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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
関東の高校サッカー界を二分する強豪同士の対峙。7年ぶりのファイナルを狙う流通経済大柏と、このステージは5度目の挑戦で初のファイナルを目指す前橋育英の激突は、引き続き埼玉スタジアム2002です。
そのレベルは間違いなく国内最高峰の果たし合い。永遠のライバルとも言うべき市立船橋との県予選ファイナルを鮮やかな逆転劇で制し、4年ぶりに冬の全国へ戻ってきた流通経済大柏。注目を集めた作陽との初戦は土壇場まで追い詰められながら、福井崇志(3年・RIP ACE SC)の後半アディショナルタイム弾で追い付くとPK戦で粘り勝ち。2回戦も矢板中央との関東対決をまたもPK戦で拾い、水橋と立正大淞南には共に完封で競り勝って、セミファイナルへ進出してきました。クォーターファイナルでは3ゴールを叩き込むなど、間違いなくチームは上り調子。86回大会以来の戴冠へ、まずは目の前の90分間に立ち向かいます。
出場はすなわち優勝候補の称号と共に。常に頂点を期待されながら、近年はなかなか全国での結果が出ていなかった前橋育英。圧倒的な力で県予選を勝ち抜き、2年ぶりの選手権も初戦は初芝橋本に最小得点差で何とか辛勝を収め、山梨学院大附属には全国3連敗中だったPK戦でまたも薄氷の勝利。ところが、迎えた準々決勝は2年連続で国立のピッチに立った京都橘を、青柳燎汰(3年・クマガヤSC)のドッピエッタを含む4ゴールで完全粉砕。6年ぶりにセミファイナルまで駆け上がってきました。過去4度の挑戦はいずれも跳ね返されてきたこのセミファイナルという"鬼門"にも、「自分たちにはあまり関係のないことなので気にせずに自分たちのプレーをしようとは言っていました」と坂元達裕(3年・FC東京U-15むさし)。同校、そして県勢初のファイナルへ準備は万端です。スタンドには1試合目を上回る26309人の大観衆が。王座への挑戦権を巡る注目の一戦は流経柏のキックオフでスタートしました。
立ち上がりから双方の狙いは明確。「流経さんは立ち上がりの15分は凄く勢いがあって、ゴールへの執着心が凄いと思ったので、その中で15分はしっかり対応しようと思っていた」(鈴木徳真・3年・FC古河)「最初は流経が凄い勢いで来るので、そこは蹴って対応して、疲れた所で自分たちも繋いでリズムを創っていければと思っていた」(坂元)と育英の2人が声を揃えたように、まずは前に出たい流経柏といなしたい育英という構図が鮮明に。前線の高沢優也(3年・ジェファFC)を前者が積極的に狙い、後者はCBの上原大雅(3年・FC厚木JY DREAMS)と宮本鉄平(3年・前橋FC)もある程度大きなクリアで対処。ファーストシュートは育英。味方のクリアをバイタルで拾った青柳のボレーは大きくクロスバーを越えましたが、9分になってようやく双方初のフィニッシュが生まれます。
14分にも育英にチャンス。関戸裕希(3年・ヴェルディSS小山)が左へ流すと、上がってきたSBの岩浩平(3年・横浜・FマリノスJY追浜)のシュートは枠の右へ外れたものの、SBのオーバーラップに滲むペースアップ。16分に流経柏も澤田篤樹(3年・FCトリプレッタJY)が左CKを蹴りましたが、ボールは中と合わずゴールキックへ。18分も育英。岩が入れた左スローインから、マーカーと入れ替わった渡邊凌磨(3年・クラブレジェンド熊谷)は強烈な枠内ミドル。ここは流経柏のGK瀬口隼季(2年・湘南ベルマーレU-15平塚)がファインセーブで回避するも、徐々にゲームリズムはタイガー軍団へ。
