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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
東の"最強"と西の"最強"が国内最強を巡って争う正真正銘のファイナル。黄色を纏う太陽王子とピンクを背負う若桜の日本一を懸けた一戦は埼玉スタジアム2002です。
現在はトップチームで活躍する中谷進之介を筆頭に、イレブンが涙を流しながら広島の地で昇格を喜んだのは昨年の12月。それからわずか1年で昇格即優勝という、2011年のトップチームを髣髴とさせるような快挙をプレミアEASTで達成し、このチャンピオンシップへ進出してきた柏レイソルU-18。ただ、その1年前の広島で既に、昨年からCFとして試合に出続けていた大島康樹(3年・柏レイソルU-15)は、「プレミアは初めてですけど、埼スタは夢なのでそこを目指してやっていく」と宣言を。有言実行。あとはその辿り着いた夢舞台で勝利という結果を出すのみです。
最終節まで4チームに優勝する可能性があったプレミアWEST。その激戦を勝ち抜いて埼玉へと東上してきたのは、2位で迎えたラストゲームを逞しく勝ち切り、劇的な逆転劇で頂点に立ったセレッソ大阪U-18。シーズン途中で大熊裕司監督がトップチームの監督へ就任する事態に見舞われながらも、「間違いなくJクラブのユースだと一番キツいと思います」と阪本将基(3年・セレッソ大阪西U-15)も苦笑するハードなトレーニングに裏打ちされた"戦える"選手たちは、堂々と日本一に王手という所まで。季節外れの桜を咲き誇らせる準備は万端です。高校年代最高峰の決戦を一目見ようと、スタンドに詰め掛けたのは何と14654人の大観衆。統一最強決定戦は柏のキックオフでスタートしました。
立ち上がりから勢い良く飛び出したのは若桜。3分に左サイドで獲得したCKを温井駿斗(3年・高槻第九中)が蹴り込むと、ニアで阪本がフリックしたボールを森下怜哉(1年・長野FC)はゴールネットへ流し込み、ここはオフサイドの判定で得点は認められませんでしたが、早くもセットプレーから惜しいシーンを創出。7分にも西本雅崇(3年・セレッソ大阪U-15)、高田和弥(3年・スマイス・セレソン)、平野智也(3年・FCサザンU-15)と回ったボールを、前川大河(3年・高槻myd FC)がダイレクトで狙ったシュートは枠の右へ外れたものの、「前半の立ち上がりから前から仕掛けようという形」(村田和弘コーチ)がハマった格好でC大阪がゲームリズムを掴みます。
10分もC大阪。西本の短いパスから阪本が放ったミドルはDFに当たり、柏のGK松本健太(2年・柏レイソルU-15)がキャッチ。17分もC大阪。CBの庄司朋乃也(2年・クマガヤサッカースポーツクラブ)が高精度フィードを左のハイサイドへ落とし、阪本の戻したボールを温井はクロス。DFに当たったボールを前川が頭で狙うも、松本が何とかキャッチ。18分はC大阪の決定機。GKの齋藤和希(3年・セレッソ大阪U-15)が蹴ったフィードはグングン伸び、相手エリア内でGKと1対1になった岸本武流(2年・桜FC)のループはわずかに枠の左へ。先制とはいきませんでしたが、「最初は自分たちのペースという風に自分たちも感じていた」と阪本も認めたように、続くC大阪の攻勢。
さて、「立ち上がりがちょっと悪くて、相手のプレッシャーにうまく引っ掛かっちゃった所があった」と会津雄生(3年・柏レイソルU-15)が話した通り、いつになくビルドアップ時にイージーミスが散見された柏は、23分にファーストシュート。右SBの熊川翔(2年・柏レイソルU-15)を起点に、手塚康平(3年・柏レイソルU-15)が中へ付けたボールを会津が捌き、山﨑海秀(2年・柏レイソルU-15)が左足で狙ったミドルはDFに当たって齋藤にキャッチされたものの、この前後から「冷静にフリーな選手を見つけてパスコースを作り続ける、途切れずに人と人が、ボールとボールが繋がり続ける」(下平隆宏監督)いつものスタイルが顔を覗かせ始め、展開は少しずつ落ち着いた流れに。
