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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
全国屈指のレベルを誇るプリンス関東への切符はわずかに2枚。それぞれ栃木と埼玉を制し、2日前の参入決定戦1回戦を勝ち上がってきた両者の対峙は、県立保土ヶ谷公園サッカー場です。
ジュニアは4年連続で県制覇を達成して全日本少年サッカー大会へ。ジュニアユースは夏の全国ベスト8に食い込むと、3日前の全日本ユースでもサンフレッチェ広島JYに3-4という撃ち合いの末に敗れたものの、存在感を見せ付ける結果を残すなど、アカデミーの心境著しい栃木SC。ユースもクラ選こそ予選敗退を強いられましたが、Jユースカップはコンサドーレ札幌U-18とジェフユナイテッド千葉U-18を相次いで撃破し、堂々たる決勝トーナメント進出。無敗優勝を成し遂げた県リーグを経て、迎えた今大会の1回戦は神奈川王者の横浜FCユースを2-0と一蹴してこのステージへ。関東への扉をこじ開けるための90分間に挑みます。
大宮東、埼玉栄、武南、西武台、市立浦和。初戦から5試合続けて冬の全国を経験しているチームの挑戦を退け、初めて選手権予選の頂点に立った昌平。自らも全国の舞台に立っている就任8年目の藤島崇之監督に率いられたチームは、リーグ戦でも強豪相手に勝ち点を積み重ね、3チームに優勝の可能性があった最終節もきっちり勝ち切って埼玉制覇。勢いそのままに2日前の1回戦でも、茨城のリーグと選手権予選の二冠を手にしている第一学院を5-0という大差で下して、プリンス関東へ王手を。選手権を間近に控える状況にも、「参入戦も結果にこだわりながらやらなくてはいけないと選手にも話した」と藤島監督。まずはこの中1日を連勝という最高の形で飾り、大舞台への弾みにしたい一戦です。今日の保土ヶ谷はここ最近と打って変わってポカポカ陽気。暖かな陽射しの下、栃木のキックオフでゲームはスタートしました。
ファーストシュートはわずか開始34秒の栃木。相手のパスを高い位置でかっさらった明本考浩(2年・栃木SC JY)は、そのまま思い切って右足ミドル。ボールはクロスバーを越えましたが、まずは勝利への意欲を前面に押し出した栃木が、以降も法師人将大(3年・栃木SC JY)と藤原亮太(2年・栃木SC JY)のドイスボランチもセカンド奪取に貢献し、ボールアプローチでも上回るなど、上々の立ち上がりを披露します。
ところが、先にスコアを動かしたのは埼玉のグリーン。10分、ボランチの沼田弘登(3年・FOUR WINDS)のパスを和田幹大(3年・FOUR WINDS)が右へ振り分けると、上がってきたSBの篠崎亮(3年・FC深谷)はそのまま縦に加速しながらクロス。ファーまで流れたボールを蛭間諄耶(3年・VIVAIO船橋)が左足で合わせると、ボールはゆっくりとゴール右スミへ転がり込みます。完全にサイドを崩し切った形を見事結果に。昌平が1点のリードを奪いました。
畳み掛けた埼玉王者。14分、中盤から沼田がスルーパスを通すと、ハイサイドを取った松本泰志(1年・クマガヤSC)はもう1つ外へ。ここに走り込んだ篠崎がまたもピンポイントでクロスを放り込むと、1.5列目から飛び込んだ和田が頭でボールをゴールネットへ突き刺します。「ちゃんと落ち着いて入ろうとやった中で、良い形もできた部分はあったので良かった」とは藤島監督。あっという間に点差は2点に広がりました。
序盤から小泉歩(3年・武南JY)と長里竜成(3年・CA ALEGRE)のCBコンビを中心に、ボールはしっかり回っていた昌平は2点のアドバンテージを活かし、一層落ち着いてゲームをコントロールしながら、SBの篠崎とSHの松本で組んだ右サイドが活性化。15分には栃木も、明本のパスから森俊貴(2年・栃木SC JY)がミドルを放つも、昌平のGK脇本健太郎(3年・CA ALEGRE)が丁寧にキャッチ。18分にも藤原が左CKをストレートで大外に蹴ると、待っていた橋本七斗(3年・栃木SC JY)のボレーはヒットせずにボールロスト。やや膠着した状態に陥ってもゲームリズムは昌平に。
その昌平の手数はセットプレーから。21分に和田の蹴った右FKは、栃木のGK上野空良(1年・上州FC高崎)がキャッチ。27分にも蛭間が右から目先を変えたグラウンダークロスを送り込み、DFのクリアに遭いましたが効率よく狙う追加点。32分に左サイドをえぐった森のクロスを、明本が頭で合わせた栃木のチャンスは、よく戻ったボランチの白石勝己(3年・CA ALEGRE)が体でブロック。双方の点差に変化なし。
