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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
公立勢として唯一クォーターファイナルまで進出した実力派と、40年ぶりのセミファイナル進出へ燃える名門の対峙。舞台は引き続きShonan BMWスタジアム平塚です。
86回大会と87回大会は続けてベスト4まで勝ち上がったものの、ここ数年の選手権予選では上位進出を阻まれ続けてきた厚木北。県立校ということもあって「普通にゴロで蹴ったら浮くような土でボコボコ」とキャプテンの久保田永至(3年・湘南ベルマーレJY)も触れたようなグラウンドを使用する中でも、効率良いトレーニングで積み上げてきた実力はインターハイ予選ベスト8という結果からも証明済み。冬の県内初制覇に向けて準備は整っています。
昨年はインターハイ予選であと1勝を挙げれば全国というベスト4まで躍進。選手権予選でも三浦学苑を下してベスト16に食い込むなど、着実に力を付けつつある慶應義塾。今シーズンも関東大会予選、インターハイ予選とトーナメントコンペティションでは芳しい結果は残っていませんが、所属している県リーグ2部では9戦全勝で見事にグループ優勝を達成。今大会は逗葉、藤沢清流と難敵を退けてここまで辿り着いており、頂点も明確な目標に変わりつつあるはずです。1試合目の余韻が残るスタンドには1500人の観衆が。第2試合は慶應のキックオフでスタートしました。
序盤からペースを握ったのは慶應。「想像以上に能力が高いし、想像以上に良い立ち上がりをしてきた」とは厚木北を率いる中村元彦監督。中でも「10番から攻撃が始まるというのはわかっていたんですけど、予想以上にうまかった」と久保田も認める、慶應の10番を任された木村健志(3年・横浜東鴨居中)は高い技術を生かしたドリブルで次々に際どいシーンを演出。チームにアクセントをもたらします。
すると、勢いそのままに生まれた先制ゴール。7分、左のハイサイドまでボールを運んだ展開から、渡辺亘祐(2年・横浜舞岡中)が好クロスを蹴り込むと、高い打点で合わせ切った渡邊裕太(3年・FCトリプレッタJY)のヘディングはGKも及ばず、ゴール右スミへ吸い込まれます。自慢の3トップの2枚が絡み、最初の決定機を見事に生かした慶應が早くも1点のリードを手にしました。
以降もゲームリズムは変わらず。9分には中央、ゴールまで25m強の距離から木村が直接狙ったFKはカベに当たるも、こぼれを坂井隆樹(3年・慶應義塾中等部)が枠に収め、ここは厚木北のGK鈴木武(3年・湘南ベルマーレJY)がしっかりキャッチ。11分にも木村の左CKから、ニアで渡辺がすらしたボールはDFのクリアに遭ったものの、ピッチを広く使いながら繰り出し続ける手数。
さて、「最初はみんな緊張していて、入りとかメッチャ悪かった」と久保田も振り返った厚木北は、19分にようやくファーストシュート。芳賀航馬(2年・横浜奈良中)が入れた右CKの流れから、須川裕斗(3年・相模原FC)が粘って残し、芳賀の枠内ボレーは慶應のGK鈴木大勇(3年・FC駒沢)にキャッチされるも、1つフィニッシュの形を打ち出すと、少しずつ1トップを務める曾我涼(3年・SC相模原)の下に並んだ宮入諒(3年・FC厚木JY)、芳賀、森勇人(3年・伊勢原山王中)がボールに絡み始め、攻撃のリズムを創出。22分には曾我がラインブレイクから抜け出し、シュートは戻ったマーカーにブロックされるも、悪くないアタックが。
同点弾は「ああいうゴールは普段決めないので、みんなからしたら意外だったと思います」と語ったCB。23分、右のコーナースポットに立った芳賀の選択はマイナスへのグラウンダー。1人がスルーし、もう1人もスルーしたボールは外で待っていた笹野駿(2年・FC厚木JY)の目の前へ。あまりにも綺麗な流れに「ちょっと焦ったんですけど、これは決めないとと思って思い切り振り抜いた」笹野のシュートは、豪快にゴールネットへ突き刺さります。デザインされたセットプレーかと思いきや、「コーナーの練習は絶対しないんだよね」とは中村監督。「紅白戦の中で話し合って練習していたので、狙い通りと言えば狙い通り」と明かした笹野も自ら驚くゴラッソで、厚木北が前半の内に追い付いてみせました。
