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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
3年越しの復讐に燃える黄か、清冽なる下克上を狙う青か。来年の立ち位置を鮮明に分ける90分間のデスマッチ。昇格プレーオフ決勝は、3年目にして初めての舞台となる味の素スタジアムです。
トップディビジョンから遠ざかって早5年。過去2年は昇格プレーオフという魔物に魅入られ、国立と鳴門大塚で涙を呑んできた千葉。臥薪嘗胆のJ2で戦う5シーズン目は初めて前年と同じ指揮官で開幕を迎えたものの、その鈴木淳監督は6月で解任という結末に。それでも、後を継いだ関塚隆監督が手腕を発揮して、過去5シーズンでは最高位となる3位でプレーオフ決勝へ。このレギュレーションが採用されてから唯一の"皆勤賞"を卒業すべく、3度目の正直にドローでも昇格というアドバンテージを携えて挑みます。
クラブ史上初めてJ1という大空を舞ったフライトは、3年で一旦の終焉を。それから2年を共に10位という結果で終えると、クラブが16年ぶりに呼び戻した指揮官は、前身のNEC山形時代を知る石﨑信弘監督。シーズン序盤はなかなか結果が出なかったものの、「メッチャしごかれました」と宮阪政樹も苦笑する厳しい練習の成果が、3バックの採用と共に終盤戦へ来て一気に開花。先週のプレーオフ準決勝では、後半アディショナルタイムにGKの山岸範宏が決勝ゴールを叩き込むという、脚本家なら企画段階で突き返されるドラマチックなシナリオに導かれ、堂々とこのファイナルへ。2年ぶりとなる6位からの下克上完遂はもうすぐそこです。まっさらなピッチへ入場してきた22人の視界が捉えたのは、黄色と緑で彩られたコレオの真ん中にはためくエンブレムと、咲き誇る振り回しタオルマフラーの中央に浮かんだ2つのビッグフラッグ。歴史の証人は35504人。日本最高峰のステージを懸けた一戦は、千葉のキックオフでその火蓋が切って落とされました。
立ち上がりからピッチを支配する「プレーオフ独特の雰囲気」(石﨑監督)。4分は千葉。去年のプレーオフ敗退はベンチで迎えた佐藤勇人がCKを獲得すると、中村太亮が右から蹴ったボールは直接ゴールへ向かうも山岸がパンチング。5分も千葉。町田也真人が奪った右FKを中村が蹴るも、山岸がしっかりキャッチ。7分も千葉。中村、町田とボールが回り、谷澤達也が抜け出しかけるも、ここは「最初ははっきりしたプレーをするということをみんなに心がけさせた」という石井秀典が果敢なタックルで回避。「立ち上がりの入り方に非常に気を付けていた」(町田)千葉がスタートはやや攻勢。
9分は山形。「本当に勝ちたいという気持ちを持った方が勝つ」と言い切った石川竜也の左FKは山﨑雅人に届くも、シュートには至らず。13分も山形。再び左から石川が蹴ったFKはそのままファーに流れ、ここもフィニッシュには持ち込めず。「どうしてもなかなかボールを繋げないとか、お互いに蹴り合ってしまうとか、そういう所が今日のゲームは余りにも多過ぎたんじゃないか」とは石﨑監督。攻撃の時間が長いのは千葉。セカンドも含めたボールアプローチの速さは山形。15分を回っても両者に記録されないシュート。
19分は千葉。森本貴幸のポストプレーから、山口慶が右サイドで縦に付けると、運んだ幸野志有人は角度のない位置からシュート気味にクロスを上げるも、ボールはクロスバーの上へ。22分は山形。キム・ボムヨンが左からロングスローを投げ込み、こぼれを拾った石川のリターンをキム・ボムヨンが上げたクロスは、千葉のGK高木駿がファンブルしてCKに。千葉からすれば嫌な流れの左CKは、「スタメンは今日の昼の12時ぐらいまでわからなかったですけど、自分が入ってもやれるという自信はあった」と語る今シーズンの公式戦では2試合目のスタメンとなった林陵平のオフェンスファウルで回避。前半の半分を過ぎても訪れないフィニッシュ。
