最近のエントリー
カテゴリー
アーカイブ
このブログについて
J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
王手を懸けるのは堂々たる連覇か、はたまたクラブ史上初のタイトル獲得か。G大阪と新潟の90分間に渡る"後半戦"はラストイヤーの万博記念競技場です。
屈辱のJ2降格からわずかに1年。昨シーズンはJリーグ、天皇杯、そしてナビスコカップの三冠を達成し、改めて国内のフットボールファンにその強さを見せ付けたG大阪。今シーズンはファーストステージが4位、年間順位も4位とリーグ戦ではなかなか本調子とは行かないものの、トーナメントコンペティションではACLに加えて、ナビスコカップでも名古屋との死闘をPK戦で切り抜けてセミファイナルまで。文字通りこの大会ではラスト万博となる一戦で、2年連続となるファイナル進出に挑みます。
リーグ戦では現在年間順位が15位とシビアな残留争いを強いられているものの、ナビスコカップではいきなりの黒星スタートとなりながら、ラスト2節を連勝で飾って予選グループ2位通過を果たした新潟。余勢を駆ったクォーターファイナルでも、ホームで迎えた第1戦で浦和に5-0という記録的な大勝を収めると、第2戦はアウェイで0-3と敗れましたが、Jリーグ昇格後の全コンペティションを通じてクラブ史上初となるセミファイナル進出を達成。悲願の初タイトルへ意気上がります。
水曜日に行われた第1戦はG大阪がアウェイで先制しながら、最後は10人になったホームチームがラファエル・シルバの劇的な決勝ゴールで2-1と先勝し、新潟が1点のアドバンテージを持ってこの日の第2戦へ。ゴール裏には客席を青黒と橙で埋め尽くす両チームのサポーターが。新潟サイドには「12年目 初めて掴んだ舞台 皆の夢を乗せ走れ!!」の横断幕が。素晴らしい雰囲気を両サポーターが創り出した"後半戦"の90分間は、新潟のキックオフでスタートしました。
1分は新潟。特別指定選手ながらこの大事なゲームでスタメンに抜擢された端山豪は、思い切ってミドルを放つもミートし切れず、こぼれに反応した指宿洋史の前でDFがクリア。3分はG大阪。パトリックの落としをシュート精度に定評のある阿部浩之が狙うも、ボールは大きくクロスバーの上へ。5分は新潟。山崎亮平が右へ振り分け、平松宗のクロスがこぼれると、前野貴徳が叩いたボレーはヒットせずにG大阪のGK藤ヶ谷陽介がキャッチ。お互いにフィニッシュを創りながら、セミファイナル独特の雰囲気もあってかどちらもシュートが足に当たりません。
ただ、以降のゲームは膠着状態に。「1-0でも勝ち上がれたんですけど、1-0を狙うのは難しいので『3-0で勝つぐらいの気持ちで臨め』と監督から話があった」と西野貴治が明かしたG大阪は、スイッチを入れるタイミングのパスにイージーミスが頻発し、なかなか縦へとテンポアップできず。12分に阿部とオ・ジェソクの連携で奪った右CKを遠藤保仁が蹴るも、パトリックの折り返しは大井健太郎がきっちりクリア。16分に倉田秋がパトリックを走らせたスルーパスもオフサイドの判定。さらに19分にも藤春廣輝の突破で得たFKを左から遠藤が放り込むも、新潟のGK守田達弥が確実にキャッチ。打ち出せない青黒の脅威。
ファーストレグのアドバンテージを携えながら、端山や小林裕紀を中心にボールをしっかり繋ぐ時間帯も創る新潟は21分にビッグチャンス。右サイドで遠藤と競り合いながら、粘って残した山崎はマイナスの折り返し。フリーで走り込んだ山本康裕のシュートはクロスバーを越えたものの、惜しいチャンスを。25分には端山の出足鋭いパスカットをきっかけに左CKを獲得し、それを端山が自らショートで蹴り出すと、前野のクロスはDFにクリアされましたが、新潟が掴みつつあるゲームリズム。
27分にはG大阪に久々のシュートが。阿部とのワンツーからバイタルに潜った倉田の左足シュートは、ボールに勢いが伝わらずに守田が難なくキャッチ。逆に31分は新潟。小林、山崎と繋いで、エリア内で指宿が収め掛けるも、良く戻った藤春が間一髪でクリア。33分も新潟。ほぼマンツーマン気味に付く大野和成に再三抑えられ、苛立ったパトリックがその大野を倒してイエローカードを受けたFK。自陣深くから守田が放り込んだボールに平松が競り勝つと、指宿はワントラップボレー。ここは枠を捉えられませんでしたが、35分にも前野の右FKから、平松のヘディングは枠の左へ。セットプレーも含めたシンプルなアタックでエリア内まで侵入してみせます。
