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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。

Jリーグレポート 2014年12月01日

J1昇格プレーオフ準決勝 磐田×山形@ヤマハ

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DSC_0622.jpgファイナルへ行けるか、行けないか。90分後に訪れる結末はわずかにこの2つのみ。サックスブルーとモンテブルーの相克は前者の聖地・ヤマハスタジアムです。
18勝13分け11敗の4位。94年にJリーグへ参入して以来、初めてJ2を戦う1年となった2014年シーズンは茨の道。確固たる信念に貫かれた湘南と松本に自動降格を許し、最終節では千葉にも追い抜かれ、4位で昇格プレーオフへ回ってきた磐田。5年ぶりの日本帰還となったペリクレス・シャムスカ監督は既に前任者。苦境の中で新指揮官に就任した名波浩監督も、初采配となった愛媛戦こそ勝利で飾りましたが、最後は6試合未勝利でレギュラーシーズン終了と、チームに劇的な変化をもたらすまでには至らず。最後のホームゲームとなるこのセミファイナルは、色々なものを払拭するラストチャンスです。
18勝10分け14敗の6位。3シーズン経験したトップディビジョン陥落から早3シーズン。今年は前身のNEC山形時代にも指揮を執っていた石﨑信弘監督を16年ぶりに呼び戻し、6位で堂々とこのプレーオフへ進出してきた山形。中盤戦までは二桁順位が定位置だったにも関わらず、百戦錬磨の名将に率いられたハードワーク軍団は夏過ぎから一気にスパートを掛け、大外からまくってプレーオフ圏内へ。勢いを削がれかねない最終節の敗戦も、ベストメンバーで臨んだ水曜日の天皇杯で千葉に勝ってきっちりリカバー。4日前と同じ「勝ち抜かなくてはいけない、勝ち切らなければいけない」(山岸範宏)セミファイナルで、4日前と同じ結果を手に入れるための準備は整っています。スタンドはアウェイゴール裏の一角を除いて鮮やかなサックスブルー。勝利だけを求める11,239人の観衆が見守る中、天下分け目のセミファイナルは山形のキックオフで幕が上がりました。


先にチャンスを掴んだのは山形。2分に山田拓巳が右サイドで獲得したFK。石川竜也が蹴ったボールは、磐田のGK八田直樹にキャッチされましたが、3分にも久々のスタメン起用となったロメロ・フランクがCKを獲得すると、宮阪政樹が左から蹴り込んだキックも八田のパンチングに阻まれたものの、「どっちも強いのでチャンスになるとは思っていた」と石川が話すセットプレーから2つのチャンスを創出します。
一方の磐田もまずはセットプレーから窺うチャンス。4分には伊野波雅彦のフィードに走った山崎亮平が右CKを奪い、小林祐希のキックは川西翔太がニアでクリアするも好ボールを。9分にも小林の右CKを、森下俊の離脱を受けてCBを託された藤田義明が折り返し、最後はDFにクリアされましたが、少しずつ勢いを持って立ち上がったのはホームチーム。
すると、10分にはその磐田に決定的チャンス。左サイドで前田遼一と山崎が絡み、SBの岡田隆が上げたクロスはこぼれるも、エリア内で山崎が強引に持ち込んだシュートは、山岸が素晴らしい反応でファインセーブ。13分にも右サイドで松井大輔が一旦奪われたボールを執念で奪い返し、駒野を経由して小林が右足で放ったミドルは枠を捉えられませんでしたが、フィニッシュまできっちり取り切る磐田の攻勢。
14分の決定機は山形。中央でボールを受けた川西は前を向き、少しドリブルで運びながら右へスルーパス。「當間くんから良い声もあって、なるべく自分が前に行けるように声も出してくれていた」という山田がそのまま狙ったシュートは飛び出した八田が体でセーブしましたが、「この前の試合と同じような形。翔太くんから良いボールが来ているのでアレは本当に決めなくてはいけなかった」と山田も振り返ったように、4日前の決勝ゴールとまったく同じ流れから、ワンチャンスの脅威を磐田のディフェンスラインへ突き付けます。
一進一退。21分は磐田の怒涛。序盤からそのドリブルがアクセントになっていた山崎を起点に小林が中へ繋ぎ、宮崎智彦のミドルは山岸が懸命にセーブ。こぼれに突っ込んだ前田のシュートも山岸が弾き出し、再び山崎が枠へ収めたシュートも山岸が体でブロック。「チームメイトには『自分たちは失うものは何もない。とにかく自分たちらしさをピッチの上で思い切り出そう』ということは伝えた」という守護神がここはゴールマウスに仁王立ち。24分は山形。中盤でボールを拾ったロメロ・フランクが、ドリブルから左足で狙ったミドルは枠の左へ。膠着に近い状況下で、少しずつアウェイチームにも躍動感が。
歓喜と沈黙が同時に訪れたのは26分。左サイドでキム・ボムヨンが中へ入れたボールを、藤田と連携が取れなかった八田のクリアはディエゴにヒット。このボールを右サイドで拾った山田は「相手もあまり揃っていない中でディエゴが見えたので、タイミング良くシンプルに上げた方が良いなと思って」そのままクロス。中央で待っていたディエゴがヘディングで叩き付けたボールは、ゴール右スミへ弾み込みます。歓喜のアウェイゴール裏と、沈黙のそれ以外すべて。「チームの戦術の柱」と山岸も認めるエースの先制弾が飛び出し、山形がファイナルへ向けてわずかに一歩抜け出しました。
失点を受けて前に出るしかなくなった磐田は31分、松井のパスから宮崎がシュートフェイクで中へ。小林のシュートがDFに当たったリバウンドへ山崎が反応するも、果敢に飛び出した山岸が一瞬早くボールに触ってオフェンスファウル。36分は山形。川西が右サイドへ振り分けると、ここも上がってきていた山田のクロスは伊野波雅彦が何とかクリア。38分も山形。キム・ボムヨンが粘り強くボールを右へ回し、ディエゴのグラウンダークロスは山﨑も一歩及ばず。40分は磐田。スタメンに抜擢された田中裕人のパスから、宮崎が叩いたミドルはDFをかすめてゴール右スミを襲うも、飛び付いた山岸がファインセーブで回避。41分も磐田。小林、山崎、松井とスムーズなパス交換が行われ、走りこんだ駒野友一の左足ミドルは枠の上へ。出し合う手数。次のゴールは果たしてどちらに。
45分は山形に絶好の追加点機。ショートカウンターから山﨑のミドルパスをトラップした川西は、もはやホットラインとも言うべき山田へシンプルに。その山田のクロスをエリア内で収めたディエゴは、素早い反転から左足一閃。ゴールへ向かったボールは、しかしポストに弾かれてピッチへ戻ってくると、アディショナルタイムに沸騰したヤマハ劇場。
45+2分、右サイドから駒野が中央へ優しく転がすと、ここで待っていたのは再三ミドルにトライしていた宮崎。「後ろ3枚の内の余っているディフェンダーがいるし、チャンさん(石井)がそこには俺たちが行くからということを言ってくれていたので、ある程度ケアはできていたんですけど」とは宮阪ですが、ポッカリ空いたバイタルで宮崎が打ち切ったミドルはDFに当たってラインの裏へ。いち早く反応していた山崎が、左へ流れたボールをきっちりゴールへ流し込みます。「やはり笛が鳴るまで集中して戦わなくてはいけない場面だったと思う」と石﨑監督。ほとんどラストプレーで磐田が1点を強奪し、タイスコアで最初の45分間は終了しました。


