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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
堂々たる快進撃で頂に立った昨年度の東京王者が、進境著しいT1所属の新鋭と対峙する一戦。都立三鷹と駿台学園の好カードは東京多摩フットボールセンター・南豊ヶ丘フィールドです。
駒澤大学高、修徳、堀越と全国経験校を相次いで撃破し、東京を制覇したのは1年前。デイフェンディングチャンピオンとして今大会に臨むことになる都立三鷹。校名も正式に変わり、新生・三鷹としてスタートした今シーズンは、関東大会予選、インターハイ予選と共に無念の初戦敗退。リーグ戦も含めて公式戦の勝利がないままに迎えたこの最後の選手権で、まずは公式戦初勝利を目指しつつ、「卒業生たちも試合ごとに良くなっていった所があった」と佐々木雅規監督も言及した通り、昨年のような勢いを掴むための80分間に挑みます。
昨年は選手権予選で國學院久我山に敗れたものの、ベスト8へと躍進。さらに年末の入替戦では、東京朝鮮を下してT1昇格を勝ち獲るなど、都内での存在感が一気に増した印象もある駿台学園。「毎試合毎試合『死んじゃうよ』という感じだったんですけど(笑)、1年間T1でやらせてもらえたのは本当に大きくて、そういう経験が生きているのかなと思います」と話したのは大森一仁監督。さらなる歴史を築いていくために、ここで前回王者を倒すインパクトを残せるか否かは重要な分岐点になるかもしれません。ピッチの周囲には両チームを応援する大観衆が。激戦必至の1回戦は三鷹のキックオフでスタートしました。
「前半は全体的に硬かった」とキャプテンの原虎之介(3年・田口FA)が振り返ったように、開始からしばらくは双方とも少し長いボールを使った展開に。普段はパスワークが持ち味の駿台学園も「前半は緊張とかもあって繋げたらいいなと思っていたんですけど、安全策というかチーム自体が良くなっていったら繋げればいいかなという感じだった」と猪田光人(3年・田口FA)。ゲームはやや静かに立ち上がります。
17分は駿台学園。右から猪田が蹴ったFKは、三鷹のCBを務める都築亮太(3年・三鷹F.A.)が大きくクリア。19分は三鷹。野澤颯人(3年・三鷹中等)のパスから、1トップ下に入ったキャプテンの吉野秀紀(3年・三鷹F.A.)のシュートはDFがブロック。23分は駿台学園。持地陽介(3年・新宿牛込第二中)のパスを原が左へ振り分け、泉澤樹(3年・葛飾金町中)が枠に収めたシュートは三鷹のGK斎藤想平(2年・三鷹中等)が丁寧にキャッチ。双方が少しずつ動かし始めた攻撃の針。
ただ、「ちょっとずつは良くなっていったと思います」と猪田が話したように、ゲームリズムは徐々に駿台学園へ。28分、泉澤のパスから原が抜け出し掛けたシーンは、都築が抜群の読みできっちりカット。29分、左からカットインしながら泉澤が放ったシュートは、ここも都築が体でブロック。三鷹も連続で好守を見せた都築と森下祐喜(3年・三鷹中等)のCBコンビを中心に決定機は創らせないものの、駿台が圧力をジワリジワリと強めていきます。
31分は三鷹。中盤でボールを持った辻良太朗(2年・三鷹中等)のミドルは、DFに当たってゴール右へ。そのCKを右から10番を託された渡部圭(3年・三鷹F.A.)が蹴り込むと、中央へ抜けるも神原大槻(2年・三鷹F.A.)はわずかに届かず。「ボールは回されていても粘って粘ってという所が大事」とは佐々木監督。少ないチャンスを狙う三鷹にも手数が。