ただ、「前半にリズムが取れたなという時間があった」と上野優作監督も振り返った栃木の"時間帯"はこの前後から。33分、左から明本が入れたCKをファーで増渕利樹(1年・栃木SC JY)が折り返すと、平岡空(3年・FCスポルト宇都宮)が叩いたボレーはゴール右へ外れましたが、セットプレーから1つチャンスを。37分に中央から明本が蹴ったFKと、38分に右から橋本が低いボールを入れたCKは、共に沼田が確実にクリアしましたが、少しずつ中盤の強度が増していった感のある栃木に流れが。
41分は昌平。野村祐一朗(3年・春日部豊春中)の左CKがこぼれ、篠崎が思い切って狙ったミドルは枠の左へ。42分は栃木。増渕を起点に藤原が左クロスを右足で入れると、枠を捉えた橋本のヘディングは脇本がフィスティングで回避。その左CKを明本が蹴り込み、DFのクリアを法師人がダイレクトで打ったボレーは枠の右へ。45+1分は昌平。蛭間の右FKに沼田が競り勝ち、松本が落としたボールを野村がミドルに変えるも、ここは森が体でブロック。「最初の2失点がもったいなかったなという所」という上野監督の言葉にも頷ける前半は、終盤に掛けてフィフティに近い展開でしたが、昌平が2点のアドバンテージを握ってハーフタイムへ入りました。
後半はお互いになかなか好機を生み出せない立ち上がりを経て、53分は栃木のサイドアタック。明本のパスを引き出した丸山風翔(2年・栃木SC JY)は右サイドを抜け出し、エリア内でマーカーと倒れたシーンは結果的にオフェンスファウルを取られましたが、SBの果敢なオーバーラップで2点を追い掛ける栃木が惜しい場面を創出します。
54分は昌平。篠崎のドリブルで奪ったCKを和田が蹴ると、こぼれを拾った沼田のミドルはDFがブロック。55分も昌平。野村の左CKを小泉が頭で折り返し、和田を経由して篠崎が打ったミドルはクロスバーの上へ。57分も昌平。和田の右CKに飛び込んだ小泉のヘディングはクロスバーの上へ。59分も昌平。ここも和田の右CKはシュートまで持ち込めませんでしたが、CKの連続で脅かす栃木のゴール前。
61分は栃木。平岡のフィードに走った黒崎隼人(3年・栃木SC JY)は、そのままダイレクトでボレーに持ち込むもボールは枠の左へ。62分は栃木のビッグチャンス。森のパスを橋本が左へ振り分け、黒崎のクロスをダイレクトで狙った明本のシュートはDFにブロックされたものの、強めた攻勢。上野監督も63分に1人目の交替として藤原と渡辺峰大(3年・栃木SC JY)を入れ替えると、67分にもすぐさま2人目の交替を。橋本を下げて高橋俊輝(3年・FCアネーロ宇都宮U-15)を送り込み、サイドの推進力アップに着手。69分は栃木の決定機。相手のミスパスをかっさらった黒崎は、そのまま右サイドを疾走。マーカー2人の間をぶち抜き、そのまま放ったシュートはクロスバーを越えましたが、上野監督も「前に行く力は凄くある」と認める"機関車"が昌平ゴールへ迫ります。
「なかなかプレスが掛からなかった部分と、その中で前線の所に配球が入ってしまった部分もある」と藤島監督も話した昌平。70分にはエースの野村が、思い切り良くミドルレンジから枠へ収めたシュートは上野が確実にキャッチ。「ちょっとしたパスミスだったり、ちょっとした動きの質の部分で、なかなか手前や近場のサポートになっていた分だけ厳しかった」(藤島監督)攻撃のテンポが上がらない中で、ただ守備面では中央に据えた小泉と長里を軸に集中力を途切れさせません。
上野監督の決断は72分。増渕に替えて齋藤悠馬(3年・宇都宮星が丘中)をピッチへ送り出すと、「変えるか変えないかをずっとコーチ陣と話し合って、『2-0だし行こう』ということでシステムを変えた」と、最終ラインは丸山、和氣侑生(2年・栃木SC JY)、平岡が並ぶ3バックにシフト。4-4-2から3-4-3に形を変えて、一気に勝負へ打って出ます。
76分は栃木。法師人が左へ振り分け、1人かわした森は好クロスを右足で入れるも、飛び込んだ黒崎はわずかに届かず。77分は昌平。野村と和田の連携から、最後は沼田が挑んだミドルは上野がキャッチ。78分は栃木。高橋とのパス交換から森が縦に付け、法師人が残したボールを齋藤が打ち切ったミドルはゴール右へ。80分も栃木。黒崎の突破で獲得したCKを右から高橋が放り込み、森が頭で戻すもDFが大きくクリア。「システムを変えて、だいぶ前でボールを受けて、1つ取れば変わるかなという状況だった」と上野監督。試合はいよいよ泣いても笑っても残り10分の最終盤へ。
