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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。

その他の試合レポート 2015年09月01日

天皇杯1回戦 大宮×栃木ウーヴァFC@NACK

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0829tennohai.jpg今回で95回目を数える日本最古のオープントーナメントで対峙するのはJ2首位と栃木王者。大宮アルディージャと栃木ウーヴァFCの1回戦は、おなじみNACK5スタジアム大宮です。
無念の降格から9か月。混戦が予想された今シーズンのJ2を圧倒的な成績で独走し、もはや昇格へのカウントダウンすら始まりつつある大宮。そんな中でもこれから差し掛かっていく終盤戦に向けて、さらなる戦力の底上げは当然マスト。塩田仁史(34・FC東京)や片岡洋介(33・京都サンガ)など計算できるベテランに加え、マテウス(20・ECバイーア)や大山啓輔(20・大宮ユース)、冨山貴光(24・早稲田大)といった若手など、リーグ戦での出場機会が少ない選手にとっては、昇格のラストピースへ名乗りを上げる意味でも絶好のチャンスです。
ヴェルフェたかはら那須とのファイナルは延長までもつれ込んだものの、最後は「何よりサッカーをできる幸せを感じながら、そういう環境があって体があって、プレーできる所があるということに感謝しながらやれているので、まだまだ引退は考えられないですね」と笑う36歳の若林学(栃木SC)の決勝ゴールで栃木を制し、3年連続で本選へと勝ち上がってきた栃木ウーヴァFC。リーグ戦では苦しい戦いが続いている中で、「日々反省と改善と達成感の繰り返しなので、気持ち的には選手の時以上に充実しているかもしれないです」と話す弱冠31歳で指揮官に就任した前田和也監督の下、ジャイアントキリングを起こす覚悟は整っています。降り続いていた雨もキックオフまでには小康状態に。楽しみな一戦は大宮のキックオフでスタートしました。


スタートから躍動したのは16番を背負ったレフティ。4分に右サイドでルーズボールを収めたマテウスは、落ち際を叩くボレーにトライ。ボールは枠の左へ外れたものの、いきなりゴールへの積極性を打ち出すと、8分には富山の左クロスへここもマテウスが反応し、マーカーを外して枠内へ。ここは栃木のGK瀧澤進吾(25・埼玉工業大)がきっちりキャッチしましたが、「あれだけキレのある選手というのはJFLにもいない」とその瀧澤も評したマテウスの際立つ推進力。
すると、やはり先制点もそのブラジリアンから。9分、播戸竜二(36・サガン鳥栖)とのワンツーで右のハイサイドへ侵入したマテウスは、右足の深い切り返しでDFを滑らせると、得意の左足で中央へピンポイントクロス。うまくダイレクトで合わせた播戸のシュートは、ゴール左スミへ綺麗に転がり込みます。「何が起きるか分からないのが天皇杯ですし、そういったパワーが出るのが天皇杯ですから、開始10分以内に先制点を取る選手たちの集中力は本当に素晴らしいと思います」と渋谷洋樹監督。まずはホームチームがスコアを動かしました。
「立ち上がりの10分はシンプルに前に蹴ろうという所」(前田監督)から入ったものの、なかなか攻撃の手数を繰り出せない栃木。11分には足立高俊(30・奈良クラブ)が右へ振り分けたボールから、坪井秀斗(22・桐蔭横浜大)が上げたクロスはゴールキックに。逆に12分には富山のパスからマテウスがミドルを打ち込み、瀧澤が弾いたボールに詰めた播戸のシュートも再び瀧澤がファインセーブで掻き出しましたが、決定的なピンチを。12分には大山も瀧澤にキャッチを強いるミドルを放つなど、変わらないゲームリズム。
2度目の歓喜は15分。クイックで始めたFKの流れから左サイドを運んだ清水慎太郎(23・ファジアーノ岡山)は、そのまま中央へカットインしながら右足一閃。ファーサイドを狙ったシュートは右のポストを叩いて、ゴールネットを確実に揺らします。「最初の10分、15分は相手のスピードに慣れないうちに失点を続けてしまった」と前田監督。両者の点差は2点に広がりました。
2点を追い掛ける格好になった栃木は、17分にマテウスが直接狙った約25mのFKを瀧澤がキャッチしたシーン以降は、「リーグ戦の時に比べてパスを回そうという意識もありました」と瀧澤も話したように、相手陣内でボールをしっかり動かすアイデアも。20分に内山俊彦(26・福島ユナイテッドFC)が粘った運んだドリブルは、最後のタッチが大きくなって塩田にキャッチされましたが、悪くないチャレンジを。27分には濱岡和久(34・MIOびわこ滋賀)が左FKを、直後にも濱岡が今度は右CKを蹴り込み、どちらもDFのクリアに遭ったものの、「中盤の所で結構マークをルーズにしてもらった感じもあった」と語った濱岡の配球を中心に、セットプレーも含めて栃木に攻撃の形ができ始めます。
29分も栃木。山崎侑輝(25・レノファ山口)が果敢なカバーリングで残し、石井晃樹(24・日本体育大)が縦に付けたパスを足立はスルー。ボールはそのまま抜けて塩田の元へ届いてしまいますが、スムーズなパスワークで決定機の一歩手前まで。32分も栃木。内山のパスを引き出した濱岡はゴールまで30m強の位置からミドルを放ち、ボールはわずかにクロスバーを越えたものの、着々と見えてくるゴールへの道筋。
37分にマテウスが打ち切ったミドルも瀧澤が何とか凌ぐと、栃木の決定的なチャンスは前半終了間際の45分。ここもやはり濱岡を起点に平泉衝(26・作新学院大)が左へ付け、「ウチの中で一番最近までプロでやっていた経験を買って」(前田監督)スタメン起用された阿部琢久哉(30・VONDS市原FC)はラインの裏へ絶妙のダイレクトパス。フリーで抜け出した坪井のシュートは、塩田がさすがのタイミングで飛び出してファインセーブで回避しましたが、「ああいう崩しが俺のやりたい崩し」と指揮官も称賛した形で惜しいシーンを創出。栃木も終盤に十分押し返した前半は、大宮が2点のリードを保ってハーフタイムに入りました。


