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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
天皇杯のセカンドラウンドで実現した神奈川ダービー。昇格したJ1で確かな存在感を示している湘南と神奈川王者に輝いた桐蔭横浜大の一戦はShonan BMWスタジアム平塚です。
2年ぶりに復帰したトップディビジョンは、ファーストステージこそ勝ち負けを繰り返していたものの、セカンドステージは第9節終了時で7位と好調をキープ。年間順位でも現在10位に付けるなど、もはや健闘という言葉は似つかわしくない戦いを披露している湘南。迎えた天皇杯は2回戦からの登場。相手は大学生という難しいシチュエーションではありますが、残されたリーグ戦の8試合を戦う上で、戦力の底上げという意味でも重要な一戦であることに疑いの余地はありません。
県予選では初戦で社会人の東邦チタニウムを2-1で退けると、県社会人代表のTUYと激突した"桐蔭横浜ダービー"も2-1で切り抜けて準決勝へ。さらに前回王者のJ3に所属するY.S.S.C.を劇的な逆転勝利で下し、勢いそのままにファイナルでは専修大に3-0と快勝を収めて、神奈川の頂点に立った桐蔭横浜大。本選初戦となった先週は、これまたJFL所属のFCマルヤス岡崎に4-1と圧勝を飾り、獲得したのはJ1クラブへの挑戦権。スタンドには部員も含めた少なくない応援団も陣取り、この歴史的な90分間を見届けます。平塚駅からスタジアムまでの道のりも、ようやく汗ばむこともなくなってきた爽やかな初秋の気温は26.1度。楽しみな90分間は桐蔭横浜のキックオフでスタートしました。
ファーストシュートは桐蔭横浜。8分に鈴木国友(2年・相洋)のパスを受けた山根視来(4年・ウィザス)は、ミドルレンジから無回転気味のシュートを枠内へ。湘南のGKイ・ホスン(25・コンサドーレ札幌)は懸命にフィスティングで逃れたものの、「桐蔭の攻撃は自分から始まると思ってプレーしている」と言い切る7番が湘南ゴールを脅かします。
ところが、この一連で桐蔭横浜が獲得したCKは一転して湘南のカウンターに。これが公式戦デビューとなったアモリン(25・SCインテルナシオナル)が持ち出し、一旦預かった齊藤未月(16・湘南ベルマーレU-15平塚)は少し運ぶと完璧なリターンパスを右へ。再び受けたアモリンが右足を振り抜くと、ボールは左スミのゴールネットへ一直線に突き刺さります。「今年あまり見なかったような展開だったし、非常に良い流れの美しいゴールだったと思います」と曺貴裁監督も称賛した一撃は、公式戦デビューコンビで。湘南が開始9分で早くもスコアを動かしました。
さて、「自分たちのプラン的には相手にスペースを与えないで、ブロックを作って"1点ゲーム"で勝つというイメージだった」(山根)中で、その"1点"を先に奪われてしまった桐蔭横浜は、「いつも以上にボールが走ったなという印象」と尾崎快斗(3年・実践学園)も話したスリッピーなピッチで、サイドチェンジを敢行してもボールが伸びてしまい、タッチラインを割ってしまうシーンが頻発。22分には山根が左サイドでしっかりキープしてから右へ流し、上がってきたSBの佐々木俊輝(3年・厚木北)がミドルを放つも、イ・ホスンがしっかりキャッチ。23分にはボランチの福島翔太郎(4年・関東第一)が素晴らしいパスカットから縦に付けるも、石川大地(2年・水戸啓明)のリターンは呼吸が合わず。良いアタックの形を創り切れません。
一方の湘南は29分にセットプレーのチャンス。中央やや右、ゴールまで約25mの位置から武田英二郎(27・アビスパ福岡)が直接狙ったFKはわずかにゴール右へ。31分にも武田が裏へ出したボールへ、きっちり走り込んでいた齊藤のシュートはわずかに枠の左へ外れましたが、16歳のあわやというシーンにどよめくスタンド。38分にも可児壮隆(24・川崎フロンターレ)がクロスバーの上に外したミドルの起点は齊藤。「夏休みにずっと参加する中でビビらないで相手に向かっていくとか、攻撃の力がここ最近出てきたのはわかっていたので、今日はフレッシュなメンバーでいく中で、シンプルに勝つために使いました」と指揮官も評した齊藤が、チームにダイナミズムをもたらします。
