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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。

その他の試合レポート 2014年12月24日

プリンス関東参入決定戦2回戦 実践学園×甲府U-18@保土ヶ谷

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1224hodogaya.jpg関東への挑戦権を獲得するために残されている切符は、あとわずかに1枚のみ。東京王者と山梨王者の邂逅は、引き続き県立保土ヶ谷公園サッカー場です。
「本当に弱かった学年」(野口幸司コーチ)の大逆襲。冬の選手権で全国出場を勝ち取ったAチームの陰で、なかなか勝てない屈辱の日々を過ごしていたのは2年前。新チーム結成後も結果が出ず、不安を抱きながら迎えた今年のリーグ開幕戦で帝京に競り勝つと、そこから積み重ねた無敗は15。シーズンを通してわずかに1敗という堂々たる成績で、東京を制した実践学園。今大会の1回戦は千葉の名門・習志野相手に、チームキャプテンを務める10番の山下浩二(3年・FC.VIDA)が延長終了間際の決勝弾を叩き込み、関東まであと1勝という所まで。「こんな仲間がいていいのかというくらい最高」と山下も語る仲間とともに、最後の1試合に挑みます。
昨年は夏のクラ選でグループステージを勝ち抜き、見事ベスト16へ進出。今年のJユースカップでも東京ヴェルディユースと横浜F・マリノスユースという、日本のこの年代を牽引してきた2チームを凌ぎ、創設13年目にして初めて決勝トーナメント進出を勝ち取るなど、近年の躍進は目覚しいものがあるヴァンフォーレ甲府U-18。県リーグでは山梨学院大附属セカンドを勝ち点1差で上回り、山梨制覇を達成。今大会も2日前の初戦では群馬王者の桐生第一を逆転で退けて、関東昇格に王手を。クラブのために、そして山梨のために、大事な90分間へ臨みます。実践の集合写真には、このゲームを大学入試で欠場せざるを得なかった百瀬隆平(3年・JACPA東京FC)のユニフォームも。保土ヶ谷のスタンドはかなりの大入り。大一番は甲府のキックオフでスタートしました。


先に勢い良く立ち上がったのは実践。2分、右から橋本康平(3年・東急SレイエスFC)が蹴ったFKはDFにクリアされましたが、3分にも新井直人(3年・FC渋谷)のロングスローがゴール前を襲い、甲府のCB森本裕来以(2年・ヴァンフォーレ甲府U-15)が触ったボールはGKの中村将(2年・FC杉野)がキャッチ。8分には松井喜市(3年・AZ'86東京青梅)と須田皓太(3年・JACPA東京FC)の連携で獲得した右CKはショートで。杉山大周(3年・FC杉野)のリターンを受けた橋本のクロスは、中央でオフェンスファウルを取られましたが、「立ち上がりはウチの方が良かった」と野口コーチも話したように、実践が前へのパワーをまずは打ち出します。
一方、Jユースカップなどの経験を鑑みて、「プランを立てても想像通りに行かないだろうなと思っていたので、ゲームをやりながら、相手を見ながら、ということを考えていた」と小佐野一輝監督が語った甲府は、ある程度最前線の遠山拓民(3年・ヴァンフォーレ甲府U-15)に長いボールを集めながら、様子を窺う展開に。12分には伊藤駿(3年・ヴァンフォーレ甲府U-15)の左CKが流れ、拾った小林岩魚(3年・ヴァンフォーレ甲府U-15)のクロスはDFがクリア。20分にもSBの河野陸也(2年・ヴァンフォーレ甲府U-15)がクロスを放り、遠山がエリア内へ潜るもここは新井がきっちりクリア。フィニッシュはなかなか取れません。
お互いにチャンスを創り切れない中で、ゲーム自体のファーストシュートは23分の実践。杉山、須田と回ったボールは右へ送られ、上がってきた松井はクロス。ニアに飛び込んだ小池将史(3年・北区赤羽岩淵中)のヘディングは枠の右へ逸れましたが、ここまで公式戦での出番に恵まれていなかった右SBが、果敢なオーバーラップでシュートシーンを演出します。
ただ、30分を過ぎたあたりから徐々にペースを掴み始めたのは甲府。30分には左からSBの樋口優輝(3年・ヴァンフォーレ甲府U-15)がアーリークロスを放り込み、走った小林は一歩及ばずに実践のGK柿崎陸(3年・FC.GONA)がキャッチ。31分にも左サイドで遠山とのワンツーから、小林が素早く上げたクロスは柿崎がキャッチしましたが、キャプテンマークを託された小林がサイドに囚われることなく広範囲にボールを引き出したことで、甲府の攻撃に生まれたスムーズな流れ。
39分は甲府の決定的なチャンス。河野から右サイドでボールを引き出した伊藤は、少しドリブルで運ぶと思い切ったシュート。DFに当たったボールは枠内ギリギリに飛びましたが、ここは柿崎が横っ飛びで超ファインセーブ。45+1分も甲府。小林が投げた左ロングスローのセカンドを回収すると、樋口、川手秀斗(2年・ヴァンフォーレ甲府U-15)と回したボールを遠山はシュートへ。集中力の高い実践ディフェンスが体で阻止して先制とはいかなかったものの、好チャレンジの手数はより多く甲府に。双方がゲームリズムを奪い合った前半は、スコアレスのままでハーフタイムを迎えました。


