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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
東京高校サッカー界の大トリを飾るのは都内屈指の好カード。6年ぶりの全国を虎視眈々と狙う帝京と、都内3校目となる3連覇を目指す國學院久我山の激突は当然味の素フィールド西が丘です。
3年前は関東第一に、2年前はPK戦の末に駒澤大学高にどちらも準決勝の西が丘で敗退を喫し、昨年は1回戦で日本学園相手にやはりPK戦で涙を飲むなど、近年の選手権予選はなかなか結果の付いてこない帝京。今シーズンもインターハイ予選は準々決勝で東京朝鮮と3-5という撃ち合いを演じながら敗れましたが、今大会は東海大菅生と都立松が谷を相次いで撃破し、先週のセミファイナルでは先制を許しながらも、浅見颯人(3年・FC多摩)と平井寛大(3年・帝京FC)の連続ゴールで東京朝鮮に逆転勝ちを収めてリベンジ完遂。「今の帝京はスーパースターがいる訳じゃないけど、チーム力としては今の3年生はまとまっているのかなと思いますね」と話すのは日比威監督。団結力を武器に久々の東京獲りに挑みます。
ここ10年で6度目のファイナル進出。とりわけ現在は東京連覇を達成しており、6年前に帝京が達成して以来の3連覇を視界にハッキリ捉えている國學院久我山。今シーズンは関東大会予選、インターハイ予選と代表権を獲得したものの、本大会ではいずれも初戦敗退を突き付けられており、特にインターハイの1回戦では「僕らから見ていても今年のゲームで最悪のゲームだったと思う」と清水恭孝監督も嘆いた通り、明徳義塾に無念の逆転負け。「代表権を獲って終わりではないので、全国のリベンジは全国でという想いはあると思います」と続けて指揮官。そのリベンジを果たすためにも、この東京ファイナルで負ける訳にはいきません。朝から降り続く雨にもかかわらず、この一戦に駆け付けた観衆は何と8134人。正真正銘のラストマッチは帝京のキックオフでその幕が上がりました。
「前半は比較的相手もちょっと見てくる部分もあった」と宮原直央(3年・FC多摩)が話したように、準決勝で採用した3-4-3ではなく4-4-2できっちりブロックを築く帝京に対し、やはり宮原が「ボールを回してゴール前までは行っていたんですけど、やっぱりシュートまで行けない部分もあった」と振り返った通り、お互いにほとんど手数の出て来ない静かな展開に。久我山のファーストシュートは11分。右から内桶峻(3年・GRANDE FC)がマイナスに折り返すと、フリーで飛び込んだ鈴木遥太郎(3年・東急SレイエスFC)が右足でフィニッシュ。ここは帝京の右SBを務める平井がブロックしましたが、決定機に近いチャンスを。19分にも宮原のクサビを受けた名倉巧(2年・FC東京U-15深川)が、スペースで受けてターンしながら短く流し、ここも鈴木がミドルレンジから思い切って狙ったシュートも枠の左へ。久我山も攻める形を創り切れません。
一方の帝京は早めに2トップの浅見と高橋心(2年・A.N.FORTE FC)にボールを入れてセカンドボールを狙いながら、ポイントではキャプテンを務める長倉昂哉(3年・さいたま木崎中)のドリブルと、この日は左SBに入った鈴木啓太郎(3年・ジュビロSS浜松)のフィードを駆使しながら窺うチャンス。25分には相手のトラップミスを拾った高橋がそのままミドルを放ち、ボールはクロスバーを越えたものの、帝京にもファーストシュートが記録されます。
27分は久我山にチャンス。澁谷雅也(2年・ジェファFC)のパスを受けた名倉は、左に流れながら1つの切り返しで2人のマーカーを外すと、少し中に潜りながらすかさずシュート。右スミを襲ったボールはうまくバウンドを合わせた帝京のGK渡辺聖也(3年・FC多摩)がファインセーブで立ちはだかり、思わずスタンドで頭を抱えた李済華総監督。31分も久我山。左から山本研(3年・横浜F・マリノスJY)が蹴ったFKは渡辺がフィスティングで回避。直後に鈴木啓太郎が入れた右CKもDFが何とかクリア。「前半はボールを持てる時間が長かったと思うんですけど、フィニッシュに対しての強引さはちょっとなかったかなと思います」と清水監督。シュートで終わらないアタックの流れ。
