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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
"10番"の不在。王国が王国に倒れた日。
夢を見ているのか、あるいは夢を見ていたのか。
それすらももはや区別は付かない。
揺らされ、揺らされ、揺らされる。
奪われ、奪われ、奪われる。
わずか30分間で未来への扉はあっさり閉ざされた。
観衆が泣き、スタンドが泣き、国民が泣く。
64年ぶりの再会を待ち侘びていた
悠久のマラカナンへ辿り着くことすら許されない。
探しても探しても、"10番"はいない。
7度の絶望と、1度の意地を経て、
王国は王国で無残にも打ち砕かれる。
その90分間にここまでカナリアを牽引してきた"10番"の姿は
どこにも見当たらなかった。
ただの"10番"ではない。
カナリア色のそれは世界のそれであり、時代のそれだ。
想像もできない喜びと、想像もできない重圧が同時に襲う。
初めてその番号が固定されたスイスから
常にカナリア色の"10番"は無数の目へ晒されてきた。
スイスではホセ・ラザロ・ロブレス
ピンガ"が背負う。
4年前の悪夢を払拭すべく、
初戦で2つの歓喜を王国へもたらす。
しかし、次の青きバルカンからゴールを奪えなかったアタッカーへ
指揮官のゼゼ・モレイラは冷徹なジャッジを下した。
9番、10番、11番。
それまで5トップの定位置を与えられていた3人は
座って準々決勝が開始されるキックオフの笛を聞く。
当時の世界に"交替"という概念はない。
座って90分間を迎えれば、座って90分間を終える。
ハンガリーに敗れ、王国初の"10番"は失意の元にスイスを去った。
スウェーデンではエジソン・アランテス・ド・ナシメント。
言わずと知れた"ペレ"が背負う。
弱冠17歳。
ただし、伝統を誇るサンパウロ州選手権の得点王。
既に普通の17歳ではない。
3試合目で"10番は"ようやく登場したものの、
おそらくは年齢と背負う番号の不均衡が目を惹いた。
ところが、突如として世界はその価値を理解する。
ウェールズから挙げた一発は序章の序章に過ぎない。
準決勝の相手はフランス。
ジュスト・フォンテーヌが1つのゴールを奪う間に、
ペレは3つのゴールを奪ってみせた。
決勝の相手はスウェーデン。
地元優勝を目論む北欧の巨人から、
ペレは2つのゴールを奪ってみせる。
初めて世界を手に入れたカナリアの"10番"は、
やはり普通の17歳ではなかった。
チリとイングランドでは失意が"10番"を包む。
前者は2試合目の途中で負傷。
"交替"という概念はまだないため、
ピッチにとどまったが、以降は離脱を余儀なくされる。
2度目の世界一は見守るしかなかった。
後者は1試合目で負傷。
チームの苦境に登場せざるを得なくなった
3試合目では執拗なコンタクトを受け、
試合中にもかかわらず離脱を余儀なくされる。
世界を失ったカナリアを王国は責める。
"10番"はその意欲を失いつつあった。
メキシコではエジソン・アランテス・ド・ナシメント。
言わずと知れた"ペレ"が甦る。
"10番"でも不思議のない忠臣が、
"10番"と共に華麗なサンバを踊る。
リベリーノが3点、ジャイルジーニョが6点、トスタンが2点。
ペレが3点でも余力を持って最後の1試合へ進む。
アズーリとのファイナルは、やはり"10番"が舞った。
17分。通算で12度目のゴールを母国へ捧げる。
前半の内に追い付かれたが、焦りはない。
ジェルソンとジャイルジーニョで突き放し、
トドメは腕章を巻くカルロス・アウベルト。
豪快なラストゴールを演出したのは、やはりペレだった。
"10番"に頼らず、ここぞで"10番"に頼ったカナリアは
3度目の世界一に輝く。
しかし、すぐさま手に入るかに見えた4度目は
王国が送り出す"10番"をことごとく避けて通る。
西ドイツではロベルト・リベリーノが背負う。
3つのゴールを陥れ、奮闘するが孤軍。
7試合で6得点では頂けない。
最後はポーランドにも敗れ、4位に終わった。
