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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
Tリーグに所属する実力者同士が、"初秋"までサッカーを続けるための権利を懸けて対峙する一戦。会場はおなじみ駒沢補助です。
昨年の選手権は都大会の初戦で都立国分寺に惜敗。今年度も関東大会予選は初戦で実践学園にPK戦で屈し、インターハイ予選では1次予選で関東第一に0-2で敗れるなど、近年はトーナメントコンペティションの苦戦が続いているかえつ有明。シーズンラストの今大会は、都立永山を6-0、都立第四商業を13-0と一蹴して、この1次予選決勝へ。「私たちの目標は西が丘サッカー場でサッカーをすること」と渡辺陽介監督。"西が丘"を目指す上でも、生き残らなくてはいけない通過点を迎えています。
7年前の選手権予選ではファイナルまで進出したものの、ここ最近は各大会で上位進出の壁に阻まれている都立つばさ総合。昨年の選手権予選は支部予選初戦でまさかの敗退を余儀なくされると、新人戦も地区大会、インターハイ予選も支部予選でそれぞれ敗退。復活を期す今大会は都立東京工業高専を2-0、都立桜町を7-0で倒し、無失点でこのファイナルへ。3年ぶりの都大会進出に向けて、T3の難敵と激突します。10時キックオフでも駒沢補助は真夏の陽射し。都大会進出を巡る70分間は、つばさ総合のキックオフでスタートしました。
先にチャンスを創ったのはかえつ有明。4分はピッチ中央、ゴールまで約25mの距離から仲野哲矢(3年・かえつ有明中)が直接狙ったFKは枠の左へ外れるも、まずはファーストシュートを。9分には右SBの羽田直樹(2年・かえつ有明中)が付けたボールから、藤枝友仁(2年・かえつ有明中)のシュートはDFに当たり、こぼれを拾った鈴木龍介(3年・かえつ有明中)のシュートはGKを破るも、最後はライン上でつばさ総合の左SBに入った安田匠巳(3年・E'XITO YOKOHAMA)にクリアされましたが、決定的なシーンを創出。直後にも藤枝のシュートをつばさ総合のGK岩田奨悟(3年・大田大森第一中)が弾き、鈴木龍介が押し込んだゴールはオフサイドで取り消されるも、徐々に攻勢を強めます。
ただ、「この間までの相手がどっちかというと後ろに後ろにという感じで、今回はDFラインが高かったので、そこにちょっと時間がかかったかな」と渡辺監督が振り返ったように、諏訪万修(3年・FC台東)と三浦遊太(3年・品川大崎中)のCBコンビがしっかりプッシュアップするつばさ総合ラインの高さと、副審との相性も加わってかえつにオフサイドが頻発。17分にはアンカーの谷椋介(3年・かえつ有明中)を起点に仲野は左へ。藤枝の正確な折り返しを小栗健太(3年・かえつ有明中)がボレーで狙うも、ゴール右スミを捉えたシュートはここも安田がカバーに入り、ほとんどライン上からヘディングで掻き出すスーパークリア。応援団も「男・安田!」と叫ぶ安田のファインクリア連発で、スコアは動きません。
そんな中、「5回に1回とか、8回に1回とか、あれで決定機が創れるんだったら続けろ」と指揮官からメッセージを送られたかえつの歓喜は21分。ここも仲野が左へ回すと、藤枝は縦に運んで中へ。鈴木龍介がわずかに触れたボールを、ファーサイドで押し込んだのは小栗。1年時から出場機会を得てきた17番が一仕事。かえつが1点のアドバンテージを手にしました。
畳み掛けた臨海の赤。23分に右サイドで繰り出したアタックは、最後方から駆け上がってきた羽田のオーバーラップ。オフサイドフラッグは当然上がらず、グラウンダーで中央へ送ったボールをプッシュしたのはCFの鈴木龍介。ゴール後は走って走って、両手をクロスしてからのクリスティアーノ・ロナウド。「オフサイドになるから長いボールでというのが、逆に言えば一番嫌だった部分。今日はそれでもやり続けた」と渡辺監督。サイドアタックからの追加点。リードが広がりました。