「選手たちが試合中に入れられるポイントを見つけ出したので、前半終わりくらいからはだいぶ掴めていたのかなとは思います」と指揮官も認めたように畳み掛ける駿台。36分、持地、原とボールが回り、泉澤がエリア外から放ったシュートは斎藤がキャッチ。37分、五宝隼(3年・駿台学園中)のクサビを持地が落とし、泉澤が打ち切ったシュートも斎藤がキャッチ。40分は決定機。猪田の右FKを斎藤が掻き出すと、こぼれを叩いた池田英史(3年・足立第六中)のボレーはわずかに枠の左へ。40+2分も決定機。猪田が右から蹴り込んだFKを、ドンピシャで合わせた小澤拓弥(3年・Forza'02)のヘディングは斎藤が超ファインセーブ。「前半は0-0だったら上出来だった」とは佐々木監督。三鷹が終盤のラッシュに耐え切った前半は、スコアレスでハーフタイムに入りました。
後半のファーストシュートは三鷹。42分、左から渡部がFKを放り込み、こぼれを拾った右SBの芝崎鉄平(2年・三鷹中等)がロングシュートにトライ。ボールは大きくクロスバーを越えたものの、残された40分への意欲をフィニッシュに滲ませますが、43分には原が、45分には泉澤がシュートを放ち、前者は斎藤が両手で収め、後者はクロスバーを越えるも、ハーフタイムを挟んでも変わらないゲームリズム。
46分は駿台の決定機。原が時間を創って持地が繋ぐと、上がってきた左SBの五宝はエリア内へ侵入してシュート。斎藤が素晴らしい反応で弾き出し、こぼれを再び狙った五宝のシュートはクロスバーの上へ。48分も駿台に決定機が。CBの松室達弥(3年・駿台学園中)が縦へフィードを通し、持地が裏へ流すと原はGKと1対1になりましたが、シュートはわずかに枠の左へ。「今日は斎藤が当たっていましたね。だから面白いなと思ったんですよね。結構ファインセーブもあったので、向こうもシュートはギリギリを狙わないとというのがあって、決定的なシーンを結構外してくれましたから」と佐々木監督。応援席の大声援も相まって、ピッチに漂い出すのは昨年の東京を覆い包んだ三鷹の空気感。
51分も駿台。猪田が裏へ落とし、飛び出した斎藤のクリアが持地に当たると、山口遼太(3年・足立第四中)のミドルは無人のゴールの右へ。56分も駿台。またも猪田がDFラインの裏へ蹴り込み、受けた原のミドルは斎藤の正面。「少し焦りも途中からはあった」と原。変わらないゼロとゼロ。
暗雲を振り払ったのは「ケガから明けて復帰して10日ぐらいでこの試合を迎えたので、やっぱり試合勘がまだまだだった」というキャプテン。58分、猪田が右へ振り分けると、「切り返したら虎が見えたのでそこに出した感じです。あれは練習からもできていたので、ファーの位置に蹴りました」という山口は絶妙な浮き球のパスを原へ。「トラップしてGKの位置も見えたので流すだけで、珍しく落ち着いていたなと思います」と振り返った10番は、左スミのゴールネットへボールを流し込みます。「山口が1つ前の選手に入れずに、奥の選手に入れた所で勝負あったなと思います」と大森監督が話せば、「本当に良いパスが来たので止めて蹴るだけでした。仲間のおかげです」と原も感謝を。これが公式戦の初アシストだという山口の極上パスをエースがモノにして、駿台がとうとう1点のリードを手にしました。
「1点取ったら面白いかなという所もあったんですけど、先に取られてしまった」(佐々木監督)三鷹へ、さらに襲い掛かる絶体絶命のピンチ。66分、エリア内で仕掛けた原とDFが接触し、両者が倒れるとホイッスルを鳴らした主審が指し示したのはペナルティスポット。三鷹にとってはやや厳しい判定でしたが、駿台にPKが与えられます。キッカーは原。短い助走から繰り出したキックは、しかし斎藤が気合いのビッグセーブでストップすると、詰めた持地のシュートもクロスバーの上へ。斎藤の周囲にできた三鷹イレブンの輪。駿台は痛恨。点差を広げられません。
「1点差ゲームというのは考えていたので、PKを外した所は流れが悪くなるかなという所はあった」という大森監督は、69分に2枚替え。持地と泉澤に替えて、高橋廉(2年・田口FA)と小池唯人(2年・駿台学園中)を送り込み、アタッカーの顔触れに変化を。PKの直前に岡田泰樹(2年・三鷹中等)と横田亮平(2年・三鷹中等)を入れ替えていた三鷹も、71分に神原と吉田凌(2年・三鷹中等)をスイッチして、PKストップの勢いを一気に引き寄せるべく勝負に出ると、73分に横田が投げ入れたロングスローに渡部が競り勝ち、拾った野澤はシュートまで持ち込めなかったものの、応援席のボルテージは最高潮に。
