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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
昨年の選手権予選に続く新・群馬クラシコの実現はファイナルで。新人戦のタイトルを懸けて、前橋のタイガー軍団と桐生のロイヤルブルーが対峙する一戦は敷島です。
とうとう立ちはだかり続けてきたベスト4の壁をぶち破り、最後は星稜の執念に屈したものの、選手権全国準優勝という新たな勲章を手に入れた前橋育英。そんな彼らが新チームとなって迎えた新人戦の初戦は、全国の決勝からわずかに6日後。さらに「学校の色々なこと、入試とかいっぱいあったので、ハッキリ言ってなかなか両立はできなかったですね」という山田耕介監督もまだチームの指揮へ着手する前段階ながら、昨日は昨年のインターハイ予選決勝で苦しめられた常盤に2-0で競り勝って県内1冠目に王手を。届かなかった"あと1つ"へのリスタートを優勝の二文字で飾りたい80分間です。
選手権予選は準決勝で前橋育英に敗れ、県リーグを制して乗り込んだプリンス関東参入戦でも初戦敗退を強いられるなど、昨年はあと一歩という結果が続いた桐生第一。「去年は突出した選手が何人かいたけども、今年はいないので『アベレージを上げる』。これで行こうと思います」と話す田野豪一監督に率いられ、今大会は健大高崎を2-1というスコアで下すと、準々決勝でも共愛学園を延長後半終了間際の決勝点でやはり2-1と撃破。さらに昨日の準決勝では前橋商業を4-1と快勝で下して堂々とファイナルへ。3年ぶりの新人戦獲得で巻き返しに弾みを付けたい一戦へ臨みます。会場は群馬高校サッカー界の聖地として知られる敷島。赤城おろしが吹き荒ぶ中、桐一のキックオフで注目のファイナルはスタートしました。
開始わずかに13秒で繰り出されたファーストシュート。繰り出したのは青の23番。高い位置でボールを奪った滝沢和司(2年・リトルジャンボSC)は、一片の躊躇もなくミドルにチャレンジ。ボールは育英のGK平田陸(2年・ジュビロSS磐田)がしっかりキャッチしたものの、まずは勝利への意欲を前面に。3分には育英にもビッグチャンス。得意のドリブルで運んだ横澤航平(2年・前橋FC)がスルーパスを通し、抜け出した稲葉智己(2年・ヴェルディSS小山)はGKをかわすも、ここはよく戻った桐一のキャプテン一宮憲太(2年・AZ'86東京青梅)が間一髪でクリア。お互いにやり合う格好でゲームは立ち上がります。
そんな中、序盤から目立ったのは「準決勝までは中盤の球際で緩い所とかあったので、昨日のミーティングで話をして、そこは厳しくやろうという所で出足とか意識して速くやって、そこで上回れていたシーンが多かったので行けるかなと思いました」と一宮も話した桐一のボールアプローチ。前から木暮一樹(2年・前橋JY)と今泉祐哉(2年・前橋エコー)がきっちりコースを限定し、入ったボールは島田祐輔(2年)と井上翔太(2年・AZ'86東京青梅)のドイスボランチを筆頭に厳しく寄せてグシャリ。「まだチームに全然なっていない」と山田監督も認める育英のラインを分断し、攻撃の形を創らせません。
5分は桐一。中央やや右寄り、ゴールまで25m強の位置から金子凌大(2年・前橋JY)が直接狙ったFKはカベにヒット。13分も桐一。右SBの内林晴佳(2年・前橋JY)を起点に井上、今泉と細かく繋ぎ、最後は井上のオフェンスファウルを取られましたが、バイタル攻略の一歩手前まで。「あまり飲まれずに自分たちのプレーができたので良かったと思う」とは滝沢和司。続く桐一の好リズム。
魅せたのはタイガー軍団の新10番。16分、最終ラインから入った長めのフィードはエリア付近に流れ、DFとGKが見合った格好でボールが落ちると、いち早く反応したのは左から斜めに走ってきた横澤。一瞬でGKの位置を確認したレフティの選択は緩やかなループ。ゆっくりゆっくり落下したボールは、ゆっくりゆっくりゴールネットへ収まります。「航平はやっぱり局面になったらやりますよね」と山田監督も評価する10番がさすがの一撃。育英がスコアを動かしました。
やり返したのは2分後。18分に桐一へ訪れたカウンターのチャンス。自陣から滝沢和司がDFラインの裏へボールを蹴り出すと、ギリギリの駆け引きからラインブレイクした今泉は独走。完全な1対1から放ったシュートは、平田も懸命に体に当てましたが、後方にバウンドしたボールはそのままゴールネットへ弾み込みます。「チームのコンセプトとしてタフなチームというのがある」と一宮も言及した"タフ"さの証明。すぐさまスコアは振り出しに引き戻されました。