息を吹き返した磐田のラッシュ。47分に駒野が入れた左FKはDFに跳ね返されるも、直後の左CKも駒野が高精度のボールを中央に送り込むと、藤田のヘディングは何とか山岸がキャッチ。51分に小林が右サイドから全力で叩いたボレーミドルは、山岸を越えてから急降下してクロスバーに激しくヒット。52分にも松井が残し、小林が左に流れながら放ったミドルは山岸がキャッチ。54分と55分の連続CKを経て、56分にも粘って粘って運んだ山崎が左へ送り、シザーズから前田が打ったシュートは枠の右へ。「後半の立ち上がりというのはほとんど相手に攻め込まれていた」と宮阪。滲ませるJ1への強烈な執念。
山形へのさらなる追い討ちは57分。「ハーフタイムに右のモモ裏に違和感があると聞いていて、やってみるけどダメだったら早めにということだった」(石﨑監督)ディエゴが、自らピッチへ倒れ込んでプレー続行不可能に。同じポジションには中島裕希が投入されましたが、リーグ戦14ゴールのトップスコアラーを欠いた中で、絶対に1点が必要な30分近い残り時間を強いられます。
集まった山形イレブン。「ディエゴが交替するタイミングで担架が入って間があったし、後半始まってそれまでがジュビロのプレッシャーをかなり受けながらのゲームだったので、『1回チームがまとまって、まずはシンドイけどこれを耐えて、ゲームを落ち着かせよう』と。ただ、ディエゴはチームの戦術の柱なので、彼が交替してしまうことによってチームメイトの精神的なダメージをとにかくなくそうとは思いました」と山岸が話せば、「『慌てないで行く』ということと『1点取りに行くんだぞ』ということは言っていた」と宮阪。確認し合った自らの意思。
61分は山形。山田、山﨑とボールが回り、中島のシュートは左へ逸れてタッチラインを割りますが、これが山形にとっては後半のファーストシュート。63分は磐田。セットプレー崩れから石井秀典が中盤のラインでボールを失うと、GKの位置を確認して50m近い距離から狙った小林のロングシュートは戻った山岸がキャッチ。「やられる感じはあまりなかったけど、なかなか点を取れるチャンスはないなと思っていた」とは石川が話したように、ゲームリズムは変わらず磐田。
石﨑監督の決断は67分。山﨑に替えて送り出したのは伊東俊。「トリッキーでスピードのある選手を入れれば、磐田もディフェンスラインが疲れていたし、チャンスが生まれるのではという狙い」で送り出された10番が、すぐさま決定機を創出したのは73分。自らを起点に発動したカウンター。山田、伊東、中島とテンポ良く繋がったパス回しから、伊東は完全に抜け出して1対1を迎えましたが、抜群のタイミングで間合いを詰めた八田が今度はビッグセーブで仁王立ち。頭を抱えたイレブンとベンチとゴール裏。スコアボードの数字を変えられません。
74分に名波監督は2枚替えを断行。いつも以上に闘志剥き出しで戦っていた松井と田中を下げて、松浦拓弥とフェルジナンドをピッチへ解き放ち、"ドローでもOK"という15分間へのマネジメントを。「同点ではウチはその時点で終わりだった」石﨑監督は、77分に最後の交替を。ボランチで奮闘したロメロ・フランクを下げて、萬代宏樹を中島と並べる2トップの一角へ投入。その下に川西と伊東を配し、中盤は宮阪のワンボランチにして、「リスクを冒して点を取りに行く」姿勢を鮮明に。
78分は磐田。小林の横パスが宮崎を経由し、フェルジナンドの強烈なミドルはクロスバーの上へ。81分も磐田。駒野の左FKを藤田が合わせたヘディングは枠を捉えるも、山岸が決死の超ファインセーブでボールはポストに。84分も磐田。キム・ボムヨンの中途半端なクリアを拾ったフェルジナンドが、躊躇なくミドルレンジから狙ったシュートは當間建文がブロックして枠の上へ。止まることなく刻まれていく時間。残されたのは5分間とアディショナルタイムのみ。
