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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
葉月に争われる真夏の"センシュケン"。遥かなる全国への道の本当に第一歩目。都立大泉桜と松蔭の1次予選1回戦は私立武蔵高校グラウンドです。
部員15名。「もともと共学なんですけど、美術で募集が掛かってから女子の方が多くなっちゃって」と笑ったマネージャーは、その彼女も含めて総勢4名。昨年の選手権予選は1次予選初戦で0-15と大敗を喫し、一昨年の選手権予選も地区予選初戦で0-12と同じく大敗した上、そのほかの大会はエントリー自体がなかったため、今の3年生は公式戦での勝利を知らない都立大泉桜。この日もベンチ入りメンバーはわずかに1人という12人編成の中、7人の3年生が初めての公式戦勝利を体験すべく、この日の70分間へ挑みます。
部員13名。「高校に入って冬に1回も試合したことがないんですよ」とキャプテンであり、唯一の3年生部員でもある水嶋浩人(3年)が苦笑したように、新人戦は部員不足により毎年出場辞退。今年のインターハイは支部予選初戦で0-12というスコアで完敗。昨年もインターハイ予選は支部予選初戦で0-3、選手権予選は1-1でPK戦まで持ち込むも初戦敗退。一昨年もインターハイ予選は支部予選初戦で0-5、選手権予選は地区予選初戦で0-7と、やはりここ3シーズンは公式戦の勝利がない松蔭。「色々厳しいので出るか出ないかというのも最後まで悩んでいたんですけど、3年生は水嶋1人で本人も何とか最後やりたいと言っていたので、何とか出てきたという感じでしたね」と山口龍二監督が正直に話してくれた通り、水嶋の公式戦初勝利を懸けた一戦は学校行事との兼ね合いもあって、11人ギリギリでのチーム編成で臨みます。お互いの3年生がまだ知らぬ勝利の美酒を求めて戦う最後の"センシュケン"は、試合前に雨も上がる好コンディション。無数の蝉が鳴きしきる中、大泉桜のキックオフでゲームはスタートしました。
開始45秒のファーストシュートは松蔭。ミドルレンジから左SBの浜田光熙(2年)が放ったシュートは大泉桜のGK炭谷一輝(1年)がキャッチしましたが、2分にも松蔭は永井滉大(2年)が炭谷にキャッチを強いるミドルにトライするなど、まずは果敢な姿勢を見せて立ち上がります。
7分には大泉桜もルーズボールを拾った小山英陽(1年)が左足ミドルを枠内へ収め、松蔭のGK恩田開有(3年)にキャッチされたものの、ようやくファーストシュートを記録しますが、10分には右SHに入った宮本一匡(1年)が、15分には永井がそれぞれ枠外ミドルを打ち込むなど、手数は続けて松蔭。さらに直後の15分には右SBの西脇和美(2年)を起点に、木村大翼(1年)を経由したボールをボランチの山下雄輝が裏へ落とし、樋口翔大(2年)がフィニッシュ。ここは炭谷がキャッチするも、1つ崩す形を創った松蔭が握るゲームリズム。
ただ、20分を過ぎると土屋龍之介(1年)と横内拓馬(3年)のCBコンビを中心に相手のアタックを凌ぎながら、徐々に運動量で勝った大泉桜にも反撃の雰囲気が。22分に土屋が40mミドルを枠の右へ外すと、23分にはこのゲーム初めてのCKを右から岡村真志(3年)が蹴り込み、新井匠(3年)のヘディングはシュートに繋がらなかったものの、あわやというシーンまで。さらに26分には小山が左足で狙ったミドルがクロスバーを直撃するなど、一気にペースを引き寄せると、スコアを動かしたのもやはりその大泉の緑軍団。
31分に右サイドからキャプテンの右SB小林央典(3年)が短く付けると、エリア内へ潜った小山はDFともつれて転倒。ホイッスルを吹いた主審はペナルティスポットを指差します。キッカーは小山自ら。左スミを狙ったキックは反応したGKもわずかに及ばず、揺れたゴールネットとピッチにできた歓喜の輪。3年生にとっては"センシュケン"初ゴールが記録され、前半は主導権を奪い返した大泉桜が1点をリードしてハーフタイムへ入りました。
後半のファーストシュートもビハインドを追い掛ける松蔭。36分にCBの高橋東主(2年)からパスを引き出した山下のミドルは枠の右へ。38分にも樋口とのワンツーで浜田がエリア内へ侵入するも、飛び出した炭谷がキャッチ。45分には大泉桜も左SBの中嶋雄成(3年)が縦に付け、野中勇希(3年)のシュートは枠の左へ。直後にも岡村が右クロスを上げると、ニアに飛び込んだ小山のボレーはゴール右へ外れましたが、お互いに次の1点への意欲を積極的に打ち出します。
すると、意地を見せたのは世田谷の赤。51分に吉田博史(2年)が絡んで獲得した左CKから、水嶋が枠内シュートを打ち込んだその1分後にもチャンス到来。52分に山下がラインの裏へスルーパスを通すと、懸命に走った樋口はマーカーと入れ替わりながら右足を伸ばし、ボールをゴールネットへ流し込みます。2年生ストライカーが執念の一撃。スコアは振り出しに引き戻されました。
畳み掛けたい松蔭。57分に山下が狙ったミドルは枠の右へ。58分に永井が叩いた35mミドルは炭谷がキャッチ。逆に61分は大泉桜。左サイドでシャペウを敢行した小山が、そのままカットインしながら放ったミドルは恩田がキャッチ。双方が初勝利へと直結するゴールを探り合う中で、足を攣る選手も続出し始めたゲームはいよいよ最終盤へ。