42分は桐蔭横浜。「負けていたので『自分が点を取るんだ』という気持ちを前面に出して」左サイドを抜け出した山根がクロスを送るも、イ・ホスンが確実にキャッチ。45分は湘南。右サイドをフリーで抜け出した藤田祥史(32・横浜F・マリノス)が折り返すと、フリーで走り込んでいた齊藤にはわずかに合わず。「初めてやった組み合わせのメンバーの中で、少しギクシャク感が出るのはしょうがないかなと思ってやっていた所もありました」とは曺監督ですが、齊藤やアモリンに加え、右サイドで仕掛ける姿勢を打ち出し続けた白井康介(21・福島ユナイテッドFC)も含めて、フレッシュなメンバーから高いモチベーションが窺えたホームチームが1点をリードして、最初の45分間は終了しました。
両チームに交替なく迎えた後半は、いきなり湘南に訪れた追加点のチャンス。47分に武田が左から上げたクロスをDFが体に当てて対応すると、今村義朗主審はハンドというジャッジを下し、ペナルティスポットを指し示します。やや厳しい判定にも見えましたがPKはPK。キッカーの藤田祥史は冷静にGKの逆を突いて、右スミのゴールネットを揺らします。2-0。両チームの点差は2点に広がりました。
畳み掛けたい湘南。52分に可児が右へ振り分け、山田直輝(25・浦和レッズ)が粘って打ち切ったシュートは桐蔭横浜のGK田中雄大(2年・青森山田)が正面でがっちりキャッチ。53分にも相手ボールをかっさらった山田がラインの裏へ送り、抜け出したアモリンが放ったシュートはクロスバーの上へ。54分は桐蔭横浜。吉田侑矢(3年・浜松開誠館)が左へ付けると、縦に持ち出した山根のクロスは中央と合わず。変わらないゲームリズム。
57分の決断は八城修監督。吉田に替えて、「Iリーグで非常に良いプレーをしていた」という依田隆希(3年・アルビレックス新潟ユース)をそのまま右サイドハーフへ投入し、サイドの攻守にテコ入れを図ると、歓喜の瞬間は直後の60分。佐々木俊輝が入れたイージーなフィードをキム・ジョンピル(23・東京ヴェルディ)はクリアミス。すかさずボールを収めた山根は、「GKが来るのか来ないのかという所で、ループも警戒していると思ったので横にずらして」イ・ホスンを冷静にかわすと、無人のゴールへボールを流し込みます。「自分も今年で22歳で4年生なので、この中でできなかったらたぶん来年もしプロになれたとしても先はないと思っていた」というエースの追撃弾。スコアはたちまち1点差に縮まりました。
61分に最前線の鈴木と橋本峻弥(2年・青森山田)をスイッチして、一気に勝負を掛けたい桐蔭横浜の勢いを削いだのはナンバーエイト。失点から3分後の63分、アモリンが右へ展開したボールを白井が丁寧なクロスで中央へ合わせると、フリーで走り込んだ山田はヘディングで枠内へ。田中も反応はしたものの、弾き切れずにボールはゴールネットへ転がり込みます。「自分たちの時間だったのに軽くポンと決められて、そこから相手のペースになるというのが関東リーグの時にも多い」とは尾崎。再び点差は2点に引き戻されました。
スタンドに巻き起こった拍手は68分。菊地俊介(23・日本体育大)と共にピッチサイドへ立つの若松亮・第4審が上げたボードには、ピッチアウトする32番の文字が。「身長はそんなにないですけど、足が止まらないプレーは今日見ているお客さんに印象を残せたなと思っています」と曺監督も名指しで言及した齊藤はここで交替。これからクラブがさらに築く歴史に名を残していくような可能性を十分に感じさせた16歳に、大きな歓声と拍手が送られたシーンは非常に印象的だったと思います。
69分は桐蔭横浜。佐々木俊輝とのパス交換から石川が狙ったミドルは、DFに当たってゴール右へ。71分も桐蔭横浜。CBの時田和輝(2年・流通経済大柏)が縦に入れたボールから、山根は巧みに前を向いて左足でシュートを打ち切るも枠の右へ。73分も桐蔭横浜。キャプテンの金子雄祐(4年・桐蔭学園)が縦に付け、うまいトラップで反転した石川のシュートはDFをかすめてクロスバーの上へ。その右CKを山下優人(1年・青森山田)が蹴り込み、ファーを舞った橋本のヘディングはゴール左へ外れたものの、ようやくバイタル周辺の攻略から桐蔭横浜が繰り出した手数。
「こういう大会になってくると大きいウエイトを占めるんだなと、セットプレーの重要性を改めて感じましたね」と尾崎も肩を落としたのは76分の湘南が奪ったCK。右から武田が入れた高精度キックは、中央の藤田祥史にドンピシャ。体を倒して叩いたダイビングヘッドは確実にゴールネットへ飛び込みます。4-1。この試合で初めて3点の差が両者に付きました。
