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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
「J1というのは本当は自分が一番目標にしていた、自分が一番立ちたいピッチだった」という鐡戸裕史の言葉は、おそらく日本でサッカーをするすべてのプレイヤーの真実。大きな志を抱いて羽ばたいた雷鳥が、1つの辿り着くべき頂を懸けて戦う舞台はレベルファイブスタジアムです。
21勝11分け6敗。57得点30失点。勝ち点74の2位と堂々たる成績で、いよいよJ1昇格へあと1勝まで迫った松本。「なかなか勝ち点3を取るゲームができなかった。そんなに内容的には悪くはなかったけど、やはり現場を預かる人間としては非常に苦しかった」と反町康治監督が振り返った9月の5試合未勝利も、高く飛ぶために必要な助走期間。3勝1分けできっちりリカバーした10月を経て、「日本で一番苦しい練習をしている」と言い切れる指揮官の下、夢を現実にするための90分間に挑みます。
その松本をホームで迎え撃つのは、過去8シーズンに渡ってトップディビジョンでの戦いを経験している福岡。マリヤン・プシュニク監督体制2年目となった今シーズンは、そのプシュニク監督も「我々は良い位置に付けていた時期があった」と話したように、昇格プレーオフ圏内となる5位まで躍進した時期もありましたが、現在は4試合勝ちがなく、順位も12位まで下降。このゲームに敗れると昇格プレーオフ圏内入りの可能性が消滅するため、二重の意味で負けたくない一戦に臨みます。アウェイゴール裏には1000人を超える緑のサポーターの姿が。新たな歴史は創られるのか。注目のナイトゲームは19時4分、松本のキックオフでスタートしました。
開始5秒のファーストシュートは松本。船山貴之の短いパスから、岩上祐三は45m近いキックオフシュートを枠内へ収め、福岡のGK神山竜一がキャッチしたものの、いきなりのチャレンジに滲ませる勝利への欲求。3分に喜山康平が放った右足ミドルを挟み、4分に迎えた決定機。岩上がFKを短く蹴り出し、船山が見舞った強烈なミドルは神山が弾き出すも、左サイドで大久保裕樹が粘って残すと、船山は再びミドル。ここも神山が弾いたこぼれに、飯田真輝が至近距離から詰めたシュートは枠の左へ外れましたが、立ち上がりから松本が「他力ではなく自分たちの力で勝って昇格を決めたい」(岩上)という覚悟を前面に押し出します。
一方、3-4-3気味の布陣でスタートした福岡のファーストシュートは7分。中盤で前を向いた金森健志のミドルは大きくクロスバー上へ外れますが、10分にもチャンス。古巣対決となる左WBの阿部巧が中へ付け、エリア内へ入った金森には田中隼磨が素晴らしいカバーで寄せて、結局ゴールキックに。決定的なシーンには至りません。
松本の狙いとするハイサイド獲得はセットプレーの数と比例。13分、岩上の右スローインを田中が戻し、岩上が上げたクロスはDFがクリア。14分、続けて岩上が投げた右ロングスローはこぼれ、ここも岩上が上げたクロスはDFがブロック。15分のCKはビッグチャンス。右から岩上が蹴ったボールは飯田の頭にドンピシャで当たりましたが、「スーパーセーブ」(岩上)で神山が仁王立ち。20分には福岡も城後寿の右ロングスローを、ニアでイ・グァンソンが合わせたヘディングは松本のGK村山智彦がキャッチすると、22分も松本。岩上の右CKをニアで山本大貴がフリック。最後はDFがクリアしたものの、2度の決定機逸にも「それがサッカーだと思うし、攻められる展開もそんなになかったので、怖いというほどではなかった」と岩上が話せば、「もちろんチャンスだったので決められれば良かったけど、そんなにそこから相手に流れが行くような場面もなかった」と岩間雄大。流れは依然松本に。
