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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
高校生が頂点を目指して鎬を削る真夏の祭典もいよいよ全国4強。千葉王者の市立船橋と東京王者の関東第一の邂逅。関東対決となったセミファイナルは神戸ユニバー記念公園補助競技場です。
夏の全国王者に輝くこと8度。一昨年も流通経済大柏との千葉勢決勝を制して日本一を勝ち獲るなど、"イチフナ"と言えば高校サッカー界で知らない者はいないと言っていい市立船橋。今大会も初戦で岡山学芸館を3-1で下すと、2回戦は尚志を3-1で倒し、3回戦では注目の好カードとなった久御山との一戦も4-2と打ち勝ってベスト8へ。迎えた昨日の準々決勝も難敵の滝川第二を2-0と今大会初完封で退けるなど、好調を維持。9度目の戴冠へリーチを懸けるべく、今日のセミファイナルに臨みます。
8年ぶりに乗り込んできた全国は、まさに夢舞台の連続となっている関東第一。初戦で激突した羽黒に3-1で競り勝つと、2回戦では名門の清水桜が丘に一度もリードを許さず、3-2で同校初の全国2勝目を。勢いそのままに臨んだ3回戦では昨年準優勝の大津を4-1で圧倒し、昨日の準々決勝でも全国の頂点を知る広島皆実を4-2と撃破して、「正直ここまで来るとは思っていませんでした」と二瓶亮(3年・江戸川葛西第三中)も驚く全国のベスト4まで。「僕が一番楽しみにしているかもしれないです」と笑顔を見せた小野貴裕監督の下、最後の1試合まで戦い抜く覚悟は整いました。ユニバー補助は灼熱の気温38.9度。ファイナル進出を巡る準決勝は市船のキックオフでその幕が上がりました。
ファーストシュートは市船。2分に右サイド、ゴールまで約25mの位置で獲得したFK。工藤友暉(3年・FCクラッキス松戸)が直接狙ったキックは関一のGK円谷亮介(3年・FC東京U-15深川)がしっかりキャッチしたものの、まずはセットプレーから窺う相手ゴール。関一のチャンスは7分。鈴木隼平(3年・Forza'02)、道願翼(3年・VIVAIO船橋)と繋いだパスから、冨山大輔(2年・FC習志野)は左足で巻いたシュート。ボールは枠の左へ逸れましたが、こちらも持ち前のパスワークからフィニッシュを1つ取り切ります。
以降は少しお互いに探り合うような展開に。全体的には市船がCBの白井達也(3年・横浜F・マリノスJY)と杉岡大暉(2年・FC東京U-15深川)でボールを動かしながら、ポゼッションで上回る格好になりますが、「出所を止めに行って、なおかつ出てきた所を両方守るとなると、たぶん今の戦力的なものでいうと厳しいと思って、今日は出し所じゃなくて、出てくる所をやられないようにしようという守備だった」と小野監督が話せば、「ある程度あそこは持たせていいという話はしていた」とキャプテンの鈴木隼平も同調。こちらのCBコンビの中村翼(3年・大豆戸FC)と野村司(3年・レッドスターJY)は待ち構える態勢を万全に。
12分は再び市船にセットプレーのチャンス。原輝綺(2年・AZ'86東京青梅)、椎橋慧也(3年・船橋八木が谷中)、永藤歩(3年・順蹴フットボールアカデミー)と回して奪ったFK。2分のシーンより5m近く前から工藤が狙ったキックは枠の右へ。19分は関一。左サイドでボールを持った高橋快斗(3年・PBJ千葉)が縦に付け、走った岡崎はうまく体を使ってエリア内へ潜るも、ここは「マジメで崩れない選手。落ち着いていますよね」と朝岡隆蔵監督も認める杉岡が冷静にカット。続く両者の緊張感。
そんな中、29分に魅せたのは「チャンスメーカーというのが彼の役割で、そういう中では常に脅威を与え続けてきた選手」と朝岡監督も話した10番。右サイドに開いた永藤は、ボールキープから身体をグイッと押し込んでゴールラインと平行にエリア内へ侵入。折り返しを高宇洋(2年・川崎フロンターレU-15)が合わせたシュートは円谷が体で阻止するも、DFも掻き出せなかったこぼれがファーサイドへ流れると、詰めていた工藤はきっちり右足で押し込みます。「この暑さでこれだけコンディションの良い永藤は珍しいですよ」と朝岡監督も笑う10番がさすがの一仕事。市船が先にスコアを動かしました。
