関口正大(2年・FC五十嵐)はそのままエリア内へ侵入。右へ持ち出したドリブルは果敢に飛び出した深谷に掻き出されましたが、あわやというシーンに沸き上がる赤いスタンド。
ただ、徐々にペースを引き寄せたのは長岡の緑。10分には陶山勇磨(1年・長岡FC JY)が高い位置でボールを奪い切り、小林のミドルは枠の右へ外れるも、流れの中からフィニッシュまで。12分にも岩下航己(3年・長岡FC JY)が右からグラウンダーでサイドを変え、石田健太郎(3年・長岡FC JY)がマイナスに折り返したボールを、アンカーの位置から飛び出した高橋響(3年・長岡FC JY)が左足シュート。ボールはゴール右へ逸れたものの、横幅をきっちり使い切ったアタックは迫力十分。15分は決定機。左からSBの金井明寛(3年・長岡FC JY)がフィードを送り、高橋が頭で落とすと、小林はエリア外からフリーでミドル。ここも枠は捉えきれませんでしたが、ゲームリズムは帝京長岡に。
17分と22分にはそれぞれCKを得ながらどちらもシュートには至らなかった新潟明訓は、「全体が引いてサイドバックが上がらなかったので、帝京さんにスペースを与えてしまった。ウチが行けなかったことで帝京さんのパス回しが凄く生きてしまった」と田中監督も振り返ったように、準決勝までのアグレッシブな姿勢が影を潜め、ボールアプローチも後手に回る回数が増加。また、「トップ下の陶山に凄くボールが収まっていて、あそこを起点に加藤君を引きずり出して、ワンボランチの空いている所へどんどん沸いて出てきた所で、あえて内側を締めてサイドという所で上手くやれていた部分があった」と古沢監督も口にした通り、陶山のケアに加藤が引っ張られたこともあって、中村が高い位置を取りたい分、加藤と中村のいない中央のスペースを中盤アウトサイドの高橋怜大(3年・アルビレックス新潟JY)と関口が埋めるシーンも多くなり、サイドでの推進力も消えてしまいます。
23分は再び帝京長岡に決定機。石田のパスを回って受けた金井はグラウンダーで中央へ。高野がヒールで落としたボールを、小林がフリーで叩いたシュートはクロスバーの上へ外れ、頭を抱えたのは小林と帝京長岡ベンチでしたが、「何をやってくるかわからないチーム」と加藤も評した彼らの最も持ち味の発揮されるシーンを創出。26分にも高い位置で相手のボールを奪い切り、最後は石田が新潟明訓のGK杉本陸(2年・アルビレックス新潟JY)にキャッチを強いるミドルまで。「2トップに対して2センターでお互いマッチアップする形」(古沢監督)の中で、田辺と坂田の2トップも吉田と大桃の2センターが完全に監視下へ置き切り、守備も破綻の色すら見せない帝京長岡の続く時間帯。
均衡を破ったのは「勝負の分かれ目はセットプレーだよと言っていた」(古沢監督)そのセットプレー。29分は帝京長岡の左CK。いつも通り石田が小さく出して、高野が上げたクロスはDFにクリアされましたが、再び手にしたCKをここも石田がショートで出すと、高野の選択はクロスではなくシュート。鋭い弧を描きながら右スミを襲ったボールは、懸命に飛び付いたGKも弾き切れずに、そのままゴールネットへ収まります。長野からこのスタイルのサッカーをやるために長岡の地へと身を投じた9番が、この重要なゲームで大仕事。帝京長岡が1点のリードを手にしました。
止まらない帝京の風。32分にも細かくパスを繋ぎ、石田がヒールで落としたボールを金井はグラウンダーで中央へ。高野と小林が走り込み、間一髪で弾いた杉本が何とかキャッチしたものの、彼ららしい崩しを挟んだサイドアタックから惜しいシーンを。「前半から『何がダメなんだ』というのは凄く考えていて、帝京の方も意地があると思うので『自分たちの痛い所を突いてくるな』と思っていた」と加藤。「プランとして前半は0-0。相手の力の方が上なので、0-1で帰ってきても問題ないとスタッフの中で話をしている中、1-0と出来過ぎで帰ってきた」と古沢監督。双方のパフォーマンスがそのままスコアに反映された格好の前半は、帝京長岡が1点のアドバンテージを握って40分間が終了しました。


43分の衝撃。前半は苦しんでいた加藤が自ら仕掛けて奪ったCK。左から白井克秀(3年・グランセナ新潟FC JY)が蹴り込んだボールに、CBの苅部杜行(3年・ジェズ新潟東JY)が頭から飛び込むと、右スミへ向かったボールは鮮やかにゴールネットを揺らします。「完全にウチのミスですね。ニアのポジションがいつもより2メートルか3メートルくらい手前だったんですよ。そこの頭の裏に入って来られた状況だったので準備不足です」と古沢監督も悔やんだ一撃。劣勢だった新潟明訓がスコアを振り出しに引き戻しました。