29分はC大阪。前川が裏へ落としたボールに高田が走るも、飛び出した松本が確実にキャッチ。35分は柏。麦倉捺木(3年・柏レイソルU-15)が左から蹴ったCKは、温井がきっちりクリア。36分も柏。左で伊藤達哉(2年・柏レイソルU-15)が縦に付け、抜け出した麦倉のクロスはDFがクリア。38分も柏。左サイドを突貫ドリブラーの伊藤が切り裂き、グラウンダーで転がしたクロスは何とかDFがクリア。「ちょっと前半の中盤でボールを支配される所で苦しかった」(村田コーチ)「前半の途中から回されて苦しい場面が続いた」(高田)「中盤がちょっとずつ前に行けなくなって、押し出すことができなくなった」(阪本)と3人が声を揃えたように、柏が自分たちの時間帯をキャッチしてゲームを進めていきます。
ミドルの撃ち合いは積極性の証。39分は柏。熊川のパスを山﨑が繋ぐと、麦倉のミドルはクロスバーの上へ。41分はC大阪。左サイドでボールを持った温井が中央へ送り、阪本が打ち切ったミドルは松本がキャッチ。42分もC大阪。西本のパスから前川が左足でトライしたミドルは枠の右へ。44分は柏が創ったエリア内での決定機。会津の縦パスを大島が右へ振り分け、溜めた麦倉が得意の左足で上げたアーリーがこぼれると、いち早く反応した会津が至近距離から打ったシュートは、ヒットせずに枠の右へ。序盤はC大阪が、中盤以降は柏がそれぞれ主導権を握った前半は、スコアレスでハーフタイムへ入りました。
いよいよゲームは最後の45分間へ。後半に入ると先にチャンスを迎えたのは柏。48分、スムーズなパス交換から左へボールを展開すると、「レイソルアカデミーでやる最後の試合だったので、必ず日本一になるという強い気持ちがあった」という言葉を証明する果敢なプレーが目立っていた会津がカットインからフィニッシュ。ボールはクロスバーを越えるも、世界を知る男が見せる勝利への執念。
54分はC大阪。岸本の右クロスに西本が合わせたヘディングは、DFに当たって枠の左へ。その左CKを温井が蹴り込むと、ゴールまで混戦が生まれたものの、最後はシュートまで持ち込めず。「後半立ち上がりから行こうと再認識させた」村田コーチは、少しゲームリズムが回復しつつある状況で、1枚目の交替を決断。岸本に替えて斧澤隼輝(1年・長崎南山中)をピッチへ解き放ち、前線にアクセントと変化を。
煌いたのはリーグ戦でもわずかに2ゴールの伏兵。60分に左サイドで奪ったFK。キッカーの温井がこすり上げたボールは、競り合った前川に当たってエリア内へ。このこぼれに誰よりも早く反応したのは高田。「もうとりあえず来たからラッキーと思って。思い切って打つことしか考えていなかった」というシュートは、豪快にゴールネットへ突き刺さります。殊勲の12番が真っ先に走り出したのはピンクで染まったサポータースタンド。「ゴールの瞬間は『本当に決めたんかな?』と思った」と笑う高田の先制弾が飛び出し、C大阪が1点のリードを奪いました。
「後半の開始から相手のギアがまた上がって、そこでうまく自分たちがいなせなかった」と会津も話した柏はビハインドを追い掛ける展開に。下平監督の決断は66分。山﨑を下げて、同じ中盤前目のポジションにデン・ヘイジャー・マイケル・ジェームス(3年・オネフンガSC/ニュージーランド)を送り込み、中盤に強度という落ち着きを。直後の左CKを麦倉が蹴り込むと、CBの上島拓巳(3年・柏レイソルU-15)が高い打点のヘディングで折り返すも、詰めた会津より一瞬早く齋藤がキャッチ。70分にはC大阪も2人目の交替を。平野とチームキャプテンの橋本侑紀(3年・セレッソ大阪U-15)をスイッチして、残された20分間へ向かいます。
74分は柏。左への展開から伊藤が残すも、麦倉はシュートまで持ち込めず。77分も柏。麦倉の右FKにキャプテンの中山雄太(3年・柏レイソルU-15)が飛び込むも、果敢にキャッチへ行った齋藤へのオフェンスファウルというジャッジ。77分に村田コーチが施す3人目の交替。ボランチで奮闘し続けた仲原潤也(3年・セレッソ大阪西U-15)を下げて、久保吏久斗(3年・ディアブロッサ高田FC U-15)をピッチへ。「点を取ってから、他のチームだったら引いたりもあると思うんですけど、いまさらそんなことしても逆にやられるので(笑)」と阪本。若桜は前へ、前へ。
