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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
お互いにシーズン初勝利が欲しい重要なサードマッチ。上州のネイビーと豊後のブルーが対峙する舞台は、綺麗な芝生の緑も眩しい正田醤油スタジアム群馬です。
開幕戦はホームに1万人以上の大観衆を集めながらも、横浜FCに0-1で悔しい敗戦。「少しずつ自分たちの目指すサッカーができつつある」と今シーズンから指揮を執る服部浩紀監督が振り返った前節の熊本戦は、一度逆転されながらも最後はアクレイソンの弾丸FKでしぶとく勝ち点1を奪取した群馬。「このスタジアムでやると『ホームなんだ』という気になります」と愛するクラブへ帰還した松下裕樹を中心に、このスタジアムでサポーターへ勝利を届けるべく大事な90分間に臨みます。
3シーズンぶりのJ1を目指す決意のシーズンはまさかの連敗スタート。しかも2試合続けて無得点と、厳しい現実を突き付けられている大分。3バックの中央に山口貴弘、ボランチの一角に兵働昭弘、CFに岡本英也とセンターラインへ新加入選手が並ぶ中で、アウェイとはいえ何より欲しいのは勝ち点3という特効薬。決して少なくない人数でゴール裏へ詰め掛けたサポーターのためにも、このゲームを落とすわけにはいきません。13.9度という気温の割に、まだ日陰では群馬を感じさせるような冷たい風も。楽しみな一戦は大分のキックオフで幕が上がりました。
先にセットプレーからチャンスを掴んだのは大分。2分に兵働がショートで始めた右CKはシュートまで行けなかったものの、3分には左サイドでFKを獲得。風間宏矢が蹴ったボールはゴール前にこぼれ、最後は松下が大きくクリアしましたが、際どいシーンを創出。4分にも風間の左CKを兵働が拾い、再び風間が左から上げたクロスはDFにクリアされるも、まずはアウェイチームが相手ゴールを窺います。
一方の群馬も6分に大津耀誠が奪ったFKを左から吉濱が放り込み、DFのクリアに遭いましたが1つチャンスを創ると、12分にはファーストシュート。左から小林亮がスローインを投げ入れ、受けたタンケは反転しながら素早くフィニッシュ。強烈なシュートは左サイドネットの外側へ突き刺さるも、その豪快な一連にどよめくスタンド。
ただ、ここからは「相手もあまりうまくいっていないんだなという感じを僕らも感じながらやっていた」(松下)「明らかにうまくいっていない感じでしたね」(青木)と2人が声を揃えたように、大分はイージーミスの連発でほとんど形らしい形を創れず、攻撃がノッキング。「ちょっとちぐはぐというか、全体で裏を狙うんですけど『ちょっと繋げるな』という部分で取られてしまった」とは山口。「良い冬芝のグラウンドで"ねちっこさ"というのがある」と松下も独特の表現で評したピッチ状態もあって、お互いの距離感を取り切れないままにボールロストが続きます。
とはいえ、20分に松下が右へサイドチェンジを通し、夛田凌輔のクロスはダニエルに跳ね返されるも、サイドから悪くない形を生み出した群馬も、長いボールを前に蹴り込みながらチャンスの芽を探るものの、「やはりケアしていたのはタンケですね」と田坂監督も話した大分の、最前線のブラジリアンストライカーにはタイトに寄せて基点を創らせず。30分を過ぎても双方合わせて記録されたシュートはわずかに1本。
31分にはようやく大分に訪れた好機。高い位置で相手のミスから兵働がボールを収め、岡本は右へ。風間の鋭いクロスは夛田が何とかCKに逃げましたが、そのCKを風間が入れると、ニアに飛び込んだ伊佐耕平がヘディングを右スミへ。ここは群馬のGK富居大樹が横っ飛びでしっかりキャッチしたものの、あわやというシーンを見て俄かに活気付くアウェイのゴール裏。
33分は群馬。ルーキーながらこれで3試合連続のスタメンとなった江坂任が左へ流し、小林が右足で上げたクロスにタンケが飛び付くも、頭に当てたボールは勢いなく枠の右へ。39分も群馬。左サイド、ゴールまで約35mの位置からアクレイソンが無回転で狙ったFKは枠の左へ。42分に松下が、45分に兵働がそれぞれ放ったCKもシュートには結び付かず。自らのチームに対して「前半の戦い方は、ほぼ何もなかったです」という田坂監督の言葉は、おそらくピッチを見つめていた大半の人のゲーム自体に対する共通認識。流れの中からはお互いに1本のシュートも繰り出せなかった前半は、必然のスコアレスでハーフタイムに入りました。