逆に赤い応援席のボルテージを最高潮に上げ切ったのは7番と4番のホットライン。74分のFK。左から猪田は「インステップで速くてGKが出られないボール」を蹴り入れると、ニアに突っ込んだ小澤のヘディングは綺麗な軌道を描いて、ゴール右スミへ吸い込まれます。前半終了間際にもFKから決定機を創ったコンビの一撃は「合わせた小澤も上手いので、そこを狙っていた。あれは練習していました」と猪田も話したように狙い通りのゴラッソ。「よくセットプレーを生かしてくれたかなと思います」と大森監督。点差が広がりました。
三鷹は死なず。2点を追い掛ける展開を強いられた79分。シンプルなロングボールが中央へ入ると、途中出場の吉田が懸命に競り合ってゴール前で混戦に。そのボールに誰よりも速く反応した吉野は右足一閃。尾を引くような弾道はゴール左スミギリギリに突き刺さります。チームでただ1人だけ昨シーズンからレギュラーを務めてきたキャプテンが、まさに意地の一発。たちまち点差は1点に引き戻されました。
中村友(3年・ヴェルディSS AJUNT)を投入し、ゲームクローズに入っていた最終盤で失点を喫した駿台でしたが、「ウチも今年1年間慣れてきた所があるので、ベンチも落ち着いていたし、選手たちも落ち着いていたと思います」と大森監督も語った言葉を証明するトドメの3点目は80+2分。GKのキックを拾った池田がすかさず縦に付けると、抜け出した猪田はより可能性の高いパスを選択。「ゴール前でGKと2対1を創れと前からずっと言われているのでそれを意識して、パスが出るなと思ったので走りました」という山口が無人のゴールに流し込んで勝負あり。これが公式戦初ゴールだという山口は1ゴール1アシストの大活躍。「みんなの声掛けとかが凄く響きましたし、試合に出ていないメンバーの声も凄く届きました」と原が振り返った通り、応援席の大声援も味方に付けた駿台が前回王者を下して、東京朝鮮と対峙する2回戦へと勝ち上がる結果となりました。
応援席への整列までは気丈に振る舞っていたものの、ベンチに戻ってくると大半の選手が泣き崩れていた三鷹。実はこの日のユニフォームは昨年度の全国用に新調されたもので、それを着用するのは開幕戦となった東福岡戦以来。新チームの選手たちは初めて袖を通したユニフォームで奮闘しましたが、残念ながら初戦での敗退となってしまいました。整列をやり遂げた選手たちに対して「よくちゃんと最後はそういうことをやってくれたなと思います。今年はプライドを持って戦うしかないという形でしたから」と労いの言葉を送った佐々木監督。前年度の好結果を受けて、大きなプレッシャーと戦い続けた三鷹の選手たちにも拍手を贈りたいと思います。
「厳しい戦いを1年間通してやらせてもらっていた中で、こういうトーナメントでもそういう所は精神的にもタフになってきているのかなというのは思いますね」と大森監督が口にしたように、なかなか結果が出ずに苦しんできたリーグ戦での経験が、ここに来て駿台の成長に大きく影響を与えているのは間違いありません。今年のチームの特徴を問われて「本当に仲が良くて、チームとして団結力があると思います。Tリーグでも結果は付いてこないですけど、やっぱり諦めずにやることをやっていきたいなと思いますし、粘り強さがチームの良い所になっていけばなと思います」と話したのは原。ボールを大事にしていくスタイルはベースにある中で、"粘り強さ"を身に付け始めていることは、この日の苦しい80分間の中でもハッキリと証明されたのではないでしょうか。「1つこの山を越えられたのは大きいかなと思いますし、彼らとしてもスタッフ陣としてもこれがキッカケになって、雰囲気が良くなってまとまってくれるといいなと思います」と笑顔を見せたのは大森監督。駿台の紅き進撃は果たしてどこまで。 土屋
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