34分は帝京。準決勝でも高精度キックを連発していた中瀬大夢(2年・FCトリプレッタJY)が右からFKを蹴り込み、ファーでフリーになっていた浅見の折り返しは中央でオフェンスファウルに。37分は久我山。澁谷が左サイドをドリブルで運んで中央へ。ただ、名倉も内桶も寄せる帝京ディフェンスを前にシュートを打てず、右へ流れたボールを宮原が叩いたミドルは大きく枠外へ。39分は帝京。左サイドで中瀬が縦に付け、DFと入れ替わった浅見の折り返しは良く絞っていた山本が何とかクリア。「帝京さんが4-4-2でブロックを敷いてきた中で、もうちょっとシュートを振って欲しいというのが正直ありました」と話したのは清水監督。双方にとって決定的なシーンがほとんどなかった前半は、スコアレスのままで40分間が終了しました。
10分間のハーフタイムを挟み、迎えた後半はいきなり帝京に決定機。42分にマーカーと並走していた浅見はハンドオフで相手を剥がすと、そのまま巻いたミドルを右スミへ。ゴール方向へ飛んだボールはクロスバーを直撃してしまい、帝京の大応援団からは溜息が漏れましたが、宮原も「FC多摩で同じチームだったんですけど、正直に言うと凄く上手かったので、やりながら『上手えな。でもゼッテー決めさせねえ』というのはありました」とその実力を認める浅見が久我山に鋭い刃を一瞬で突き付けます。
44分も帝京。3列目から最前線まで駆け上がってきた布施颯斗(3年・足立第十四中)が粘って落とし、中瀬のミドルはクロスバーを越えるも、ボランチも絡んで厚みのあるアタックを。46分も帝京。鈴木啓太郎が左から際どいクロスを送り、逆サイドから入った長倉は合わせ切れなかったものの、ここもサイドアタックから好トライ。47分も帝京。右から平井が入れたロングスローを桑島健太(3年・和歌山西脇中)が頭で繋ぎ、高橋が合わせたヘディングは久我山のGK平田周(1年・FC東京U-15深川)にキャッチされましたが、「決勝戦での緊張度で言うと、ウチの方がアガっていましたね」と日比監督も振り返ったカナリア軍団が一気に踏み込んだアクセル。加えて54分には1人目の交替も。高橋に替えて、準決勝でも途中出場で流れを変えた大庭健人(3年・文京クラッキ)をピッチヘ送り込み、完全に引き寄せたいゲームリズム。
「後半もゲームが自分たちの中でも悪くはないという感覚はあったと思います。でも、それに対してもしかするとこのままという雰囲気があったのかなと。それがかえって受け身になってしまった要因かもしれないですね」と清水監督も言及した久我山は、60分を過ぎても1本のシュートも打ち切れず。63分には知久航介(2年・浦和レッズJY)を起点に小林和樹(3年・ジェファFC)、澁谷とボールが回り、狭いスペースで受けた名倉のシュートは、きっちり戻った中瀬が体でブロック。帝京も吉田一貴(3年・府ロクJY)と河野翔太(3年・アラグランデJY)の両CBを中心に集中力が全く途切れず、1つずつ確実に久我山のチャンスを消し去ります。
67分に沸いた久我山の大応援団。ゴールまで約30mの位置で獲得した左FK。スポットに立った山本が力強い助走から蹴り込んだFKはグングン加速。枠を捉えたボールは、しかしクロスバーに激しくヒット。70分は長倉のドリブルで奪った帝京の左FK。桑島が蹴り込んだボールを中瀬が拾い、浅見が狙ったシュートはDFがきっちりブロック。「後半になるとだんだん帝京も前に出てきて、右サイドから上げて点を取ろうという意識は感じた」と宮原。ゲームは一進一退のまま、もはや残されたのはわずかに10分間とアディショナルタイム。
久我山に訪れた決定機は74分。内桶が相手の股を抜く絶妙スルーパスを通し、走った名倉は中央へ。収めた澁谷はシュートを打てなかったものの、絶好のボールが鈴木遥太郎の目の前にこぼれましたが、シュートはヒットせずに枠の左へ。西が丘に響くオレンジの絶叫。スコアは変わらず。帝京に訪れた決定機は75分。ゴール前の混戦で河野が頭で残し、長倉が同じく頭で残したボールを、大庭がここも頭で枠内へ収めますが、「ずっと合宿の時から色々な選手に助けてもらって、GKの練習でもずっと取り組んできた所だったので、その練習がそのまま出た」という平田がファインセーブで仁王立ち。西が丘に響くイエローの絶叫。スコアは変わりません。
76分には久我山が1人目の交替を決断。内桶を下げて、スピードスターの多嶋田雅司(3年・FC東京U-15むさし)をウイングへ投入。77分は久我山。左から山本が放り込んだFKはクロスバーの上へ。80分も久我山。鈴木遥太郎の右FKはゴール前で混戦を生み出すも、シュートには至らず。80+1分は帝京。中瀬が渾身の力を込めて蹴った右CKに、平井が飛び付いたヘディングは左スミを襲うも、わずかに逸れて詰めた浅見も届かず。「もうちょっとゴール前でハードワークできれば点も生まれていたかもしれないですけど、ゴール前での閉じ方や締め方は久我山さんの方が1枚上でしたね」と話したのは日比監督。両雄譲らず。激闘となったファイナルは、前後半10分ずつのエクストラタイムへと勝敗の行方を移します。