25分のファーストシュートは千葉の決定機。町田と谷澤の連携で手にした左CK。キッカーの中村が蹴り込んだボールは、中央でフリーになっていた166センチの町田へドンピシャ。「ちょっと来るような感じはしていたので、当たった感触は良かった」ヘディングはわずかに枠の左へ外れましたが、ようやく生まれたスリリングなシーンにどよめくスタンド。熱戦の導火線に火は点いたのか。
「お互いプレッシャーを掛け合う中で、アバウトでもDFラインの背後にというのは相手にとってストレスだと思うし、逆に向こうも裏に蹴ってきたことに対しても、ウチのDFラインや僕らはストレスを感じていた」と話したのは千葉において不動のボランチを務める佐藤健太郎。ある程度はいつもと違うスタイルでも、"背後"は一歩間違えればそのままチャンスに直結。「どうしてもこういう状況だと蹴り合うシーンが凄く多かったし、相手もこっちも中盤に当ててそこからというのはなかった」と林も振り返ったように、シンプルな縦の応酬が。
27分は山形。川西翔太が左へ振り分け、キム・ボムヨンが入れたクロスへ、成長著しい山田拓巳が突っ込むもオフェンスファウル。30分は千葉。右サイドで幸野が1人かわして中へ付けると、町田がトラップで前を向くも寄せた當間建文が確実にカット。33分は山形。宮阪が放り込んだ左FKから、フリーの山﨑がバックヘッドで狙ったシュートはクロスバーの上へ。35分は千葉。スローインの流れから中村が左クロスを強引に。小さいクリアに幸野が反応するも、滑ったキム・ボムヨンが目に入ったのか左足のシュートはヒットせず、山岸が丁寧にキャッチ。続く「本当にプレーオフの決勝というような、ゲームが落ち着かないような状態」(佐藤勇人)。
唐突な、故に狂喜。37分、石川、宮阪、キム・ボムヨンと3人が絡んで獲得したのは2本目のCK。スポットに立った宮阪の「太亮がゴールを狙って結構良いボールを蹴っていたので、ちょっと悔しかったから直接狙った」軌道は枠を捉えるも、高木が懸命にパンチングで回避。ただ、ボールは再び宮阪の足元へ。「そんなに中は見えていなかったけど、誰かに当たればと」右足で振り抜いたクロスを、中央で待っていたのは山﨑。ほとんどスタンディングで当てたヘディングは、右のポストを叩いてゴールネットへ転がり込みます。「最初は外れたと思ったので、喜ぶのがちょっと遅れたんですけど、最終的にはザキさんのゴールへの強い想いというか、そういうみんなの想いというのをボールに乗せてくれたんじゃないかなと思う」と宮阪も振り返った一撃。チームキャプテンの咆哮に、連なるチームメイトの咆哮。当然、その伝播はアウェイのゴール裏まで。「勝たなければJ1昇格がない」(石﨑監督)山形がスコアを動かしました。
「ウチの普段の感じではなかったけど、やられる感じはなかった」(山口慶)中で、ビハインドを追い掛ける格好となった千葉。43分には高い位置でボールを奪った谷澤が、そのままドリブルからミドルを放つもボールはクロスバーの上へ。逆に45+2分には山形にビッグチャンス。石川の左FKをファーで石井が折り返すと、飛び込んだ當間のヘディングはヒットせずに枠の左へ外れましたが、あわや2点目というシーンを。想像通りとも言うべき重苦しい最初の45分間は、山形が1点のリードを手にしてハーフタイムへ入りました。
後半のファーストシュートは青白。49分、キム・ボムヨンからのリターンを宮阪が左のハイサイドへ落とすと、最後方から駆け上がった石川の折り返しを川西がダイレクトで叩いたシュートはクロスバーの上へ越えるも、「オーバーラップも掛けたいし、攻撃の部分で貢献できたらと思っている」というベテランレフティの演出で、まずは山形がサイドから良い形を創出します。
52分は千葉。中村の右CKは山岸がパンチングで弾き出し、千葉が押し返したボールはオフサイドの判定。55分は山形。石川の左FKを石井が頭で折り返すも、高木がきっちりキャッチ。56分は千葉。左から中村が入れたFKを、ニアで山口智が薄く当てたヘディングは枠の上へ。59分は山形の好機。川西、當間とボールが回り、山田はヒールで繋ぐと、當間はエリア内へ侵入。シュートは山口智が何とかスライディングで回避しましたが、3バックの攻撃参加も出てきた山形は「連動して前の3人で行くというのをイメージしている」と林も話した前からの守備に関しても「後半はうまく前からプレスというのは行けていた」と宮阪が認めた通り、よりスムーズに。守備陣の攻撃も、攻撃陣の守備も、うまく噛み合い始めた山形に傾くゲームリズム。
