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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。

Jリーグレポート 2014年09月07日

J2第30節 湘南×松本@BMWス

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0906BMW.jpg因縁満載。3年前にはヘッドコーチと監督としてチームを束ねていた指揮官同士が、それぞれ首位と2位のチームを率いて再会する一戦。舞台は2人が歓喜や悔恨を共有した平塚競技場です。
ここまでの29試合で残した成績は24勝4分け1敗。J2史上に残る驚異的なペースで勝ち点を積み上げ、昇格という唯一無二の目標に向けて突っ走り続ける湘南。「リスクを冒すことと規律を守ることは矛盾するものではまったくないし、同時に体現できるもの」と言い切るチョウ・キジェ監督の下、多くの選手が師事したかつての指揮官を前にしても、その進むべき方向を変えるつもりなど毛頭ありません。
ここまでの29試合で残した成績は18勝7分け4敗。昨年経験した昇格プレーオフ圏内争いを糧に、J2参入3年目となる今シーズンは堂々たる結果で自動昇格圏内をキープし続けている松本。ハードワークが求められるスタイルの中でも真夏の7月と8月は6勝3分けと無敗で乗り切るなど、もはや強者のメンタリティまで身に付けた感も。首位をアウェイで叩き、ラストスパートへのステップにしたい90分間に臨みます。スタジアムを埋めた黄緑と緑は13049人。両者が狙うのは、先の昇格ではなく今まさに目の前の勝利。勝ち点差を度外視した天下分け目の合戦は湘南のキックオフでスタートしました。


わずか14秒でのファーストシュート。中盤でボールを持った武富孝介は躊躇なくミドルを打ち抜き、DFのブロックに遭ったものの、いきなりゴールへの意欲を前面に押し出すと、その右CKは帰ってきたキャプテンの永木亮太が短く蹴り出し、三竿雄斗のリターンを再び受けた永木のクロスはDFがクリアしましたが、セットプレーにもきっちり一工夫。5分にはウェリントンが、8分には菊池大介が相次いでミドルにトライするなど、「我々のスタイルを真っ向から当てていく」(チョウ監督)覚悟を鮮明に打ち出します。
すると、11分に揺れたスタジアム。初めて松本が掴んだFKのチャンスから一転、ボールを拾った武富は簡単に蹴り出さず、そのまま運んでカウンター。これが相手のクリアミスを誘って、左CKを獲得します。キッカーは永木。ブランクを感じさせないボールがニアに入ると、ここへ飛び込んだ遠藤航のドンピシャヘッドはGKとDFの間をすり抜け、揺らされたゴールネット。「航はニアに入ってきて点を取ることが一番得意」と評したのは敵将の反町監督。この試合を最後にアジア大会を戦うU-21日本代表へ合流する3番が堂々と結果を。湘南が先に1点のアドバンテージを手にしました。
さて、早い段階で追い掛ける展開を強いられた松本の布陣は、いつもの3-4-2-1ではなく、最前線にサビアと船山貴之を並べ、その下に岩上祐三が入る3-4-1-2。反町康治監督はその理由を「攻撃力のあるリスクを冒して攻めるチームに対して、リスクを冒して守る」と独特の表現で説明しましたが、特に立ち上がりは前線にボールがほとんど入らず、サイドも押し込まれたことで攻撃に人数を掛けられない状況に。「イマイチ思い描いていた通りには行かなかった」とは多々良敦斗。フィニッシュを創り出すことができません。
ところが、「こういう均衡したゲームになるのは試合前からわかっていた」(岩上)中で、ピッチ内での冷静な判断が光ったのは18分。8分前と同じ右サイドで得たFK。キッカーも同じ岩上。この時、「いつもマークを一番最初に確認して、誰の所が一番ミスマッチなのかは考えてやっている」と話した多々良が、ミスマッチだと感じたのは菊池に付かれた自ら。「アツさんに『俺の所は勝てるから』と言われたのでそこに蹴った」岩上のキックがピンポイントでファーサイドへ届くと、完全に競り勝った多々良の折り返しを犬飼智也が豪快なヘディングでゴールへ叩き込みます。「松本は6割以上セットプレーで点を取っているので、やられちゃったなという感じ」とチョウ監督も話した湘南は、これが今シーズンPK以外のセットプレーでは初めての失点。「狙い通りと言えば狙い通り」(岩上)の同点弾で、たちまちスコアは振り出しに引き戻されました。
これで少し変わった流れ。21分は松本。右サイド、ゴールまで約30mの距離から船山が直接狙ったFKはDFがブロック。25分も松本。ここも船山が30m近い無回転気味のミドルを枠内へ収め、湘南のGK秋元陽太が懸命に弾くと、詰めたサビアはオフサイドになりましたが、ようやくアウェイチームにも手数が出てきます。
追い付かれた湘南もミドルに活路。26分にはウェリントンのポストから、永木が中央を運んで狙ったミドルはDFに当たってゴール左へ。28分にも永木のパスを受けて武富が中央からミドルを放ち、ここは松本のGK村山智彦がキャッチ。29分にもウェリントン、永木と繋いだボールから、三竿が思い切って狙ったミドルはわずかに枠の右へ。逆に30分は松本のカウンター。喜山康平が縦に入れ、岩上が打ったミドルはゴール左へ外れるも、この時間帯はお互いに目立ったエリア外からのシュートチャレンジ。
33分には流れの中から湘南に決定機。スローインの流れから遠藤が中へ付け、ウェリントンのフリックで抜け出した菊地俊介のシュートは、村山が正面で確実にセーブ。36分は松本にまたミドル。船山のパスからバランサーの岩間雄大が35m近い低空ミドルを枠内へ飛ばし、秋元がズシリとキャッチ。ゲームリズムはほぼイーブン。
最初の45分の終盤は松本のセットプレーが続けて。38分は岩上の右ロングスロー。秋元のパンチングがこぼれ、拾った喜山を経由して船山が放ったシュートは、ウェリントンが果敢に体でブロック。直後は岩上の左CK。犬飼のヘディングは枠の左へ。40分は湘南。永木の右CKはショート。遠藤、永木、三竿と短く回し、永木が中へ送ると、遠藤はエリア内で転倒するも家本政明主審のホイッスルは鳴らず。丁々発止とやり合う両者。
42分は岩上の右FK。良いボールが入るもオフェンスファウル。45分は岩上の左ロングスロー。中央で弾んだボールは菊地がクリア。同じく45分は岩上の右ロングスロー。今度はウェリントンがしっかりクリア。「点を取ってからの10分、ちょっと守ろうという意識がチームの中であった」(チョウ監督)時間帯での失点から、湘南もセットプレー対応を含めてきっちりリカバー。高い集中力を要した前半は、タイスコアのままでハーフタイムへ入りました。