さて、攻撃の可能性が横澤のドリブルと左SBに入った渋谷由馬(2年・大宮アルディージャJY)のクロスに限られつつあった育英は、それでも24分に連続CKを獲得すると、直後の25分に2度目の歓喜を。中央でボールを持った稲葉は右へラストパス。金子拓郎(2年・クマガヤSC)のフィニッシュは桐一のGK休石陸(2年・前橋JY)がファインセーブで阻みましたが、諦めずに詰めた金子拓郎の"2本目"はDFも掻き出しきれずにゴールネットへ。これが全国準優勝のDNAか。再び育英が1点のアドバンテージを握ります。
またもや追い掛ける展開となった桐一でしたが、依然として前へのパワーは継続。失点直後の26分に井上がわずかにクロスバーを越えるミドルにトライすれば、27分にも今泉のパスから上がってきた一宮が仕掛け、こぼれを拾った奈良勇希(2年・前橋JY)の左足ミドルは平田が何とかファインセーブで回避。さらに37分には絶好の同点機。奈良のパスから左サイドを抜け出した今泉は中央へクロス。木暮が丁寧にコースを突いたヘディングは枠へ収まり、同点かと思われた瞬間、ライン上で育英のCB中嶋修造(2年・横浜F・マリノスJY追浜)が頭で弾いたボールはクロスバーの下を叩いてピッチ内へ。スーパークリアでスコアボードの数字に変化はなかったものの、「思ったよりプレスがしっかり効いて、やり合った所で五分になったりした部分は予想よりは頑張れたなという所」と語ったのは田野監督。やや桐一がペースを掴んで推移した前半は、それでも決定力で上回った育英が1点をリードしてハーフタイムへ入りました。
後半はスタートから育英に2人の選手交替が。1.5列目に入っていた高橋英暉(2年・FC東京U-15むさし)と田端龍馬(2年・前橋FC)を、左SBの渋谷と綿引康(2年・鹿島アントラーズJYノルテ)を、それぞれそのままのポジションでスイッチして残された40分間に向かうと、41分には稲葉が右からカットインしながら休石にキャッチを強いるシュートを。45分にも右のハイサイドに流れた田端が時間を創り、稲葉のパスをキャプテンの尾ノ上幸生(2年・東京久留米FC U-15)が繋いで、金子拓郎が左スミを狙ったシュートは休石がかろうじてファインセーブで阻止。直後に尾ノ上が蹴った左CKを、ニアで合わせた綿引のヘディングは枠の左へ外れたものの、タイガー軍団がようやくゲームリズムを引き寄せます。
押し込まれる中で47分には桐一も木暮が右へ振り分け、内林の折り返しを奈良は1人かわしてシュートへ持ち込むも、力なくGKにキャッチされましたが、3分後の咆哮もその右サイドから。奈良のパスを井上が中へ付けると、「自分よりキグがフリーなのが見えていた」滝沢和司が落としたボールを木暮は左足でシュート。やや力んで右へ逸れかけた軌道を、「咄嗟に足を出そうと思った」滝沢和司が捻じ曲げると、GKの逆を突いたボールはゴール左スミへ吸い込まれます。「あんなシュートが入るなんてないよ。当たっちゃっただけだよ」と笑ったのは田野監督ですが、「ボールは見えていました」と主張する23番の同点弾が飛び出し、両者の点差は霧散しました。
追い付かれた状況下で山田監督は3人目の交替を決断。52分に稲葉と佐藤誠司(2年・FC東京U-15むさし)を入れ替え、右SHの金子拓郎が左SHへ、左SHの横澤が中央の1.5列目へスライドし、佐藤は右SHの位置へ。55分に右へ開いた横澤のクロスに田端が飛び込むもわずかに届かなかったシーンを経て、56分にはボランチも井上滉斗(2年・前橋FC)に替えて大塚諒(1年・横浜F・マリノス追浜)を送り込み、勝ち越しへ向けたギアアップに着手。田野監督も同じく56分に1人目の交替として、奈良を下げて滝沢昴司(2年・リトルジャンボSC)を1トップへ送り込み、今泉は右SHへ。双子の滝沢兄弟がピッチ上に揃います。
前半の流れを「こっちは正直、共愛さんや健大さんや前商さんと厳しい試合をやってきたけど、育英さんは昨日の常磐戦が初だと思うので、そういう所でウチの方がちょっと経験値があったかなというだけ」と見ていた田野監督が、「育英さんも後で当然合ってくるなと思っていたら合ってきましたからね」と話したように、後半は育英が掴んだ主導権。64分は育英。尾ノ上が裏へ落としたボールを、田端が合わせたシュートはヒットせずに休石がキャッチ。65分も育英。ここも尾ノ上が巧みにスルーパスをDFラインの裏へ通し、佐藤が抜け出すも全力で帰った滝沢和司が何とかクリア。69分も育英。金子のパスから田端が枠へ収めたシュートは休石がキャッチ。牙をちらつかせる育英の攻勢。耐える桐一。