「前半はもっとアグレッシブに行かなくてはいけなかったのに、何かテンポが上がらなかったなという感じ」と長谷川健太監督も言及したG大阪。38分には今野泰幸のクサビをギャップで二川孝広が引き出し、反転しながら放ったミドルはクロスバーの上へ。39分には前野の縦パスを読み切った遠藤が高い位置で奪い、二川とのワンツーでエリア内へ迫るも、舞行龍ジェームズが大きくクリア。40分にも二川が左へ流し、倉田のクロスにパトリックが突っ込むも、ピッタリ付いていた大野が足を伸ばしてクリア。遠いオレンジ軍団のゴール。
41分は新潟。指宿が左へ展開したボールを、山崎はドリブルで運びながら中央へ。収めた指宿の反転シュートは岩下敬輔が体を投げ出してブロック。44分も新潟。守田のゴールキックから、指宿と競り合った西野のクリアは後ろに飛んでしまい、落下地点にはいち早く走り込んだ山崎が。ダイレクトで叩いたボレーは右ポストを直撃し、声を失う青黒のサポーター。「前半はほぼ完璧に相手を抑えていましたし、こちらには得点するチャンスがあった」と話したのは前野。この試合のドローはすなわちファイナル進出を意味する新潟がうまく時計の針を進めた前半は、双方スコアレスのままで45分間が終了しました。
後半は「もっとテンポを上げて自分たちから仕掛けないと、このままズルズル終わってしまう」と指揮官に送り出されたG大阪がギアアップ。46分に岩下のフィードへパトリックが競り合い、こぼれをさらった阿部の左足シュートは枠の左へ外れたものの、ゴールへの意欲を後半開始早々のシーンに滲ませると、48分に遠藤が入れた右FKはDFにクリアされましたが、49分にも左サイドへ流れた岩下がパトリックへ当てたクサビを起点に、最後は遠藤のパスを阿部がクロスバーを越える左足シュートまで。「テンポが上がってきて、その中でシュート場面とか仕掛ける場面が増えた」と長谷川監督。ペースは徐々にホームチームへ。
ところが、53分には難しい決断を。「打撲の影響で若干腰に痛みを訴えていた」という今野のプレーが精彩を欠いていると感じた長谷川監督は「1点を取らなければいけない状況」を考慮して、その今野を下げて井手口陽介を投入。よりアタッカー色の強い19歳をこの重要なゲームに解き放ち、早めに勝負する意図をピッチヘ投げ掛けます。
青黒のハートに火を付けたのはやはりナンバーセブン。57分に「ああやって仕掛けられたら苦手そうだったので思い切り仕掛けました」という倉田がハーフウェーラインからドリブルで中央を持ち運び、大野に倒されて獲得したFK。ピッチ中央、ゴールまで約25mのスポットに立ったのはもちろん遠藤。スタジアム中の視線が集まる中、短い助走から狙ったキックは7枚のカベを越えて左スミへ。守田も懸命に飛び付き、触ったものの弾き出すまでは至らず、ボールはゴールネットへ静かに収まります。「コースがちょっと甘かったので、蹴った瞬間は『どうかな』と思ったけど入ってくれた」とは本人ですが、「こういう所で決められるというのは『さすが、"持って"いるな』という感じがします」(長谷川監督)「ゴールはヤットさんが凄いなという感じですね」(倉田)という2人の言葉はおそらくスタジアム中の総意。千両役者が今シーズンのFK初ゴールをこの局面で叩き出し、G大阪がこのゲームでもアグリゲートスコアでも一歩前に出ました。
得点直後に二川と大森晃太郎を入れ替えたG大阪が、59分に井手口、パトリックとパスを回し、倉田の折り返しからパトリックが守田にキャッチされるシュートまで至ったのを見て、「内容的にはガンバの方も本来のプレーはできていなかったので、十分こちらにもチャンスがあった」と感じていた柳下監督も62分に1人目の交替を決意。平松を下げて、第1戦の主役を張ったラファエル・シルバを最前線へ投入。山崎を左サイドハーフに、山本を右サイドハーフへそれぞれスライドさせて、こちらも勝負に出ると直後のFKが決定機に。左FKを前野はエリア内へ蹴り込むモーションから、密集を外してグラウンダーでマイナスに。フリーで飛び込んだ山本の左足シュートは、しかし大きく枠の上へ。デザインされたセットプレーも得点には結び付きません。
G大阪が守備ブロックを下げたこともあって、最終ラインやボランチラインでのキープ率は上がり、「相手が高い位置にいても裏を狙えと言われていた」という舞行龍と前野の両サイドバックには格段にボールの入る回数が増えたものの、そこから先のアタックにパワーの出て来ない新潟。69分には舞行龍のパスから、エリア内で粘った山本のシュートはDFがきっちりブロック。70分に前野の右FKがこぼれ、端山が拾って叩いたミドルは枠の右へ。1点を返せばたちまち形勢逆転という中でも「焦りは若干出ていたと思う」と舞行龍が話せば、「ちょっとバタバタした所は正直あると思う」と小林。容赦なく進んでいく時計の針。
