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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
長く険しき旅の、そして心躍る楽しき旅の終わり。2年目を迎えたJ3リーグもいよいよ最終節。プライドと昇格を懸けた鳥取と山口のラストマッチはとりぎんバードスタジアムです。
入れ替え戦で讃岐に敗れ、J3へと降格したのは3年前。いわば火中の栗を拾う格好で指揮官に就任した松波正信監督の下、主力もほとんど入れ替わった昨シーズンは4位と健闘。今シーズンは早々にJ2ライセンスの取得断念という難しい状況の中で、ここまで6位という順位に付けている鳥取。「僕自身も上に上がるというか、このチームを強くしたいという情熱と愛情を持ってやってきた」という松波監督も退任が発表されたため、この一戦は2年間の集大成でもあるホームラストゲーム。「もう誰のためとかではなく、山口が優勝するのを阻止するとかではなくて『とにかく今日の最終戦は勝ち点3、勝ちという所の気持ちを出していかないといけない』と。『全力を出し切って今シーズンを終わらなくてはいけない』という風には試合前に選手たちには言いました」という指揮官のためにも、現在4戦無敗という勢いそのままに、勝利という結果で有終の美を飾りたい90分間です。
J3昇格の歓喜に沸いたのは、ほんの1年前。初めて挑んだJリーグの舞台で、2年続けての昇格が間近に迫っている山口。26試合でわずかに3敗と圧倒的な強さを発揮した第1クール、第2クールから一転して、一時は12ポイント差を付けていた町田に勝ち点で並ばれるなど、「最後の1つの椅子に手が掛かりかけた時に、選手は今までに経験したことのないような心理状態になりました」と上野展裕監督も話した通り、勝負の第3クールはここまで5勝1分け5敗と大ブレーキ。それでも得失点差の貯金もあって、このゲームに勝てば昇格というシンプルな構図の中、「試合を重ねるごとにホームでもそうですけど、アウェイでもたくさんのサポーターが来てくれて、僕たちにとっては非常に力になった」と庄司悦大も言及するほど、この日もアウェイゴール裏を埋め尽くした橙の友を味方に付け、J3優勝、すなわちJ2昇格を手にする覚悟は決まりました。双方に大きな意味のある最終節を見届けようと、とりスタに駆け付けたのは4013人の大観衆。運命の90分間は山口のキックオフでその火蓋が切って落とされました。
開始8秒の決意。キックオフのボールを受けた小塚和季は、左から中央へ潜りながら思い切りよくミドル。ここは鳥取のGK杉本拓也にキャッチされましたが、2試合の出場停止がようやく明け、「ここで上がれなかったら『もったいなかった』で終わってしまうので、充実感を得るためにも最後まで勝ち切って昇格したい」と言い切った14番が勝利への意欲をファーストシュートに滲ませます。
ところが、2分の咆哮はホームの黄緑。フェルナンジーニョが2人を引き付けて門を通し、受けた畑田真輝はすかさずスペースへスルーパスを通すと、走った安藤由翔は左足一閃。強烈な弾道を描いたボールはゴール右スミへ鮮やかに突き刺さります。「左足のシュート力やパンチ力というのは非常にありますし、やっぱり推進力というのはどこにおいても彼はあるので、いつ行けばいいのかという所が少しわかってきてくれたのかなという風には思っています」と松波監督も評価する13番がこの大一番できっちり結果を。完璧に崩したファインゴールでホームの鳥取があっという間にスコアを動かしました。
4分にも秋山貴嗣の右FKがこぼれ、畑田が枠の左へ外れるミドルを放つなど、「相手はしっかり後ろから繋いでくるという所で、ボールは1つなので『まずはボールにプレッシャーを掛けよう』と」指揮官に送り出された鳥取が勢いを持って立ち上がったのに対して、なかなか攻撃の形を創り出せない山口。11分には左サイドで福満隆貴が粘って残し、黒木恭平がマイナスに折り返すと、小塚はキックフェイントで2人外してシュートを放つも、キャプテンの川鍋良祐が果敢に体でブロック。こぼれを狙った福満のシュートも小石哲也が冷静にクリア。「鳥取さんのディフェンスラインは3人が連動して動いていて、なかなかそこを崩せなかった」と宮城雅史。打ち出せない攻撃性。