83分は柏にビッグチャンス。麦倉の右FKは一旦DFに弾かれたものの、飛び付いた上島が必死に頭で戻すと、こぼれに走り込んだマイケルのボレーは、しかしゴール右へ。頭を抱えるピッチとベンチとスタンドの黄色。直後に下平監督は2人目の交替として、伊藤と加藤颯人(3年・柏レイソルU-15)を入れ替え、加藤は右SBへ、右SBの熊川は右ウイングへ、右ウイングの会津は左ウイングへそれぞれスライドして、最後の勝負へ。
「キツい時にどれだけサッカーを楽しみながらできるか。キツい時こそという感じで、もう最後やし、全員で走ろうと声を掛けていましたし、そういう意識でやっていました」と阪本。「今日はいつもよりウチの選手が走ってくれたなという感じ」と村田監督。この最終盤にきて、この強度でのプレッシャーの連続。「90分間走れる練習をしている」(高田)ことの証明を全員で。88分には高い位置でボールを奪い切ると、前川がクロスバーを越えるシュートまで。「全員が責任を持って、勇気を持って前に行くというのが自分たちのスタイル」と阪本。冬桜の満開はもうすぐそこまで。
89分に下平監督が切った最後の切り札。麦倉との交替でピッチへ駆け出したのは、10番を託された負傷明けの山本健司(3年・柏レイソルU-15)。「相手のラインも高かったので、最後は背後を狙うというのを意識してやりました」と会津。90分にはその会津が左サイドを切り裂き、送ったグラウンダーのクロスは齋藤が何とかキャッチ。ファイナルはいよいよアディショナルタイムへ。
山本と会津で奪った柏のCKは90+1分。手塚が丁寧に蹴り込んだボールは、飛び出した齋藤ががっちりキャッチ。村田監督は手堅く4人目の交替を90+2分に。殊勲の高田を下げて、沖野将基(3年・キックスFC U-15)を送り出し、これでベンチに入っていた3年生は全員がピッチへ。そしてアディショナルタイムも5分を回り、窪田陽輔主審が吹き鳴らしたのは若桜の戴冠を告げるファンファーレ。「時間稼ぎもしなかったですし、もう1点取りに行こうというブサイクな試合やったかもしれないですけど、『精一杯やる』ということをテーマにしてやってきたので、選手がそれを感じてくれていたのかなと思います」と村田コーチも話したC大阪が、高校年代日本一の称号を力強く手繰り寄せる結果となりました。
「あんなにポゼッションしてくるチームは今までなかった」(阪本)「ここまで前線からプレッシャーに来るチームもなかなかない」(会津)と奇しくも両チームの8番が称え合ったように、徹底したスタイルを貫き通す双方が持ち味を出し合った素晴らしいファイナルだったと思います。走り切りたい若桜と、崩し切りたい太陽王子の、まさに意地の張り合いは、結果として「いまさら相手がどうとかで自分たちのスタイルを変えることも考えていなかったし、もっと行こうと全員で思っていました」と阪本も胸を張る前者に軍配が上がりましたが、本当に紙一重の勝負だったなと。そんな中、試合後の会見で「言い方は悪いですけど、優勝するためにというトレーニングは監督をはじめとするスタッフはやってきてないです。ただ、世界に出て通用する選手、ボールを個人で奪えてゴールを奪える選手が組織になったらこういうチームになったという考えで、スタートして継続しているという形です」と明言したのは村田コーチ。基準を"世界"に置き、妥協なき集団を創り上げた大熊監督はベンチに入らず、ジーンズ姿でゲームを見守っていましたが、試合後にピッチサイドへ現れると選手たちは全員で駆け寄り、5回も宙を舞う胴上げを。たとえベンチにいなくても、このチームの監督は大熊裕司。激動とも言うべきシーズンの大団円。最後に勝ったのは大熊セレッソでした。 土屋
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