60分も山形。石川の右CKは高木がキャッチ。62分も山形。石川が左の裏へフィードを通すと、縦に抜け出したキム・ボムヨンのクロスは高木が何とかセーブ。65分も山形。相手GKのキックを前に出てインターセプトした山田はそのままドリブル開始。谷澤と中村の間を果敢に突き進み、最後は谷澤のファウルで倒されたものの、J1を経験している生え抜きの25歳が披露する積極性。
その山田のサイドはこの一戦の重要なキーポイント。千葉のストロングは明らかに左サイドであり、すなわち中村のオーバーラップとクロス。それはもちろん山形も織り込み済みで、「去年一緒にやっていた太亮なんで、僕らは同い年だけど、負けたくないという気持ちは僕より強いものがあったと思う」と宮阪も認めた山田は、「とにかく今はチームが勝つために自分ができることをやろうと思っていた」とキッパリ。続けて「自分のプレースタイルとは今日はちょっと違ったけど、左サイドを抑えるという意味ではある程度合格点は与えていいのかなと思う」と言及したように、心中覚悟で中村を抑え込むことに成功します。
66分には目まぐるしい攻防。右CKを石川が蹴り込むと、高木のパンチングから一転、千葉の高速カウンター。右サイドで谷澤が繋ぎ、受けた幸野は左へ大きくサイドチェンジ。町田と松岡亮輔は1対1。町田のカットイン、カットイン。一瞬置いて狙ったシュートは、しかし松岡が体でブロック。こぼれたボールも松岡が大きくクリア。コンディション不良でプレーオフ準決勝を欠場したボランチが、必死の対応で危機回避。スコアは変わらず。残された時間はあと20分。
73分は山形。中村とのパス交換でファウルをもらったのは「『自分が自分が』と難しいことをするのが頑張るということではなくて、周りをうまく使いながら良いポジションを取ってとか、それを連続しさせていくことがチームとして望ましいと思う」と語る佐藤健太郎。中村の左FKをニアで森本がフリックすると、松岡が懸命にクリア。拾った佐藤勇人が戻し、山口慶の右クロスに山口智が宙を舞うも、最後はしっかり競りに行ったキム・ボムヨンがオフェンスファウルを奪って危機回避。この一連を受けて、「後半の途中から千葉の左サイドの谷澤と中村の所で崩しが入ってきたので、それに対してこのままではやられるかなと」判断した石﨑監督は、両チーム通じて初めての交替を決断。殊勲の山﨑を下げて、ロメロ・フランクをそのままシャドーに投入し、サイドのケアにも余念なし。
76分に川西のパスから宮阪が思い切ったミドルを枠内へ飛ばしたシーンを見届け、関塚監督もようやく1人目の交替に着手。77分、町田に替わってピッチへ解き放たれたのは切り札のケンペス。リーグ戦13ゴールとチームのリーディングスコアラーでもある9番に託された、昇格へと続く扉を開けるために必要なゴールという名の鍵探し。
78分は千葉のビッグチャンス。中村の左FKはクリアされましたが、相手ボールを山口智が高い位置で奪い返すと、そのまま中央へ。走り込んだ谷澤のミドルは枠を捉えるも、山岸が横っ飛びで掻き出すと當間がヘディングで間一髪のクリア。79分も千葉。ケンペスが粘って取った右CKを中村が入れるも、林が高さを生かして確実にクリア。80分も千葉。中村が左サイドで縦に送り、走った谷澤がエリア内で仕掛けるも、當間が何とかスライディングでクリア。そのCKを中村が放り込み、キム・ヒョヌンが高い打点のヘディングで叩くも、混戦から石井が大きくクリア。残された時間はあと10分。
2人目の交替は先に千葉で85分。幸野と田中佑昌のスイッチで、サイドのギアを大きくチェンジ。後に山形で87分。松岡と舩津徹也のスイッチで、中盤のパワーとスピードを再度増強。89分は千葉。森本、ケンペスと2トップが絡んだお膳立てのパスに谷澤が走り込むも、飛び出した山岸が大事にキャッチ。「後半15分くらいから普段足が攣らない俺も攣ってきましたからね。攣らない俺が何でこんな攣ってんだと思った」という林もこの時間で前線から必死のチェイス。アディショナルタイムは4分。J1か、J2か。その明確な境界線はあと240秒とわずかで。
