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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。

Jリーグレポート 2015年11月29日

14秒の必然(Jリーグチャンピオンシップ準決勝 浦和×G大阪@埼スタ)

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ズラタンがプレスを掛ける。圧力に後方を向いた丹羽大輝のバックパスは軌道が危うい。飛び付いた東口順昭の右足も空を切る。悲鳴と絶叫の中でゴールへ向かったボールは左ポストに当たり、ピッチの中へ戻ってくる。それから14秒後。青と黒の戦士はゴールという歓喜の瞬間を享受していた。


11年ぶりに開催されたJリーグチャンピオンシップ。ファーストステージを堂々制覇。年間2位でこの舞台へと勝ち上がってきた浦和と、セカンドステージの最終節でFC東京を逆転して、年間3位に何とか滑り込んだG大阪。40696人の大観衆を集めてキックオフされたゲームは、「いつもの展開ならガンバが引いてきて、そこからのカウンターというのは浦和戦でよくあることなので、そこはみんながわかっていたことなのかなと思います」と関根貴大が話した通り、浦和がボールを持って、G大阪がカウンターを狙うという構図が序盤からはっきりと浮かび上がる。その中でも「積極的に行って自分の流れを創ろうと思っていました」という関根は再三に渡って仕掛ける姿勢を打ち出し、対面の藤春廣輝を攻撃で抑え込むことに成功する。
また、11分には遠藤保仁のキープへ柏木陽介が突っ掛けてボールを奪い、FKを獲得したシーンが象徴するように、ボールアプローチの速さでも上回ったのは浦和。14分には関根の突破で手にした右CKを柏木が蹴り込むと、こぼれを梅崎司が叩き、このボールに反応した阿部勇樹のヘディングはわずかに枠の左へ。沸き上がる赤いゴール裏。G大阪はシュート力に定評のある阿部浩之が、18分に放った左ポストを掠めるミドルが前半のラストシュート。「チームとしても積極的に浦和らしいサッカーはここ何試合かはできていたので、今日もスタートから出せていたと思った」とは今シーズン大ブレイクを果たした武藤雄樹。8対2というシュート数を見るまでもなく、最初の45分間は浦和ペースで推移した。


実は前節の山形戦も前半は押し込まれる展開を強いられていたG大阪にとって、「前半の0‐0は最低限で、先制されてもあかんし、それはプラン通り」(東口)。そんな青黒は47分にゲームを動かす。連動したプレスで浦和を追い込み、那須大亮の縦パスを大森晃太郎が果敢にインターセプトすると、すかさず中央へ。「GKにプレッシャーを掛けに行ってサイドにいなされたんですけど、連動してみんな付いてきてくれて、ボールを奪ってくれたら僕がなぜか完全にフリーになっていました」という今野泰幸は、西川周作との1対1も冷静に右スミへグサリ。「繋いでくるのはわかっていたし、プレッシャーを掛けに行こうということは話していた」と今野。初めての決定機を見事に結果へ。昨年の三冠王者がまずは1点をリードした。
63分にペトロヴィッチ監督が動く。49分と50分に続けて惜しいシュートを放った梅崎司と那須に替えて、ズラタンと青木拓矢を投入する2枚替え。1トップにズラタンが入り、李忠成はシャドーの位置へ。青木をドイスボランチの一角に配し、阿部勇樹を3バックの中央へ移して、勝負の一手をピッチ上へ落とし込む。すると、その采配が的中したのは72分。「自分の中では倒されてPKかなと思いましたし、笛が聞こえなかったのでそこから粘るしかなかった」という関根が大森との1対1で粘って獲得した右CK。柏木のキックを森脇良太が頭で捉えると、クロスバーに当たったボールは上空へ。このボールにいち早く反応したのはスロベニア代表のストライカー。頭で押し込んだシュートは東口も掻き出せず、ボールはゴールネットへ。今季の浦和がG大阪戦で記録したゴールはすべてこの男という驚異的な相性の良さ。ズラタンの一撃が埼スタを震わせる。
知略を巡らせる両指揮官。75分にペトロヴィッチ監督は最後の交替を決断。宇賀神友弥に替えて、平川忠亮を右のウイングバックへ送り込み、関根が左のウイングバックへスライド。既に失点の直前に「引き分けや勝っている状況であれば、パトリックか宇佐美の足の落ちた方は、2人並べていると90分持たないだろうな」と宇佐美貴史と倉田秋をスイッチしていた長谷川健太監督は、81分に阿部と米倉恒貴を入れ替えると、米倉はそのまま右サイドハーフのポジションへ。それでもゲームの流れは浦和が手放さない。80分と86分にそれぞれ3列目から飛び出した柏木が惜しいシュートを放ち、さらにアディショナルタイムには2度の決定機を掴んだものの、ここに立ちはだかったのは「集中していましたし、実際にJリーグでは3位で失うものはなかった」と話すG大阪の守護神。
90+2分、関根が右サイドをえぐり切って折り返し、ダイレクトで合わせたズラタンのシュートは東口が右足でビッグセーブ。90+4分、ズラタン、平川と繋いで、森脇が上げたクロスに、ファーでフリーになった武藤がドンピシャのヘディング。ところが、信じられない反応で東口が掻き出したボールはクロスバーの下に当たり、ピッチヘ返ってくると混戦の中を東口が果敢にキャッチで収め、その5秒後に吹かれた90分間の終わりを告げるホイッスル。「クロスに対してチャレンジしたかったなというのはありますけど、正直難しいシュートやったと思います。バーに当たって『助かったな』というのもありますし、『しっかり我慢できたな』というのもあります」と振り返る東口に救われた三冠王者。両雄譲らず。ファイナルへの切符は、前後半10分ずつの延長で再び奪い合うことになった。