86分は山形。キム・ボムヨンの左ロングスローは混戦も、宮崎が大きくクリア。87分は名波監督も3枚目のカードを。MVP級の活躍を見せた山崎が下がり、戦列へ帰ってきた白星東に託されたゲームクローズ。チャンスらしいチャンスもないまま、経過していく時間にも「僕自身は意外と落ち着いていられたというか。何でわからないですけど」と宮阪が話し、「シーズン中も後半持たれるというか、押される試合はたくさんありましたし、そこで最近はある程度耐えられているので、そんなに不安はなかった」と山田。掲示されたアディショナルタイムは4分。すべてはあと240秒で。
石川が放り込んだボールに伊東と八田がもつれ、岡田が懸命に掻き出したCKは90+2分。「コーナーになった時にタツさんの方を見たら、『オマエが蹴りに行け』みたいなジェスチャーをされたんですけど、僕が蹴るよりもタツさんが蹴った方が絶対良いと思ったので、『タツさんが蹴りに行ってください』とは言いました」と宮阪。コーナースポットに向かう石川は「この前の天皇杯のCKみたいな、ゴールから離れた所で合わせようかなとは思っていた」とイメージを。中央には「とにかくドローでは我々が敗退というレギュレーションだったので、残り時間でチームとして、チームの勝利のために自分が何ができるかという所で、何も考えずにゴール前に行った」背番号31の姿も。
「本当決まって欲しいという気持ちを籠めてボールを蹴りました」(石川)「相手のフリーマンの前に飛び込んで行こうと思ったら、ポンっていたんですけど、とにかくすらせてコースを変えれば中で何かが起こると思って触った」(山岸)「ちょうど僕は後ろにいたので軌道が見えていて、触った瞬間には入るなという感じだった」(山田)「ゴールに吸い込まれていくとは思わなかったので、入った瞬間はまったく自分では見えていなかった」(山岸)「点で合ったし、ボールの軌道もあそこに入っちゃうんだという感じ。なかなかあんな所に普通は飛ばないですからね。普通じゃありえないから」(石川)「『ホントか』と。まさかとは思いましたけど、興奮し過ぎて何が何だかわからなかった」(山田)「一番後ろで見ていたと思うんですけど『ああ、スゲーな』と」(宮阪)「ちょっと笑っちゃった」(石川)「ボールがゴールの中に静止している所を見たらみんなに潰されていたので、『入ったんだな』と思いました。人生で初めてなので、本当はゴールを取った後に走れたりしたらカッコいいんでしょうけど、そういうのにまったく慣れてなくて、ただただうつ伏せになっていただけでした(笑)」(山岸)。「みんなの気持ちが乗り移ってゴールに吸い込まれたと思います」と指揮官も話した決勝弾は、おそらく世界でも類を見ないGKによるサヨナラ逆転ゴール。山形がファイナルへと駒を進める結果となりました。


「いつもイシさんが『サッカーは何が起こるかわからない』と言っていた」と宮阪が話した通り、サッカーの美しさと怖さが恐ろしいまでに凝縮された90分間と4分間だったと思います。「今日の90分を通して内容を振り返るだけのメンタリティではないので、細かいことは割愛しますが、"奇跡を呼ぶ力"が山形にはあって、僕らにはその力がなかったということだと思います」という名波監督の言葉だけですべては十分かなと。勝ったのは山形。「僕らはまだ何も掴んでいないですし、何も決まっていないので、また1週間良い準備を、勝つための準備をして、味スタでまた千葉から勝利を掴みたいなと思います」と力強く語ったのは山岸。12月7日、15時30分。味の素スタジアム。ジェフユナイテッド千葉とモンテディオ山形がJ1昇格へ残された最後の切符を懸けて戦います。     土屋

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