23分は福岡。バイタルに潜った金森がうまく落とし、城後が左足で狙ったミドルは村山がキャッチ。25分は松本。岩上の左FKはDFがきっちりクリア。26分も松本。岩上の左スローインを喜山がスルーしたボールも、DFが確実にクリア。29分は福岡。堤俊輔の左ロングスローはオフェンスファウルになりましたが、徐々に手数はフィフティ近く。
31分はゴール・トゥ・ゴール。堤の左スローインを引き出し、中原秀人が入れたクロスを村山がパンチングで掻き出すと、一転して松本のカウンター。運んだ船山が左へ振り分け、岩沼俊介が打ち切ったシュートは枠の右へ逸れましたが、スリリングな攻防が。ただ、松本も前にボールがなかなか収まらず、セットプレーも激減して膠着した展開を強いられます。
「中盤で奪えればチャンスだけど、前に通っちゃうと攻め残っているので、そこは結構紙一重の部分」と松本のボランチを託された喜山が話したように、福岡は酒井宣福、平井将生、金森の3人とそれ以外の選手は前後に分断気味ではあるものの、逆に前へボールが入ると3人が残っているため、松本も「ボランチとディフェンスでそこはしっかりと人数を置いて」(喜山)対応。33分、左サイドで粘った金森のシュートはわずかにゴール右へ。40分にも中盤で良くボールに絡んでいた中原が縦に付け、酒井の落としを中原が自ら狙ったシュートはDFが何とかブロック。42分にも平井が右から蹴ったCKへ、ニアに突っ込んだ酒井のヘディングは大きく枠を逸れるも、チャンスの数は増加傾向に。最初の45分間は双方譲らず。スコアレスでハーフタイムへ入りました。
プレッシャーの掛かるアウェイゲームを0-0で折り返した松本。それでも、岩間が「前半はとりあえず0-0で終われれば、後半は絶対に自分たちの方が走れるし、チャンスを多く創れるという自信はあった」と語り、「今日も前半はゼロで終わって、ハーフタイムにロッカーへ戻った時に、『これは僕らのペースだよ』と声掛けした」と鐡戸も言及すると、「前半ゼロで行ければというのはあるし、たとえ失点したとしても、後半をゼロで抑えれば自分たちは自信がある」と喜山まで。チームの後半へ対する自信を証明すべく、残された45分間へいざ。
47分は松本。船山が左へ展開したボールから、岩沼の左クロスを山本が頭で合わせたシーンはオフサイドを取られましたが、サイドアタックから良い形を生み出すと、50分には岩上の左CK、52分にはやはり岩上の右ロングスローが福岡ゴール前を脅かし、57分にも岩上との連携から岩沼が放り込んだクロスはDFのクリアに遭うも、岩間の「0-0で行ければ後半に自分たちの時間が来るというのはみんなわかっていたし、自分たちのゲームプラン通りかなとは思っていた」というイメージはチームの共通認識。そして、その時は57分。
相手のアバウトなクリアボールを犬飼智也が拾い、大久保の蹴った高いフィードに山本が競り勝つと、反応していた堤がスリップ。ボールを足元に収めた船山は右に流れ、マーカーを振り切りながら右足でズドン。白黒の球体はGKの手を弾き飛ばし、ゴールネットへ飛び込みます。「ウチのエースが決めてくれた」と喜山も話した通り、やはりここ一番で頼りになるのは10番のエースストライカー。沸騰したゴール裏の歌う緑。10番を追い掛けるベンチメンバーも含めた戦う緑。まさに結集した"緑の友"。待望の先制点は松本に記録されました。
このままでは終われないホームチームもすぐさま反撃。61分、左サイドへボールを繋ぎ、平井の鋭いクロスはフリーで走り込んだ金森に届くも、ダイレクトで叩いたシュートはクロスバーの上へ。62分にはプシュニク監督も1枚目の交替を。酒井を下げて坂田大輔をピッチへ送り込み、さらなるギアアップを。68分には平井が左FKを、70分には堤が左ロングスローをそれぞれ放り込み、共に跳ね返されはしましたが、バックスタンドに陣取ったサポーターも一段階上げたボルテージ。