形勢逆転。「0-1になって『後半はもう行くよ』ということで失うものはないので積極的になって、あの子たちが後半は見違えるぐらい変わったかなと思います」と田中監督。44分には関口が左サイドを単独で切り裂き、エリア内へ潜って放ったシュートは枠の左へ外れるも抜群の積極性を披露。50分に右から加藤が蹴り込んだCKに、高橋が合わせたヘディングは枠の左へ。「後半立ち上がりの失点で相手に勢いを持って行かれた部分はありました。思いのほか、下で動かせなかったですね」と古沢監督。完全にゲームの流れは新潟明訓へ。
52分に衝撃再び。前半とは別人のように躍動し始めた加藤は、自信たっぷりに右からCKを蹴り込むと、中村が高い打点のヘディングで打ち下ろしたボールは、必死に飛び付いたGKも掻き出し切れずにゴールネットへ到達します。「アイツが一番ウチで強いので、ヘディングはアイツに合わせようと思っていました。試合中に『自分に集めろ』と言ってきましたし、『それならアイツに合わせるか』と思って蹴りました」と加藤が話したホットラインは準決勝の2点目と同じライン。10番を背負った中村の逆転弾。12分間で新潟明訓がスコアを引っ繰り返してしまいました。
ハーフタイムの決断。「加藤が陶山君を気にし過ぎたと思います。本来なら陶山君を置いてでも攻撃に関わりに行かなくてはいけない。でも、アンカーという気持ちなのでどうしてもあの子を気にして受けになってしまったことで、前半は陶山君が凄く生きていたと思うんですよね。で、どこを修正するかという中で『陶山にちゃんと付け』と言うか、『オマエが強気で行け』と言うか、そこの賭け事だったと思う」と田中監督。指揮官が選んだのは後者。「加藤には『3年生なのでそこは負けるな。後ろは2対3で良いから』と。CBに対しては『陶山君を入れて相手が3人でもオマエらで守れ』と言いました」と明確な、それでいて強気な指示。「前半は仕事ができない状況がずっと続いていた中で、『あえて上がれ』と喝を入れられたので、『よし、上がろう』と思いました。そうしたら、相手も自分のことを警戒するので、アンカーが上がらざるを得ないとなると後ろが2枚になるじゃないですか。そうなるとやっぱり明訓ペースになるんだなと感じたので、自分は強気に行こうと思いましたね」と加藤。田中監督の"賭け事"が結果的にプラスに働きます。
その作用は全体に波及。56分には守備面でのケアを軽減されて、一気に躍動感の出てきた関口が左サイドで2人をぶち抜き、グラウンダーのクロスは深谷にキャッチされたものの、ゴールの予感は十分。58分にも田辺が左カットインから枠の左へ外れるミドル。60分にも中村のパスから高橋がミドルを放ち、ここはDFに当たってゴール右へ外れましたが、直後の右CKを加藤か蹴り込むと、GKがファンブルしたボールに抜け目なく田辺が反応。シュートには至らなかったとはいえ、「全然ボールに触れていなかった」5番のストライカーにも少しずつエンジンが。
「前半は相手の2トップが触れなかったのと真逆の展開で、今度はウチが2トップに良い形で入らなくなってしまった」(古沢監督)帝京長岡。56分に右SBで奮闘した大塚翔太(3年・長岡FC JY)を下げて、武内連(3年・FC緑)を小林と並べる2トップの一角に送り込み、高野を右SHへ、岩下を右SBへそれぞれスライドさせて、何とか攻撃の糸口を。67分には左サイドでボールを持った石田が縦に流し、抜け出した武内のシュートは枠の右へ。逆に70分は新潟明訓。坂田が左から中へ付け、粘って運んだ田辺の強引なシュートは左ポストにヒット。「今度は相手がウチらの前半みたいにロングボールを多用してきた」と田中監督。新潟明訓ペースは変わらず、いよいよ試合はラスト10分間とアディショナルタイムへ。
73分の咆哮。2分前に陶山とのスイッチでピッチヘ解き放たれたジョーカーの大槻潤(3年・M・A・C SALTO)が左サイドをグングン運び、ハイサイドをえぐり切ってグラウンダーでマイナスへ。ここへ全力で飛び込んできた高橋のシュートは杉本も素晴らしい反応で弾きましたが、そのルーズボールに誰よりも早く反応してゴールに流し込んだのは小林。前半から訪れるチャンスになかなか結果を出せなかった14番が、シビアな展開の中で見事に結果を叩き出します。「GKのせいでもないですし、アレはもう帝京さんがずっとやってきた形なので、あのシーンに関しては完敗だったと思います」と田中監督も認める執念の同点弾。ほとんど後半はチャンスらしいチャンスのなかった帝京長岡が、この時間帯で追い付いてみせました。