懸案の15分を過ぎ、「流経さんのプレスにもちょっと慣れたきた感じがあった」(鈴木)育英の続く攻勢。20分、鈴木の縦パスをスイッチに青柳が落とし、坂元を経由して渡邊が放ったシュートは、流経柏のキャプテン広滝直矢(3年・柏イーグルスTOR'82)がブロックして瀬口がキャッチ。23分、鈴木がDFラインの背後を狙い、飛び出した関戸の折り返しを青柳が狙ったシュートは枠の右へ。28分、宮本がシンプルにフィードを送り、DFのクリアをダイレクトで叩いた渡邊のボレーミドルは瀬口がキャッチしましたが、「リズム良く繋いだりシュートまで行くことができていた」と坂元も話したように、セカンドも鈴木と吉永大志(3年・JFAアカデミー福島)でことごとく回収した育英が主導権を引き寄せます。
ただ、「前橋育英は細かいパス回しがゴール前で凄いうまいので、自分たちのプレスが掛からない時間というのが少しあった」と小川諒也(3年・Forza'02)が話した流経柏も、当然指をくわえて傍観するつもりはなし。31分に澤田が蹴った左CKはオフェンスファウルになりましたが、32分には渋谷峻二郎(3年・F.C.LIBERTAD)、高沢と細かく繋ぎ、久保和己(3年・柏イーグルスTOR'82)のエリア内侵入は上原に阻まれるも、悪くないアタックを。35分には高沢とのコンビで左サイドを抜け出した小川のクロスは鋭くゴール前を襲い、育英のGK吉田舜(3年・クマガヤSC)が何とかフィスティング。直後に小川が入れた右CKを、ニアへ飛び込んだ高沢はシュートまで持ち込めなかったものの、「自分たちもサイド攻撃や1対1の場面では強さを出せたかなと思う」と小川。やり返す本田軍団。
37分も流経柏。小川が左から蹴り込んだFKはファーで弾み、岩が何とかクリア。小川の右CKはCBの山田健人(3年・Forza'02)が頭で合わせるも、ヒットせずにボールは枠の左へ。42分も流経柏。小川が高い位置でボールを奪い、高沢の反転ミドルは枠の右へ。45分には流経柏の見せ場。久保と高沢の連携で獲得したFKは右寄り、ゴールまで約20mの距離。キッカーは今大会も幾度となくその左足をゴールへと繋げてきた小川。3歩の助走から直接狙ったボールは、わずかにクロスバーの上へ。45+1分も流経柏。高沢の横パスを久保が裏へ付け、渋谷のヒールからエリア内へ潜った高沢のドリブルは、「アイツは良くなってきている」と指揮官も評価する育英の右SB下山峻登(3年・クマガヤSC)が冷静にクリア。双方が自らの時間帯を創り合った前半は、スコアレスのままで45分間が終了しました。
後半スタートから早くも動いてきたのは名将・本田裕一郎監督。奮闘していた渋谷に替えて、相沢祥太(3年・ジェファFC)を投入。「満を持してという感じはあったし、本人のサッカーに対する姿勢も良くなってきた」という10番に残りの45分間を託すと、後半開始わずか38秒でその相沢の左クロスから久保がシュート。勢いの弱いボールは吉田にキャッチされましたが、相沢が早くも1つチャンスを演出します。
すると、山田監督も早々に決断。50分に守備面で効いていた岩を下げて、「あそこからアーリークロスが入るので、岩がどうこうと言うよりは攻撃の基点を創ろうと」高精度キックを誇るレフティの渡辺星夢(3年・クマガヤSC)をそのまま左SBへ送り込み、左SHだった渡邊と2トップの一角を務める関戸の位置も入れ替え、攻撃へ変化を付けるシフトチェンジを。
51分は流経柏。中盤で粘って収めた澤田のミドルは、DFに当たって吉田がキャッチ。同じく51分も流経柏。久保が頭で競り勝ち、高沢が左に持ち出しながら放ったミドルは枠の左へ。53分は育英に決定機。宮本のシンプルなフィードで抜け出した渡邊が、角度のない位置から枠へ収めたシュートは瀬口がファインセーブで応酬。その20秒後にも育英に決定機。右サイドでボールを持った吉永のアーリークロスはファーまで届き、左足を振り抜いた渡邊のボレーはクロスバーにハードヒット。一瞬で流経柏へ突き付けた渡邊凌磨という脅威。