20分過ぎから甲子園に出場する野球部の部員も加わり、一気に倍増した関一応援団の咆哮は失点のわずか2分後。31分、中盤でボールを奪った関一は素早い切り替えで縦へ。岡崎のリターンを受けた冨山は、ワンテンポ持ちながらタイミングを見計らってラストパス。トップスピードで走りながら右へ持ち出した岡崎が思い切りよく右足を振り抜くと、ボールはゴール左スミへピンポイントで吸い込まれます。「前向きで中盤がボールを奪えた時は、スピードも上がってチャンスになると思っていたので、そこをうまく行けたなと思います」と話す岡崎はこれで大会5ゴール目。3回戦でも準々決勝でも先制されながら追い付いてきた関一が、市船相手にも披露した反発力。「結構前半から重く入らないで、雰囲気に飲まれないでやったんじゃないかなと思った」とは小野監督。両者の点差が霧散した格好で、最初の35分間は終了しました。
ハーフタイムに市船は選手交替を。前半終了間際にハムストリングを押さえて痛がっていた永藤がプレーを続けられなくなり、太田貴也(2年・JSC CHIBA)が右SHへ送り込まれ、右SHの位置にいた矢村健(3年・横河武蔵野FC JY)を最前線に据えたシフトチェンジを強いられます。
冨山のキックオフシュートで始まった後半は、「向こうがリスペクトしてかなり中を閉じているのに、失点もそうでしたけど中を攻めようとしていたから『いいから外を攻めろ』と」指揮官に送り出された市船が攻勢に。42分には左CKを工藤が蹴り込み、ファーへ流れたボールに原が飛び込むもシュートは打てず。45分にも右から太田が付けたボールを、高は反転しながらシュートまで持ち込むも、ここは中村が体で懸命にブロック。48分にも右CKから工藤のキックは一旦跳ね返され、再び工藤が入れたクロスはDFのクリアに遭いましたが、サイドアタックからセットプレーも多く獲得し始めた市船がジワジワと押し込み始めます。
52分には岡崎、高橋、岡崎と繋いで、こぼれを叩いた道願のミドルも枠の上へ外れた関一は、「FWとかがグンッて来て背後に抜けられるので、ウチのDFラインの選手と中盤が一度自陣にグッと引っ張られる」(小野監督)こともあって、全体にラインが下がって押し上げ切れず。53分には椎橋、工藤、高とボールが回り、矢村の突破は左SBの大里将也(3年・レッドスターJY)が良く戻ってクリア。54分には中央でボールを受けた冨山がマルセイユルーレットも駆使したキープから左へ流し、中へ潜った岡崎のシュートはゴール右へ。関一も2本のフィニッシュこそ取ったものの、押し戻し切れません。
輝いたのは「彼は頑張ってナンボの選手ですから」と朝岡監督が表現した13番。57分、古屋が浮かせてDFラインの背後に入れたボールを力強く収めた矢村は、DF2枚に挟まれながらもそれを引きずるような馬力で縦へ運ぶと、そのままの流れで左足一閃。GKの右サイドを破ったボールはゴールネットへ突き刺さります。「今日の前半のパフォーマンスはすぐに切り捨てなきゃいけないものだったけど、永藤のアクシデントによって復活(笑)」と指揮官が明かした、普段は1人目の交替となることの多かった矢村がここで大仕事。ただ、その朝岡監督も「終盤でパワーを持って入って行って、左足を振り抜いたというのは素晴らしいなと思います」と称賛も忘れず。再び市船が1点のリードを手にしました。
59分にピッチ中央、ゴールまで約30mの距離から岡崎が無回転のFKを枠の上へ外した関一にとって、残された時間はわずかに10分間とアディショナルタイム。62分の決断は小野監督。中盤で奮闘した石島春輔(2年・JSC CHIBA)を下げて、唐木澤友輝(3年・ザスパ草津U-15)を左SBへ投入し、2トップに鈴木隼平と岡崎を並べ、右SHに左SBから大里をスライドさせて最後の勝負に打って出ると、63分には冨山のパスを高橋が左に振り分け、ここへ上がってきた走力十分の唐木澤がグラウンダーでクロス。ニアに突っ込んだ高橋が全身で飛び込むも、ボールにはわずかに届かず。同点弾とはいきません。
