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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。

その他の試合レポート 2015年08月25日

天皇杯静岡決勝 藤枝MYFC×Honda FC@藤枝総合

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0823fujieda.jpg王国の覇権を争うファイナルは3年連続の同一カード。J3の藤枝MYFCとJFLのHonda FCが対峙する一戦は藤枝総合運動公園サッカー場です。
クラブ創設から7年。天皇杯は現在2年連続で県代表を勝ち獲っているディフェンディングチャンピオンの藤枝MYFC。参入2シーズン目となったJ3リーグでは、3度の3連敗を喫するなどなかなか調子が上がらなかったものの、逆に20節からは怒涛の3連勝を達成すると、24節では長野にも競り勝つなどチーム状態は確実に上向き。「HondaさんはJ3にいたら上位にいてもおかしくないようなチームですし、J3だからとか、JFLだからという差はまったく選手たちも考えていない」と大石篤人監督も気を引き締めて臨むこの一戦を制し、天皇杯本選での経験を終盤のリーグ戦にも生かすべく、大事な90分間に挑みます。
チーム創設から44年。過去35回の本選出場経験を有するものの、ここ4年間はいずれも県予選で敗退。「去年も同じような負け方をしてしまって悔しい想いをしているので、自分たちはチャレンジャーという気持ちで行っている」と古橋達弥(34・湘南ベルマーレ)も話したように、とりわけこの2年は同じ藤枝MYFCに決勝で敗れており、久々の本選出場を手にするためのファイナルということを考えれば、相手にとって不足なし。バスで駆け付けた大応援団の声援も味方に、5年ぶりとなる王国の頂点を狙います。凌ぎやすくなってきたとはいえ、この日の気温も30度。注目の90分間は藤枝のキックオフでスタートしました。


先にチャンスを創ったのはHonda。3分に香川大樹(27・高知大)が40m近いロングシュートを枠の右へ外すと、6分にも左SBの砂森和也(24・順天堂大)がオーバーラップで獲得した左CKを古橋がエリアの外へ蹴り入れ、待っていた鈴木雄也(24・専修大)はわずかに合わず、細貝竜太(27・流通経済大)のボレーはゴール右へ逸れたものの、デザインされたセットプレーを。6分にもクイックで古橋がFKをラインの裏へ。走った香川はオフサイドになりましたが、まずは「最初に落ち着くまでは割り切ってということは考えていました」と井幡博康監督も話したHondaが勢い良く立ち上がります。
「ドリブルでというタイプではないので、仲間を信じて中で待っている」ストライカーの煌めき。8分、キャプテンの奈良林寛紀(27・青山学院大)を起点に久富賢(24・松本山雅FC)が右サイドをえぐって中へ折り返すと、ニアへ突っ込んだ大石治寿(25・FC刈谷)はきっちりプッシュ。ゴールネットへボールを送り届けます。「本当に自信を持って中で待っているので、あとは良いボールが来ればというのをずっと待っていた」という大石のストライカーらしい一撃。ファーストチャンスで藤枝がスコアを動かしました。
1点を追い掛ける格好となったHondaは12分、古橋の右FKは一旦DFにクリアされましたが、上げ直した古橋のクロスを収めた伊賀貴一(28・静岡産業大)は反転しながら左足ボレーを枠内へ。これを藤枝のGK朴一圭(25・FC KOREA)がキャッチすると、直後に躍動したのは再び9番。
15分、右サイドでボールを持った奈良林が左へ展開。うまく縦に持ち出した枝本雄一郎(27・ザスパクサツ群馬)がアーリークロスを送ると、中で待っていたのは大石。「本当に良いボールが来たので、とりあえず当てることだけに集中して」右足で合わせたシュートは、絶妙の軌道を描いてゴール右スミへ飛び込みます。「あの2点は本当に自分の理想の形」と語る大石は早くもドッピエッタ。点差は2点に広がりました。
20分にも富井英司(27・グルージャ盛岡)の右CKに満生充(26・大阪産業大)が枠の右へ外れるヘディングを放つなど、リズムを掴んだ藤枝と対照的に、「本当にシンプルな形での失点でしたし、ああいう所を抑えるか抑えないかで自分たちに流れが来るかも決まってくる」と古橋も話したHondaはなかなか手数も繰り出せず。24分には古橋のパスを伊賀が何とかタメて、古橋が右から叩いた枠内シュートも朴がファインセーブ。逆に27分には中村宏輝(23・びわこ成蹊スポーツ大)の左アーリーを久富が粘ってシュート。ここはHondaのGK阿波加俊太(20・コンサドーレ札幌)がキャッチしたものの、「チームのコンセプトとして前線からのプレッシングと、それに連動して後ろのラインを高くしてコンパクトにするという所を練習から徹底してやっています」と奈良林も話した藤枝の高いライン設定に、古橋も「もうちょっと相手のDFラインを下げて、選手の距離を広げるということをしていかないとボールも繋げない」と振り返ったように、Hondaはポゼッションの優位性を打ち出せず。流れは依然として沓掛勇太(23・関西学院大)と望月竜次(26・富士常葉大)のCBコンビが守備でも安定感を打ち出した藤枝に。
藤色が享受したこの日3度目の歓喜は28分。相手のパスを高い位置で奈良林がかっさらって、そのまま左へスルーパス。受けた枝本が躊躇なく右足を振り向くと、ボールはゴール左スミへ突き刺さります。「良い形で取れて、それがゴールに繋がったので、一番自分たちがやりたいようなサッカーができたんじゃないかなと思います」と大石も言及した、狙い通りのショートカウンターが見事結果に。藤枝のスコアボードに"3"の文字が灯りました。
小さくないビハインドを負ったHondaも31分に決定機。JFL得点ランクトップの栗本広輝(25・順天堂大)がスルーパスを狙うと、DFともつれながら伊賀が抜け出して1対1に。右へかわそうとした伊賀はエリア内で朴ともつれて転倒しましたが、主審はホイッスルを吹かず、ゴールもPKも得られない格好に。32分に藤枝が「ちょっとトラブルがあった」と指揮官も説明した久富と笹垣拓也(24・国際武道大)を交替させると、42分にも古橋とのワンツーから栗本がスルーパスを送るも、右から伊賀が放ったシュートも朴がファインセーブで回避。「前半の立ち上がりからしっかり自分たちのサッカーができた」と大石監督。冷静にゲームを進めた藤枝が3点のアドバンテージを握って、最初の45分間は終了しました。