「自分たちのサッカーはまったくできなかったですし、選手は眠っているのか、ウォーミングアップの延長なのかわからないくらい何もなかった」と45分間をバッサリ斬り捨てた田坂監督。「ウチのペースにまったくならなかった前半」(山口)を経た大分のイレブンは、審判団が出てくるよりかなり早い段階でピッチへ全員が登場。後半への意欲と戦い方をもう一度意思統一し直した雰囲気をピッチの上に漂わせます。
47分、47分、48分、48分。いずれも結果としてシュートへは繋がらなかったものの、すべて兵働が蹴った4連続CKに込めた勝利への小さくない欲求。54分にも兵働が浮き球を左のハイサイドへ落とすと、走った風間はマーカーともつれながらも粘って粘ってボールを持ち出し、カットインしながら放ったシュートは小柳達司が何とか体でブロックしましたが、「後半になってキックオフから我々のサッカーを展開し始めた」と田坂監督。眠れる亀が剥き出した鋭利な牙。
やや押し込まれ始めた群馬も、58分には左から江坂が中央へ打ち込み、吉濱遼平の落としをアクレイソンが叩いたミドルは枠の左へ外れると、先に動いたのは大分。「状況次第で背後が狙えるんじゃないかというのはこの試合で常に狙っていましたし、そのタイミングという所も時間帯も試合の流れを見て決めようかなと思っていた」という田坂監督は59分、岡本に替えてエヴァンドロをピッチへ。10番を預けたストライカーにさらなるギアアップを託します。
煌いたのは「ずっとこの試合に向けて監督からは『スピードで勝負しろ』と言われていた」その10番。62分、自陣でボールを持ったダニエルがシンプルにフィードを送ると、カバーに入った夛田より一瞬速くボールに触ったのはエヴァンドロ。完全な1対1の状況も「落ち着いてGKを見て、どこが空いているのかを見て、そこでシュートした」ボールはゴール右スミへ確実に吸い込まれます。「今回は先発を外れて『少し肩の力を抜いてサッカーを見てみなさい』と。『出た時には思う存分やってみなさい』という話をしたんですけど、いきなりああいう形で自分の良さを出してくれた」と指揮官も目を細めたエヴァンドロの面目躍如。大分が1点のリードを手にしました。
「ペース的にはこっちが握っていたので失点がもったいなかった」(青木)「熊本戦も今日ももったいない失点」(松下)と2人が声を揃えたように、"もったいない"失点でビハインドを負った群馬は63分、失点する前から準備していた永井雄一郎をそのまま大津に替えて最前線へ投入。「少し相手のリズムで守備の枚数も多くしてきた中で、ボールを中盤で支配できるように」という指揮官の期待を背負い、チーム最年長のベテランがピッチへ駆け出します。
67分は群馬。松下が入れた左FKのこぼれをタンケが拾い、小林の左クロスを小柳が頭で残すもDFが何とかクリア。その左CKを吉濱が蹴り込むと、キャプテンマークを巻いたダニエルが大きくクリア。逆に70分は大分にFKのチャンス。ゴール右寄り、約25mの位置から兵働が狙ったボールはわずかに枠の右へ。72分も大分。風間が左へ振り分け、伊佐がアーリー気味に巻いたクロスへ西が頭で合わせると、ボールは左のポストを叩いて富居が必死にキャッチ。「セカンドボールを拾いながら相手のエリアでボールを動かせた」(山口)大分の続く好リズム。
73分の決断は服部監督。吉濱をベンチに下げ、「タンケとのコンビを期待して」同胞のオリベイラをそのタンケとの2トップの位置へ送り込み、永井を右SHへスライドさせて勝負へ出ますが、74分の好機も大分。エヴァンドロのパスを右に開いて受けた風間がマイナスへ折り返し、伊佐が枠内へ収めたシュートは夛田が懸命にクリア。75分に田坂監督も西と石川大徳をスイッチさせると、77分にもビッグチャンス。エヴァンドロを起点にダニエルが右へ展開したボールを、風間は丁寧に中央へ。走り込んだ松本昌也のシュートはクロスバーにヒットしたものの、ゲームリズムはアウェイチームに。
79分にオリベイラ、夛田と繋ぎ、永井が右から左足で上げたクロスも「彼はチームの中で本当のリーダーになっている」とエヴァンドロも認めるダニエルが難なくクリア。大分サイドから見れば「危ないシーンもほぼほぼなかったですし、やられる雰囲気もまったくなかった」(田坂監督)中で、群馬に訪れた同点機は残り10分で。