67分の決定機は大泉桜。右サイドから小林が放り込んだアーリーに中央で新井が潰れると、GKが飛び出していたゴールががら空きに。ダイレクトで打った野中のシュートは、しかしわずかに枠の左へ逸れて勝ち越し弾とはいかず。70分の決定機も大泉桜。ここも小林が決死の右アーリーを蹴り込み、ここも左サイドで野中がフリーになりましたが、枠へ収めたシュートは恩田ががっちりキャッチ。双方譲らず。公式戦初勝利の行方はPK戦へと委ねられることになりました。
「なかなか始まらないなあ」と思っていたPK戦。理由は大泉桜がGKの変更をするため、フィールドと違う色のユニフォームを取りに行っていたため。試合中からキレのある動きを見せていたCBの土屋が、15番の赤いユニフォームを着用してゴールマウスへ向かいます。
そして試合中から冷静なセーブを見せていた松蔭のGK恩田は、何と山口監督曰く「GKの子だけ他の部活の子なんですけど、手伝ってもらっていたんです。あの子はバスケ部なんですよ」とのこと。続けて指揮官は「初心者なんですけど体育の時間にハンドボールを見て『ああ、結構上手だな』と思って、それで声を掛けたんですけどね」と衝撃の事実を口に。「水嶋がずっと1人で1,2年生をまとめていた感じだったので、頼まれて『ここは自分がやろう』と思いました」というバスケ部所属の恩田が公式戦初勝利の懸かったPK戦を託されます。
先行の松蔭1人目はバーの上に外してしまい、大泉桜1人目の小山は試合中とは逆の右に成功。「去年のPK戦は5番目だったので、その前に終わってしまって蹴れなかったんですよ。だから今年は5番目で蹴って勝ちたかったんですけど、先生が2番目と言ったので」と笑った松蔭2人目の水嶋は左スミへ豪快に沈め、大泉桜2人目の土屋は赤いユニフォームできっちり成功。2人目を終わって大泉桜が一歩前へ。
松蔭3人目の永井もGKの逆を突いて成功させると、大泉桜の3人目がボールをセットした時に恩田は冷静に状況を分析。「自分の中で少ない経験なんですけど、『利き足の逆に蹴る方が蹴りやすいな』と自分で思っていた」ものの、「ベンチで『利き足の逆に来るぞ』みたいなことを言っていたら、相手の選手が近くにいたので『多分聞こえていたんだ』と思って、実際に最初の2本は両方とも利き足の方向に来たので逆を取られたんですよ。だから、『だったら逆に裏をかいて、全部利き足方向に飛べば行けるんじゃないかな』と思って」自らの左へ飛ぶと、右利きのキッカーが中央右寄りに蹴ったボールを恩田はきっちりセーブ。これでスコアはタイに戻ります。
松蔭4人目の樋口はほぼど真ん中へきっちり蹴り込むと、大泉桜の4人目は力みもあってかクロスバーの上へ。形勢逆転。決めれば終わりの松蔭5人目は、仲間の声援に送られてペナルティスポットに。短い助走から放ったキックは、しかしこちらも急造GKの土屋が気合いのセーブで仁王立ち。沸き上がる大泉桜イレブンに、思わず苦笑の笑い声が上がる松蔭イレブン。まだまだ試合は終わりません。
大泉桜5人目。「あまりネガティブにやるとプレーも消極的になっちゃうので、スポーツをやる時はポジティブにやると決めている」という恩田は、「5人目が止められた時は俺、『ヒーローになれる!』と思ったんです。『やったー』と思って。入れられても負けではなかったので、コレを止めなくてもメリットしかないって思って」ゴールマウスへ。頭に叩き込んでいたのは"利き足方向"。キッカーは右利きの助走。飛ぶのは自らの左、自らの左。キックの1秒後。自らの左へ気持ちで飛び付き、「本当にドンピシャで当たった」恩田のファインセーブで訪れた決着の時。「PK戦になったらもうしょうがないと思っていました。助っ人が頑張ってくれましたね(笑)」と山口監督も笑顔を見せた松蔭がPK戦を制して、たった1人の3年生に公式戦初勝利という"想い出"をプレゼントする結果となりました。
「ウチは人数いつもギリギリでやっているチームなので、学校の行事が重なっちゃって、いつも出ている子もちょっと抜けちゃって厳しかったんですけど、頑張ってくれたので良かったです」と山口監督も話した松蔭は、実に選手権予選で考えると7年ぶりの初戦突破。勝利の瞬間を問われた恩田は「こみ上げてきました。『勝ったんだ』みたいな感じで。サッカーの試合に慣れている訳ではないので「これで勝ったんだ」みたいな感じでした」と破顔一笑。そのヒーローは「バスケ部としてもあまり良い想い出がなかったので、ここで公式戦で良い想い出を創って卒業したいなというのはありましたね」と秘めた想いを明かしてくれました。「高校の教員になって部活の顧問をやるようになってからは、夏って感じのイメージですよね。冬の人たちは全然雲の上の人というか全然現実感がないというか、そんな感じですよね」と"センシュケン"のイメージを表現した山口監督は、「3年生の子は学年も自分が受け持っている学年だったので、良い想い出ができて良かったなと思います」と最後は少ししみじみと。「最後の大会で公式戦初勝利というのは嬉しいですね」と水嶋。たった1人の3年生とバスケ部から助太刀した3年生。2人の3年生が紡いだ夏の"想い出"は、松蔭サッカー部にとって記憶にも記録にも残るゲームだったのは間違いありません。 土屋
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