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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
灼熱の群馬に帰ってきた真夏の祭典。日本クラブユースサッカー選手権大会、通称"クラ選"の開幕。前橋総合の1試合目で激突するのは名古屋グランパスU18とFC町田ゼルビアユースです。
激戦の東海予選を1位で通過し、3年ぶりに群馬の地へと帰ってきた名古屋グランパスU18。「コーチはみんな経験してますけど(笑)、選手はみんな初めて」と高田哲也監督が話した通り、この大会は選手全員が初体験ということもあって、「昨日も朝の7時45分から練習したりとか、ちょっとこの大会に合わせてきた所はある」とその指揮官。京都橘に勝ち、G大阪ユースと引き分けるなど、勝ち点を積み上げ始めたプレミアの勢いを後ろ盾に、まずは難しい初戦に挑みます。
プレミア所属の鹿島ユースを打ち破ると、浦和ユース、甲府U-18とプリンス勢とも引き分け、堂々のグループ2位通過でクラブ創設以来初めてとなる夏の全国出場を勝ち獲り、「関東大会を勝っている時は非常に色々な成長が見えた」と辛口の竹中穣監督も評価を与えたように、意気揚々と群馬に乗り込んできたFC町田ゼルビアユース。「僕でも『何でこんな人が来ているんだろう?』と思いましたからね。ウチの強化部長のお父さんとか(笑)」と竹中監督も笑ったように、応援の選手や保護者も含めて町田サイドのスタンドには相当な数の応援団が。多くの方の大きな期待を背負って、全国という大海原に今日漕ぎ出します。9時の時点で前橋総合の気温は既に34.2度。強烈な日差しが降り注ぐ中、町田のキックオフで開幕戦はスタートしました。
先にチャンスを迎えたのは名古屋。3分にエリア内でボールを受けた森晃太(3年・名古屋グランパスU15)は、反転からシュートを枠内へ。ここは町田のGK柴崎晃志(3年・横浜FC JY)がファインセーブで弾き出し、直後に森が蹴った左CKも柴崎がパンチングで掻き出しましたが、7分にも左から蹴った森のCKが町田ゴール前を襲うなど、まずは名古屋が先制の機会を窺います。
町田も9分には岸本塁(2年・FC町田ゼルビアJY)のヘディングから岡本怜央捺(3年・FC町田ゼルビアJY)が抜け出すも、オフサイドの判定でシュートには至らず。逆に13分は名古屋。右から川﨑健太郎(3年・千里丘FC)がCKを蹴り込み、町田の中盤に入った佐々木そら(2年・ヴェルディSS AJUNT JY)が何とかクリア。14分には加倉井拓弥(3年・FC町田ゼルビアJY)のリターンから、佐々木が思い切って狙ったミドルは枠の右へ。18分は再び名古屋。吹ヶ徳喜(3年・名古屋グランパスU15)のパスから北野晴矢(3年・スマイス・セレソン)が狙ったシュートは、「CBの小池(万次郎・3年・FC町田ゼルビアJY)がケガで急遽できないとなって急造でやった」(竹中監督)という町田のCB高橋渉(3年・FC町田ゼルビアJY)が体でブロックしたものの、やや名古屋のゲームリズムで進んでいく時計の針。
歓喜の時は突然に。20分、相手のミスパスをかっさらった佐々木は、そのまま絶妙のボールをラインの裏へ。完全にGKと1対1になった岸本は、迫りくるGKを冷静に見極めると、ボールをゴール左スミへ確実に流し込みます。高橋のCB起用に伴って中盤センターでのスタメン出場となった岸本の先制弾に「そこそこできるとは思っていましたけど、良い形で彼の自信になるようなゴールだったと思います」と竹中監督も評価を口に。町田が先にスコアを動かしました。
さて、「3年ぶりに全国大会へ出て最初は硬かったが、それは想定内だった」(高田監督)ものの、「先制されると苦しくなるなと思っていた」という指揮官の懸念が的中してしまった名古屋。27分にはCBの高橋誠二郎(3年・名古屋グランパスU15)のフィードを受け、左をえぐった柴田駿(3年・名古屋グランパスU15)の折り返しは町田の右SB須藤友介(1年・FCトッカーノU-15)がきっちりクリア。33分には町田も加倉井の左スローインを引き出した岡本が左サイドを切り裂き、白井を経由して金子誠幸(2年・ランサメントFC JY飯能)のシュートはDFにブロックされましたが好トライ。34分は名古屋。吹ヶを起点に深堀隼平(2年・名古屋グランパスU15)が左へ振り分け、川﨑のグラウンダークロスは中と合わず。「慎重に行こうとし過ぎて、1個遅かったり1個余計に持っていることが多かった」と高田監督。なかなかフィニッシュを取り切れません。
