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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
まだ見ぬステージへ登り詰めるのか。帰るべきステージへ舞い戻るのか。初のファイナルを狙う日大藤沢と2年連続のファイナルを目指す星稜の激突は埼玉スタジアム2002です。
国内屈指の激戦区とも言うべき神奈川を7年ぶりに制して、全国の舞台へと帰還した"桜軍団"こと日大藤沢。初戦で徳島市立相手に崖っぷちまで追い込まれたPK戦を劇的にモノにすると、高川学園と開志学園JSCには揃って3ゴールと攻撃陣の爆発もあって快勝。迎えたクォーターファイナルは、優勝候補筆頭の東福岡を倒した静岡学園との対戦となりましたが、共に途中出場の前田マイケル純(3年・大磯中)と今井裕太(3年・SC相模原JY)がゴールを挙げて、同校初となる全国4強まで。それでも「この1ヶ月は日本一になるための準備をしてきた」と佐藤輝勝監督。一気に頂点まで駆け上がる覚悟を持って、この90分間に挑みます。
1年前。見えていた頂への視界をまさにその目前で遮られ、国立競技場のピッチで涙に暮れた星稜。「新チームになってから日本一になりたいということで彼らもやってきている」という木原力斗監督代行の言葉を待つまでもなく、今大会の目標はただ1つ。2回戦屈指の好カードとも称された鹿児島城西との初戦をPK戦で勝ち上がると、米子北に履正社と一筋縄ではいかない実力者を揃ってエース大田賢生(3年・星稜中)の決勝ゴールで下して、鹿児島実業以来9年ぶりとなる3年連続ベスト4を達成。ただ、彼らが目指すのはさらにその先。まずは再び最後の2チームへと名乗りを上げるべく、この90分間を戦います。セミファイナルとしては大会史上2度目の開催となる埼スタに集結した大観衆は20364人。綺麗な冬晴れの空の下、日藤のキックオフでゲームの幕が上がりました。
勢いを持って立ち上がったのは星稜。5分、平田健人(3年・千里丘FC)のパスを杉原啓太(3年・名古屋グランパスU15)が右へ流し、上がってきたSBの原田亘(3年・ヴィッセル神戸U-15)が鋭いクロスを放り込むと、ここは日藤のCB金井勇人(3年・SC相模原JY)がきっちりクリアしたものの、サイドアタックから良い形を創出。6分にも左サイドで藤島樹騎也(3年・名古屋グランパスU15)が切り返して好クロス。森山泰希(3年・名古屋グランパスU15)のヘディングは日藤のGK鈴木孔明(2年・横浜F・マリノスJY追浜)がキャッチしましたが、まずは前回のファイナリストが攻勢に打って出ます。
「初めての舞台でいつも通り強気に前向きにダイナミックにやろう」と佐藤監督に送り出された日藤も、9分に右サイドで獲得したFKを西尾隼秀(2年・バディーJY)が蹴り込むも、原田が確実にクリア。再び14分は星稜。左サイドで藤島とSB宮谷大進(3年・ヘミニス金沢FC)の連携で奪ったCKを前川優太(3年・セレッソ大阪西U-15)が蹴り入れ、鈴木大誠(3年・SOLESTRELLA NARA 2002)のヘディングはヒットせずにゴール右へ逸れるも惜しいシーンを。18分にも前川が左へ振り分け、藤島のカットインシュートは日藤のCB小野寺健也(2年・秦野南中)にブロックされましたが、藤島の推進力が目立った左を中心に「チームの良さであるサイド攻撃」(木原監督代行)で押し込んだ星稜の続くリズム。
すると、22分のビッグチャンスもやはり7番が。エリア内で左へ流れたボールを藤島が追い掛けると、DFが足を出してしまい転倒。上村篤史主審はペナルティスポットを指差します。ボール自体は外に流れており、決定機には直結しない状況でしたがPKの判定。キッカーは平田。短い助走から右を狙ったキックは、鈴木が完全に読み切ってファインセーブで弾き出しましたが、すかさず反応した前川が右からクロス。ファーへ流れたボールにDFも懸命に頭で触りますが、掻き出し切れずにボールはゴールネットへ収まります。一旦は潰えかけたチャンスをきっちり成果に繋げた星稜が、先にスコアを動かしました。