74分にG大阪へ訪れたのは絶好の追加点機。「しっかりプレーしてくれて、安心して見ていられました」と指揮官も評価を口にした井手口が右へ流すと、オ・ジェソクはシンプルに中へ。受けた阿部がパトリックのリターンから左足で振り抜いたシュートは、左ポストを激しく叩いて2点目とは行きませんでしたが、漂うのは同点弾より追加点の香り。
76分に柳下監督は2人目の交替を。山崎と川口尚紀を入れ替え、川口はそのまま右サイドハーフへ。81分には前野のシンプルなフィードに山崎が絡み、混戦から縦へ持ち出したラファエル・シルバが強引に狙ったシュートは、藤ヶ谷が一旦弾きながらも落ち着いてキャッチ。「あそこまで相手に引かれるとなかなか難しいですね」とは舞行龍。89分には倉田が右サイドからカットインしながら左足シュートを枠の左へ。リードしているG大阪は阿部に替えて明神智和を、新潟は舞行龍に替えて田中達也をそれぞれ最後のカードとしてピッチヘ送り込み、いよいよ試合はクライマックスへ。アディショナルタイムの掲示は4分。追加された240秒にドラマは待っているのか。
90+3分は新潟の右CK。目の前でのラストチャンスに、声のボルテージを二段階引き上げたオレンジのサポーター。191センチの守田も当然相手ゴール前へ。前野が丁寧に蹴った運命のキックは、藤ヶ谷が懸命にパンチング。ラファエル・シルバが頭で残したボールは混戦になるも、倉田が必死にクリア。拾った川口のフィードを西野が頭で掻き出したクリアはラインを割りそうでしたが、諦めずに全力で走った明神が体をねじって縦パスを送ると、受けた大森は前を向いてすかさず前方へスルーパス。ハーフウェーラインの後ろから飛び出した藤春は、決死の覚悟で突っ込んできた守田より一瞬早く利き足とは逆の右足でシュート。ゆっくりと、しかし確かな意志を持った赤と白の球体は、そのまま誰にも邪魔されることなくゴールネットへ転がり込みます。まだ1点を返せば延長戦という状況ではあったものの、新潟にもうその力は残されておらず、そのままのスコアで吹き鳴らされたタイムアップのホイッスル。「今回はホームでサポーターの後押しがあって決勝に進出することができたと思うので、選手とサポーターに感謝したいと思いますし、本当によく選手が戦ってくれたと思っています」と長谷川監督も語ったG大阪が第1戦のビハインドを跳ね返して、2年連続となるファイナルへ駒を進める結果となりました。
目には見えない"経験"という名のファクターが、両者の明暗を分けた最大の部分だと思います。月並みではあるし、誰もがそれを真っ先に思い浮かべるからこそ、その"経験"という部分がより重みを持ってくるのだなあと。「最後にウチが1点取れば勝つということをまだわかっていない選手がいて、0-2になってゲームが終わってしまいました。そのあたりにまだまだ未熟な所が見られます」と話した柳下監督。「1点取った後もバタバタすることもなく、0-0のままでも同様にバタバタしなかったですし、落ち着いてやれるというか、チームの中にそういう雰囲気が流れていますし、そういうのはやっぱり強さだという風には感じました」と振り返ったのは、G大阪のスタメンで唯一ニューヒーロー賞の対象になっていた西野。負傷者や出場停止が相次ぎ、ベンチメンバーに2種登録選手を2人含んでいた新潟は、おそらくやれることはほとんどやり尽くしたと言って差し支えないでしょう。それでも、35歳が先制のFKを叩き込み、途中出場となった37歳の諦めない姿勢が2点目を生み出した青黒の三冠王者。監督会見で「浦和とかガンバの選手を見ると、やっぱりイージーミスは少ない。簡単にやっている。簡単にやっているということは、その前にしっかり準備ができている。ウチはフリーなのにバタバタしてしまう選手が何人も見られる。それは受ける前にしっかり準備ができていないから」という話をした柳下監督が、「ガンバは代表選手が抜けてもそれができるということでしょうか?」という質問に対して、「うん。みんなガンバのユニフォームを着ているんだから」と呟くように口にした言葉が、このゲームの全てを物語っていたように感じました。 土屋
J SPORTS フットボール公式Twitterをフォローしてフットボールの最新情報をチェック!