以降もかえつ有明のラッシュ。25分には谷、鈴木龍介と繋がり、星野熙暉(3年・かえつ有明中)のシュートは岩田がファインセーブ。26分にも西村将(3年・かえつ有明中)のクサビを星野が落とし、鈴木龍介が枠へ治めたシュートは岩田がキャッチ。27分にも仲野が左へ振り分け、藤枝が鋭い切り返しでマーカーを外して放ったシュートは、ここも岩田がファインセーブで回避。つばさ総合ゴールに立ちはだかる岩田の存在感は抜群。
ところが、次のゴールもかえつ有明に飛び出した見事なゴラッソ。藤枝の突破を阻んだ岩田のタックルは、正当に見えましたがファウルのジャッジ。左寄り、ゴールまで約20mの位置から短い助走を取った仲野は、カベの右側を巻くキックを選択。狙い通りのコースを辿ったボールに、GKは一歩も動けません。「FKの練習は全然しないけど、トレーニングが終わった後に彼らが勝手にやっている」と渡辺監督も笑う仲野の直接FKには、つばさ総合の応援団からも溜息が。大きな大きな3点目がかえつ有明に記録され、最初の35分間は終了しました。
ハーフタイムを挟み、後半開始から動いてきたのはつばさ総合。右SBで奮闘した抜水流星(3年・大田大森第二中)と山野一樹(3年・FC渋谷)を入れ替え、システムも4-4-2から3-4-1-2気味にシフト。最終ラインには右から三浦、諏訪、安田が並び、最前線は恒藤峻(3年・世田谷尾山台中)と山野の2トップに。その下に梅井翔太(2年・インテリオールFC)が入り、中盤は右ワイドに日名翔大(3年・大豆戸FC)、左ワイドに青野利皇(3年・北区十条富士見中)、中央に川上智也(2年・大田大森第四中)と古谷州(3年・筑波大附属中)を配した布陣で、再び戦闘態勢を整えます。
早速滲ませたゴールへの気持ち。36分、後方から左サイドへフィードが送られると、うまく収めた青野はアーリークロス。ファーで山野が折り返したボールはわずかに恒藤も届かず、かえつ有明のGK本郷力(3年・ジェフユナイテッド千葉U-15)にキャッチされたものの、ようやく生まれたサイドアタックの形。
すると、反撃の狼煙もやはり左サイドから。41分、左サイドへ開いた梅井が鋭いクロスを放り込むと、ファーに飛び込んだ日名が折り返し、きっちり詰めていた山野がプッシュしたボールは、ゴールネットを確実に揺らします。ようやく広がったブルーが創る歓喜の輪。勢いそのままにつばさ総合が1点を返しました。
45分には日名と宮田雅幸(3年・江戸川東葛西中)を入れ替え、さらなる推進力アップに着手するつばさ総合。一方、「ハーフタイムに『3-0だけど、0-0の感覚でやりなさい』と」渡辺監督に送り出されたかえつ有明はやや差し込まれる展開に。45分には藤枝を下げて、林英人(3年・かえつ有明中)を送り込み、前線のパワー向上を図ると、47分には小栗が入れたFKの流れから、林が枠内シュートを放つも、岩田がファインセーブで応酬。51分にも中央、ゴールまで約25mの位置から仲野が蹴ったFKはわずかにクロスバーの上へ。縮まった2点差は変わりません。
55分はつばさ総合。山野が右のハイサイドから戻し、恒藤が上げたクロスは本郷が飛び出してキャッチ。直後もつばさ総合。安田がインターセプトからそのまま持ち上がり、少し中央に入って打ち切ったミドルはクロスバーの上へ。57分に恒藤と糟谷瞭(2年・江東第二砂町中)、61分に梅井と下池竜幹(1年)をスイッチしたつばさ総合に対し、かえつ有明も59分に鈴木龍介と小田拓海(3年・かえつ有明中)の交替を決断。61分はつばさ総合。山野のドリブルで獲得した左CKを川上が蹴り入れ、下池が頭で残したボールはDFがクリア。かえつ有明のCBを組むキャプテンの平子直樹(3年・かえつ有明中)と関谷尚希(2年・かえつ有明中)の集中力も切れず。残りはラスト10分間とアディショナルタイムのみ。