両チームが気合いを注入した円陣が解け、突入した延長のファーストシュートは久我山。82分に宮原が投げ入れた右スローインから、名倉が左足で狙ったミドルはクロスバーの上へ。84分は帝京。渡辺のキックに長倉が競り勝つと、抜け出し掛けた中瀬のドリブルには野村がきっちり対応してカット。同じく84分は久我山。小林がミドルレンジから叩いたシュートはクロスバーの上へ。86分は帝京。長倉とのワンツーから大庭がエリア付近へ侵入し掛けるも、「80分での戦いは技術的な部分の指示が多かったですけど、延長戦に入ってからはどちらかと言えば『やり切れ』とか、メンタル的な指示の部分が多かった」という宮原がきっちりブロック。90分も帝京。平井の右ロングスローを桑島がすらし、布施が放ったシュートはDFが体で阻み、桑島が残したボールも枠の左へ。久我山も野村と上加世田達也(1年・Forza'02)のCBコンビを中心に必死の対応。スコアは動かず。泣いても笑っても残るは最後の10分間のみ。
92分は帝京。長倉のドリブルシュートから得たCKを、右から中瀬が蹴り込むも平田がパンチングで応酬。93分も帝京。またしても長倉の突破から右FKを奪うと、中瀬が入れたボールはここも「帝京はパワーがあって苦しい時間帯も絶対にあると思っていたので、そこでよりハイボールに勇気を持って飛び出ることでチームを勇気付けたり、自分がより前に出ることで気持ち的にもチームを励ましたいなと考えていた」という1年生守護神がフィスティングで連続回避。ただ、この時間帯にピッチで一番光っていたのは「相手が延長に入って足を攣り出してからはアイツの良さが何回か出たと思う」と日比監督も言及した、カナリア軍団のキャプテン長倉。ロングボールに、相手へのハイプレスにと、ひたすら走り続ける姿は感動的ですらありました。
95分は久我山に大きなチャンス。山本が浮かしたボールを澁谷が落とし、名倉が枠へ収めたシュートは渡辺が丁寧にキャッチ。96分は帝京。大庭を起点に長倉が左へ振り分け、中瀬のクロスに飛び付いた浅見のヘディングは枠の右へ。100分は帝京。雰囲気のある中瀬の右CKはシュートまで持ち込めず。100分は久我山に2人目の交替が。澁谷に替えて、この局面でピッチヘ送り出されたのは比留間公祐(3年・横河武蔵野FC JY)。100+2分のラストチャンスは久我山。左から山本が打ち込んだFKは、ゴールポストの外側を叩いて枠の左へ。「苦しかったですね。ゲームを80分間、今日で言えば100分間コントロールするのは不可能だと思うんですよ。そういう意味ではそういう時間帯でもよく踏ん張れるようになったなと思います」と清水監督が話せば、「帝京も何本か助けられた部分はありましたけど、お互いイーブンでしょうから、どっちが勝ってもおかしくないようなゲームだったと思います」と日比監督。全国へと進むための切符はたったの1枚。それを奪い合う手段は、もちろんPK戦です。
11メートルのロシアンルーレット。先攻は久我山。1人目は途中出場の多嶋田。右スミを狙ったキックは完全に読み切った渡辺が弾き出し、気合い剥き出しの大きなガッツポーズ。後攻は帝京。1人目は100分間走り抜いた長倉。キャプテンが選択したクッキアイオは、しかしクロスバーの上へ。ここでも両者譲らず。1人目を終えてスコアはタイのまま。
久我山2人目の鈴木遥太郎は左スミを狙うと、渡辺も良く触りましたが「あれも1つの運を持っているということ」と宮原も振り返ったように、ポストを叩いて揺れたゴールネット。帝京2人目の桑島はGKの逆を突いて右スミにグサリ。久我山3人目の野村は中央やや左に勇気の要るキックを成功。帝京3人目の浅見は右スミへ落ち着いて成功。久我山4人目の山本は普段からPKキッカーを務めているだけのことはあり、中央に堂々と成功。帝京4人目の平井は読まれていても取れない左上にきっちり。3-3。いよいよ運命の5人目へ。
久我山は宮原。「自分たちはPK戦で負ける気はしなかったです」と言い切るキャプテンは、GKの逆を突いた上で左上の難しいコースへ成功。帝京は布施。外せば終わりという究極のシチュエーションで、冷静なボランチは当然のように右スミのこちらもGKとは逆方向へ成功。規定の5人が蹴り終えても4-4。突入するサドンデス方式。
