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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
全国8強を巡るサバイバルマッチ。スタイルを貫く首都の求道者と、ここ3年の冬の全国で最も勝利を挙げている古都の臙脂が激突する一戦は駒沢オリンピック公園陸上競技場です。
初戦で対峙した前原を1-0で退け、前日の2回戦では日章学園相手に都予選から続いていた無失点記録は5試合でストップしたものの、3年前の全国大会で落としたPK戦を制して、3回戦のステージまで駆け上がってきた國學院久我山。守護神の仲間琳星(3年・ジェファFC)、4バックの鴻巣良真(3年・ジェファFC)、内藤健太(3年・Forza'02)、花房稔(3年・横河武蔵野FC JY)、野村京平(2年・横河武蔵野FC JY)で創り出す"エレガントな守備"を強固なベースに、まずは同校史上最高位に並ぶベスト8進出を狙います。
前々回は準優勝、前回はベスト4と2年連続で国立のピッチを経験し、今シーズンは高円宮杯プレミアWESTにも昇格するなど、今や全国的にその名を知られる強豪校になりつつある京都橘。今大会も強豪揃いの京都予選をインターハイに続いて抜け出すと、迎えた初戦の第一学院戦はエースの中野克哉(3年・YF NARATESORO)が豪快に先制弾を叩き出し、途中出場の堤原翼(1年・FCグリーンウェーブU-15)と前川太一(3年・宇治FC)もゴールをねじ込んで、堂々とこのステージへ。3年連続の全国ベスト8を手繰り寄せる用意は整っています。この好カードを一目見ようと、駆け付けた観衆は8386人。首都と古都の邂逅は京都橘ボールでキックオフされました。
立ち上がりからボールをスムーズに動かしたのは久我山。「3戦目ということもあってみんなの緊張も取れて、芝の状態も良くてパスも回った」と仲間が話したように、内藤と花房のCBコンビを中心に最終ラインでのパス交換から、ジリジリと窺う縦へのスピードアップ。9分には内藤が縦へとクサビを打ち込み、自らも前へ上がってチャンスに絡む姿勢を見せるなど、まずは久我山がゲームリズムを奪いに掛かります。
一方、「昨日はボヤけた状態で入ってチームがバタバタしてしまったけど、今日は落ち着いて入れたんちゃうかなと思っていた」と米澤一成監督も話した京都橘は、ボールこそ相手に持たれる中でも個人の突破には切れ味が。12分には大野拳弥(3年・京都修学院中)のドリブルで獲得した右CKを中野が蹴り込み、ニアへ大野が飛び込むも仲間がパンチングで回避。直後の右CKを再び中野が入れると、こぼれを拾った山村龍平(3年・京都神川中)のクロスは仲間がキャッチしたものの、セットプレーから続けてチャンスを。21分にも中野が右へ振り分け、大野のクロスをスタメンに抜擢された堤原が残し、岩崎悠人(1年・彦根中央中)のシュートは左ポストを直撃しましたが、京都橘が上回った手数。
24分も京都橘。岩崎のパスから中野が枠へ収めたシュートは、仲間が何とかセーブ。25分も京都橘。左から大野が入れたFKに、飛び込んだハウザーケン(3年・AS.ラランジャ京都U-15)のヘディングはわずかにゴール右へ。28分は久我山。飯原健斗(3年・横浜FC JY)、鴻巣、宮原直央(2年・FC多摩)と細かくボールが回り、知久航平(1年・浦和レッズJY)のシュートがこぼれると、拾った鈴木遥太郎(2年・東急SレイエスFC)がすかさず放ったシュートは、「シュートブロックは彼の最大の武器」と指揮官も信頼を口にするGK谷田貝壮貴(1年・FC平野)がファインセーブで応酬。「相手はショートカウンターのチームで、自分たちのポゼッションといい形でマッチングして、お互いの良さが出た」と仲間。続く一進一退の攻防。
33分は久我山。澁谷雅也(1年・ジェファFC)のリターンを受けた左SBの野村は、斜めに速いクサビをグサリ。ターンした鈴木のミドルは枠の右へ外れるも、野村の見せたアイデアは秀逸。34分も久我山。澁谷のパスを今度は花房が縦に打ち込み、鈴木の落としを拾った花房のドリブルは大きくなってゴールラインを割りましたが、徐々に久我山が入れ始めた縦へのスイッチ。