後半はスタートからリードしている藤枝に交替が。中村に替わって橋本巧(26・静岡産業大)がそのまま左SBへ入る格好で残された45分間へ向かうと、追加点はキックオフから1分経たず。右サイドから笹垣が好クロスを送り込み、枝本が頭で狙ったシュートは阿波加も懸命に弾きましたが、枝本が自らきっちり詰めて4点目。大石に続いて枝本もドッピエッタを記録。「後半の10分でもう一度取ろうという形で狙い通りに点数は取れた」と大石監督。スコアは4-0となりました。
苦しくなったHonda。52分に中川裕平(28・早稲田大)、古橋、伊賀と繋いで、栗本がシュートまで持ち込むもオフェンスファウルに。54分にエリアのすぐ外から、古橋が枠へ収めた直接FKも朴がキャッチ。55分にはボランチの土屋貴啓(32・国士舘大)と富田湧也(23・流通経済大)を入れ替えましたが、56分には藤枝も越智亮介(25・ツエーゲン金沢)のスルーパスに抜け出した橋本が、阿波加にファインセーブを強いるフィニッシュまで。変わらないゲームリズム。
井幡監督は60分に2人目の交替を決断。香川を下げて久野純弥(27・福島ユナイテッドFC)をそのまま右SHとして送り込むと、62分には小野寺建人(24・ツエーゲン金沢)のパスから伊賀がシュートを放つも、望月が体でブロック。65分には足を痛めた古橋に替えて、原田開(25・順天堂大)を投入。「時間が長くなればウチの方がチャンスはあると計算していたので、久野と原田を出すまでに点差が1点や2点なら勝機はあると思っていました」という井幡監督の思惑通りには行かなかったものの、切り札の久野と原田が残り25分で揃ってピッチへ解き放たれます。
67分の閃光。左サイドでボールを持った砂森は短く中へ。ここへ後方から走り込んできた原田は加速しながらエリア内へ潜ると、思い切り良くそのままシュート。ボールはGKのニアサイドをぶち抜いて、ゴールネットへ吸い込まれます。沸き上がる紅のサポーター。途中出場のスピードスターが早くも結果を。Hondaがようやく1点を返しました。
大石監督は73分に早くも最後の交替。満生と小川直毅(20・ガンバ大阪)を入れ替えて、もう一度前へのパワー回復を狙うと、74分には枝本が粘って収めて左へ送り、小川のカットインミドルはゴール右へ外れるも、早々に絡んだフィニッシュ。77分にも枝本がドリブルから右サイドへ流し、大石が狙ったミドルは枠の左へ逸れましたが、シュートで終わる判断はこの時間帯で悪くない選択。81分にも小川が鋭いドリブルでCKを獲得するなど、着々と進めるゲームクローズ。
追撃弾は82分。富田が左へ振り分けたボールを、開いて受けた原田はすかさず中へ。「彼はポストタイプ」と指揮官も認める伊賀が体を張って落とすと、原田が右足で振り抜いたシュートはDFをかすめてコースが変わり、右スミのゴールネットへ到達します。途中出場の原田はこの日3人目となるドッピエッタ。「相手の左サイド、ウチの右サイドで翻弄されてしまった」と大石監督が話した通り、左サイドからのアタックが機能し始めたHondaに2点目が記録されました。