さて、劣勢の時間帯で失点を喫した日藤。佐藤監督は「大野の右のフィードを狙いとして送り出したんですけど、なかなかうまく行かずに遅れたプレーが出てしまった」と判断し、左SBで起用した福屋凌平(1年・横浜F・マリノスJY追浜)を本職の右SBへ戻し、初めて右SBに入った大野樹(2年・横浜F・マリノスJY)を「気持ちの部分では良かったので1対1に強く行きなさいと」左へスライド。さらに、「ディエゴも中で時間を創ることと、今井との絡みでゲームを押し戻したかった」と右ワイドの田場ディエゴ(3年・FC湘南JY)と今井の位置も入れ替え、再びリスタート。27分には右から田場がドリブルで仕掛け、西尾を経由して前田が左から切れ込みながら放ったシュートは鈴木がブロックしましたが、攻撃のペースチェンジに着手します。
ところが、次にオーロラビジョンに映る数字を増やしたのも星稜。35分、左サイドでボールを持った森山は、藤島のヒールリターンを受けるとえぐって中へ。ニアへ走り込んだ杉原は、マーカーともつれながらも素早く左足を突き出すと、ボールはゆっくりとゴールネットへ飛び込みます。「高さ対策として右サイドに身長の高い選手を置いておきたいというのもありましたし、試合には出られなかったんですけど、ずっと準備をしていて調子も良かったので使いました」という木原監督代行の期待に応える、今大会初スタメンのレフティが大きな追加点。点差は2点に広がりました。
「いつもだったら粘り強く1失点で戻ってきてくれるんですが」と指揮官も口にした日藤は、前半で2点のビハインドを。36分には田場が浮き球でDFラインの裏へ落とし、前田が抜け出し掛けるも飛び出した星稜のGK坂口璃久(2年・星稜中)が確実にキャッチ。42分にも田場のドリブルで取った右CKを西尾が入れるも、飛んだ金井は頭で残し切れず。43分には今井を起点に田場が右へ優しく流し、福屋のグラウンダークロスに今井が突っ込むも、坂口がコースを狭めてセーブ。さらに45分にも西尾の左FKを、ニアで前田がドンピシャヘッド。ボールはわずかに枠の左へ外れたものの、ようやく日藤に出てきたテンポ。
それでも次の1点を手にしたのも石川王者。45分にヒールで落とした大田が、森山からのリターンをシュートへ変えると、ボールはブロックしたDFの手に当たったというジャッジで、再度星稜にPKが与えられます。キッカーは大田自ら。力強い助走で左スミへ力いっぱい蹴り込んだボールは、鈴木もわずかに届かず。「相手の攻撃を耐える時間帯が多いのかなと思っていた中で、前半は0-0という戦いを予想していた」という木原監督代行の予想はポジティブに大外れ。星稜が望外とも言うべき3点のリードを奪う格好で、最初の45分間は終了しました。
「相手の試合巧者ぶりを凄く感じました」と素直に認めた佐藤監督。ただ、「後半に自分たちのサッカーをやれば、前半45分で相手が取ったものを取り返せるぞと」さじを投げるつもりは毛頭なし。後半はスタートから前田と大野に替えて、今大会好調の栗林大地(3年・FC湘南JY)と1対1のスペシャリスト三明風生(3年・横須賀シーガルズFC JY)を送り込み、まずは3点を取り返す覚悟を鮮明に打ち出します。
47分は日藤。左から西尾が蹴ったCKは、飛び込んだ小野寺もわずかに届かず。51分も日藤。ここも西尾が左からFKを入れると、小野寺が頭で競り勝ち、中村恒貴(3年・川崎フロンターレU-15)のシュートはオフサイドという判定になりましたが、52分には星稜も森山が右サイドを抜け出し、藤島がヒールで残したボールから大田のシュートはヒットせず。53分はまたも日藤。栗林が粘って落とし、田場が右にずらしながら放ったシュートは平田にブロックされるも、「後半は押し戻してくれた」と佐藤監督も認めたように、日藤が取り戻しつつある普段の勢い。
とはいえ、「DFラインは下げ過ぎず、勇気を持ってラインを高く保って守備するということを話していた」と木原監督代行も話した星稜も、高橋佳大(3年・FC.SOUTHERN U-15)と鈴木のCBコンビを中心に、コンパクトさを保ちつつもカウンターへの備えは万全。57分には1本のサイドチェンジから森山がわずかに枠の左へ外れるシュートまで。58分に日藤の中盤を支えるボランチ砂賀拓巳(3年・横須賀シーガルズFC JY)が狙ったミドルは枠の上へ。65分にも中村、栗林、田場と回したボールも今井はフィニッシュまで取り切れず。星稜ディフェンスの高い集中力は途切れません。