訪れた2度目の咆哮。吼えた主役は「今日は最初から大きなエネルギーを出したと思います。山本以外は(笑)」と指揮官から名指しで標的にされたストライカー。71分、船山を起点に松本が発動した高速カウンター。中央を運んだ岩上は「フナさんは見えたし、後ろから頑張って走っているヤマも見えた」中で、船山へのスルーパスを選択。ここは懸命に戻った中原がタックルで堰き止めましたが、"頑張って走ってきた"山本はボールを誰よりも早くかっさらうと、そのまま強烈なシュートをゴールネットへ突き刺します。「ミスが続いていたので気合を入れてやった」という田中から愛のビンタを食らい、目を覚ました20番がそのまま追加点まで。これが信州松本のフットボール。「前の3人が絡んで点を取れたということは、今年のチームを象徴しているんじゃないかなと思う」と岩上も自賛した一撃で、リードは2点に広がりました。
苦しくなった福岡は73分に2人目の交替を決断。阿部と森村昂太を入れ替え、一層前へパワーと人数を掛けに出ますが、75分には岩上の左FKをニアへ飛び込んだ山本が頭で枠内へ飛ばし、神山のファインセーブに阻まれたものの、あわや3点目というシーンも。77分には堤が左から中へ折り返し、坂田がヘディングで繋ぐと、城後のクロスは枠の上へ。容赦なく進んでいく時計の針。
意地の追撃弾は79分。ここも左サイドを上がってきた堤が中へ戻し、ワンテンポ溜めた森村は優しいスルーパス。エリア内へ侵入した平井を大久保が倒すと、飯田淳平主審は迷わずペナルティスポットを指差します。キッカーは堤。短い助走から選択したのは右。村山も同じ方向を選択しましたが一歩及ばず。1-2。両者の点差は1点に縮まりました。
終盤の失点にも「特に焦りというのはなかったし、まだ自分たちの方が1点勝っていたので、しっかりと耐えつつ、チャンスがあれば狙っていきたいなと思っていた」と岩間。反町監督が1枚目の交替カードとして、86分に山本に替えてピッチへ送り出したのは今シーズン4試合目の出場となる棗佑喜。184センチの長身ストライカーが果たすべき役目はさらなる前からの圧力。しかも守備面の。残されたのは5分間とアディショナルタイム。
89分は福岡。中原のフィードを前線に上がっていたイ・グァンソンがヘディングで狙うも、ボールはゴール左へ。アディショナルタイムの掲示。ボードに浮かび上がった数字は"4"。90+1分も福岡。平井が蹴った左CKはDFが必死に掻き出し、拾った金森のシュートもDFの人垣が決死のブロック。90+2分も福岡。ロングフィードのこぼれを、金森が打ち切ったシュートはクロスバーの上へ。「自分たちは試合中にも楽をしたら勝てないので、ピッチで戦って倒れるまで走るとか、そういう部分はここで鍛えられた部分」と喜山。着々と近付くその瞬間。
90+3分、船山との交替でピッチに駆け出していったのは鐡戸。「サポーターは地域リーグの時から破格の凄い人数で応援してくれていて、その時からやっぱりこのチームはJリーグに行くべきだって思ったし、あの人たちをJリーグに連れて行かなくてはいけないというのは使命として感じた」というチーム最古参となった16番に託されたゲームクローズ。着々と近付くその瞬間。
90+4分、右のタッチライン沿いに完璧なクリアを転がした田中は、相手が蹴り出したボールにも全速力で突っ込み、FKを獲得するという100点満点の時間消費をこの土壇場で。「実は7月頃から報道陣にも選手にも知られていないことだが、明日からしばらくサッカーをすることができない、当分休まないといけないくらい、膝の状態がよくなかった。知っていたのはメディカルスタッフと我々など限られたスタッフだけだった」と反町監督が明かし、「サッカーをやれるような状況ではなかったし、日常生活も大変だった」と試合後に自ら振り返った3番が見せた魂のワンプレー。時計を何度も気にして、落ち着かない反町監督。着々と近付くその瞬間。