36分は京都橘のチャンス。堤原を起点に大野が左へ繋ぐと、中野がエリア外から枠へ飛ばしたミドルは仲間がファインセーブ。その左CKを大野が放り込み、舞った小川礼太(2年・京都サンガU-15)のヘディングはゴール右へ。39分は久我山。知久、野村、鈴木と繋ぎ、エリアに潜った知久はシュートまで持ち込めず。40+1分も久我山。左サイドに流れていた飯原は、ゴールまで25m近い距離から無回転ミドルにトライ。枠を襲ったボールは谷田貝がファインセーブで何とか防ぎましたが、テクニカルなレフティがパンチ力も披露。「プラン通りには行けていた」という米澤監督の言葉は、おそらく両ベンチの共通した思惑。持ち味を出し合った最初の40分間は、スコアレスのままでハーフタイムへ入りました。
先に動いたのは久我山ベンチ。後半開始から鈴木に替えて名倉巧(1年・FC東京U-15深川)をそのまま正三角形で組んだ中盤の頂点へ送り込み、アジリティに優れるルーキーで高めたい機動力。ただ、後半がスタートすると勢いは京都橘に。43分、ボランチの志知大輝(3年・F.C.Alma大垣U-15)が付けたパスから、左へ流れた中野のシュートは枠の右へ。52分、中野と岩崎の連携でエリア内へ入り、ルーズボールをそのまま叩いた中野の右足ボレーは枠の左へ。53分、ここも岩崎と中野がボールを繋ぎ、3列目から走り込んだ山村のミドルは枠の右へ外れるも、フィニッシュまで取り切るのは「このまま続けようという形でハーフタイムは指示した」(米澤監督)京都橘。
54分は京都橘のビッグチャンス。大野の横パスを受けた中野は、右ハイサイドの裏へ絶妙のロブを通し、上がってきたSBの倉本光太郎(3年・京都サンガU-15)が叩いたシュートは花房が間一髪でブロック。直後の右CKを中野が蹴り込み、仲間のパンチングに反応した岩崎のシュートはクロスバーの上へ外れるも、「股関節と足首のケガも持っているので、それを差し引くとまあまあやったんかなと思う」と米澤監督も明かした中野が、それでも広範囲にボールを引き出し、久我山に一発の脅威を突き付けます。
米澤監督の決断は56分。「1年生でよく頑張った」と評した堤原を下げて、初戦はスタメンだった則包晃哉(3年・FC長岡京)を投入して、サイドの推進力向上に着手。57分には大野が右からアーリークロスを放り込むと、ニアへ突っ込んだ中野のアウトサイドボレーは枠の右へ。60分にも中野が右へ展開し、倉本のクロスに岩崎が当てたヘディングは仲間がキャッチ。「守備に関しては言うことないくらい非常に良かった」とは李監督。久我山の堅陣もそう簡単には揺るぎません。
久々に久我山へ訪れた好機は61分。飯原、知久と繋いだボールを、2回戦より収まりの良かった小林和樹(2年・ジェファFC)が落とすと、飛び込んだ知久のシュートはDFにブロックされたものの、このワンシーンが変えたゲームリズム。64分には内藤が左へ好フィードを送り、澁谷へはわずかに届かず谷田貝がキャッチするも、大きな展開でチャンスの一歩手前まで。67分に李監督は澁谷と山本研(2年・横浜F・マリノスJY)を入れ替え、その山本がファーストタッチで蹴り込んだ左CKは直接谷田貝がキャッチしましたが、「ちょっと走らされているので、だんだんカウンターの走力が切れていった」(米澤監督)京都橘を尻目に、久我山が一段階踏み込んだゴールへのアクセル。
70分は京都橘。左からSBの木村公紀(3年・京都サンガU-15)が中へ入れたボールを中野はヒールで残し、こぼれを狙った山村のミドルは枠の右へ。71分は久我山。内藤が左へ最高のサイドチェンジを突き刺すと、山本、小林と回し、名倉のドリブルがこぼれた所に小林も突っ込みましたが、ここは谷田貝も果敢にキャッチ。73分も久我山。鴻巣と名倉が絡んで、飯原が思い切り良く枠へ飛ばしたシュートは谷田貝がキャッチ。77分も久我山。名倉とのパス交換から、飯原が無回転気味に放ったミドルはゴール左へ。「あれだけ応援してくれるので、自分たちがやらなきゃいけない」と内藤も言及した大応援団の後押しも追い風に、東京王者は押し切れるか。
79分は久我山。飯原のショートパスを引き出し、知久がミドルレンジから狙ったシュートはDFに当たって、わずかにクロスバーの上へ。そのCKを右から山本が蹴るも、DFが確実にクリア。ピッチサイドでボードに滲んだ数字は"3"。80+1分は久我山。山本のFKは、谷田貝が力強いパンチングで回避。80+2分は京都橘。左CKを大野がショートで蹴り出し、中野が中へ運びながら放ったシュートは、しっかり鴻巣がブロック。80+3分は久我山。内藤が縦へ積極的に持ち出し、名倉は左へ展開。カットインしながら打ち切った山本のシュートがクロスバーを越えると、これがこのゲームのラストチャンス。前後半が終わってもスコア動かず。ベスト8の座はPK戦で争われることになりました。