30分過ぎから「ちょっと予想外にボールの所に出られなかった」(竹中監督)町田のプレスが弱まると、34分も名古屋。高い位置でボールを奪った吹ヶのエリア外シュートは柴崎がキャッチ。35分も名古屋。柴田、深堀、北野と繋いで、左から深堀がグラウンダーで入れたクロスは、町田のCB西前一輝(2年・FC町田ゼルビアJY)が体を張ってクリア。40分も名古屋。エリア内で森が粘り、一旦阻まれた自身のシュートを北野が続けて叩くも、柴崎がファインキャッチで仁王立ち。「ある程度相手も4-1-4-1でブロックを作って、カウンターというのは関東大会からそういう形でやっていたので、おそらく手を焼くだろうなとは思っていた」とは高田監督。町田が1点のビハインドを手にして最初の40分間は終了しました。
「前半は案の定相手の思うツボだったかなと思います」と高田監督が話した名古屋は、後半もスタートからラッシュ。42分に右から川﨑が蹴ったFKはゴールキックへ流れてしまいましたが、45分には深堀、吹ヶと回して森がシュートまで持ち込み、良く戻っていた白井にブロックされたものの、ゴールへの意欲を立ち上がりからピッチに滲ませます。
プレスに行けなくなった前半の終盤を受けて、「『ゴール前で蓋をするのはしょうがないよ』と。『1つボールには出たいけど、それをどのくらい耐えられるか』と『それをどのくらい引っ繰り返してゴールに迫れるか』という話はしました」という竹中監督。47分には柴崎のキックを青木が収めて右へ流し、金子のミドルはDFに当たって枠の右へ。すると、48分には1人目の交替。少し足を気にしていた佐々木を下げて、山田颯(3年・FC町田ゼルビアJY)を左サイドへ送り込み、左サイドの岡本をセンターにスライドさせて、着手した全体のバランス向上。
52分の決断は高田監督。「負けていましたし、追い付かなくてはいけないのでいつもより早めに仕掛けた」というカードは柴田に替えて田中彰馬(2年・名古屋グランパスU15)。田中をそのまま右サイドへ投入すると、53分に森が左サイドを抜け出して中へ送ったボールは田中の足元へ。少しシュートが遅れ、寄せた金子と加倉井にクリアされましたが、いきなりチャンスに絡んでみせると、同点弾はその2分後に。
55分、中央でボールを持った川﨑は右サイドへ長めのスルーパス。走った田中は加速してマーカーを引き離すと、そのままグラウンダークロスを中へ。速い球足でGKとDFの間を抜けたボールに、きっちり詰めた北野のシュートはゴールネットを力強く揺らします。「ドリブラーなのでこの暑さの中では相手も嫌だろうと」田中を送り出した高田監督の采配ズバリ。名古屋がスコアを振り出しに引き戻しました。
襲い掛かる赤鯱。56分、吹ヶがフィードを送り、北野が左から折り返したボールを受け、森が1人かわして枠へ収めたシュートは柴崎が懸命のファインセーブ。59分、ここも田中が起点として絡み、上がってきた高橋を経由して川﨑が中へ付け、森が放ったシュートは1年生の須藤が決死のブロック。「田中でちょっと時間が創れたことで相手もかなり引っ張られたので、9番と10番がかなり空いた」と高田監督。青いスタンドの悲鳴。水際で耐える町田。
決まり手は「良いボールを蹴るヤツがいるし、デカいヤツがいる訳じゃないですけどチャンスはあるかなと思っていた」(高田監督)セットプレー。直後の右CK。レフティの川﨑がニアへ蹴り込むと、飛び込んだ吹ヶのコースを変えるヘディングは綺麗な軌道を描いて、ゴール左スミへ吸い込まれます。実は1失点目に吹ヶが関与していたこともあって、「アイツのミスで失点していますから良くてチャラですけどね」と笑ったのは高田監督。わずか4分間で両者の点差は引っ繰り返りました。
リードしていた状況から一転、ビハインドを追い掛ける展開となった町田。60分には先制弾の岸本と舟橋碧人(1年・緑山SC)を入れ替え、前へのパワーを増強すると、66分にはカウンター発動。中央を運んだ山田は右へ振り分け、カットインしながら白井が打ったシュートは、しかしクロスバーの上へ。67分には名古屋もエリア内で深堀のパスから、田中が放ったシュートは枠の左へ。68分は町田。山田の仕掛けから、こぼれを叩いた青木のミドルはクロスバーの上へ。山田が自身の推進力で攻撃を牽引するも、遠い2度目の名古屋ゴール。