後半開始から先に動いたのは実践。右SBの松井に替えて、前述の帝京戦でも決勝ゴールを決めている黒石川瑛(2年・AZ'86東京青梅)をそのままの位置に投入。より攻撃的な構成にシフトしましたが、わずか28秒の咆哮は山梨王者。まだ、時計の秒針が一周していない46分、中央を運んだ小林は左へスルーパス。飛び出したGKを左にかわした遠山は、そのまま無人のゴールへ丁寧にボールを送り届けます。「やってくれよと思っていたので頼むぞと。ここでやらないといつやるんだくらいの僕の願いでした」と小佐野監督も話した、小林と遠山のホットラインで見事成果を。甲府が1点のリードを奪いました。
さて、出鼻を挫かれた格好でビハインドを負った実践。49分には相手のクリアをスタメンでただ1人の2年生だった和氣貴也(2年・横河武蔵野FC JY)が頭で弾き、杉山がゴールまで30m近い距離から狙ったミドルは枠の上へ。52分にも橋本の左クロスに、須田が合わせたシュートはDFに当たり、こぼれへ詰めた杉山のシュートはわずかに枠の左へ外れるも、判定は杉山のオフサイド。54分にも新井の左ロングスローから、小山大輝(3年・Forza'02)が当てたヘディングはゴールキックへ。さらに、55分には小山を下げて渡邊一輝(3年・FC.GONA)を送り込み、さらなるパワーアップに着手します。
「ちょっと落ち着くまでという所はあるので、そこまで失点しなければいいなと思っていた」という小佐野監督のプラン通り、失点を許さずにリードを手にした甲府。56分には遠山のドリブルで奪ったFKを、左から伊藤がシュート気味に蹴り入れるもカベがブロック。57分にも小林が左サイドをえぐり切り、伊藤が放ったシュートはDFに阻まれ、遠山のヘディングは柿崎がキャッチしたものの、あわや追加点というシーンを創出。58分には土屋真輝(2年・ヴァンフォーレ甲府U-18)から、63分には川手から、いずれも遠山が走る裏へボールが送られ、前者は新井のクリアに、後者は柿崎のクリアに回避されましたが、リードをうまく逆手に取りながら、実践に突き付ける裏への脅威。
60分前後から最終ラインに渡邊、高橋龍世(3年・FC多摩)、新井を並べる3バックにシフトして、須田と小池の下に杉山が構えるような「前からやってきて自信もあった(新井)」3-4-1-2気味の布陣にシフトした実践は65分、橋本が左へ送ったパスに須田が抜け出しクロス。DFのクリアに反応した橋本のシュートはブロックされましたが、67分にも新井の左スローインから、高橋が約35mのミドルを枠の上へ。68分にも新井、和氣、杉山と細かく回し、橋本の左クロスをファーで叩いた須田のボレーはDFのブロックに遭ったものの、SBからWBへ位置がやや高くなった橋本が躍動する左サイドで主導権を奪い、何とか1点をもぎ取ろうと一段階アクセルを踏み込みます。
既に66分に先制ゴールの遠山と深澤泰雅(2年・ヴァンフォーレ甲府U-18)を入れ替えていた甲府は、75分に川手と山本拳士(3年・ヴァリエ都留)もスイッチ。「あまりに最初から下がっちゃうと、ボールの出所がフリーになっちゃうから、そこをいつ変えようかというタイミングに悩みはあった」と話した指揮官は、それでも「残り20分で重心が下がり過ぎて、その出所にすらいけない感じがあったので、それだったら割り切ってという感じで」決断。右から河野、小俣、樋口、森本、山本を置いた「5バックに近い感じ」(小佐野監督)にシステムを変更し、ピッチへ注入した1点を守り切る覚悟。