双方が切り合った交替カード。先に日藤。66分に西尾を下げて、今大会2ゴールをマークしている佐藤拓(2年・SC相模原JY)をピッチへ。後に星稜。67分に好パフォーマンスを見せた藤島と加藤諒将(3年・星稜中)をスイッチして、サイドの推進力に新たな変化を。68分は星稜。右から前川が入れたCKに、平田がヘディングで応えるもボールはクロスバーの上へ。69分は日藤。ミドルレンジから田場が強引に狙った右足ミドルは枠の左へ。71分は星稜。前川の右CKから、こぼれをダイレクトで叩いた原田のボレーは枠の左へ。71分には日藤が早くも最後の交替を決断。5試合目にして初めてベンチに入った石井雄大(2年・リトルジャンボSC JY)をピッチへ解き放ち、「30人全員が戦力になってくれている」(佐藤監督)証明と決意を残りの20分近くに滲ませます。
76分の決定機は日藤。左から三明がクロスを送り込み、中央で受けた田場のシュートはDFのブロックに遭うも、ボールは石井の足元へ。利き足とは逆の右足で狙ったシュートはクロスバーを越えましたが、フィニッシュへの積極性を披露すると、78分にも左から佐藤が当てたボールを石井が返し、ゴール右スミを襲った佐藤のミドルは坂口がファインセーブで応酬。そのカウンターから最後は大田に枠外シュートまで持ち込まれたものの、29番を背負った2年生が躍動し、チームに吹き込んだゴールへの意欲。
81分も日藤。右から砂賀が中央へ短く付けると、田場が思い切りよく打ったミドルはわずかにゴール左へ。何とか奪いたいセミファイナルでの1点。やや差し込まれながらもゲーム自体は落ち着いてコントロールしていた星稜も阿部雅志(2年・FC四日市U-15)、中條直哉(3年・アルビレックス新潟JY)と今大会でも活躍してきたアタッカーをピッチへ送り出し、ゲームクローズに着手。90+3分には今大会初出場となる長谷川朔太郎(3年・FC四日市U-15)も登場し、待ち望むのはファイナル進出を告げるファンファーレ。
90+3分、左から石井が投げ入れたロングスローを栗林が懸命に頭で繋ぎ、中村が受けたプレーもオフサイドの判定で流れが切れると、程なくして埼玉の空へ吸い込まれたタイムアップのホイッスル。「1試合1試合色々な困難がありますし、それを乗り越えて選手たちの成長が見えているというのは凄い幸せだなと感じます」と木原監督代行も納得の表情を浮かべた星稜が、堂々たる快勝を収めてファイナルという約束の舞台へと帰還する結果となりました。
「インターハイに負けた時、泣いている選手に『オマエら泣くほどやったのか?』と厳しく言って、『俺たちは本当に苦しいこともやろう』ということで、夏以降チームは本当に厳しいことも受け入れて、彼ら自身が変わりたいという気持ちで背中を押して、甘えを取ってここまで来れました」とインターハイの県予選ベスト16敗退という現実からスタートした彼らの変化について口にした佐藤監督。今大会もインフルエンザで次々に主力選手が離脱していく中で、「彼らは『そんなものに負けるか』ということでプラス思考で戦ってくれたこと、そういったことがあって、一歩一歩ですけど成長したのがここまで来られた理由だと思います」と指揮官も認める、チーム全体が身に付けていったリバウンドメンタリティが日藤の躍進を支えていたのは間違いありません。「ベスト8では唯一の県リーグですし、そこでも2位という別にパッとしない順位で、他のチームはプリンスとかプレミアとかなので、『県リーグの星だ』と言って頑張っています」と準々決勝後に笑って話してくれたのは2年生の小野寺。県リーグからの下克上で辿り着いた全国4強。「粘り強く諦めない日藤らしさは垣間見せられたのかなと思います。これは本当に次に繋がると。こういう経験を1,2年生は3年生からもらったんだから続けなくてはいけないし、それこそ本当の強豪チーム、本物のチームになっていくんだという話をしました」という佐藤監督の言葉を確かなものにするべく、3年生が切り拓いたこれからの日藤が歩み出す新たな道の第一歩は、この埼玉スタジアム2002からもう始まっています。 土屋
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