アルゼンチンでは再びロベルト・リベリーノが背負う。
とはいえ、もはやレギュラーではない。
カナリアが刻んだ630分間の38分間のみに現れ、
優勝に沸く隣国を3位で去った。
スペインではアルトゥール・アントゥネス・コインブラ。
"ジーコ"が背負う。
ソクラテス、ファルカン、トニーニョ・セレーゾ。
12年前と同様に"10番"でも不思議のない忠臣を従え、
世界がカナリアにかつてない程の期待を寄せた。
ジーコも4つのゴールでファイナルへ王手を懸ける。
立ちはだかるは12年前に倒したはずのアズーリ。
立ちはだかるはパオロ・ロッシ。
"黄金の子"の3発に沈む。
2度目のメキシコでも"ジーコ"が背負うも、
負傷が祟って交替出場に限られる。
フランスとの準々決勝も
120分間の後に制した11メートルを、
90分間の中で制していれば次へ進んでいた。
結果、120分間の後にその道を絶たれる。
"白いペレ"をもってしても世界は頂けない。
イタリアではパウロ・シーラス・ド・プラド・ペレイラ。
"シーラス"が背負う。
アメリカではライー・ソウザ・ヴィエイラ・ジ・オリヴェイラ。
"ライー"が背負う。
前者はラウンド16。後者は24年ぶりの戴冠。
世界の味は天と地ほど異なる。
ただ、両者には共通点があった。
「ベンチに置かれた"10番"」という。
時代は1人のスターに頼らない流れを汲み始める。
カナリア色の"10番"は役割を終えたかのように思えた。
フランスではリバウド・ヴィトル・ボルバ・フェレイラ。
"リバウド"が背負う。
モロッコとデンマークからゴールを奪い取るが、
王国の見る目は厳しい。
世界最高のピーター・シュマイケルを打ち破った。
それだけ。
連覇に挑み、準優勝に終わった"10番"を
国民は決して認めなかった。
日韓では再び"リバウド"が背負う。
トルコに追い詰められた初戦。
終盤に与えられたPKを"10番"が沈め、勝利を掴む。
中国からもコスタリカからも奪うと、風向きが変わる。
ベルギーとイングランドから奪った時、
"10番"は"10番"としてようやく認められた。
最後の2試合は"黄色いロナウド"が
全てのゴールを叩き出したが、
"10番"の価値は変わらない。
横浜の夜に5度目の咆哮が轟く。
やはり、世界を頂くカナリアでは
"10番"が間違いなく輝くのだ。
ドイツではロナウド・デ・アシス・モレイラ。
"ロナウジーニョ"が背負う。
南アフリカではリカルド・イゼクソン・ドス・サントス・レイチ。
"カカ"が背負う。
おそらくはどちらもその時の"世界最高"として臨んだが、
どちらも1つのゴールも挙げることなく、
どちらも準々決勝の壁に阻まれる。
皮肉にも2人の"世界最高"によって、
世界を頂くカナリアと"10番"の関係は証明されつつあった。
64年ぶりに帰ってきた祭典。
ブラジルではネイマール・ダ・シウバ・サントス・ジュニオール。
"ネイマール"が背負った。
東欧の赤白に"自ら"のゴールで先制を許す。
アレナ・デ・サンパウロに流れた不穏な空気は、"10番"が吹き消す。
29分。
運んで、運んで、狙った球体は、
ポストを叩いて絶叫を呼んだ。
71分。
メキシコの"10番"も外した11メートル。
触られながらも意志でねじ込んだ。
カメルーンにも2発。
チリにもPK戦の5番手で1発。
重圧を乗り越え、涙を流したカナリアの"10番"は、
冠を戴く光景を間違いなくその視野に捉えていた。
観衆が泣き、スタンドが泣き、国民が泣いた。
64年ぶりの再会を待ち侘びていた
悠久のマラカナンへ辿り着くことすら許されない。
彷徨うカナリアは屈辱を突き付けられ続け、
7度の絶望と1度の意地を経て、
無残に打ち砕かれた。
探しても探しても、そこに"10番"はいない。
そして、もしもゲルマンを倒していたとしても、
最後のマラカナンに"10番"が姿を現すことはない。
歴史は繰り返された。
やはり、世界を頂くカナリアでは
"10番"が間違いなく輝くのだ。
土屋
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