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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
Jリーグの球春を告げる22回目の祭典は4年ぶりの横浜開催。リーグ制覇を争った2強が再会する舞台は日産スタジアムです。
チーム創設から20年余りで初めて強いられたJ2の1年を最強の糧に変え、J1へと復帰したシーズンでいきなりリーグ戦、ヤマザキナビスコカップ、天皇杯の三冠を達成したG大阪。迎えた今シーズンもレギュラークラスの流出はほぼゼロという状況で、この日のスタメンに抜擢された赤嶺真吾やベンチスタートの小椋祥平など、計算できる実力者を迎え入れる磐石ぶり。ACLの初戦ではホームで黒星スタートとなったものの、「去年やれていたことをしっかりとやるだけで、1試合で考えがブレるということもない」と遠藤保仁。シーズン一冠目を蒼きサポーターと分かち合うため、宿敵との90分間へと臨みます。
ほとんどその手に覇権を掴みながら、シーズン終盤の失速で結果的に9年ぶりのリーグタイトルを逃してしまった昨年の浦和。リベンジを誓う今シーズンはズラタン、石原直樹、橋本和、高木俊幸、武藤雄樹、加賀健一と他クラブの主力クラスを大量に補強して、チームにさらなる活力を注入していますが、こちらもACLの初戦はアウェイとはいえ、韓国の強豪・水原三星に痛恨の逆転負け。「水曜日にACLを戦い、木曜日の朝に向こうを出発して夕方に戻り、実質的に中1日でのゲーム」とミハイロ・ペトロヴィッチ監督もタイトなスケジュールを強調する中で、負けたくない相手との負けられない一戦に挑みます。スタンドを埋めた開幕を待ちきれないフットボールジャンキーたちは実に47666人が集結。山本雄大主審のホイッスルが鳴り、宇佐美貴史がボールを蹴り出して注目の好カードはスタートしました。
主審の笛で頻繁にゲームの流れが止まった立ち上がりは、お互いに慎重なゲーム運び。ファーストシュートは7分の浦和。左WBの関根貴大が斜めのマイナスへパスを打ち込み、柏木陽介の落としを槙野智章がミドルにトライ。ボールはクロスバーの上へ外れましたが、ようやく試合にわずかな動きが。G大阪も8分には藤春廣輝からパスを受けた宇佐美が浮かせ、倉田秋がクロスを上げるも大森晃太郎には届かず、浦和のGK西川周作がキャッチ。フィニッシュには至りません。
10分を過ぎると見えてきたのはボールを持つ浦和に、ブロックを築くG大阪という構図。「前半の内にもっと自分らの時間を増やしたいというのはありました」と前置きした明神智和も、「中を閉めて外に出てから勝負というのは、ある程度チームでも練習はしていた」と言及。右の平川忠亮と左の関根に対しては、基本的にボールが入ったらSBが寄せる形で対応。これには「中を閉めたら結局サイドに出て、サイドからのクロスという所がレッズの形なので、最終的に僕らが弾けばというのはありました」とCBの丹羽大輝も同調。13分に柏木が右から蹴ったFKは丹羽がクリア。直後の右CKも柏木のキックは東口順昭がパンチングで弾き、こぼれを拾った柏木のクロスも東口が確実にキャッチ。ボールキープを主導権に繋げたい浦和も、流れの中からはチャンスを創り切れない時間が続きます。
19分はG大阪。鋭い出足でボールを奪ったCBの岩下敬輔が素早く左へ回し、得意なサイドへ開いた宇佐美は右足でアーリークロスを送るも、走った赤嶺とはタイミングが合わず。22分もG大阪。大森、倉田、宇佐美と細かくボールが回り、エリア外から倉田が放ったシュートは那須大亮が体でブロックしたものの、ようやく記録されたチームファーストシュート。
さて、「少なくとも我々は引いた相手に対しても、攻めて行こうという姿勢は見せていた」とペトロヴィッチ監督も語った浦和は、最終ラインでのパス回しからサイドまではボールを運べるものの、そこからのアタックで目立っていたのは関根のアグレッシブな単騎突破ぐらい。26分に高木が左サイドからドリブルで運んで李忠成に預けるも、リターンの呼吸が合わずにロストした場面が象徴するように、とりわけ梅崎司と高木のシャドーが流れの中に顔を出せず。「シャドーの所は捕まえづらいので、そこはボランチとCBで受け渡しの声をはっきり出すという所」(丹羽)もG大阪がうまく対処したことで、良い時に出てくる斜めのフリックも影を潜め、エリア内への侵入回数も限られます。