先攻は2試合続けてのPK戦となった久我山。1人目を務めるレフティの飯原が蹴り込んだボールは、しかし右のポストを直撃。後攻の京都橘は1人目を任された志知がほぼど真ん中へ成功。久我山2人目の鴻巣はGKが飛んだ逆の右へ蹴って成功。京都橘2人目の倉本もGKの逆を突いて成功。双方4人が蹴り終わり、1-2と京都橘がアドバンテージを握ります。
久我山3人目はキャプテンの内藤。「1本目で読まれていたので『研究されているんだな』と思って、2本目の鴻巣がいつもと逆に蹴ったんですけど、いつも蹴っている方にキーパーが飛んで逆を突いて入ったので、『ああ、これは読まれてるんだろうな』と思って、自分も逆に蹴った」右へのキックは谷田貝が横っ飛びでファインセーブ。京都橘3人目のハウザーケンが確実に沈めると、前日のPK戦でラストキッカーとなった久我山4人目の花房も、内藤と歩調を合わせるように左ポストに当ててしまい、激闘に終止符。「今日の展開だったら彼が生きるんちゃうかなと思っていましたし、PKは予想以上に良くやってくれたと思います」と米澤監督も賞賛した1年生守護神の谷田貝が大仕事。京都橘が3年連続となるベスト8への切符をもぎ取る結果となりました。
印象的だったのは試合直前にバックスタンド前で組まれた京都橘の円陣。その中から「ここに来れていないヤツもいるんだから、まだ負けられないぞ」という声が上がります。「今日の試合のモチベーションは本当にそこやったんじゃないかなと思います」とは米澤監督。レギュラークラスの清水遼大(3年・京都城陽SC)や仙頭啓生(3年・ガンバ大阪門真JY)を含む5人が、体調不良のためにスタジアムへ来ることができず、「彼らのために」というのが京都橘イレブンの大きなパワーに。「ここを乗り切ったら今日来ていない5人がもう1回復帰できるチャンスがあるので、それが彼らの一番のモチベーションだったんちゃうかなと思います」と指揮官も認めた"モチベーション"が、ギリギリの勝負を制した1つの大きな要因だったようです。3年連続ベスト8という快挙に対しても、「それは去年のチーム、一昨年のチームと彼らが積み上げてくれた結果なので、今年のチームで行ける所までベストを尽くしたいなという想いはある。超えたいといえば超えたいですけど、1つずつやりたいなと思っているのでそんなにこだわってはいないです」と米澤監督もキッパリ。過去2年のチームも届かなかった一番上の頂まではあと3勝です。
「昨日PKで勝たせてもらったので1勝1敗。時の運が1つ私たちに向いてくれて今日のゲームができたので、たくさん応援してくれている人たちの前で、今日もう1試合できたということで、昨日勝って今日負けて良かったです」と独特の表現でゲームを振り返ってくれた李監督。PK戦という方式で涙を飲んだものの、「凄く楽しいゲームだったと思います」(仲間)「今日の試合の内容は今までで一番良かったし、久我山らしいサッカーができた。底力は内容と比例して、ちょっとは出せたかなと思います」(内藤)と2人が声を揃えたように、あるいは予選を通じても今大会の中では最も"らしさ"が発揮されたゲームだったのではないでしょうか。「ウチは東京のチームで通いなので、今日勝っていれば泊まりだったのかな(笑) そんなことを言っていたので、『1回くらい泊まろうね』という感じはあったんですけどね」と笑った李監督にとって、指揮官として迎えるのはこれが最後の選手権。「ただ、私はいつか久我山が全国優勝すると思っていますから。どこかのタイミングで優勝する時が来ると信じていますので、次の若い指導者たちが、次に入ってくる子たちが、それに向けて必ず実現するものだと私は思っていますので、そういう意味では私が監督が終わったということで、次の久我山の新しい歴史は続くと思います」と来年度以降のチームにエールを。「負けるのは大嫌いなので悔しいです」と涙を見せながら話した内藤も、「今年は去年の人たちが卒業していって、去年と比べられれば内容的にも全然ダメな試合が多かったですけど、最後に久我山らしいサッカーができたなと。自分が中学生の頃に『凄いな』と憧れたサッカー、そういうサッカーをして小さい子たちにも憧れて欲しいなという気持ちがあったので、最後にそういうサッカーができて、自分はディフェンスとして無失点に抑えられたので悔いはないです。1,2年生が点を取れなくて一番悔しいと思うので、来年頑張ってくれると思います」と最後は力強く。時代は移り、人は変わっても、『久我山らしさ』は「悔しい想いを受け継いで」(仲間)いくことで、また次のチームへと確実に繋がっていくことでしょう。 土屋
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