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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
大晦日の西が丘を潜り抜けてきた両雄の激突。第88回のファイナリストと第80回のファイナリストが相対する80分間は、引き続き駒沢オリンピック公園陸上競技場です。
初出場初優勝という快挙を達成し、日本の頂点に立ったのは5年前。そこから数えて4回目の全国出場と、今や高校サッカー界の強豪として存在感を発揮している山梨学院大附属。インターハイでは圧倒的な攻撃力で優勝を飾った東福岡に0-1と肉薄するなど、全国トップレベルも体感済み。迎えた今大会の初戦は第89回王者の滝川第二を、ストライカーの原拓人(3年・Uスポーツクラブ)が決めたPKの1点で退けて4年ぶりに初戦突破。「彼らが立てた目標の中にはやっぱり日本一というのはあったし、日本一にチャレンジできる大会は年に2回しかないのでこれは最後のチャンス」とは吉永一明監督。再び旋風を巻き起こす用意は万端です。
選手権出場25回は今大会出場校の中でも3番目に多い数字。インターハイでも選手権でも全国準優勝を経験するなど、県内のみならず全国的にも十分な知名度を誇る岐阜工業。2年連続の同一カードとなった県予選のファイナルでは、帝京大可児を1-0で下して5試合無失点という素晴らしい数字と共に連覇達成。昨年も全国のピッチに立っているメンバーが多数残り、今大会も初戦の香川西戦は前半に先制を許したものの、CFの永田薫(3年・若鮎長良FC)と立花稜也(3年・JUVEN FC U-15)の2ゴールで見事な逆転勝利。「中学時代の県選抜とか、Jのクラブユースからウチに来たとかはほとんどゼロ」と清本勝政監督も言及する雑草集団が、勢いそのままに昨年は敗退を余儀なくされた2回戦へ挑みます。2試合目の駒沢にも5287人のサッカージャンキーが集結。注目の好カードは山梨学院のキックオフで幕が上がりました。
先にアグレッシブな姿勢を見せたのは岐阜工業。6分に熊谷利紀(2年・愛知FC U-15)が蹴った左FKは山梨学院のGK古屋俊樹(3年・ヴァンフォーレ甲府U-15)にキャッチされましたが、14分にもミドルレンジから立花が放ったボレーはクロスバーの上へ。17分にはようやく山梨学院も左からの展開から、多田倫浩(3年・M.FC高松JY)がシュートを放つもDFがブロック。23分にも右サイドのCKは一旦弾かれ、再び右から蹴られたクロスにファーで原が飛び込むもシュートは枠の左へ。一進一退の展開が続きます。
さて、攻守のハードワークが持ち味の岐阜工業は33分に決定的なチャンス。左サイドをドリブルで運んだ立花は、角度のない位置から思い切ってフィニッシュ。ここは古屋がファインセーブで回避しましたが、双方通じで前半最大のチャンスは「絶対的なストロングポイント」と清本監督も認める9番から。直後に蹴った立花の右CKは古屋がキャッチしたものの、「立ち上がりからかなりパワーを持って来られて、プレッシャーを掛けられた」と敵将の吉永監督も認めた岐阜工業が窺う先制へのアクセル。
34分は山梨学院。左SHの福森勇太(3年・FC東京U-15深川)とポジションを入れ替えていた右SHの宇佐美佑樹(3年・アストロンJY)が、左からスルスルとカットインしながら放ったミドルはクロスバーの上へ。36分と37分に大場祐樹(3年・フォルトゥナSC U-15)がそれぞれ蹴った右CKと左FKはいずれもシュートまで持ち込めず。直後にも右サイドで創った流れから、多田が思い切って狙ったシュートはDFがブロックして、岐阜工業のGK大西裕之(3年・スポーツクラブ岐阜VAMOS)が何とかキャッチ。「ちょっとボランチの所でうまくパス交換できなくて、孤立した所でボールを失う場面が多かった」とは吉永監督。原の高さは岐阜工業のキャプテンマークを巻く村瀬大地(3年・JUVEN FC U-15)が、12センチの身長差をものともせずにほとんどシャットアウト。展開はほとんどフィフティに近い内容のまま、スコアレスで前半は終了しました。