94分36秒。博多の森を覆う夜空に吸い込まれたホイッスル。「正直言葉にするというのは少し難しくて、去年からレンタルで移籍してきて、サポーターもそうだしチームのみんなが認めてくれて、今年完全移籍で来たということで責任感もあるし、J1に上げるという気持ちで来たので、そういったことが叶って、夢が叶ったということで色々なことがフラッシュバックした」という岩上はピッチに座り込み、想像もできない"3番"のプレッシャーと戦い続けてきた田中は、その前任者の名前の入ったインナーシャツと共に起き上がれず。そして、その光景を『勝利の街』を歌いながら見つめるのは「かつて同じチームだった選手がアルウィンに来て試合をすると、『この雰囲気ヤバイね』っていつも言ってくれて、その度に僕は凄く幸せな舞台でプレーさせていただいているなという実感は凄くありますね」と鐡戸も感謝を口にした緑のサポーター。「色々な人の力が結集して、こうした好結果を残すことができたと感謝している」と反町監督も認めたように、それぞれがそれぞれにできることを最大限に活かして、1つ1つが欠かせないピースとなった松本山雅の壮大なパズルは、ここに"J1昇格"という1つの大きな完成図を迎える結果となりました。
7年前。東京Vの下部組織で育ち、トップチームへ昇格しながらも出場機会を得られず、当時は地域リーグだった岡山へと移籍することになった喜山。「岡山に行った時はまだ若かったし、ここで結果を出して上に行ければいいと思っていて、実際JFL、J2と岡山ではステップアップできたんですけど、そこでヴェルディに戻って出られなくなってからは自分でも自信はなかったですし、このままどうなって行くのかなというのは正直思った部分はあります。でも、絶対に諦めない気持ちは持っていたし、何とか山雅でチャンスをもらえたので、必死にやろうと。もうここでダメだったら終わりだと思っていたので、そうやってひたすら闘ってきた3年間でした」と当時と今を振り返って話してくれました。
9年前。佐賀大学を卒業後、希望していたJリーグクラブへの入団は叶わず、佐賀県リーグに活躍の場を求めた鐡戸。「自分自身30歳までプロでやれたら上出来だなって、自分のサッカー人生を振り返った時にって、それはあったんですよ。でも、山雅に来て、共にJFLに上がって、J2に上がって、マツさんと同じチームメイトになってそういう大きな目標に乗っかって行く中で、J1というのは本当は自分が一番目標にしていた、自分が一番立ちたいピッチだったし、それが実現できるというのは出来過ぎだと思います」とこれまでの道のりを感慨深そうに語ってくれました。
10年前。やはり東京Vの下部組織から堀越高校に進みながら、所属チームを求めて東京都リーグのクラブに辿り着いた岩間。「本当に始めの頃を思うと大変の一言でしたけど、やっぱり諦めずにやってきて本当に良かったなと思いますし、多くの周りの人に助けてもらったなというのをこの年になって凄く感じますね」と話しつつ、今まで自身を支えてきたものを問うと、「単純にサッカーが好きという部分と、幼稚園とか小学校の頃から夢はサッカー選手になることだったので、もちろんJ1でやるという部分も頭の中にありましたし、そこが本当にブレずにやってこれた結果かなと思います」と笑顔を見せてくれました。
「そういう選手たちの集合体だからこそ、『何とか目標を達成したい』という気持ちがより強かったんだと思います」とは彼らを束ねてきた反町監督。その反骨心については喜山が、「口には絶対に出さないですけど、それはみんなあると思うし、そのぐらい他のチームに負けない練習はしてきた自信があるので、そういうのは常にみんな胸に秘めているというか、そういうチームでもあると思います」とキッパリ。正真正銘の"雑草集団"が稀代の指揮官と極上のサポーターと巡り合い、遂に到達した遥かなる頂。「自分で諦めなければそういう舞台に立てる」(喜山)ことを見事に証明した彼らがいよいよ来シーズン戦う"そういう舞台"は、日本のトップ・オブ・トップ。Jリーグディビジョン1です。 土屋
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