後半は松本の連続セットプレーから。48分に船山が倒されて獲得したFKを左から岩上が蹴り込むも、秋元が飛び出して確実にキャッチ。49分にも右サイドで岩上がロングスローのフェイクから短く投げ入れ、喜山のリターンをクロスに変えると、飯田真輝のヘディングは当たり切らずにゴール右へ逸れましたが、前半終盤の流れそのままに松本のセットプレーが威力を発揮します。
ただ、54分に相手のハンドで得たゴールまで約20mのFKを、丸山祐市がクロスバーの上へ外した前後から、ペースは徐々に湘南へ。その中心は「自分が2カ月ぶりに入って、中盤であのリズムが創れたというのは良かったと思う」と話した永木。中盤も支配しつつ、局面では高精度キックでチャンス創出。56分には菊池への絶妙サイドチェンジをCKへ繋げると、57分には右CKを自らグラウンダーで流し込むトリックも。ボールは2人のスルーを経てやや流れてしまい、亀川諒史が上げたクロスはゴールキックになったものの、「気合いが入り過ぎて訳の分からない号令をしていた」と指揮官も笑ったキャプテンを軸に、湘南が上げていくエンジンの回転数。
62分には湘南の狙いがハマったアタックが。武富を起点にウェリントンは右サイドの菊池へ。その菊池が中へ戻すと、フリーで上がってきたのは遠藤。松本はここへチェックに行けず、ほとんどフリーで遠藤が放ったループはクロスバーを大きく越えましたが、これはかなり重要なワンシーンだったと思います。というのも、この日の松本は2トップを敷いていたために、普段だったら2シャドーが落ちていくサイドのスペースケアはどうしても緩くなりがち。ここも左WBの岩沼俊介は菊池に対応しており、おそらくは個人の危機察知能力で戻っていた船山も一歩及ばず。ただでさえ有効な3バックのサイドが上がっていく形は、一層効果的なものになるため、このフィニッシュワークは松本をより牽制する意味でも、非常に意味があったように感じました。
67分の決断は反町監督。なかなかボールを収め切れなかったサビアを下げて、高さと強さに自信を持つ山本大貴を投入。「カウンターでフナさんとサビアをしっかり生かせるようにということでやっていたけど、ボールを取る位置がちょっと低かった」(岩上)こともあって、ほとんど相手陣内で基点ができない流れを変えるべく、明確なターゲットを置くことで状況の改善を図ると、69分には船山の落としから岩上のボレーミドルは枠の左に大きく外れましたが、ようやく後半のファーストシュートが記録されます。
一方のチョウ監督も、67分に菊池と藤田征也の交替を決断すると、70分にはその藤田のドリブルからCKを奪い、藤田が自ら蹴ったショートコーナーはシュートまで行かなかったものの、早くも縦への推進力でワンチャンス。71分には亀川がやや強引な枠内ミドル。72分にも岡田翔平が左のハイサイドで残し、三竿のクロスはウェリントンが反応し切れず中途半端な枠外シュートになりましたが、75分には岡田に替えて切り札の大竹洋平もピッチへ送り込み、さらに強めに掛かった攻勢。
「最後に重たくなっちゃったのは押し込まれている中で仕方なかったし、それは割り切ってやっていた」と多々良も語った松本にも、79分には後半最大のチャンス到来。村山のキックに山本が高い打点のヘディングで競り勝つと、裏へ走った船山は思い切り良くダイレクトボレー。ボールは秋元の正面を突き、勝ち越し弾とは行かなかったものの、2トップだけの連携でシュートまで持ち込むことに成功します。
79分に訪れた湘南のCKにはお互いの駆け引きが。「CKも色々なことをやってくるので、向こうの狙い通りにさせないためには前から2人残す」というのが反町監督の狙い。それに対して、「ソリさんはたぶんCKの守備は相当考えたと思いますよ。2枚残して。でも、俺は2枚で守れと言っていた」とチョウ監督。続けて「"2対2"で守れなかったら、究極を言うと後ろを"3対2"にしていたら数的優位なんか創れない。でも、"3対2"にしなければいけない時もあって、その判断を育んでいる。だから、選手が"2対2"のままでやろうとしたことには特に何も言わなかった。そういう風にして守れるなら守ってみろと」とのこと。"2対2"なのか、"3対2"なのか。数が与えるイメージとの鬩ぎ合い。結果、"2対2"がカウンターで対峙し合うことはありませんでしたが、これもゲームの面白さの1つであったことは間違いありません。
81分は湘南。大竹の縦パスをウェリントンが落とし、菊地が叩いたシュートはDFがブロック。83分には湘南が最後の交替カードを。亀川と熊谷アンドリューをスイッチすると、武富を左WBにスライドさせ、極限まで高める攻撃姿勢。「何とか耐えるしかない状態で、最後はなかなかラインが上がるような時間帯がなかったので苦しかった」(多々良)松本の集中も切れず。残されたのは5分間とアディショナルタイム。
87分は松本。岩上の左ロングスローを飯田が頭に当てるも、DFが何とかクリア。89分は湘南。大竹が右へ展開したボールを、藤田はカットインしながら左足でクロスまで上げ切るも、ウェリントンはわずかに及ばず。90+1分は松本。右から岩上が蹴ったFKは多々良に合いましたが、ここは副審のフラッグが上がってオフサイドの判定。この一連は「後半は凄く良くなった」とチョウ監督も認めたセットプレーに対する修正能力の証。90+2分は湘南。遠藤がコースを狙ったシュートはわずかにゴール左へ外れ、指揮官も飛び跳ねて悔しさを露に。90+3分は松本。岩上の右FKを秋元がキャッチすると、直後に吹かれたタイムアップのホイッスル。「勝点3を取ることしか考えていなかったので非常に悔しい気持ちはありますが、僕の中では同時に清々しい気持ちも残っているような試合になりました」というチョウ監督の言葉は、おそらく両チームに関わる多くの人の共通した想い。首位と2位の好バウトは両チームに勝ち点1が振り分けられる結果となりました。