25分は慶應。渡辺がドリブルで運び、渡邊が落としてレフティの山村桂介(3年・MKFC)が放ったシュートはクロスバーの上へ。27分は厚木北。曾我とのワンツーから森が打ったシュートはDFがブロック。28分も厚木北。芳賀がシンプルに裏を突くと、曾我が抜け出し掛けるも、ここは慶應のキャプテンを託されたCB葉利尚武(3年・横浜奈良中)が何とかカット。31分は慶應。渡辺のパスから山村が切れ込んだカットインシュートは、DFに当たって枠の右へ。「同点になってからは落ち着いてボールも回せた」と笹野。展開はほとんどフィフティに。
32分は慶應。右SBの井上友貴(3年・さいたま常盤中)がゴールまで45m近い位置から左足で狙ったロングシュートは、わずかに枠の右へ外れたものの、あわやというシーンに沸いたスタンド。35分も慶應。山村が右へ振り分け、井上のクロスがこぼれると、渡辺が叩いたダイレクトボレーはわずかに枠の左へ。39分は厚木北。須川の左クロスから、こぼれを拾った曾我のシュートは慶應のCB飯塚寛人(3年・慶應義塾普通部)が体でブロック。40+1分も厚木北。CBの西野唯斗(3年・横浜宮田中)が左へ送り、須川のクロスに飛び込んだ芳賀はわずかに届かず。お互いにチャンスを創り合った前半は、タイスコアでハーフタイムへ入りました。
後半はまず慶應にチャンス。43分に木村が右へ流し、山村が上げたクロスは鈴木武がキャッチ。45分は厚木北。曾我が右へスルーパスを敢行すると、芳賀が走るも戻った坂井がカット。48分は慶應。山村、渡辺と細かく繋ぎ、木村がミドルレンジから狙ったループは鈴木武が丁寧にキャッチ。51分は厚木北。須川、曾我、芳賀とスムーズにパスが通り、曾我のシュートはDFのブロックに阻まれたものの、見事なパスワークでの崩しに「前半みたいにやっていれば点は取れるなと思っていた」と久保田。その言葉の証明は1分後。
52分、右サイドに開いてパスを引き出した芳賀はニアサイドへシュート気味の速いクロスを供給。これが右のポストに直撃すると、GKの体に当たったボールはゆっくりと左のサイドネットへ転がり込みます。公式記録上はオウンゴールということになりましたが、前半から広範囲に動いていた芳賀の献身性が呼び込んだ逆転ゴール。厚木北がスコアを引っ繰り返してみせました。
1点のビハインドを追い掛ける展開となった慶應は1人目の選手交替を決断。55分に坂井を下げて、原田圭(3年・慶應義塾中等部)を送り込み、そのまま綾部紀幸(2年・川崎フロンターレU-15)とボランチに並べて中盤のバランス向上に着手。一方の厚木北も57分、曾我に替えて10番の星野涼介(3年・座間西中)を1枚目のカードとして投入すると、直後の決定機は慶應。綾部が上げたクロスから、井上が狙ったシュートはDFに当たり、ルーズボールに食らい付いた山村のシュートはわずかに枠の右へ。厚木北のリードは変わりません。
58分には逆転弾を演出した芳賀と小金澤真司(2年・横浜宮田中)を入れ替えた厚木北。一方、62分に飯塚の右FKからこぼれを拾った綾部のシュートが枠を越えたのを見て、慶應も63分に左SBを奮闘した柿沼亮祐(1年・川崎フロンターレU-15)から倉橋尚奨(3年・慶應義塾普通部)にスイッチすると、66分は厚木北が余儀なくされた2人目の交替。「アイツが攣るのは珍しい」と中村監督が話した久保田のプレー続行が難しくなり、増田竜二(3年・スエルテFC)がピッチへ。中盤を引き締め続ける岡野有将(3年・ジュニオールSC)のパートナーはチェンジしますが、チームとしてやるべきことに変化は微塵もなし。