62分はかえつ有明。林が1人かわして放ったシュートは岩田がキャッチ。64分もかえつ有明。ここも林が左からカットインしながら狙ったシュートは、岩田が超ファインセーブで仁王立ち。66分もかえつ有明。仲野がクリアをパスに繋げたボールから、右に流れた林のシュートは枠の左へ。様相は林と岩田の一騎打ち。水際で持ち堪えるつばさ総合。
上回ったのは「試合に出れば期待に応えてくれるヤツ」と渡辺監督も認めた11番。69分、林の仕掛けからボールがこぼれ、星野が粘って繋いだボールへ再び絡んだ林は右足一閃。軌道は岩田を破って、ゴール左スミへ吸い込まれます。投入から5本目のシュートチャレンジがようやく成果に。4-1。かえつ有明が突き放しました。
緩めなかったゴールへの意欲。70分と70+1分に小田が打ったシュートはどちらも岩田に弾き出されましたが、70+2分には途中出場の鈴木建介(3年・かえつ有明中)が左へ送り、宮田が折り返すと星野はニアをぶち抜く5点目。70+4分にも仲野のパスから、林がゴール右スミへミドルを突き刺して6点目。「選手層が厚いわけではないので、この夏の選手権はキツいです」とは渡辺監督ですが、終わってみれば3試合25得点と圧倒的な攻撃力を披露したかえつ有明が、都大会への切符を堂々と掴み取る結果となりました。
今日のベンチメンバーも含めた20人中、19人が附属中学のサッカー部出身。残る1人も学校自体は附属中学に通っており、実質全員が長年に渡って苦楽を共にしてきたメンバーで構成されているかえつ有明。渡辺監督自体も附属中学で6年間指導経験を積み、一昨年から高校の監督を務めていることもあって、特に今の3年生たちは5年に渡って自ら見てきた生徒たち。「ちょっと情が入り過ぎているんじゃないかなと思って、それが個人を冷静に見れる所も失っちゃう危険性もあるかもしれませんね」と渡辺監督は正直に話してくれましたが、試合中の雰囲気を見ていてもこの最後の大会では、その結束感がプラスに出ているような印象を持ちました。「東京で"ベスト8"の力を付ければ制覇できるかもしれないという可能性を感じていて、その"ベスト8"の力という意味で言えば、まずまず今年はあるかなと。こちら側がイメージしているサッカーはしているのかなと思います」と謙虚な姿勢の中にも自信を覗かせた渡辺監督。"ベスト8"のその先へ。そこで待っているのは彼らの目標。東京サッカー界の聖地・西が丘です。
最後に。つばさ総合の選手で形成されたピッチサイドで応援する集団の中に、1人だけマネージャーが立っていました。男子の中に混じって声を出していましたが、最終盤に4失点目を喫してからは溢れる涙をタオルで何度も押さえ、敗退が決まった瞬間には人工芝に突っ伏してしまいました。試合後に彼らの横を通り過ぎると、まだ顔を上げられなかった彼女は声を上げて泣いていました。ただ、ひとしきり泣き続けた彼女は、気が付くとチームのボトルを手にして、マネージャーとしての職務をまっとうしながら、ピッチを後にしていきました。取材を終えて正面入口から帰ろうとした時に、彼女の姿が見えました。すれ違いざまに彼女が握手していた選手から「辞めなくて良かったな。本当にありがとう」と声を掛けられているのが聞こえました。一瞬だけ詳細を聞こうかなと思いましたが、結局そのまま正面入口を出て、帰途に着きました。彼女が何年生だったのかはわかりませんし、なぜ辞めそうになっていたのかもわかりませんが、彼女が声を上げて泣いていた光景を思い返すと、「きっと辞めなくて良かったんだろうなあ」と。そして、きっとこういう光景は日本中のさまざまなサッカー部にも存在しているんだろうなと。仲間のために声を張り上げ、仲間のために泣くことのできる彼女たちマネージャーも、サッカー部の大事なチームメイトであることは間違いありません。彼女たちの姿が改めてそのことを私に再認識させてくれました。 土屋
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