58分は育英。鈴木が左へ振り分け、下山のクロスを青柳の前で広滝が掻き出すと、吉永がダイレクトで狙ったミドルはクロスバーの上へ。59分は流経柏。相沢が自陣でのFKを素早くDFラインの裏へ蹴り出し、小川が走るも飛び出した吉田が大きくクリア。ほとんど同時に切り合うカード。64分は本田監督。右SBの本村武揚(2年・FC多摩JY)を下げて、"ハンパない"スーパーサブの福井をここでピッチへ。最終ラインも広滝、山田、大竹陸(3年・FRIENDLY JY)を並べる3バックに切り替え、前線に福井と高沢を、その下に相沢を置く「攻撃的になって点が動くかなというのはある」(小川)3-4-1-2で勝負に。65分は山田監督。関戸に替わって送り出すのは、京都橘戦でダメ押しの4点目を華麗に決めた横澤航平(2年・前橋FC)。探り合う意図。絡み合う思惑。
煌いたのは赤の2番。72分、センターサークル付近でボールを奪った相沢は、前方を見据えると浮き球でDFラインの背後へ。走った小川はマーカーの前に体をねじ込み、胸トラップで前へ持ち出すとノーバウンドで左足一閃。GKの頭上を綺麗に破ったループシュートは、ゴールネットへ弾み込みます。途中投入された相沢の演出を、FC東京入団内定のレフティがきっちり成果に。とうとうスコアが動きました。
「ショートカウンターで速く攻められるのが一番怖かったが、その通りに点を取られてしまった」と失点を振り返る山田監督は、75分に3人目の交替を。ボランチを吉永からインターハイ優秀選手の小泉佳穂(3年・FC東京U-15むさし)に入れ替え、中盤の強度向上に着手。それでも流れは流経柏に。77分、福井が粘って残し、高沢が左から狙ったミドルは吉田がキャッチ。79分、高い位置で澤田がボール奪取に成功。相沢の左足ミドルは枠の上へ。80分、福井とのワンツーで抜け出した高沢のシュートは枠の左へ。「相手は総掛かりになってくるだろうから、そこをもう1点カウンターで狙うというプラン」(本田監督)で確実に進める時計の針。残された時間は10分間とアディショナルタイムのみ。
81分の決断は山田監督。「残り10分を切った所で3バックにして、菊池を入れてパワープレーでやろうというのは話していた」と最後のカードとして下山と菊地匡亮(3年・FCエルマーノ那須)をスイッチして、前線に人数を掛けたパワープレーに移行。82分は育英。ピッチ左、ゴールまで約30mの距離から渡邊が枠へ飛ばしたFKは瀬口ががっちりキャッチ。84分は流経柏。小川が粘って奪った左CKを相沢が蹴ると、吉田が難しい体勢も懸命にキャッチ。85分にも育英は小泉のロングFKを宮本が落とすも、大竹が必死のクリアを敢行すると、流経柏のカウンター発動。高沢が右へ流し、福井がトライしたシュートは吉田にキャッチされましたが、きっちりフィニッシュで終わる意識を徹底。「匡亮に蹴ってもその次が拾えなくて厳しい展開だった」と坂元。刻々と消えていく時間。
タイガー軍団は死なず。「先制されたぐらいからやり残すことがないように、前に上がりたいなという気持ちはあった」というキャプテンの執念。対面の久保にほとんど抑えられていた横澤が左サイドで縦に付け、開いた渡邊が後ろに戻したパスを、小泉は右足でクロス。DFが懸命に頭で弾いたクリアが中央へこぼれると、ここに反応したのは鈴木。「スペースが空いていたのでそこは狙って」右へトラップで持ち出し、「相手はよく見えなくて、ゴールしか見ていない中で打った」エリア外からのシュートは、DFをかすめてわずかにコースを変えながらゴールネットへ突き刺さります。その時間、89分48秒。「『ああ、今年もこれでやられるんだろうなあ』『何がダメなんだろうな』と思っていた」山田監督も気合のガッツポーズ。ベンチへ一直線に駆け出した鈴木の周囲にできたのは黄色と黒の歓喜の輪。「ゴールへ向かうキャラじゃない」と坂元も話す、育英伝統の14番を背負った主将が大仕事。90+2分に小川が放ったこのゲームのラストシュートも外れると、スタジアムを切り裂いたタイムアップのホイッスル。両雄譲らず。ファイナルへの切符はPK戦で奪い合うことになりました。