そして、冒頭のシーンに戻る。延長に入ってからお互いにシュートを3本ずつ重ねるも、スコアボードに映る"1"の数字を変えることはできず、迎えた117分。浦和は青木、武藤、ズラタンがプレスに走り、G大阪は最終ラインでボールが詰まる。ズラタンの圧力に後ろを向いた丹羽のバックパスは、何と浮き球。フワリとした軌道が待ち構えていた東口の頭上を襲う。「自分の角度から見たら絶対入ったと思ったので『何やってるんや』と思った」とは藤春。スタジアム中が息を止めたこの瞬間、しかし東口は冷静だった。「もうちょっと枠に来ていたら手を使っていたと思いますけど、ポストに当たってどうなるかなという感じだったので、とりあえず足で行ってみたらポストに当たって、入らなかったのでホンマに良かったですね」。ポストに当たる瞬間もボールから目を切っていなかった東口はその1秒後、目の前にこぼれてきたボールを右サイドのオ・ジェソクに繋ぐ。「目の前にボールがあって、フリーな人がいたのでしっかり出せました」と守護神。ここからオ・ジェソク、遠藤、パトリックとボールが回り、米倉のクロスを藤春が右足でゴールへ叩き込む。「神様はいるなと思いました。本当に紙一重だったので」と苦笑した丹羽の"シュート"がポストに当たってから、わずか14秒後の歓喜。「延長でまさか丹羽がああいうプレーをすると思っていなかったので、あれで一瞬『やられた』と思ったんですが、あれが逆にレッズの選手の集中力を削いだような感じになって、その隙を藤春がバースデーゴールを決めたという、本当に劇的な流れで勝つことができたんじゃないかと思っています」と長谷川監督も振り返るドラマチックな"14秒"で勝ち越したG大阪は、さらに遠藤の機転からパトリックがダメを押し、ファイナルへの切符を強奪した。


勝敗を分けた"14秒"の要因は大きく括れば2つあったと思う。1つは勝負所への共通意識。延長の前半までG大阪のカウンターがフィニッシュまで結び付いたのは全部で3回で、そのいずれもパトリックが単騎で運び切ったもの。後半終盤にはG大阪の選手は足が止まっており、ハイボールをキャッチした東口もすぐにボールを付けられるポイントがなく、1回呼吸を置いてから大きく蹴り出すしかない状況が続いていた。しかし、115分にこの日初めてパトリック以外のカウンターが炸裂する。ハーフウェーライン付近でボールを受けた遠藤のスルーパスに、抜け出したのは米倉。1対1は西川周作の正面を突き、途中出場の14番はヒーローになり損ねたが、この土壇場に来て初めて発動されたパトリック以外のカウンターは、本当に勝負の懸かった時間帯で何ができるかという、チームの経験則に基づいた共通意識が具現化されたものであり、東口に出し所を用意できていた2分後の"14秒"を予感させるものでもあった。
もう1つは延長開始と同時に3枚目の交替用紙を提出した長谷川監督の采配だ。大森晃太郎に替えて、井手口陽介。ベンチには長沢駿、リンスと攻撃を活性化させ得るカードが残っていたにも関わらず、長谷川監督は19歳のボランチを最後の1人として投入した。「晃太郎が足を攣っていたので、リンスを入れるのか陽介を入れるのかで悩みましたけど、遠藤もだいぶしんどそうだったので、守備のバランスを取りながら逆に遠藤が前線で起点になって、フレッシュな米倉と倉田を使えればという思いで遠藤を上げました」と指揮官。この日の遠藤は前述した11分のボールロストを筆頭に、決して高いパフォーマンスを誇っていた訳ではなく、むしろ浦和の奪い所になるシーンも少なくなかったが、延長以降は井手口の奮闘もあって、G大阪が不用意な形で相手のアタックを食らう回数は格段に減っていた。そして、諸刃の剣になり掛けていたキャプテンは守備での役割を軽減された分だけ、"前線での起点"という役割も確実に担う。115分も117分も縦へのスイッチを入れたのは、ハーフウェーライン付近でボールを引き出した遠藤。攻撃にも守備にも最大値の影響を及ぼす、たった1回の交替。やはり三冠王者を指揮している男の眼力は伊達ではない。


「アクシデント的な丹羽ちゃんのバックパスから、ちょっと気が緩んだ瞬間にやられてしまった所もあった」(柏木)「ポストに当たってから、みんなビックリしたというか、緩んだ所の隙を突かれたという形だった」(宇賀神)「誰もが入ったと一瞬は思いましたし、そこで気を抜いた部分はあったのかなと思います」(関根)と浦和の選手は一様に一瞬の気の緩みを口にしたが、あの時間帯とあの状況に置かれた彼らを攻めるのは酷だと感じる。「試合全体を通してみれば、我々が勝利に値するであろうチームだったと思います」というミハイロ・ペトロヴィッチ監督の言葉も、「負けたから何とも言えないですけど、サッカーの内容で負けたとは思っていない」という柏木の言葉も強がりに聞こえない。それよりも、「僕らは今年色々な大会に出て、ナビスコでも延長PKも経験していますし、こういう難しいゲームでもしぶとく戦って勝ちを引き寄せるというのは経験としてあった」と今野も話したG大阪の勝負強さを褒める他にないだろう。「両チームとも本当に気持ちが入ったゲームができたんじゃないかと思っています。その中で勝ったのは若干の運があったという風に思っています」と口にした長谷川監督の言葉におそらく偽りはない。ただ、その若干の運を引き寄せる"必然"がG大阪には間違いなく存在していた。       土屋

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