70分に田野監督も2枚目の交替カードを。左SBで奮闘した齋藤康晴(1年)を下げて、堀越零央(2年・前橋FC)を右SBへ投入し、右SBで好プレーを連発していた内林を左SBへ移して最後の勝負へ出ると、71分にはカウンター発動。滝沢昴司が左へ付けたパスを、滝沢和司は浮かせて裏へ。滝沢昴司は一歩及ばずにボールは平田がキャッチしましたが、滝沢兄弟で惜しいチャンスを。72分は育英に決定機。左サイドで粘った田端がクロスを放り込み、飛び込んだ佐藤のヘディングは枠を捉えるも、休石が正面でキャッチ。75分は桐一。金子凌大のフィードから滝沢昴司がエリア内へ侵入するも、中嶋が懸命にクリア。アディショナルタイムの掲示は2分。120秒で決着は付けられるのか。
80+1分は桐一にビッグチャンス。休石のキックに今泉が競り勝つと、反応した滝沢和司はエリア内からシュート。DFに当たってコースが変わったボールは、しかし平田がファインセーブで仁王立ち。この時間帯での決定機逸に、スタンドの誰もが延長戦突入を予感した直後。煌いたロイヤルブルー。右CKを任されている一宮が「自分はある程度キックは得意としているし、ニアにカーブで巻くという練習は常にしていた」という、まさに"ニアにカーブで巻く"キックを蹴り込むと、そこに走り込んだのは今泉。1秒後に揺れたゴールネット。狂喜。咆哮。最後は猛プレスでプレーをしっかり切った木暮と落合太貴(1年・前橋JY)の交替で時間も使いながら、アディショナルタイムもしっかり潰し切って聞いたファイナルホイッスル。「育英に勝つなんて何年に1回かしかないからとっておきたいんだけど(笑) まあ子供たちがやったからいいんじゃないかな」と田野監督も笑った桐一が逆転勝利で育英を倒し、3年ぶりに新人戦を制する結果となりました。
新人戦3連覇を逃した育英ですが、「やっぱり新人戦でも何でも負けたら良かったという訳にはいかないですよね」と話した山田監督も、「負けたら当然みんな悔しいけど、課題はそれなりに見つかったし、一番それを感じているのは本人たちだと思うので、それを良い方向に持っていければそれはそれでプラスになるので、負けたことをプラスにした方が良いですよね」とも。選手権での結果を考えれば今年の目標は明確。「チームでこれからやっていくに当たっては結構良い材料になっていきますよね。こういう形で負けたということは、まだまだみんな頑張らなくちゃいけないんだとか、そういうのが出てきますから」と山田監督。"あと1つ"を目指すタイガー軍団に、自分たちを成長させるために必要なリベンジの材料がまた1つ増えたのかもしれません。
桐一で印象的だったのはDFラインの選手も育英のハイプレスに屈せず、簡単にクリアしないで持ち出したり、きっちり味方にパスで繋ぐ姿勢を貫いたこと。「今年はボールを持てる選手も多いので、後ろから繋ぐというのは意識してやっている」とは一宮ですが、その落ち着きは他の県内のライバルもなかなか持てない要素だと思います。それに関しては、「全国初出場以降はビビらずにやれているのはあるね。鈴木武蔵さまさまだよ(笑)」と田野監督が少し冗談交じりに語ったように、良い意味で育英を恐れないメンタルが伝統として根付きつつあるのかなと。また、劇的な優勝にも「向こうも新チームを立ち上げたばかりでもっと強くなってくると思うので、あまり浮かれずにやりたいなと思っています」と滝沢和司が話せば、「最初の大会でこういう風に最後まで諦めずに逆転できたというのは、自信には繋がると思います。ただ、現状はやれましたけど、育英も1年間かけて相当調整をしてくると思うので、自分たちももっともっとレベルアップしなくてはいけないと思います」とキャプテンの一宮もクールな表情。「ここは驕らずにいくしかないかなと。そこだけは厳しく言っておきますよ」という田野監督の想いは「インターハイと選手権を獲りたいというのは全員あると思う」(一宮)選手たちも認識済み。今年の桐一は面白いチームになりそうな気がします。 土屋
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