後半もスタートから攻勢に出たのは栃木。47分に坪井が右へ展開すると、山崎はグラウンダーでクロス。エリア内へ入った内山はスルーを選択してしまい、シュートには繋がりませんでしたが、意図のあるサイドアタックを。48分には大宮も清水の左グラウンダークロスを、富山がワントラップからシュートへ持ち込むも枠の右へ。50分は再び栃木。CBの鈴木翼(24・SC相模原)が縦へクサビを打ち込み、受けた平泉は1つ溜めて右へ。坪井のクロスはDFにブロックされるも、「後半はシンプルに動かしてサイドに付けた時に、相手のディフェンスの裏のスペースを狙って行こうと優先順位を明確にした」(前田監督)栃木に漂う得点への可能性。
56分に2つの交替で沸いたNACK。まずは大宮。播戸に替わって投入されたのは、「リーグ戦が2試合出場停止になっているので、少しでも長くプレーさせるという意図もあった」と渋谷監督も話した、今シーズンの大宮を牽引し続けている家長昭博(29・RCDマジョルカ)。そして栃木。平泉との交替で登場したのは、2005年から3シーズンに渡って大宮でプレーしていた若林。「ゴール前の仕事だったり、得点に絡む所だったり、体を張るという所で、やることはいつもと変わらない」とピッチに入った若林へ、スタンドの至る所から歓声が上がります。
58分にいきなり若林が巧みに基点を創って内山の枠外ミドルに繋げると、その1分後に栃木へ訪れたのは絶好の決定機。CBの市瀬勇樹(25・レノファ山口FC)が左に回し、阿部のパスを若林が短く落とした所へ走り込んだ内山はスルリとラインの裏へ抜け出します。ところが、ここも抜群のタイミングで飛び出した塩田が圧巻のファインセーブで仁王立ち。これにはFC東京時代の同僚でもある前田監督も「ああいうギリギリの局面でも迫力があるなとも思いましたし、『俺が知っているシオさんだな』でした」と苦笑い。どうしても1点が奪えません。
61分に2人目の交替として坪井と岩城正明(26・国士舘大)をスイッチした栃木は、66分にも濱岡、内山と繋いで、左から阿部が右足で入れたクロスをファーで若林が折り返すも、入り込んだ内山のシュートはヒットせず。68分には早くも最後のカードとなる市川稔(27・福岡大)を足立との交替で送り出しましたが、「相手のボール回しに対して受け身で対応していたので、走らされていたのが後の方に来てしまったのかなと思います」と瀧澤も振り返った通り、65分過ぎからは全体の運動量が急激に低下。ペースは完全にホームチームへ。
73分は大宮。清水と家長の細かいパス交換から、大山の左クロスに富山が飛び込むもわずかに合わず。78分も大宮。マテウスのリターンを受けた清水が丁寧にラストパスを送り、富山が打った決定的なシュートは瀧澤が決死のセーブ。「スコアが動かない展開の中では個人で相手を剥がすというプレーが必要なので」渋谷監督が79分に泉澤仁(23・阪南大)を投入すると、81分にはその泉澤が左サイドから丁寧に折り返すも、富山が至近距離から枠へ飛ばしたシュートは瀧澤が驚異的な反応でビッグセーブ。「来た所のコースが甘かったので止めているようには見えたと思う」とは瀧澤ですが、「大宮相手によくシュートを防いだという部分では驚きはあるんですけど、彼自身のパフォーマンスに関しては自分の中では驚きはなくて、普段通りだったなと思います」と前田監督も評価した瀧澤が繋ぐ勝利への可能性。
83分は栃木に久々のチャンス。濱岡が自陣から縦に入れたクサビを、若林はダイレクトで右へ。走った岩城がグラウンダーで入れたボールはGKとDFラインの間へ飛び込みますが、全力で走り込んだ市川は歩幅が合わずにシュートを打てず。すると、トドメの3点目は1分後。84分、カルリーニョスの浮き球に家長が絡み、こぼれたボールを富山が豪快にボレーでゴールネットへグサリ。後半だけで5本目のシュートをようやく富山がモノにして、試合の大勢は決しました。
86分にはルーキーの高山和真(19・大宮ユース)も公式戦デビューを果たした大宮の、この日の"大トリ"はやはりこの人。家長のスルーパスに抜け出した富山が、瀧澤に倒されて獲得したPK。ペナルティスポットにはマテウスが向かいます。左足から繰り出したキックはGKが飛んだ逆側のゴールネットに吸い込まれ、この4点目で打ち止め。「危ない場面も多々ありながら、しっかりと1回戦を勝って2回戦に進めたことを非常に嬉しく思います。一番ほっとしているのは私だと思います」と渋谷監督も安堵の表情を浮かべた大宮が、次のステージへと勝ち上がる結果となりました。