77分に野口コーチが須田を下げて送り込んだのは、2日前に奇跡を呼び込んだ10番の山下。「今日は来れなかった百瀬も含めて、本当にたぶんこの仲間が1人でも欠けていたら今年のTリーグ優勝なんて結果は絶対に出なかったし、それは1,2年生も含めて本当に良いチームだなと思う」と言い切るキャプテンに託されたのはゴールのみ。79分には新井が蹴った左CKに山下が舞い、ヘディングは枠の左へ外れましたが、キャプテンが漂わせる微かな予感。
「決着を付けられる選手はウチの方がいるなという印象だけは、交替で出る選手も含めてあった」と小佐野監督が口にした言葉の証明。81分、カウンターから伊藤が左へスルーパスを通すと、抜け出したのは途中出場の深澤。すかさず中央へ送ったパスにフラッグは上がらず、GKを冷静にかわした土屋のシュートはゴールネットへ吸い込まれます。まさに1点目と同じような形から、パーフェクトカウンター完遂。土屋が真っ先に駆け寄ったゴール裏のサポーターも沸点到達。大きな大きな2点目を甲府が手にしました。
「チャンスを逃さない所は、わずかな差だけどうまいなと思った」と素直に相手を認めた野口コーチ。82分には最後のカードとして180センチの大山友幸(2年・三菱養和巣鴨JY)を投入し、185センチの山下、186センチの横溝聖太郎(3年・FC杉野)、大山を最前線に並べて「オーソドックスなパワープレー」(野口コーチ)へ。84分に右から黒石川が投げたロングスローは、山下が頭で触るも中村がキャッチ。86分に右から小池が入れたCKはDFがきっちりクリア。88分に新井が右から放り込んだFKを、山下がヘディングで打ち下ろすもボールは枠の左へ。89分には新井の左ロングスローをDFが弾くと一転、甲府のカウンター。1人で40m近く運んだ小林が、利き足とは逆の右足で放ったシュートはわずかに枠の右へ逸れましたが、「うまく奪った後に引き出したかった」(小佐野監督)個人のカウンターがこの局面で。迫りつつある歓喜の瞬間。
90+1分は実践。黒石川の左ロングスローはゴール前で混戦を生み出すも、最後は伊藤が大きくクリア。90+2分は甲府に3人目の交替。セカンド奪取にプレスバックに奮闘し続けたボランチの末木裕也(2年・ヴァンフォーレ甲府U-18)と相澤優雅(3年・ヴァンフォーレ甲府U-15)を入れ替え、3年生にゲームを終える役割を。90+3分は実践。小池の右CKに山下が突っ込むも、わずかに届かずゴールキックへ。90+4分は甲府に最後の交替。貴重な追加点を記録した土屋と河西柾季(3年・ヴァンフォーレ甲府U-18)が入れ替わり、これでこの日のメンバーに入った3年生は全員がピッチに。そして、保土ヶ谷の青空に吸い込まれたタイムアップのホイッスル。「ウチのアカデミーの子たちもそうですけど、山梨の子たちがこういう舞台に少しでも近付けるような、厳しい環境の中でやれる機会ができたというのが嬉しい。そこを目指していたので」と小佐野監督が口にした大願成就。甲府が来シーズンからプリンス関東へ昇格するための切符を、力強くもぎ取る結果となりました。


