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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
J2を席巻し続ける緑と青の台風に、知将率いる熊本の赤馬が立ちはだかれるか。ここから2巡目となるタイミングで組まれた好カードはBMWです。
開幕14連勝。1つの黒星を挟み、再び6連勝。既に2位には17ポイント、7位には28ポイントの差を付け、もはやいつが"Xデー"かという話題が出てきてもおかしくない湘南。ただ、2回り目に突入するこのゲームを前に、「リセット、リスタート、リスタイルという話をした」とはチョウ・キジェ監督。数字に惑わされることなく、再び自らの目指す場所へ到達するための3つの"Re"は、既に始まっています。
4月は3連勝を含む5戦無敗で8位にまで浮上するなど、今シーズンから指揮官に招聘された小野剛監督の下、上々の序盤戦を過ごした熊本。以降も引き分けこそ多いものの、少ない失点数を武器に着々と勝ち点を積み上げていましたが、ここ3試合は11失点を喫しての3連敗。「かなり強気に攻撃へ舵を切った所で、京都戦の前半は非常に良い戦いをしたが、その後で中国で一緒にやっていた大黒選手に多少かき回されて、そこから少し後ろを気にするようになって、ボールに対するプレッシャーが甘くなった試合はあった」とは小野監督。プレスのギアを上げるキッカケを掴むには、格好の相手とアウェイで対峙します。この日もBMWには7519人の大観衆が集結。後半戦のファーストマッチは、湘南のキックオフで幕が上がりました。
先にチャンスを創出したのは熊本。4分、カウンター気味に中山雄登が少し運び、受けた澤田崇は右へ流れながら中央へ。ボールはそのまま流れてゴールキックになりましたが、悪くない展開を。7分は湘南。左サイドで少し中へ入った三竿雄斗がスルーパスを送ると、巧みに岡田翔平がラインブレイク。最後は良く戻った橋本拳人がカットしたものの、お互いに繰り出し合う決定機の"一歩手前"。
9分は湘南。三竿の左FKをウェリントンが戻し、遠藤航が体を伸ばしたヘディングはヒットせず。11分は熊本。養父雄仁の右ロングスローと右のショートコーナーはいずれもシュートへ至らず。13分は湘南。岩尾憲が左から蹴ったFKに、岡田が頭で反応するもボールは大きく枠外へ。14分は熊本。フェイスガードを着用しながら、「球際の所が重要になると思っていた」という小野監督の狙いでスタメン起用された黒木晃平が残し、片山奨典が上げたクロスを齊藤和樹は懸命にヘディングで枠内へ。ここは湘南のGK秋元陽太がキャッチしましたが、セットプレーも含めて双方にチャンスが訪れます。
熊本で目立ったのは「選手は前線からよくプレッシャーを掛けてくれた」と指揮官も認めたハイプレス。3トップ気味に配された中山、齊藤、澤田がまずは相手にしっかりファーストプレスを掛け、縦へのボールはCBの橋本と園田を中心に跳ね返し、トレスボランチ気味の上村周平、養父、黒木がセカンドに殺到するという、シンプルながら強度の高い反復を徹底。「熊本さんは本当にハイスピードでやってきていた」とチョウ監督も振り返ったように、ある程度は局面の"スピード"を重視した戦い方で、良い意味で試合を"壊す"ことに成功した印象を持ちました。
対する湘南はなかなかアタックがフィニッシュまで繋がらず、記録上のファーストシュートは31分に岩尾の横パスから、亀川諒史が強引に狙ったミドルがそれ。とはいえ、左サイドは菊池大介と三竿できっちり崩したことで、「あそこは攻守に渡ってポジション取りが難しくなる所だったので、相手があそこの裏を狙ってくる部分が少し出ていた」と策士の小野監督に31分で早くも右SBを大迫希から藏川洋平へスイッチさせたように、一定の脅威は相手の首元へ。交替直前にはその菊池と亀川の左右を入れ替えるなど、「自分ではこういう展開のこういうゲームで、前半からバンバンシュートチャンスが多い試合になるとは思っていなかった」と話すチョウ監督も、さらなる推進力の向上へきっちり着手してみせます。
そんな中、このゲーム最初の決定機は熊本に。38分、左サイドで獲得したFKを片山が素早く中央へ蹴り込むと、競り合いのこぼれにいち早く反応した中山は、1つ運んで左足でジャストミート。鋭い軌道は秋元を破るも、スタジアムに響いたのはクロスバーにボールが当たる金属音。直後にも澤田のラストパスから、齊藤がわずかに枠の右へ外れるシュートまで。公式記録のシュート数では湘南の1に対して、熊本は6。「前半はかなりお互いプレッシャーの掛け合いだった」という小野監督の言葉にも頷ける最初の45分間は、スコアが動くことなくハーフタイムへ入りました。
後半に入るとすぐさま変わったスコアボードの数字。ゼロをイチに変えたのはホームチーム。48分、直接と間接を含めれば16本目となるFK。右サイドから三竿が得意の左足で放り込むと、完全にフリーでゾーンの網目に潜ったウェリントンが頭でズドン。瞬間、緑と青のサポーターは沸騰します。「最後シュートを何本打つかというのは選手が決めることなので、シュートじゃなくてパスの可能性が高かったらそっちを選べばいいし、シュートを打っているのがいいのかという話じゃないと俺は思っている」という指揮官の言葉は、おそらくチームの共通認識。"2本目"のシュートで湘南が1点のアドバンテージを手にしました。