14分は鳥取。右からここも秋山がFKを蹴ると、飛び出した山口のGK一森純がキャッチ。16分は鳥取の決定機。今度はフェルナンジーニョが右から入れたFKに、ここは中央で待っていた秋山がドンピシャヘッド。ボールはわずかに枠の右へ外れ、思わず秋山は頭を抱えたものの惜しいシーンを。18分には山口も庄司悦大がクイックでFKを蹴りましたが、走った岸田は届かずに杉本がキャッチ。「味方のパスをオフサイドで無駄にしてしまうようなことが多かったので、『凄く味方に申し訳ないな』というのと、自分自身に凄くイライラしていて、フラストレーションは溜まっていました」と岸田。ゲームリズムはホームチームに。
24分も鳥取。相手のFKをクリアすると、一転してカウンター発動。畑田、柿木亮介、馬渡和彰と繋ぎ、田中智大は左サイドを運びながら、巧みなステップワークからフィニッシュまで。最後はDFに当たって一森がキャッチしましたが、際立つ田中の推進力。26分も鳥取。フェルナンジーニョが右へはたき、秋山が左足で送ったクロスを畑田がバックヘッド気味にシュート。ここも一森にキャッチされたものの、「出足も良かったですし、相手のシステムが若干いつもと違う中で良く守備では対応してくれていたと思います」と松波監督も言及した鳥取の勢いが、山口を確実に上回ります。
30分を過ぎるとわずかに前へのパワーが出てきた山口は、33分にビッグチャンスを。中央を運んだ小塚が体をひねって左へ通し、開いた庄司は右足で丁寧にクロス。走った岸田のダイビングヘッドは杉本が弾き切れず、そのままゴールネットへ到達します。大喜びのアウェイゴール裏でしたが、上がっていたのは有田幸樹副審のフラッグ。「僕はオフサイドじゃないと思っていたので悔しかったですね」と岸田。スコアは変わらず。鳥取が保つ1点のリード。
37分は小池龍太が獲得した山口のFK。右から黒木が放り込んだFKは杉本が確実にパンチングで回避。40分も山口。小池を回った島屋八徳が縦に持ち出してクロスを上げるも、飛び出した杉本がしっかりキャッチ。43分も山口。小塚が中央を力強くドリブルで突き進むと、こぼれを拾った福満のシュートはDFのブロックに遭い、ここも杉本がキャッチ。「後ろからボールが出てくる位置も遠かったりだとか、ちょっと僕が欲しいタイミングよりちょっと遅れて出てきたりとか、難しい前半ではありました」と岸田が話せば、「失点しても『やることは変えないで行こう』と言っていたんですけど、ちょっと攻撃に厚みが掛けられなかった」と小塚。「チーム全体としては本当にコレクティブに動けていたんじゃないかなという風には思っています」と松波監督も認めた鳥取が1点のアドバンテージを握って、最初の45分間は終了しました。
「最後まで戦って勝とう」(松波監督)「今シーズン最後だから、残り45分で全て出し切ろう」(上野監督)と両指揮官の檄に送られて、ピッチヘと帰ってきた両チームのイレブン。しかし、いきなりのアクシデントは後半開始わずかに18秒。福満のパスに抜け出そうとした岸田を小石が倒してしまい、笛を吹いた大坪博和主審はイエローカードを提示。23分に1枚目をもらっていた小石は、これで退場処分に。45分近い時間を鳥取は10人で戦うことになってしまいます。
数的優位を得た山口。47分には小塚が中央左、ゴールまで約25mの距離から直接FKを狙うもカベを直撃。50分にも福満が右へサイドを変え、庄司がダイレクトで丁寧に落としたパスを島屋がスライディングボレーで叩くも、ボールは枠の左へ。52分には鳥取に1人目の交替が。10人になってからは2トップ気味になっていた田中を下げ、山本大稀を送り込んで前での基点創出と最低限のプレス復活に着手。56分は山口。左サイドで庄司のパスを受けた小塚は、タイミングを見計らって中央へ絶妙のパスを通しましたが、宮城はシュートまで持ち込めず、福満のミドルは大きく枠の上へ。「相手が1人少ないということもあって前からプレスを掛けて来なくなりましたし、しっかり後ろで固めるという戦い方をしてきた」(代)「引いて守られる所があったので、サイドから行けたら一番良かったんですけど、単純なロングボールだけになったりしてリズムが創れなかった」(小塚)と2人は同じニュアンスの話を。崩し切れない鳥取の堅陣。