90+1分は山口智もキム・ヒョヌンも含め、「最後はみんなヘディングの強い選手が上がって来ての放り込み」(石井)に打って出た千葉の決定機。飛び出した山岸より一瞬早くボールに触った森本が右から折り返すと、反転したケンペスがきっちり枠内へ収めた左足シュートは、しかし全力で戻った山岸がファインセーブで仁王立ち。拾った谷澤は4人のDFが囲い込み、何とかクリア。直後も千葉のフィニッシュ。田中が相手のクリアを頭で差し戻し、ケンペスが競ったこぼれを山口智がエリア内へグラウンダーで。マーカーを弾き飛ばした谷澤の反転シュートは、ここも山岸ががっちりキャッチ。「今年は浦和でなかなかチャンスが掴めなくて、言葉は悪いかもしれないですけど、モンテディオ山形に拾ってもらった感じはある」と準決勝後に語った守護神のオーラは、試合前にゴール裏を包んだビッグフラッグの炎そのもの。「本当に彼がチームに入ってくれたおかげで一つにまとまった」と指揮官も認める山岸を中心に、途切れない山形ディフェンスの集中力。90+2分には最後の交替カードとして走り切った川西をイ・ジュヨンに入れ替え、きっちりと時間を使いながら待ち侘びるその瞬間。
佐藤勇人が大きく蹴り出し、ケンペスが頭で繋いだボールに山口智が反応するも、石川と石井が2人でカバーに入り、ボールがゴールラインを割った94分30秒、味の素スタジアムを切り裂いたファイナルホイッスル。「サッカーには技術とか戦術とか体力とか色々な要素があると思うが、その中で特にこの終盤にかけて選手が良くなってきたのは、その戦う気持ちの所。今の山形の選手はJ1に出したら技術、戦術の所でかなり劣ると思うが、"戦う"部分に関してはどこよりも強くなったんじゃないかなと思う」と石﨑監督。調布の空に響き渡る山形の凱歌。6位でプレーオフへ滑り込んだ青白の侍が、虹の向こうに待っている4年ぶりのJ1復帰を勝ち取る結果となりました。
「この1年間戦って、本当に色々な選手が試合に出たんですけど、全員がハードワークした結果、J1昇格という形に繋がったんじゃないかなと思います」と石﨑監督が話した通り、山形の昇格はまさにチーム力の勝利だったと思います。この一戦のキックオフをピッチで迎えた11人の内、開幕戦にもスタメン出場していたのは4人のみ。今や欠かせない戦力となった山﨑と川西の2シャドーも、スタメンに定着したのはチームが3-4-3を基本布陣にシフトした9月からであり、3バックの中央を務め上げた石井もリーグ初スタメンは22節でようやく。「ディエゴの代わりをよくやってくれたんじゃないかと、本当に彼以上の仕事を今日はしてくれたと思う」と指揮官から名指しで賞賛された林に至っては、昨シーズンに負ったケガの影響もあってリーグ戦のスタメンは1試合もありませんでした。ただ、その林が「どんな時も真摯に取り組んできたから今日90分ピッチに立てたかなと思うし、自分の力というか、それは色々な人の支えがあったんですけど、そういうのが今日のピッチを引き寄せたと思うので、これからの教訓になると思います」と笑顔を見せれば、石井も「常に試合に出られない時でも、僕自身がまずは腐らず、どんな状況でもしっかりやるというのは意識してやっているので、そういう姿を見て、たぶん今は出ていない選手もそういったモチベーションでやってくれていると思う」とキッパリ。そして彼らがそういう姿勢でトレーニングに臨んでいたのは、おそらく「選手のサッカーに取り組む所というのを一番大事にしていきたい。サッカーを上手になりたいとか、試合に勝ちたいとか、さらに上のレベルに行きたいとか、そういう気持ちの部分を強く持ってもらわないと」という想いで指導に当たる指揮官を見ているから。「来週も凄い練習をすると思うんですけどね」と苦笑いしながら宮阪が口にした練習の先に待つ今年最後の大一番が終わった横浜の空に、再び山形の凱歌が上がっていても、決して不思議ではありません。 土屋
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