「ソリさんに『くだらないチームだな』とか『なんか湘南って偉そうだな』と思われるのがいちばん嫌だったので、僕は謙虚にフットボールをしたつもりです」とチョウ監督が話した一戦は、お互いが持てる力を出し切った非常に集中力の高い90分間でした。このゲームで鍵を握ったのは、数字を巡る"ロジック"と"イメージ"。前者の"ロジック"は松本の同点シーン。「向こうの高さという意味では、チョウも当然分かっていると思うが、4番目5番目くらいからガタっと落ちる。多々良の所がミスマッチだったので、そこを狙ったというだけの話」と話したのは反町監督。"4番目"や"5番目"という数字を分析から弾き出し、フィードバックしていたことを選手がさらにその場で判断してゴールに繋げたという意味では、非常に意味のあるゴールだったのかなと思います。また後者の"イメージ"に関しては、前述したように「攻撃力のあるリスクを冒して攻めるチームに対して、リスクを冒して守る」と表現した反町監督の2トップを採用した決断。これもおそらくは単純に5-4-1気味になって数が後ろに掛かるのを嫌い、押し込まれて5バックになっても前には人数がいるというイメージを植え付けたい現れだったのかなと。「祐三はなかなかキツい所だったので大変だったかなと思う」と多々良も話したように、岩上は相当なハードワークを強いられましたが、結果的に人数が前に"2人"+"1人"いるというイメージは、守備に回る際の松本に一定の好影響を与えていたようにも感じました。そして、最後も"イメージ"が鬩ぎ合った"2対2"を巡る駆け引き。「松本は我々の"2"を"3"にさせたかった。でも、我々が"2"で行ったことは、精神的なことを含めて大事な要素だと思います」とチョウ監督。2人の指揮官がCK時にこだわった"2"という数字に、お互いをリスペクトしつつ、絶対に相手に対して精神的な部分で負けたくないという、両者の思惑が透けて見えた所も非常に見応えがありました。「驕りなく、自分たちは謙虚に戦わなければいけないというキーワード」(チョウ監督)を両チームが体現し続けた一戦は、サッカーの"旨味"のようなものがたくさん詰まっている、濃厚な90分間でもありました。       土屋

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