「意地のぶつかり合いだったと思うんですけど、選手権はそんなに甘くない」と田中監督も話した通り、まさに文字通り互角の戦いも着々と刻まれていく時計の針。アディショナルタイムの掲示は2分。それでも何かが起きそうな予感の充満していたビッグスワンで、両チームの勝利の針が交互に揺れたジェットコースター。80+1分は新潟明訓。CBの木村風輝(3年・アルビレックス新潟JY)と白井が執念で繋いだボールを、最後は坂田がゴールネットへ流し込み、劇的な決勝弾かと思われた瞬間、上がっていたのは副審のフラッグ。オフサイド。一転、帝京長岡のカウンター。クイックで深谷が大きく蹴ったボールを小林が追い掛け、相手より一歩前に出ながらマーカーともつれて倒れましたが、展開の速さに追い付いていなかった主審はオフェンスファウルの判定。両チームのベンチが共に判定への不満を露わにする中、どちらもゴールは奪い切れません。
80+3分の絶叫。帝京長岡が負傷のために時間限定の出場を強いられながら、きっちり仕事をやり切った大槻と長島義明(3年・上松中)を入れ替え、もはや田中監督も「延長は覚悟でやっていた」中で、その指揮官から見ても「あの子の目がずっと死んでいなかった」という5番のストライカーは「自分も何か仕事をしないといけないなという風に思っていた」決意に突き動かされ、関口からボールを受けると中央でドリブル開始。少し運んで「普段は引っ張って打つのが得意なんですけど、あそこはそこしか逆に見えていなかったので、自分の形とは関係なくてもとにかく空いている所に打とうと思いました」と右スミへ巻いたシュートを狙うと、右足を振り抜いた1秒後に揺らされていたゴールネット。「オイシイ所を持って行かれましたね(笑) でも、それもアイツの実力なので、明訓として勝ち切る力があったからアイツにボールが行ったんだと思います」と加藤が話せば、「とにかくあの子はシュートが上手なので『何本外してもいいから譲るな』と。それだけをずっと今日も言っていた。アレは理屈じゃなくて彼の能力だと思います」と田中監督。「入った瞬間はロスタイムに入っているなというのはわかっていたので、とにかく嬉しかったですね。ただ、とにかく無我夢中でやっていたのでイマイチ覚えていないんです」と笑った田辺の劇的な決勝弾で勝負あり。新潟明訓が激闘をドラマチックに制して、16年ぶりの全国切符を獲得する結果となりました。


「全国でも戦えるような選手たちが十分にいたので、この選手たちを全国で見たかったなというのが率直な感想です」と試合後に古沢監督も語った帝京長岡。加藤も「本当に強かったです」と素直に認め、田中監督も「ウチの力を帝京さんに引き出させてもらいました」と話したように、その個々のアイデアと高い技術を融合させたスタイルは見る者を十分魅了してくれたのではないでしょうか。ゲームの中での分岐点は、やはり前半の好リズムの時にきっちりゴールを奪えなかったこと。指揮官も「ウチも点を取る自信はあったので、もう1個相手を差し切れなかったというのがありますね」と振り返った"もう1個"の差が結果的に勝敗を分けた印象です。それでも準優勝は立派な成績。「本当にポテンシャルの高い子たちで、スタッフも凄く学ばせてもらって、さらにサッカーは難しくて面白いなというのは感じさせてもらいました」と古沢監督。長岡が育んだ個性派集団は確かにビッグスワンで躍動していました。
毎年チーム力は高い評価を得ながらも、選手権予選だけはアンラッキーな敗退も続いていた中で、ようやく16年ぶりに新潟を制した新潟明訓。「中学時代に全国で3位に連続でなったんですけど、『その時はあんなに簡単だったのにな』と凄く感じていて、やっぱりこれが高校サッカーの難しさかなと思っていました」と加藤も話した通り、なかなか届かなかったファイナルでの勝利にイレブンもベンチメンバーもスタンドも喜びが爆発。試合後は応援団の目の前で『アルプス一万尺』をモチーフにした松本山雅サポーターが歌うチャントで歓喜のダンス。特に1年時からレギュラーを任されてきた3年生たちは一際感慨深そうな表情を浮かべていました。「もしかしたら今年の新潟県は、どちらが全国に出ても優位に試合を進められる年なのかもしれないです。その分でも出た方はベスト4まで目指す義務があると思うので、強気にやっていきたいなと思います」と田中監督が話せば、「ベスト4と言わず、やっぱり日本一が目標だと思うので、最後まで笑っていたいなという風に思う」と笑顔を見せたのは決勝弾の田辺。全国を驚かせるだけの実力もスタイルも新潟明訓には間違いなく備わっています。       土屋

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