スナイパーは一撃で。福満の左クロスを杉本が巧みなフィスティングで逃れて生まれた62分のCK。黒木が右から蹴ったキックは、ニアで川鍋がクリアしてもう一度CKに。振り回すタオマフのスピードとパワーを一段階引き上げたオレンジのサポーター。再び黒木がニアサイドへ蹴り込むと、突っ込んだ3人のDFより一瞬早く岸田がヘディング。ボールはニアサイドをぶち抜いて、ゴールネットへ飛び込みます。「1本目も凄く良いボールだったんで、上にすらそうとしたんですけど、当て過ぎて上にふかすのが怖くてスカっちゃったので、2本目は『ああ、上じゃダメだ。横に当てよう』と思ったら凄く良いボールが来たので、横でパンって当てるだけでした」とその瞬間を振り返った岸田はこれで驚愕のシーズン32ゴール目。やはりこの重要な一戦でも輝くのは「本当に周りのおかげ」と強調するストライカー。スコアは振り出しに引き戻されました。
畳み掛けたい維新の志士。直後の64分。福満が相手のクリアにスライディングで食らい付いたボールはエリア内へ。こぼれを宮城がダイレクトで狙ったシュートは、杉本が指先で弾き出すビッグセーブで応酬。その左CKを小塚が蹴り込み、ファーでトラップした福満はシャペウでマーカーをかわそうとするも、3人が殺到した鳥取ディフェンスも何とかクリア。「1点取ってからノリノリだった」と宮城。「ウチの攻撃力は凄いと僕は思っていますし、『いつか点は入るだろう』というのは後ろで見ていて思いました」と代。俄かにざわつく記者席。その理由は町田失点の報。傾いてきた流れ。『至誠而不動者未之有也』。至誠が導く歓喜への道。
65分に奮闘した川鍋が負傷でプレー続行が難しくなると、松波監督の決断は若き力の投入。2種登録の17歳、曽我大地をピッチヘ解き放ち、右の秋山、左の稲森克尚を従える形でそのまま川鍋のいた3バックの中央へ。70分には久々に鳥取のチャンス。フェルナンジーニョがドリブルで持って持って、左サイドへ丁寧なパス。安藤のクロスに飛び込んだ畑田はわずかに届かなかったものの、劣勢の中でもキープで時間を創れるフェルナンジーニョと縦への突破に可能性を感じさせる安藤の2人は、鳥取が懐に隠し持つ絶大な武器。
黄緑の意地は72分。10人になってから右へ持ち場を移していた馬渡のスローインを受けた畑田は、すかさず中央へグラウンダーで。背負ったマーカーをワンタッチで振り切ったフェルナンジーニョが、飛び出したGKをあざ笑うかのようにチップキックで浮かせたループは、美しい放物線を描いて静かにサイドネットへ吸い込まれます。これがフェルナンジーニョ。これがフェルナンジーニョ。「劣勢に回ってからはなかなか縦に行くというのは難しくても、本当にワンチャンス、ツーチャンスは必ずあると。そこにフェルナンジーニョが一番前にいれば、しっかり決めてくれる」という指揮官の期待にナンバー10のブラジリアンは満額回答。後半のファーストシュートは信じられないスーペルゴラッソ。再び鳥取が1点のリードを奪いました。
異様な雰囲気のとりぎんバードスタジアム。松波監督は得点直後の73分に2アシストの畑田を下げて、これまた2種登録の礒江太勢を最終節のピッチヘ。上野監督も同じタイミングで1人目の交替を。黒木と廣木雄磨をそのままスイッチして、左サイドにテコ入れを図ると、79分にはその廣木を起点に庄司が右へフィードを通すも、オーバーラップしてきた小池のヘディングは杉本が冷静にキャッチ。81分にはスタンドからの万雷の拍手に送られてフェルナンジーニョがベンチへ下がり、松波監督は19歳のルーキー林誠道を最前線へ。「非常に伸びしろがある選手が多いので、チームとしても伸びる力はあると思う」と自軍を評した指揮官は平均年齢21.7歳の10人に、勝利へのゲームクローズを託します。