80分、右サイドからオリベイラが左足でクロスを送り込むと、中央でキープしたタンケはDFに囲まれながらボールロスト。ところが、ホイッスルを吹き鳴らした塚田智宏主審が直後に指し示したのはペナルティスポット。群馬にPKが与えられます。確かに鈴木義宜が腕でタンケを押さえ込むようなアクションこそしていたものの、かなりデリケートな判定に当然大分の選手も抗議しましたが、覆るはずもなく群馬には絶好のチャンスが。自らキッカーを名乗り出たタンケは短い助走から、中央のゴールネットへ力強くボールを蹴り込みます。こちらもブラジル国籍の10番が一仕事。スコアは振り出しに引き戻されました。
息を吹き返した群馬のラッシュ。82分、松下が斜めのパスを打ち込み、永井を経由して「前に推進力あるドリブルというのはアタルの良い所」と松下も評価する江坂がシュートを放つも、DFが体を投げ出してブロック。85分、永井のパスをタンケが収め、オリベイラが右へ振り分けたボールを夛田はクロスまで。ここも最後はDFに跳ね返されたものの、「J2の中だとタンケも能力的には勝てて、相手も嫌がっているなというのはわかる」と松下が話したタンケをシンプルに使う格好で、ホームチームが逆転弾を貪欲に探り始めます。
87分に大分のチャンスを演出したのは33番のレフティ。中央でボールを持った兵働はフワリと中央前方へ。走った風間は縦に30m近く運び出し、そのまま放ったシュートは枠の右へ外れたものの、一瞬のエアポケットをえぐる嗅覚はさすがの一言。ただ、このプレーの直後にその兵働は後藤優介との交替でベンチへ。田坂監督はダニエルをアンカーに配し、前線にエヴァンドロと風間を並べて、松本と後藤をその下に置いた3-1-4-2気味の布陣で狙う勝ち越しの一撃。
90分に松下が粘り強いキープで獲得したFK。左からオリベイラが放ったキックはファーまで届き、タンケが当てたヘディングはクロスバーをかすめて枠を外れるも、「たぶんブラジル人同士で何かやろうという感じでやっているんだと思う」と松下も話す2人の連携は間違いなく相手の脅威に。90+2分にもオリベイラが右の裏へ蹴り込み、飛び出したタンケにはダニエルが激しく寄せてクリアしましたが、この最終盤でホットラインが輝きを放ちます。しかし、このダニエルとの接触で倒れたタンケは立ち上がることができずに、そのまま担架で運ばれてピッチアウト。90+4分にオリベイラのパスから江坂が入れた左クロスを武田がキャッチすると、程なくして聞こえたファイナルホイッスル。「ここでまだ簡単に何かを掴ませてくれるほど、このリーグというのは甘くないなと感じました」と服部監督。両者に勝ち点1ずつが加えられ、共にシーズン初勝利は次節以降へのお預けという結果になりました。
「まず推進力がない、走れない、判断が遅いと。だからこそ『ウォーミングアップの延長ですか?』とハーフタイムに選手に聞いたんですけど、それぐらい選手が少し試合に乗っていなかったと。これは開幕戦もあったんですけどそういう所が我々の勝てない原因かもしれない」と田坂監督が話したように、大分は前半の45分間の戦い方が非常にもったいなかったなと。これは「前半の内容の悪さが最終的に出てしまったゲーム」と山口も認めています。ただ、「エヴァは今日は短い時間の中で非常に良い動きをしたんじゃないかなと思っています」と田坂監督も言及したエヴァンドロが覚醒の雰囲気を醸し出していたのは小さくない収穫。「自分はいつもどんな状況でも自信を持ってプレーすることが大事だと思う」というストライカーが本当に自信を持ち始めたならば、さらなるステップアップが望めそうな萌芽は感じさせるゲームだったと思います。
「開幕戦から今まで4失点しているんですけど、崩された失点はしていない中で、やはり与えなくてもいい失点が多い」と服部監督も嘆いたように、群馬は開幕から3試合続けてイージーな失点が目立つ格好に。「ウチは2点、3点取れるチームじゃないと思いますし、ここ2試合はしっかり点を取ってくれているので、守備はしっかり踏ん張って、単純なミスはしっかり整理して、チームみんなで頑張って失点しないのが一番大事」とデイフェンスリーダーの青木。逆に単純なミス絡みの失点が多いからこそ、整理する部分が明確だということも言えると思います。攻撃面に関しては最後の負傷交替が心配ではありますが、「タンケをチームとしてもっとうまく使って勢いに乗らせてあげたいなという感じはありますね」と松下が話したように、タンケの使い方の徹底は間違いなく勝敗に直結する課題。コンビネーションの良さそうなオリベイラとの併用も含めて、10番を最大限に生かせるかどうかにチームの浮沈は懸かっています。 土屋
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