何とか意地を見せたい桐蔭横浜。77分には相手のパスミスを拾った依田が強引にシュートへ持ち込み、DFに跳ね返ったボールを依田が粘って繋ぐと、石川が枠へ収めたシュートはイ・ホスンが驚異的な反応でビッグセーブ。78分のアモリンと大槻周平(26・大阪学院大)の交替を挟み、80分にも福島のフィードからフェイクで抜け出した橋本のシュートはここもイ・ホスンが好セーブで仁王立ち。プロの壁が立ちはだかる中、とんでもないゴラッソは「自分がどうにかしてチームに貢献したいなという気持ちが大きかった」という27番。
83分、佐々木俊輝、石川と回ったボールを右で引き出した依田は中へ短く。上がっていた佐々木俊輝のリターンをもらうと、「『ファーに行けばいいな』と思って、思い切り蹴りました」という依田のシュートは、左のサイドネット上部という凄まじいコースを見事に射抜きます。「関東リーグでは点を取っていないので初ゴールですね」という依田は、何とこれがトップチームでの公式戦では入学後の初ゴール。目の前でそのシーンを見届けた桐蔭横浜応援団も一瞬静まり、のちに爆発。スコアは4-2に変わりました。
覚醒した越後の虎。83分に山田と古林将太(24・ザスパ草津)、85分に福島と林拓弥(3年・横浜F・マリノスユース)という双方の交替を経て、88分の絶叫は再び27番。左サイドで橋本が残し、石川が溜めてから右へ送ると、切り返しでマーカーを外した依田は左足一閃。ボールはゴール左スミギリギリを捉え、必死に伸ばしたイ・ホスンの右腕を掻い潜りながらゴールネットへ到達します。「最初のシュートで取れたので波に乗った感はありました」と話した依田が衝撃のドッピエッタ。「彼らのファイティングスピリットに自分たちが後手を踏んで、ああいう展開になってしまった」とは曺監督。「最後まで諦めないという学生らしさも出せたと思います」と八城監督が話した桐蔭横浜が最終盤にゲームを盛り上げましたが、最後はアディショナルタイムの4分間をきっちりクローズした湘南が、10月の3回戦へと駒を進める結果となりました。
双方に収穫の多いゲームだったのではないかなと思います。湘南ではやはりアモリンと齊藤のパフォーマンス。前者は「短い期間でチームに馴染もうと努力してくれている」と指揮官も話したように、個人技をチームに落とし込もうとしている様子も窺え、これから十分な戦力になっていく予感が漂っていました。ただ、何と言っても齊藤は年齢を知らずにプレーを見たら、とても16歳とは思えない堂々たる68分間。「彼のこういう場所に入っても物怖じしない力というのは、今ウチのアカデミーでトップになっている選手や、僕が小さい時に見ていた選手に比べてもひけを取らない所があると思いますし、非常に今後が楽しみだなと思っています」という曺監督の言葉にも大きく頷ける期待感を披露した齊藤のリーグ戦デビューも、そう遠い未来のことではないかもしれません。
J3やJFLのクラブを相次いで打ち倒してきた桐蔭横浜の快進撃はここでストップしましたが、J1クラブ相手にも果敢に撃ち合いを挑んだ姿勢には痛快感すらありました。CBで奮闘した尾崎は今年からリーグ戦に出場し始めた選手ですが、彼曰く「桐蔭は各カテゴリーが20人くらいでちゃんと1人ずつ指導者の方も付いていて、今日2点決めた選手もIリーグの方でプレーしている選手で『何で依田がメンバーに入ったの?』みたいな感じだったんですけど、まさかの2得点で『本当に何が起こるかわからないな』と思いました。だから、指導者の方がちゃんと見てくれているので、自分も今ここで試合に出られているんだなと思います」とのこと。「苦しい時期もあったので、この試合で結果を出せて嬉しく思うんですけど、まだ1試合だけですし、これをコンスタントに出せないと意味がないと思うのでそういう所をやっていきたいです」と話した依田に、自身の活躍が部全体に大きな影響をもたらすのではと問うと「うーん、大きかったのは運かなと思います」と苦笑しましたが、Iリーグでの活躍が公式戦での抜擢に繋がり、さらにその抜擢が公式戦での結果に繋がったという連鎖は、桐蔭横浜の今後にとっても小さくない"必然"だったと言えそうです。 土屋
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