目まぐるしく動く両ベンチ。68分には慶應が渡辺と長戸俊介(3年・慶應義塾普通部)を入れ替え、70分に葉利、渡邊と繋ぎ、左から中へ入った長戸のカットインミドルがクロスバーを越えると、直後の交替は厚木北の3枚目。右SBの守田大樹(2年・横浜宮田中)も足が攣って動けなくなり、大場希実(3年・FC厚木JY)がそのままの位置へ。足の痙攣を訴える選手が続出する状況に、「こういう状況は経験したことないからね。『どんだけ走ってないんだ』みたいな」と苦笑したのは中村監督ですが、その指揮官は「今日のメンバーで先発で出たことない選手はいないくらい。リーグ戦で経験を積んでいるし、出たヤツは忠実にこなしてくれる」とも。実戦経験を有した信頼の置ける選手たちを、最終盤へ向かう時間帯にフィールドへ自信を持って並べます。
何が何でも追い付きたい慶應のラッシュ。71分、左から木村が蹴り込んだCKはDFが何とかクリア。72分、右サイドから井上が狙ったミドルはわずかにクロスバーの上へ。74分、倉橋の鋭い左クロスへニアに突っ込んだ渡邊は頭に当て切れず、そのままゴールポストに激突し、川野真幹(3年・ジェファFC)と交替することになってしまいましたが、その得点への執念には鬼気迫るものが。「失点したら負けるという気持ちで、ディフェンスラインで声を掛け合っていた」とは笹野。両者の意地がぶつかり合う激闘は、いよいよクライマックスへ。
79分は慶應。木村が左へ流したボールを倉橋がシンプルに放り込むと、川野が飛び込むも鈴木武がパンチングで懸命に回避。80+1分も慶應。右サイドへ粘って回し、長戸が上げたクロスはゴール方向へ飛ぶも、わずかにクロスバーの上へ。もはやワンプレーごとに足を攣った選手がバタバタとピッチに倒れ込み、ゲームが中断するような展開の中でも、研ぎ澄まされた厚木北の集中力は途切れず。そして、慶應の圧力を跳ね返し続けた対価は80+1分の歓喜。
相手の横パスを高い位置でかっさらった小金澤は、少し縦に持ち出しながら右へラストパス。駆け上がってきた星野が右足を振り抜くと、必死に反応した鈴木大勇も弾き切れず、ボールはゆっくりとゴールネットへ転がり込みます。途中出場の10番がきっちり仕事を果たして勝負あり。「経験したことのないゾーンに入ってくると、やっぱり1試合1試合が成長だと思う」と中村監督も言及した厚木北が難しいゲームをしっかり勝ち切り、6年ぶりにセミファイナルへと進出する結果となりました。
厚木北は月に1回、AチームとBチームの試合を組んでおり、その時に「Aチームの扉が開く」と中村監督。つまり、そのゲームで好パフォーマンスを見せたBチームの選手は、Aチームに引き上げられる可能性を有しており、「そうすると50人くらいが臨戦態勢に入っている」(中村監督)と。この日も直近の試合でAチームへ抜擢された選手がメンバーに入っており、これがチーム全体の大きなモチベーションに繋がっているようです。実は中村監督、この準々決勝の前に「ベスト4へ行ったらもう1回"試合"をやるぞ」とチームに伝えていたそうで、「『そのためにも勝て』じゃないけど、『勝つことができたら、もう1回みんなに戦いの場に立つチャンスが来るよ』という話はしていた」とのこと。Aチームへ入れずに悔し涙を流したという3年生にも、もう一度チャンスの場が与えられたことになります。「シーズン前から全国大会がずっと目標で俺らも3年間やってきたので、ベスト4が目標じゃないし、ここからが本当のスタートだと言われてきた」と話したのは久保田。「ベスト4では誰もが一番弱いと思っている学校だと思うけど、俺たちは全国に行くという信念を持ってずっと言ってきた。だから負ける気なんてさらさらないし、どことやろうと勝利を強く掴み取るだけ」と力強く言い切った指揮官の下、今月2度目の"試合"を経て、あと2勝に挑む厚木北が続けてきた冒険の結末は如何に。 土屋
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