既に南長野からは町田同点の報が。84分は山口。右サイドで小池のパスから庄司がクロスを送るも、打点の高い宮城のヘディングは杉本ががっちりキャッチ。85分は山口に2人目の交替。ゲームキャプテンの島屋に替えて、ルーキーの原口拓人がこの大事な局面で前線へ。86分も山口。小塚の右FKは安藤が懸命にクリア。88分も山口。小塚の右CKをファーで香川勇気が折り返すも、中央で鳥取ディフェンスが大きくクリア。「ブロックを作りながら、相手の圧力の中でしっかり守れていたんじゃないかなという風に思います」と松波監督。「『これが昇格するチームの難しさだな』というのはずっと感じながらプレーしていました」と岸田。聳え立つ黄緑の"ぬりかべ"。ジワジワと消えて行く時間。
90分は山口の決定機。福満が執念のヘディングで残し、小池が果敢に右サイドを駆け上がってクロス。ファーでトラップした小塚が丁寧に上げたラストパスに、原口が頭で合わせるも、再三の好守を見せていた杉本がこの場面もファインセーブで仁王立ち。どうしても1点が遠い山口。90+1分に上野監督は3枚目のカードとして、小塚とチームキャプテンの平林輝良寛をスイッチ。一方の鳥取は稲森が足を攣らせたため、唯一ベンチに残っていたGKの井上亮太がフィールド用のユニフォームを着て、交替のためにピッチサイドへ。両チームの交替準備に追われた第4の審判はアディショナルタイムの掲示を出すタイミングがなかったため、スタジアムにいたほとんどの人にとっては残された時間がまったくわからない中でクライマックスへと突入します。
1分半近い中断を経て、90+2分は山口。小池が鋭いパスカットから縦へ繋ぎ、反転した原口はスルーパスを裏へ。反応した福満が必死に走るも、最高のタイミングで飛び出してきた杉本が足できっちりクリア。一転、鳥取のカウンター。安藤は独力で運んで運んで、50m近くをドリブルで突き進みますが、必死に戻った香川と庄司が挟み込んでカット。一転、山口のカウンター。繋いで繋いで最後はエリア内の岸田へ通り掛けたボールは、曽我がスライディングで大きくクリア。壮絶なアディショナルタイム。ワンプレーごとにスタジアムを包む歓声と悲鳴。結果的に稲森は最後の力を振り絞ってピッチの中へ。90+4分は山口。福満が慎重に蹴った左CKは中央でオフェンスファウルの判定。容赦なく進んでいく時計の針。南長野は試合終了。1-1。山口はあと1つのゴールを奪わない限り、優勝と昇格へは手が届きません。
絶叫と狂喜のフィナーレ。95分を少し回った山口のスローイン。右から庄司が投げたボールを、宮城は粘ってキープしながら後方へ。このボールを庄司は「クロスを上げるという選択肢もあったんですけど、トラップが足元に入り過ぎたというのと、『中に上げても跳ね返されるだけだろうな』と思った時に龍太が斜めに走ってくれたので」ダイレクトでスルーパス。「『ちょっと長かったかな』と思いましたけど、龍太が頑張ってマイナスに折り返してくれた」(庄司)ラストパスは替わったばかりの平林の足元へ。「ボールが来たら絶対にシュートを打とうと思っていた」39番が右足を振り抜くと、明確な意志を持った球体は2人のDFを掠めながらゴールネットへ突き刺さります。「みんなの喜び方を見たら『これでいいのかな?』って(笑) 僕自身はちょっとわかっていなかったので、周りを見て『あ、これでいいんだ』みたいな感じはありましたね(笑)」(代)「町田の状況がわからなかったので、自分は『とりあえず早く立とう』みたいな。『まだ終わってないぞ』みたいな感じでいたんですけど、『アレ、何か様子がおかしいな』みたいな(笑)」(宮城)「僕だけ真ん中にポツンと残って、みんな何か喜んでいたので『いや、まだでしょ』みたいな(笑)」(庄司)「僕、2点目が入った瞬間にボールを取りに行って『次は3点目だ』と思っていたんですよ。そうしたらみんな喜んでるから『何?何?』って(笑)」(岸田)「町田の結果ももうわかっていたので『やった!』って感じでしたね。メッチャ嬉しかったですよ。とりあえず叫んでました(笑)」(小塚)。次に聞こえた笛の音は、全てを手に入れたことを告げるファイナルホイッスル。維新劇場、アウェイにてここに終幕。「最後まで選手は本当に諦めることなく同点まで追い付いてくれました。本当に選手は良くやってくれました」と上野監督。ヤマグチ一番。大願成就。山口が劇的に勝ち点1を積み上げ、J3優勝とJ2昇格をその手に掴み取る結果となりました。 土屋
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