32分は浦和。柏木の右CKを遠藤がクリアすると、飛び付いた那須のヘディングは東口がキャッチ。35分も浦和。柏木のパスから梅崎がトライしたミドルはクロスバーの上へ。41分には森脇良太のパスを柏木が左へ振り分け、槙野がカットインから放ったミドルもクロスバーの上へ。45+1分はG大阪に久々のチャンス。赤嶺が那須に倒されて獲得したFKを右から遠藤が入れると、丹羽が頭で競り勝つもその前にオフェンスファウルの判定が。「守備の部分では練習通りにできていたと思うし、前半は特に回させてればというのはありました」(明神)「決定的なチャンスは創られていないし、やられても最後にボックス内で守ればっていうのも話していたので、押されてはいたけど精神的には安定していた」(遠藤)と両ベテランが声を揃えたように、浦和の攻撃をG大阪が落ち着いて凌ぐような展開の45分はスコア動かず。0-0でハーフタイムに入りました。
「前半は集中して我慢強く戦えた」とイレブンを迎えた長谷川健太監督も、「前半からアグレッシブに押し込むような展開を思い描いていましたが、レッズの方が非常に切り替えも早くて前線の選手のプレッシャーがキツかった」と決して狙い通りではなかった45分間への本音も。ただ、きっちりネジを巻き直して後半のピッチへ選手を送り出すと、54分には決定的なチャンスを。倉田が浮かせたパスを左から藤春がクロスに変え、走り込んだ明神はダイレクトボレーを枠内へ。ここは西川がファインセーブで応酬したものの、サイドアタックから浦和ゴールを脅かします。
55分に右サイドの高い位置を取った平川が戻し、梅崎を経由したボールから森脇がクロスを放り込み、ファーに潜った高木のシュートはヒットせずに枠の左へ外れると、浦和に1人目の交替が。その高木を下げて、ズラタンをCFの位置へ投入。李がシャドーの位置へ降りて、前線の配置転換に着手。59分には関根のドリブルをきっかけに奪った右CKから、柏木が蹴り入れたボールはニアで赤嶺にクリアされたものの、「スライドも早かったし、なかなか外を上手く使うという部分は難しかった」(平川)状況下でも、左右のサイドから1つずつ創ったチャンスの芽。
長谷川監督の決断は62分。「レッズのようにターンオーバーするメンバーはいないので、みんなで戦うしかないのかなということでベンチから使いました」というパトリックを赤嶺に替えてピッチへ。63分には浦和も槙野の素晴らしいサイドチェンジでハイサイドに走った平川が後方へ戻すと、森脇が左足で鋭いクロス。完全にラインブレイクした関根が角度のない位置で合わせたシュートはクロスバーの上へ外れるも、「外だけじゃなくて裏という部分では後半何回か取れていた」(平川)内の1つから決定機を掴みましたが、逃した魚の大きさを痛感するのはその5分後。
67分、パトリックのパスを引き出した宇佐美はスルーパスでリターン。右サイドを走ったパトリックには那須が懸命に寄せてカットしたものの、その右CKを遠藤が正確に蹴り込むと、中央でパトリックが競り勝ったボールはファーへ。ここにきっちり顔を出したのはやはり宇佐美。目の前に捉えたゴールネットへ難なくボールを送り込みます。「前半ちょっと苦しい時間帯でも後ろが耐えて、我慢強くやってくれれば前が取れるという信頼感が今はある」と丹羽も話したように、今シーズンも宇佐美とパトリックの良好なコンビネーションは健在。「FWとして1つゴールが生まれたこともポジティブに捉えられると思う」と話した39番の先制弾。G大阪が1点のアドバンテージを手にしました。
「昨シーズンのチャンピオンだけど、自陣に引いてブロックを作って、あまりチャンスらしいチャンスを創れていなかった」と指揮官が評した相手にリードを許した浦和は、69分にもパトリックとのボールの奪い合いからDFラインの連携が乱れ、宇佐美に枠の左へ外れるあわやというシュートを打たれると、72分に2人目の交替を。梅崎と武藤をスイッチして、再びシャドーの顔ぶれに変化を。それでも、76分に槙野が獲得した左FKを自ら直接狙うも、カベに当たったボールは東口が冷静にキャッチ。77分に槙野の横パスから柏木が右足で狙ったミドルは弱く、東口がキャッチ。「ボランチもヤットさんとミョウさんが中を閉めてくれていたので、なかなか相手もボールを入れづらかったと思う」と丹羽。選手交替も攻撃のテンポアップには直結してきません。