「相手のリズムの時に点を取られるなと話をして、そこをちょっと粘り強く後ろがやろうというスタンスもあった」と藤島監督。少し苦しい時間が続く中でも、許した決定的なピンチは数えるほど。84分には野村とのワンツーから蛭間がエリア内へ侵入するも、最後はDFが何とかクリア。85分に左から野村が入れたCKは黒崎にクリアされましたが、86分には直接FKのチャンス。左寄り、ゴールまで約30mの位置から、野村が無回転気味に狙ったシュートは大きくクロスバーを越えたものの、再び最終盤にセットプレーも含めて攻撃の手数を繰り出します。
87分は栃木。森、齋藤と繋ぎ、高橋が強引に狙ったミドルは脇本がしっかりキャッチ。88分も栃木。平岡のファーまで届いた左クロスに、黒崎がトライしたボレーはDFが体で弾き、拾った渡辺のシュートもDFがきっちりブロック。89分も栃木。右から高橋が蹴ったCKは野村がクリアすると、一気に昌平のカウンター。和田が運んで運んで左へ送り、全速力で上がってきた野村のDFをかすめる枠内シュートは、上野が懸命のファインセーブで回避したものの、これが両チーム通じてのラストチャンス。掲示された2分のアディショナルタイムも消し去った昌平が、「途中から入ってくる選手がダメな訳ではないんですけど」と前置きしながら、「勝負へのこだわりの中、ちょっとこういうスピーディーな展開の中で、入ってフィットするかなという不安要素があったので、今日はそういうスタンスでやってみました」と藤島監督が話したように、1人の交替カードも使うことなく、スタートの11人が最後まで走り切って、プリンス関東への昇格を堂々と手繰り寄せる結果となりました。
「こういうゲームをやれたことによって、良い意味でしっかりと気持ちを締めながら、勝負のこだわりに関しては選手権もまたさらに強めていかないといけないと思いますし、そういった意味では僕は今回は良かったなと思っています」と藤島監督も話した昌平は、これで新人戦制覇、県リーグ制覇に続いて、プリンス関東昇格という新たな勲章も獲得。昇格する来年のプリンスに関して「またさらにレベルの高いチームとやらせてもらうことで素晴らしい経験ができると思いますし、そこを迎えるに当たって今は3年生のメンバーが中心ですけど1、2年生になるので、その中でもちゃんと戦えるようにしていきたいと思っている。これが1つの目標としてできることで、選手もモチベーション的な部分も変わってくると思うので、プラスに捉えてやっていきたいと思っています」と指揮官は語ってくれました。そして、もう約1週間後に開幕を迎える選手権に対しては、「一発勝負なので我々が初出場と相手が格上の中で、そんなに気負いすることもないと思いますので、チームが前を向いていけるようにやれれば良いかなと思います」と藤島監督は努めて冷静に。昌平の快進撃がどこまで続くのか、非常に楽しみです。
「見てもらってわかるように守備ベースのチームなので、先制点を奪われると厳しくなるかなと。そこはちょっとプランが崩れちゃいましたけど、選手たちは最後までよく戦ったと思います」と選手を称えた上野監督。選手権予選のダークホースにも挙げられている難敵相手に互角以上の戦いを繰り広げたことは、大いに誇っていいことだと思います。印象的だったのは、試合前にサポーターから名前をコールされている選手に、上野監督が「応えろ、応えろ」と言っていたこと。それを問われた指揮官は「人から名前を呼ばれたら応えろということじゃないですか」とキッパリ。続けて「少しずつアカデミーの選手にもサポーターが付いてきているんですよ。アカデミーの試合をサポーターが見に来てくれることが今年になって増えてきていて、そういった部分でも良いプレーをして、お客さんを楽しませてという部分では必要なことなのかなと思って。それがサッカーの魅力じゃないですか」とも。だからこそ、コールに応えるのは「ちゃんと応援してもらってるんだから、名前を呼ばれたら当たり前」であり、「形式はいらないですよね。みんなで挨拶とかもちろん大事ですけど、その場でお互いのやり取りが一番大事だと思うので」と。トップチームの阪倉裕司監督、ジュニアユースの芳賀敦監督も会場に足を運ぶ中、アカデミーの最終カテゴリーでもあるユースがこういう戦いを披露できたのは、「個人的にも栃木出身なので地元のクラブで何とか結果を出したい」と話す、この指揮官がいてこそだなと感じさせてくれる一幕。上野栃木は見る者に鮮烈な印象を残して、保土ヶ谷の地を後にしました。 土屋
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