「出来過ぎの前半だと褒めました」と清本監督も話した通り、一定の手応えを掴んで後半のピッチへ飛び出した岐阜工業。なかなか手数の出ない立ち上がりを経て、46分にはその岐阜工業が手にしたFKを熊谷が蹴るも、オフェンスファウルの判定。49分は山梨学院。福森の右クロスを、ファーに飛び込んだ多田が合わせるもゴール左へ。50分も山梨学院。キャプテンの山中登志郎(3年・インテリオールFC)がクロスを送り込み、大場が放ったシュートは大西がキャッチしましたが、山梨学院が徐々にゲームリズムを引き寄せます。
51分には清本監督が決断した1人目の交替。花井俊介(3年・JUVEN FC U-15)を下げて、「いつもあの時間に出す」という安田善裕(3年・羽島竹鼻中)をそのままの位置に投入して、サイドの攻守にてこ入れを。54分には吉永監督も1人目の交替に着手。1トップ下の池添勘太郎(3年・東久留米西中)に替えて、スピードスターの伊藤大祐(3年・ヴァンフォーレ甲府U-15)を右SHへ送り込み、宇佐美が1トップ下にスライドして、こちらもサイドアタックに一層の推進力を。
60分は山梨学院。古屋のフィードに原が競り勝ち、宇佐美が走るも大西がキャッチ。61分は山梨学院の決定的なチャンス。大場が中央から右へスルーパスを通し、伊藤が対角線上に放ったシュートは大西がファインセーブで阻止。63分にも伊藤が右から左へピッチを縦断しながら持ち運び、3選手が代わる代わる打った3連続シュートはいずれもDFが体でブロック。伊藤のドリブルをアクセントに山梨学院が攻勢を強めます。
68分にも山梨学院の決定機。多田が右へ展開したパスを、伊藤は躊躇なくファーまで届くピンポイントクロス。突っ込んだ福森のヘディングは枠を捉えましたが、ボールがヒットしたのはクロスバー。こぼれに飛び付いた多田のヘディングは懸命に大西がキャッチしたものの、「後半は相手も少し緩んできた」という吉永監督の判断に選手たちも呼応。71分にも福森、伊藤と繋いで、山中のミドルはクロスバーの上へ。すると72分にピッチサイドへ現れたのは10番の姿。「まだ万全ではないんですけど、フィニッシュの場面で技術の高さを持っているので、ワンチャンスで1点という所に賭けていました」と指揮官も言及した小川雄大(3年・FCヴァリエ都留)を宇佐美に替えて1トップ下へ。FC岐阜への入団が内定しているエースに託した勝利への一撃。
74分は岐阜工業。大西のロングキックを永田薫が落とし、突っ込んだ竹下晃太郎(3年・愛知FC U-15)はわずかに及ばず。75分は山梨学院。原のヘディングを小川が繋ぎ、大場のミドルはクロスバーの上へ。80分は岐阜工業。永田泰弘(3年・愛知FC U-15)が左へ送り、立花が縦へ進んで上げたクロスに安田が飛び込むもシュートは打ち切れず。アディショナルタイムの掲示は3分。勝敗の行方はどちらに。
80+1分は岐阜工業。立花が右CKを蹴り込むと、ファーへ流れたボールを村瀬がダイレクトで折り返し、永田薫が頭で枠へ収めたシュートは古屋がキャッチ。直後は山梨学院。福森がドリブルで突き進み、こぼれを拾った小川がエリア内へ切り込みながら、そのまま放ったシュートは大西がヒザでブロック。80+3分も山梨学院。右サイドの伊藤が中央へ戻し、まったくのフリーになっていた小川はそのままシュートにトライしましたが、ボールは枠を捉え切れずにゴール左へ。80+4分に清本監督が2人目の交替として熊谷と仕藤竜貴(3年・JUVEN FC U-15)を入れ替えると、程なくして吹き鳴らされたホイッスル。第1試合に引き続き、PK戦で3回戦への切符は争われます。