おそらくは35度を超える酷暑の中、残り10分は双方が次々と切った交替カード。69分は町田。右SBで奮闘した1年生の須藤に替えて、小熊颯(3年・川崎チャンプ)を投入。72分は双方が同時に。町田は岡本と金山竜己(1年・FC町田ゼルビアJY)を、名古屋は深堀と梶山幹太(2年・FC五十嵐)をそれぞれスイッチ。75分は町田のチャンス。ここも山田の仕掛けから、金山の左クロスへ舟橋が突っ込むもわずかに届かず。77分は名古屋のチャンス。北野と森が2人で運び、川﨑のミドルは枠の右へ。スコアは2-1のまま、いよいよ熱戦も最終盤へ。
78分は名古屋に3人目の交替が。同点ゴールの北野に替わったのは、1年生の杉田将宏(1年・Nagoya S.S.)。79分は町田に最後の交替が。金子に替えて、最後の勝負を託されたのは1年生の鈴木直人(1年・FC町田ゼルビアJY)。80分は町田に千載一遇の同点機。疲弊した身体に鞭打って左サイドを上がった加倉井のクロスは、少し軌道がズレてゴール方向へ。名古屋のGK加藤大智(3年・名古屋グランパスU15)も懸命にバックステップで食い下がるも、届かなかったボールはそのままクロスバーにヒット。こぼれに食らい付いた白井のヘディングは枠の右へ逸れ、イレブンもベンチも、そして応援席も一様に頭を抱えます。
80+2分には池庭諒耶(3年・名古屋グランパスU15)が、80+3分には森が決定的なシュートを外し、「後半は相手が絶対にへばってくると思ったので、我慢していって1点入ればポンポンと行けるやろなとは思っていた。3点目がもっと早く入れば4枚目、5枚目も使えたんですけどね」とは高田監督ですが、80+4分には川﨑と杉浦文哉(1年・名古屋グランパスU15)を入れ替えて時間を使う慎重さできっちりゲームクローズ。「今日は正直な所勝ち点3を取れればいいなと思っていたので、そういう意味では良かったです」と指揮官も安堵の表情を浮かべた名古屋が、逆転勝利で勝ち点3を獲得する結果となりました。
名古屋は厳しいゲームとなった初戦で貴重な白星を手にしました。「プレミアもそうなんですけど、守備をみんなでしっかりブロックを作って、それもできるだけ引かないで高い位置で捕まえて、ドリブルが好きなやつがいたり走れるやつがいたりというオプションはいっぱいあるので、それを生かしたいなと思っています」と高田監督が話したように、軸足は守備に置きながら、田中のような切り札でゲームテンポを変えられるというのは、短期決戦においては大きな武器かなと。「決して守備の所で軸になるヤツや強いヤツがいる訳じゃないですけど、そこはもうみんなで良い距離間でコンパクトにして、隙を作らないようにするということがウチの良さでもあると思う」と高田監督。加藤直生(3年・名古屋グランパスU15)と青山夕祐(1年・名古屋グランパスU15)のCBコンビを中心に、どれだけ守備の安定感を高めていけるかが、上位進出の大きなキーファクターになりそうです。
全国デビューで強豪の名古屋をあと一歩まで追い詰めた町田。ただ、「正直やれたという手応えはないですね」と竹中監督。そしてこの言葉はある程度予想できたものでした。個人的にも最近町田の数試合を見た中では、「組織とかグループとかいうものが皆無だった」という指揮官の厳しい言葉にも頷ける、一番やりたいことがやれていないゲームだったなと。「全国であっても彼らならもっとやれるだろう」というのが私の率直な感想です。「この大会は彼ら自身が本当に掴んでここまで来たものなので、彼らには色々な失敗をする権利があるし、その中で何かゲーム中に修正したり、局面で色々な気付きがあったりすればいいんですけど、なかなかそういう瞬間には今日は出会えなかったと思います」と竹中監督が話したように、この全国は彼らが実力で勝ち獲った舞台であり、失敗から多くのことを学べる舞台でもあるはず。初めての全国というプレッシャーや群馬の酷暑という厳しい条件は重々承知の上で、彼らの秘めている大きなポテンシャルに期待している者として、是非次戦以降はここまで積み上げてきたものを披露するべく、やりたいことへ果敢にトライして欲しいと思います。 土屋
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