突如として藤枝を襲った大ピンチ。ほとんど同時に小川と枝本がケガを負ってしまい、2人揃ってピッチ外へ。「10人であれば今までJ3の中でもやったことがあるので、やられないだろうなと思っていた中で、さすがに9人ではHondaさんは本当にボールを回すのが上手いのでそういう所でやられてしまった」と大石監督。9人の藤枝に牙を剥くHonda。87分、久野が右サイドで縦へ付け、原田がニアを狙ったシュートは朴が何とかファインセーブ。88分、原田の左CKをニアで細貝が合わせると、ここも朴がファインセーブで掻き出し、殺到したHondaの数人も詰め切れず。88分には藤枝も大石が単独で抜け出し、GKもかわして放ったシュートは何と枠外。「あれを決めなきゃ何を決めるんだという話」と本人も悔やんだまさかのシーンで、漂い出した奇跡への予感。枝本はピッチに戻りましたが、小川はそのまま退場を余儀なくされ、藤枝が1人少ない状況でゲームは5分間のアディショナルタイムへ。
スタジアムの沸騰は90+3分。左サイドからのフィードに抜け出した伊賀は、右サイドを持ち運びながら冷静に中央へ。まったくのフリーでパスを受けた原田は、GKとの1対1も氷の冷徹さでボールをゴールネットへ流し込みます。15番が圧巻のトリプレッタ。4-3。4-3。1点差。1点差。10分前まで沈んでいたHondaの応援席は、ここへ来て最高潮の雰囲気に。伝統の紅を継承するイレブンに奇跡は起こるのか。
90+5分に訪れたHondaの同点機。3点目同様に左からのボールをプルアウェイでうまく引き出した伊賀は、マーカーと競り合いながら縦へ加速。少し前に出た瞬間に右足から放たれたシュートは、しかしクロスバーを越えてしまい、これがこのゲーム最後のシュート。ファイナルスコアは4-3。「いつもサポーターの方をハラハラドキドキさせてしまって、普通に4-0で終われば良い所を自分たちで首を絞めてしまい、難しくしてしまったなという気はしますね」と大石監督も苦笑いを浮かべた藤枝が何とか逃げ切って、3年連続で静岡を制する結果となりました。


サッカーの面白さと難しさが同居する濃密な90分間でした。「普通4点取られたら負けますよね。0-4から5-4になる試合は見たことないですから」と笑った井幡監督が続けて、「でも、最後に(伊賀)貴一の所が入っていれば、5-4になったかなというのはありましたけどね」という言葉もあながち強がりには聞こえないほど、何が起こるかわからないような終盤だったのは間違いありません。それは「勝ったことに関しては良かったですけど、内容に関してはあまり納得のいく部分ではないので、最後の写真撮影もみんなちょっと笑っては喜ぶことができなくて、それは大変申し訳ないなと思います」と大石監督が話したように、優勝を祝福する記念撮影でもどこか乗り切れない雰囲気だった藤枝の選手たちの表情が、何よりもそれを物語っていたと思います。「ウチの選手たちには最低の目標として『エスパルスとやろう』というのは言っているので、本選は何とか次の所を勝ちたいなと思います」と大石監督も話した、本選1回戦の相手はJFLの奈良クラブ。究極とも言うべき清水とのライバル対決を実現させるためにも、藤枝のネクストステージは真価が問われる一戦です。      土屋

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