「最初の2失点さえ防げていれば0-0のままで後半を迎えられたと思いますし、ウチも得点のチャンスはあったので、もしかしたらわからないゲームだったのかなと思います」と瀧澤が話し、「前半の20分過ぎからはある程度スピードにも慣れてきて対応もできている中で、最初の15分が凄くもったいなかったなと思います」と前田監督も言及したように、栃木は立ち上がりの劣勢が最後まで響いた格好になりました。「2点目が入ってから塩田選手のビッグセーブが2回ほどあった」と渋谷監督も試合後に認めたように、点を取るチャンスもあっただけになおさら悔やまれるなあと。ただ、前田監督は「本当に自分がプロの時も良く言われていたんですけど、周りのお客さんや他の人が見ていて目に見えない所、例えばパスのスピードだったり付ける足だったり、そういう所で俺が教わってきた所の差は凄くありました」と素直な感想も。「そういう根本的な所を疎かにしてはダメなんだなというのは今日の試合で改めて気付きました」と続けた指揮官からは、この90分間からサッカーの"キモ"を再確認した様子が窺えました。前田監督のことを問われて「もっと良いチームを創ろうとして一生懸命やっていると思います。まあ色々な監督のタイプもありますし、Jの監督みたいにビシッとしなくてはいけないという訳でもないと思いますし、それぞれ色があって良いと思いますよ」と笑った濱岡は、その監督より3歳年上で、若林に至っては5歳年上。就任当初はやや気負いもあってか、「選手とも一線を引いて完全に"監督と選手"という関わりを持とうと思っていた」ものの、リーグ戦で開幕8連敗を経験して「『自分自身を変えなきゃな』ということを単純に思ったので、『俺は人と喋ることが大事だな』と思って、『らしさを出していこう』と」思考を切り替えたことで「俺が素直になったり表現したり、情熱を持ってやれば勝手にこっちを向いてくれますし、俺が言うことも聞き入れてくれますし、彼らからも意見が来るようになったので、それが年齢の近い監督の特権かなとも思いました」と話すなど、自身の監督としてのスタンスも定まってきた様子。「8連敗の時も含めて、監督という職業に就いてから『監督辞めたいな』とか『監督つまんねーな』と思ったことは1回もない」と言い切る前田監督が、これからどういう色をチームと共有していくことになるのか。大いに期待したいと思います。     土屋

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