「攻撃もサポートし合う、守備もカバーし合うというのがウチの大事にしていた所だったので、1対1じゃ適わないけど、そこをどう1対2に持っていくかという所を今年ずっとやっていた」と小佐野監督が話した甲府は、まさに攻守に渡ってユニットでの連携が際立っていたと思います。とりわけ後半の押し込まれていた時間帯は、中央へかなりの頻度でボールが入ってきましたが、小俣と森本のCBコンビを中心に跳ね返し続け、ラインもコンパクトに保ち続けた守備は見事の一言。記録された2ゴールも狙っていたカウンターからきっちり決め切るなど、90分間やるべきことを徹底し続けた先に、素晴らしい結果が待っていたのは、決して偶然ではありませんでした。関東参戦に向けて、「相手を見た時にやっぱり厳しいですけど、トップに繋がる選手はそういう中でやらないと出ないと思うので、何とか繋げていきたい。ウチのアカデミーからトップに上がったけど活躍しているという選手は、まだそこまでいないですし、上がった後にクラブを盛り上げてくれる選手はこういった環境じゃないと出ないと思うので、また鍛えてやっていきたいです」と小佐野監督。来年のプリンス関東で、甲府という新しい風がどう吹き荒れるのか、今から非常に楽しみです。
試合終了直後はこらえていたものの、応援してくれた部員の前に挨拶へ行くと、こらえ切れずにスタッフも含めたほとんど全員が涙を流した実践。「習志野戦に勝ってファイナルまで来たという所で、また選手権と同じファイナルで負けてという悔しさからくる涙だったし、それでも3年間やり切ったし、みんなとまだやりたかったというのもあったし、色々な涙だったと思います」と新井。今年での勇退が決まっている野口コーチは「彼らの取り組みとかが他のコーチの心に訴える部分だと思うし、今思えばよくここまで来たなという感じです。良いチームでした。その分みんなの思い入れも強いよね」と自らの涙の理由を明かしてくれました。ただ、試合が終わってスタジアムの外に出た選手たちは、もうすっかり笑顔。楽しそうにみんなで記念写真を撮る姿を見た深町公一監督は「負けたのに優勝したみたいですよね」と目を細めながら、「でも、2回も負けて泣けるなんてアイツらは幸せですよ」とニコリ。"心で勝負"を掲げる実践において、最も「心で勝負」できる者に与えられる特別な"10番"を1年間背負い続け、自分が試合に出ていても出ていなくても、チームが勝っても負けても常に試合後の素晴らしい挨拶で観る者すべてを魅了してきた山下は、「やることをやり切ったんで本当に悔いはないです。これだけのサポーターがいてくれるので、『ありがとう』の気持ちしかないですね。その気持ちをピッチで表現できたので、自分たちにとっては最高の恩返しができたと思いますし、ゲームの内容も最高でしたし、結果は結果ですけど今年1年間やってきたものが出せたというのは最高です」とキッパリ。そして「これ以上の仲間に出会えるとは思えないです!」と言い残して向かった先には、その最高の仲間たちが。2度のファイナルで流した涙をそれ以上の笑顔が綺麗に洗い流して、実践の3年生は引退の日を迎えました。       土屋

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