逆に68分は市船に試合を決める絶好の得点機。太田がラインの裏へスルーパスを通すと、1分前に投入されたばかりの西羽拓(2年・鹿島アントラーズつくばJY)はGKと1対1に。しかし、ここは円谷が執念のファインセーブで仁王立ち。勝利への望みを辛うじて繋ぎ止めます。
ただ、「うまく場所を守っていて、持たせているけど最後の所はやらせないよというような守備の仕方が彼らは上手かったなと思います」と小野監督も振り返ったように、市船守備陣の勘所を押さえたディフェンスは圧巻。左SBに抜擢されている1年生の杉山弾斗(1年・FC東京U-15むさし)も、当然攻撃の意識は持ちながらもあっさり裏を取られるような攻め上がりは皆無。「耐えろ、耐えろ」と声を出し続ける椎橋を筆頭に、集中を途切れさせるような雰囲気はまったく出さず。69分にはスローインを岡崎にかっさらわれたものの、すぐさま杉岡が的確なカバーできっちりスイープ。淡々と取り掛かるゲームクローズ。
2人目の交替として大里と新翼(3年・Forza'02)をスイッチした関一のラストチャンスは70+2分。右サイドで二瓶のスローインを受けた高橋は、少しマイナスに持ち出しながら左足でクロスを上げるも、懸命に飛び付いた岡崎の頭上をボールが通過すると、程なくしてピッチを切り裂いたファイナルホイッスル。「永藤がケガしたこと以外はシナリオ通り」と朝岡監督も話した市船が関東対決を制し、2年ぶりの全国ファイナルへと駒を進める結果となりました。
関東第一の全国行進はベスト4のステージで幕を閉じることとなりました。「個の能力としてもスピードも技術も向こうが1枚上だったと思います。相手のゴール前で近い位置でボールを受けられると自分たちのやりたいことはできたと思うんですけど、そこに行くまでの手前でシャットアウトされていたので、もっとスムーズに強豪相手でもできるようにならないといけないと思います」と鈴木隼平が話せば、「今までやったチームの中では一番中盤の所にチェックが来ていたので、そういうプレスが厳しい相手でも今まで通り繋いで剥がしてというのを選手権に向けてしっかりやっていければいいと思います」と中村も語り、「ああいった均衡したゲームでも勝ち切れるチーム力や強さというのを身に付けていきたいと思います」と岡崎。それぞれの選手が全国のトップレベルを体感したことで、さらに今後に向けて想いを新たにした部分は非常に多かったようです。鈴木隼平は「今までだったら全国に出ることだけが目標のチームだったので、全国ベスト4に入れたことで自分たちはもっと上を目指していいというのがわかりました。その分、目指すからにはもっと努力して、もっと個を伸ばさないといけないというのがあるので、この夏と秋でもっと成長したいと思います」とキッパリ。この大会の収穫を問われて「今まで頑張っても結果にならないということがずっと続いていたんですけど、それを『頑張れば何とかなるんだよ』というのが指導者の仕事じゃないですか。『オマエが頑張れば』『オマエが信じれば』って。でも、そこを最後に信じられるようになるのって自分の成功体験だと思うので、そこを今回この子たちはできたし、なおかつこのチームも成功体験ができたので、たぶん今まで『やってもできない』と思っていたことが『やればできるんじゃないか』と思えるようになるというのは凄く大きいと思います」と答えた小野監督は、話の最後に「またこれで夢から現実にパッと突き落とされたと思うので、悔しさが今日の夜くらいからこみあげてくるんじゃないですか」とも。「正直ここまで来れたのはビックリしています」とチームメイトの気持ちを代弁するように中村が口にしたこの体験は、果たしてどう生かされていくのか。今後が非常に楽しみになるような、関一の真夏の快進撃でした。 土屋
(写真提供:川端暁彦)
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