「『勝てればもう1試合できるんだから、ここでは負けられないぞ』という風に送り出しました」(本田監督)「山学戦でPKで勝ったのは大きかったので、自信を持って蹴ってくれるんだろうなとは思っていました」(山田監督)。いざPK戦へ。先攻は流経柏。澤田のキックは左スミギリギリにグサリ。渾身のガッツポーズ。後攻は育英。チームを土壇場で救った鈴木は完璧なキックで左スミへ成功。1人目はお互いにきっちり沈めます。
流経柏2人目は高沢。9番のレフティが右を狙ったボールは、しかしゴールポスト直撃。すぐさま駆け寄ったのはキャプテンの広滝。仲間の輪に戻る高沢。育英2人目は渡邊。3回戦ではクッキアイオで決めた10番は左へ力強く成功。流経柏3人目は大竹。右のポストを叩いたボールは一瞬あってゴールネットへ。育英3人目は青柳。ストライカーは時間をたっぷり使って右スミへ成功。流経柏4人目は広滝。インサイドで蹴り出したボールはGKの逆を突いて右スミへ。2年生GKへエールを送る闘将。育英4人目は渡辺。途中出場のレフティは瀬口もわずかに及ばず右スミギリギリへ。4人目を終わって3-4。勝負は運命の5人目へ。
流経柏は小川。大会後はプロへとその戦うステージを移す2番は、外せば終わるキックを左スミへ冷静に突き刺し、左腕でガッツポーズ。育英は坂元。「正直プレッシャーは凄く大きかった」中で仲間から託された5人目。「応援席のみんなが凄く応援してくれて、自分もやらなきゃいけないなという想い」を乗せて左足で蹴ったボールは右。瀬口も同じ方向へ飛びましたが、1秒後に揺れたゴールネット。センターサークルで健闘を称えあった両チームの選手たち。「全力で頑張った結果なので悔いはないです」と小川。育英が5度目の挑戦にして初めてセミファイナルの壁を打ち壊して、2日後のファイナルへと駒を進める結果となりました。
「立ち上げの時から選手たちには『お前たちは力がないから』とずっと言っていた。去年のチームは個々の能力が非常に高くて、『それに比べたらお前たちは』と。でも、彼らは彼らで見返してやろうという反骨精神があって、チームとしてまとまってきて、『どうだ』という感じでやってきたような気はしますよね」と今年のチームについて言及した山田監督。実はインターハイの取材時に渡邊も「正直自分たちの代は弱い弱いと言われていてそういう悔しさもあったし、自分は良い意味で監督と戦っているという意識でやっているので、指示はしっかり聞いていますけど、その中で点を取った時、アシストした時、良いプレーをした時というのは監督にしっかり見て欲しいです」と話していたのが印象的でした。この日の試合後も坂元は「自分たちは『1個上の代より力がない』と言われていて、その中で勝ち抜くには『チームプレーだな』とみんなで言っていた。監督に力がないと言われて見返してやりたいという想いは凄くあって、1個上の代よりも上を目指して頑張ってきました」と想いを打ち明けながらも、「決勝に出ても優勝しないと意味がないと思うので、優勝して監督を胴上げしたいと思っています」とキッパリ。「僕は好かれなくていいので、子供たちが伸びてくれればそれでいい」という監督の想いは、既に教え子たちも理解しているはず。上州のタイガー軍団が初めて挑むファイナル。群馬に悲願の大旗を指揮官と共に持ち帰る覚悟はできています。 土屋
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