先攻は山梨学院。1人目の山中は読まれながらも左スミへ突き刺し、キャプテンの重責を。後攻となった岐阜工業の1人目は村瀬が務め、確実に右スミへ成功。2人目も山梨学院の原、岐阜工業のCB杉山智哉(3年・スポーツクラブ岐阜VAMOS)と揃って成功。ただ、山梨学院3人目の安西亜蘭(3年・JFAアカデミー福島)が蹴ったボールは大きく枠の上へ。岐阜工業3人目の立花はきっちり沈めるも、山梨学院4人目の小川はしきりに足元を気にする素振りを見せると、キックはここも枠の上へ。「入らないものはしょうがないなと思いました」と吉永監督。追い込まれた山梨王者。
決めれば勝利の岐阜工業4人目は永田薫。スタジアム中の視線を背負い、右を狙ったキックは「とにかく絶対に止められるという自信しかなかった」という古屋が横っ飛びでセーブ。「正直勝ったと思いました」と振り返る清本監督も改めて現実へ引き戻されましたが、外せば終わりの山梨学院5人目の大場が氷の冷静さでボールをゴールネットへねじ込んでも、決めれば終わりというシチュエーションは変わらず。ところが、岐阜工業5人目の永田泰弘のキックはまさかの枠外。規定の5人が終了して3-3。PK戦はサドンデスに突入します。
山梨学院6人目の渡辺剛(3年・FC東京U-15深川)、岐阜工業6人目の仕藤は共に成功。山梨学院7人目の大野、岐阜工業7人目の安田も共に成功。山梨学院は続けて蹴ったCBがどちらもGKの逆を突く完璧なキックを。山梨学院8人目の福森、岐阜工業8人目の大西といずれもGKの裏をかいて成功。サドンデスも両雄がまったく譲りません。
山梨学院9人目は多田。右を選択したキックはきっちりゴールネットへ。そして、8人の3年生が蹴ってきた岐阜工業は、9人目にして初めて2年生の杉山敬亮(2年・セイカFC)がスポットへ。短い助走から放ったキックは、しかしゴール左へ外れて熱戦にようやく終止符。「インターハイの東福岡戦でも、プリンスリーグでも外していて、ウチらはPKに縁がなかったんですけど、インターハイが終わってから自信を持ってやろうと、ずっとみんなでPKの練習をたくさんしてきた」と古屋も胸を張った山梨学院が、辛くも3回戦へと駒を進める結果となりました。
「運があったなという所ですね。首の皮一枚という所で、彼らが頑張ってきた所がそういう結果に繋がったのかなと思っています」と吉永監督も安堵の表情を浮かべた山梨学院は、絶体絶命まで追い込まれたPK戦を制しての生還。とはいえ、その生還には相手の4人目をストップした古屋のファインセーブが大きく貢献したことは言うまでもありません。実は17番を背負う守護神は、県予選決勝の退場処分を受けて初戦の滝川第二戦は出場停止。それでも「1ヶ月間くらいの準備期間で、『お前のために1回戦勝つから、お前はしっかり準備しておけ』っていうような言葉とか、みんながその期間は自分のことを支えてくれていた」と古屋。1回戦は同級生のGK瀬尾倖大(3年・名古屋グランパス三好FC)が無失点で勝利に繋げると、「周りには『1回戦勝ったからお前の番だぞ』というのは言われていた」中で、「とにかくこういう場面を想定して、みんなをこういう所で救いたいという気持ちが凄くあった」という古屋が見事に"みんな"を救う格好に。PK戦の直後にはベンチ外となったもう1人のGK一瀬幹(3年・甲府上条中)が、スタンドの軒下で飛び跳ねて喜ぶ光景も。おそらく「出場停止が決まった後も、変わらず彼はずっと努力してきたので、このPKを勝ちに持っていったのは彼のそういう努力の積み重ねの結果じゃないかなと。誰よりも練習した選手だと思います」と吉永監督が話した古屋のメンタリティが認められていたからこそ、チームメイトも彼の戦線復帰を受け入れ、意気に感じた古屋が期待に応える活躍を見せたということのようです。「スタンドを見ても感じるんですけど、素晴らしい学校の応援だったり、関係者だったり保護者だったり地域の人だったりという、何か凄く一体感を感じる」と吉永監督。チームの結束が一層深まった感のある山梨学院の行進は果たしてどこまで。 土屋
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