拮抗した展開に持ち込みながら、ビハインドを負った熊本。55分にはFKのこぼれ球をプロ初スタメンとなった上村がピンポイントで右へ送り、園田拓也の落としを齊藤がダイレクトで叩いたシュートはわずかに枠の左へ。奮闘したその上村と仲間隼斗の交替を経て、62分には再びビッグチャンス。仲間がミドルレンジから狙ったミドルはDFに当たるも、拾った齊藤は完璧なターンから枠内へ。秋元が懸命に弾き出し、飛び込んだ澤田が粘って粘って打ち切ったシュートは、ここも秋元がファインセーブで回避しましたが、同点への香りをピッチの上に漂わせます。
しかし、ここで飛び出したのは「僕が考えた心理戦に大介がよく乗ってくれたという感じ」とチョウ監督も言及した、100点満点のセットプレー。65分は前後半通じて初めてのCK。左のアークに立った岩尾は斜め後方の菊池へ。菊池が岩尾へ戻すと、ニアへ走り寄った遠藤は岩尾のパスを丁寧に落とし、最高のボールは足を止めずに回り込んだ菊池の目の前へ。躊躇なく右足で振り抜いたボールは、低い弾道でゴール左スミへ突き刺さります。「久しぶりに大介が最後フィニッシュに関わるという所で、アイツも『よし、やってやろう』という気持ちでやってもらえたのかなと。あんな難しいシュートを入れるんだったら、簡単なシュートを入れて欲しいなと思う」と笑ったチョウ監督も「エクセレントなシュート」と認めざるを得ない、完璧な流れとフィニッシュ。"3本目"のシュートで湘南が点差を広げました。
一気に厳しくなった状況を見て、小野監督は70分に3枚目の交替を決断。黒木を下げて巻誠一郎をピッチへ送り込み、前線の高さと強度を高めに掛かりますが、71分には岩尾の右CKを菊池がフリックで流し、遠藤のシュートはクロスバーの上へ。75分にも三竿がクイックで始めたFKから、菊池がわずかにゴール左へ逸れるミドルにトライ。ゲームリズムは点差そのままにホームチームへ確実に傾いていきます。
チョウ監督が次に動いたのは77分。岡田に替えて、投入したのは島村毅。その島村は3バックの左へ入り、三竿がWBへ、菊池が3トップの一角へそれぞれ上がり、高さとパワーへの備えを増強したように見えた直後、熊本の実った反攻。78分、FKの跳ね返りを拾った中山は迷わず右へ好フィード。マーカーに競り勝った巻が中央に落とすと、後方から突っ込んできたのは仲間。スライディングで押し込んだボールはゴールネットへ到達します。風雲急を告げる展開。両者の点差はわずか1点に。
79分には古巣対決となる武富孝介の左足ミドルを、熊本のGK畑実がきっちりセーブ。84分には藤田の右クロスをウェリントンが合わせたボレーは枠外。手数は湘南が2つ出したものの、「1対1のせめぎ合いとか球際の戦いとかで、ちょっと勝てなかった場面が2-0になった後に多くて、僕の交替の仕方のメッセージも悪かったかなと思っている」とチョウ監督も振り返った通り、前へのパワーと圧力は熊本に分が。
86分には養父のスローインを園田が戻し、養父が右から上げた高速クロスは秋元がパンチングで回避。87分にもゴール前でお互いが3ターンずつ入れて返してを繰り返し、最後はフリーで養父が叩いたボレーはクロスバーの上へ。追い付く可能性は十分示した中で、しかし「ある程度の所を崩せても、そこからポジションにかかわらずディフェンスして、ゴールを死守する姿勢は非常に高いものを示したのではないかと思う」と小野監督も言及した、"死守する姿勢"はあと一歩を許さず。3分のアディショナルタイムも潰し切って、試合終了のホイッスルを聴いた湘南が、着実に勝ち点3を積み上げる結果となりました。
「90分通しての選手のパフォーマンスについては、よくやってくれたと思っている」と小野監督も語ったように、熊本は一定の手応えを掴んだゲームだったように見えました。プレッシャーは前線から常に掛けながら、ある程度長いボールを多用することで相手のプレスには的を絞らせず、初スタメンの上村も含めてセカンド奪取を中盤が徹底するやり方は、首位相手にも十分効果があったのかなと。ただ、惜しまれるのはファウルが多かったこと。結果的に先制点もFKから生まれており、ギリギリの対応を強いられていたことは理解できますが、そのファウルが自らを苦しくしてしまった側面もあったように感じました。
湘南は難しいゲームをしっかり勝ち切りますね。失点直後は少しバタバタした雰囲気もありましたが、終わってみれば逃げ切りに成功。チョウ監督も「ああいう相手に対してしっかり勝ち点3を取ったというのは、1つチームとして成長だなと思います」と話しています。そんな指揮官の話で特に印象に残ったのは「『湘南って頑張るだけじゃん、勢いだけじゃん』って言われながらも、彼ら選手がそれをしっかり自分の心の中に入れて取り組んでいることがその結果に繋がっているだけで、今年勝っているからそれが凄くなったとか何か変わったとかじゃなくて、その積み重ねでしかないと思っているから、これから勝てないかもしれないし、21回勝ったことで『スゲー。ウチは強くなった』とは思ってないし、強くなったと俺が思った瞬間にチームは終わると思う」という言葉。気付けば超えていた一昨年の昇格時に挙げた勝ち星の数すらも、彼らを満足させる材料になり得ないという事実が、湘南の今後にさらなる期待を抱かせてくれるのだと思います。 土屋
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