78分に長谷川監督は宇佐美を下げ、2枚目のカードとしてリンスを投入すると、80分には藤春のパスを引き出したリンスが、ファーストプレーで左サイドをえぐり切って中へ。自ら放ったシュートのこぼれに反応した倉田のヘディングは、ライン上で森脇がクリアしましたが、"仕上げの"空気も充満済み。その左CKを遠藤が蹴り込み、パトリックのヘディングは西川が何とかキャッチするも、「『ああ、去年の終盤はこういう感じで戦ってたな』みたいな感じで思い出しながらゲームの中でやっていた」と丹羽。三冠という最強の成功体験がもたらす勝ち切るためのコンセンサス。
追い込まれたペトロヴィッチ監督は86分に最後の交替を。那須を下げて鈴木啓太をボランチへ送り込み、阿部を3バックの中央へスライドさせて、シンプルなパワープレーへ移行。88分には関根が左サイドを切り裂いてクロスを上げ切り、右で拾った森脇の低いクロスにズラタンが頭で合わせるも、ボールは枠の右へ。90分には正当に見えた遠藤のタックルがファウルを取られ、浦和に与えられた間接FKを柏木が蹴り込むと、ゴール前の混戦から岩下が触ったボールを東口がキャッチ。デリケートなシーンでしたが山本主審はノーホイッスル。続いた2つの判定もあって、スタンドは騒然とした雰囲気に包まれます。
長谷川監督は90+1分に最後の交替カードを。90分間走り切った大森を下げて、「あの運動量は凄い」と"ネクジェネ"に出場したユース所属の堂安律も舌を巻く阿部浩之を投入して、取り掛かるゲームクローズ。90+2分にはリンス、阿部と回し、パトリックのパスからリンスが右スミへ飛ばしたミドルは西川が辛うじて弾き出すも、交替出場の3人だけでフィニッシュワークを。直後に遠藤が蹴った右CKに、合わせたパトリックのヘディングは枠の右へ。最後まで打ち出す2点目への意欲。
「何回か『キープしろ』と思った時もゴリゴリ行く時もあったんですけど、あれはアイツの判断なのでね」と丹羽も笑う"仕上げ"はパトリック。90+4分、槙野のパスは遠藤に当たって後方へ。拾ったパトリックはハーフウェーライン付近から阿部勇樹と完全な1対1に。足を出す間合いを与えず、最初に打ったシュートは西川もよく体に当てたものの、リバウンドをすかさず押し込んだのもパトリック。「ゴールを決めた瞬間に気持ち的に脱ぎたくなった」と振り返ったブラジリアンは、ユニフォームを脱いでバロテッリばりのゴールパフォーマンス。「いいんじゃないですか、彼らしくて」と笑ったのは盟友の宇佐美。「この前のACLの初戦で負けたことによって、もう1回勝つということに対して貪欲になれたのは良かったと思います」と明神も話したG大阪がライバルを下し、伝統の富士ゼロックススーパーカップを横浜の空へ掲げる結果となりました。
G大阪のしたたかさが際立ったゲームという印象を受けました。「できれば自分たちが攻めて勝ちたいですし、今日の勝ちに満足はできないので、もっとボールも支配したいですし、まだまだだと思いますけど」と遠藤が話したように、とりわけ前半のパフォーマンスに納得の行っていない様子は複数の選手の言葉から窺えましたが、「前半に関してはあれで最低限の所」という明神の言葉もまたイレブンの共通した意見。この日に関してはパトリックというジョーカーが控えていたこともあって、ある程度後半勝負というスタンスの中、きっちり2トップが結果を出したことで、攻撃陣と守備陣の信頼関係が一層強固になったことも間違いのない所でしょう。「勝ちを積み重ねながら、できる限り最低でも去年の良い時のレベルに持って行って、そこからさらに上積みを試合をこなしながらやっていければいいと思います」と遠藤。今シーズンもG大阪がタイトル争いの主役を演じることは疑いようがなさそうです。 土屋
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