久我山の5人目までのキッカーは、インターハイ予選準決勝で都立東久留米総合に競り勝ったPK戦と全く同じ5人だったため、ここからは未知数の世界へ。6人目は小林和樹。短い助走から蹴り込んだのは、読んでいた渡辺も届かない左上。帝京6人目は河野。左に蹴ったボールは「少し不安ではあったんですけど、自分がゴールマウスに立っている限りはチームの勝利に貢献することが一番重要だと思っていた」という平田も読み切っていましたが、弾いたボールはそのままゴールネットへ。終わらないPK戦。否が応にもスタンドの緊張感はどんどん高まっていきます。
久我山7人目は3年生最後のキッカーとなる比留間。延長終了間際に投入されたばかりの15番は、渡辺に触られながらも執念で左スミへ成功。帝京7人目も途中出場の大庭。負傷で長期離脱を強いられながら、この選手権になって帰ってきた男のキックは無情にもクロスバーの上に外れ、その瞬間に分かれた残酷過ぎる両者の明暗。「上手いヤツ、自信のあるヤツが蹴れという話で、3年生がそういう練習や試合を重ねる中で、たぶん最初は『オレは嫌だ』と言っている子の方が多いと思ったんですけど、今は『自分たちが蹴るんだ』という強い意志を持っていると思うので、PK戦を見ていてもそんなに不安な部分はありませんでした」と教え子たちへの信頼を口にした清水監督。100分間プラスアルファの激戦を制した久我山が、3年連続となる全国大会への切符を勝ち獲る結果となりました。
「Tリーグの2試合と全く同じ結果。1-1、2-2で今日は0-0。選手権が1点勝負になるのは感じていると思うし、よくお互いに良い所も出したし悪い所も出たし、そういう意味で最後の最後はPK戦で決めなくてはいけないというのは結果的に残念でした。でも、これが精いっぱいだと思います」とさばさばした表情で試合を振り返った日比監督。続けて「どんなプレッシャーの中でもここでやり切れるチーム力がまた必要だってことは、子供たちも俺ら指導者もスタッフも肌で感じました」と話しながら、続けて「ねじ伏せるだけの力がね。もうひと踏ん張りだったんですけどね」と話した瞬間に、一瞬だけ悔しそうな表情が浮かんでいたのが印象的でした。ただ、就任2年目でここまでのチームを創り上げたという事実が、大いに称賛されるべきであることは間違いない所。「選手たちの持てる力はあれで100パーセント。常に高校生が100パーセント出し切れるという保証はないから、その中で良くやってくれたと思います。PKを外した2人は3年生でしたけど、アイツらが下を向かずに次に繋げてやってくれればいいなと。他のヤツらも含めて大学に行ってもこれを機にやってくれればいいと思うんですけどね」と最後は3年生を労った指揮官。絶対王者の久我山を土壇場まで追い詰めた今年のカナリア軍団には、確かに"帝京魂"が宿っていました。
2015年の久我山は部員数が総勢209名。清水監督も「僕が来た当初の2倍くらいになっています」と笑うほど、現在は大所帯のサッカー部となっています。そんな部員を束ねるキャプテンの宮原は、当然色々なプレッシャーを感じていた中で「やっぱり続いている部分があったので、そこを途切れさせないようにと思っていました。東京で3連覇というのは本当に簡単じゃないと思いますし、一番嬉しいのは記録を3連覇に伸ばして、後輩に繋げることができたということですね」と後輩たちに"3連覇"という継続した結果を残せたことを何よりも喜んでいた様子。「今回で西が丘を経験した1年生もいますし、自分たちが卒業した先も久我山には勝って欲しいと自分は思っているので、その上でも3連覇というのが1つのモチベーションになってくれればいいなと思っています」と溢れんばかりの久我山愛を語ってくれました。上加世田と共に1年生ながらレギュラーとして試合に出続けている平田も「本当に100分間ピッチで戦ってくれた選手と、声を嗄らしてくれた応援団の皆さんと、今までずっと支えて下さったスタッフの皆さんの方々の想いが最後のPK戦で結果に繋がったと思うので、本当にここまで準備してきて、みんなの想いが詰まった結果だと感じます」と周囲への感謝を口に。「この大応援団が応援してくれていたので感謝の気持ちしかないですし、2015年の久我山を続けられるのが本当に嬉しいです」とは宮原。ピッチに立つ選手も、スタンドから声援を送る選手も、想いを1つにして戦い続ける"15'久我山"の全国行進は果たしてどこまで。 土屋
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