mas o menos

メルマガ

お好きなジャンルのコラムや
ニュース、番組情報をお届け!

メルマガ一覧へ

最近のエントリー

カテゴリー

アーカイブ

2014/07

S M T W T F S
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31    

このブログについて

J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。

ワールドカップ 2014年07月05日

【20】20年間の蹉跌。羽ばたいたもう1つの"カナリア"。

mas o menos
  • Line

20年間の蹉跌。羽ばたいたもう1つの"カナリア"。


最も南米らしかったかもしれない。
その黄金に輝くユニフォームは、
あるいは開催国のカナリア軍団以上に
眩いそれを放っていた。
最も南米らしかったかもしれない。
攻撃。攻撃。攻撃。
技巧とアイデアの限りを尽くし、
並み居る守備者を打ち砕いてきた。
最も南米らしかったかもしれない。
43歳の守護神が控え、
38歳の闘将が最後尾を束ね、
22歳のファンタジスタが世界を震わす。
彼らに年齢の照合は必要なかった。
今から四半世紀前。
最も脚光を浴びた世代で、
止まっていた時計の針は再び動き出した。
あるいは彼も"弟たち"の躍動を
空の上から見守っていただろうか。


ヨハン・クライフが宙を舞っていた頃、
まさにその舞台は自らの国への訪問を決めた。
ウルグアイ、ブラジル、チリ、アルゼンチン。
南米で5番目となるワールドカップは、
コロンビアで13回目の開幕を迎えるはずだった。
少なくとも、スペインの地で12回目が閉幕するまでは。
世界におもねる"長"の決断が全てを変えた。
16から24へ。
その増加は、すなわち掛かる負担の増加も意味する。
大陸を発見したと言われるかの冒険家の名を冠した国は、
世界に"発見"されるチャンスを失った。


王は突如として現れる。
スピードは凡庸。フィジカルも凡庸。
ヘディングなんてみたこともない。
ただ、右足の内側でボールを蹴ることだけは抜群だった。
金髪。しかも、爆発的な。
カルロス・バルデラマの登場が
コロンビアの変化を加速させた。


奇才は突如として現れる。
エリアの外に出る。出る。
まだ、バックパスを手で取ることが許された時代だ。
最後尾の壁は文字通り"壁"で良かった。
ただ、男はとにかく出て、触って、時には上がった。
黒髪。しかも、爆発的な。
レネ・イギータの登場が
コロンビアの変化を加速させた。


当時の南米に振り分けられた世界への切符は2.5枚。
"0.5"を"1"にすべく、オセアニアに振り分けられた
イスラエルと1対1で雌雄を決する。
6万5千の熱狂を集めたバランキージャを制し、
5万のラマト・ガンで、奪えずも、奪われず。
王と奇才を携えた"ロス・カフェテロス"が
"0.5"を"1"へ確定させる。
猛者の祭典に辿り着いたのは実に28年ぶりのことだった。


消えかけた炎が再び燃える。
キッカケは"王"が振るった右足と逆のインサイド。
前回は決勝で涙を呑み、
この時は結果として冠を戴くゲルマンに
勝ち越されたのは88分。
黄金はその色を失いかけていた。
ボールが入る。
バルデラマは体を駆使してキープすると、
右足ではなく、左足で絶妙の穴に通した。
まったくのフリーで抜け出したフレディ・リンコンが
ポド・イルクナーの股間を破る。
負ければ終了。引き分けは生還。
スコアは1-1。生還した。王の"左足"によって。
次のステージでロジェ・ミラの老獪に"奇才"が屈し、
コロンビアは敗れたものの、
平均が非凡を蝕み始めていた頃の世界にとって、
その色彩と共に個性的な彼らの姿は強く記憶された。
それが、そのまま4年後の悲劇に繋がる。


7万のバランキージャでならまだわかる。
ところが彼らは、5万3千のブエノスアイレスでも勝った。
しかも5-0という衝撃的なスコアで。
前回と前々回で祝祭のファイナリストとなった
水色と白を続けて破る。
世界は色めき立つ。
"キング"は「頂点を狙える」とまで言い放つ。
その発言は決してマイノリティのそれではなかった。


東欧の左足に沈む。
フロリン・ラドチョウ。ゲオルゲ・ハジ。フロリン・ラドチョウ。
とりわけ2点目の左足は堪えた。
抱いていたはずの自信は粉々に打ち砕かれた。
自らの右足に沈む。
アンドレス・エスコバル。アーニー・スチュアート。
とりわけ1点目の右足は堪えた。
その右足に当てたのは黄金のCBだったからだ。
"7試合"すら視野に入れていた彼らは、
わずか"2試合"で目的を失う。
最後に勝った"3試合目"には何もなかった。
失意だけを残して、アメリカの大地を追われる。
その数日後に起こったことは、もう話さなくてもいいだろう。


4年後の彼らは、もはや4年前の彼らではない。
"キング"の気まぐれな発言にすら上らず、
4年前と同じ東欧の左足に倒され、
チュニジアを倒して、金髪の英国人に倒される。
既に36歳になっていた"王"はさらに動けず、
このフランスを最後に"ロス・カフェテロス"に別れを告げた。
もう彼らの季節は、とっくに終わっていたのだ。
その後で迷い込んだトンネルは、決して短くなかった。


異才は突如として現れる。
ラダメル・ファルカオ。ジャクソン・マルティネス。
アドリアン・ラモス。フアン・ギジェルモ・クアドラード。
テオフィロ・グティエレス。そして、ハメス・ロドリゲス。
異才は異才の下に集い、
"ロス・カフェテロス"は黄金色を取り戻す。
チームを率いた異国人は、
その"蹴る"キャリアをコロンビアで閉じていた。
大陸が誇る名将・ホセ・ペケルマンを迎え、
彼らは王国への祭典へと歩みを進める。
トンネルを彷徨う日々は16年が経過していた。


その時はやってくる。
突破は決まっている。試合も決まった。
ペケルマンに迷いはなかった。
84分。
それまで264分間に渡って
自らの背後を守り続けてきた背番号1が
最高の笑顔でサイドラインへ駆け寄る。
そして、22番の守護神がピッチへ駆け出した。
ファリド・モンドラゴン。43歳。
イタリアの地で奈落の底へ突き落とされた
不屈のライオンの9番を抜いて、
世界にその名を刻むことになった男は、
アメリカでの崩壊をベンチから見つめ、
トンネルの入り口に迷い込んだフランスで
ゴールマウスに立っていた男だ。
誰もがその偉業に拍手を贈った。
あるいは彼も"弟"の快挙を
空の上から見守っていただろうか。


コロンビアが初めてワールドカップと出会ったのは1962年。
一番最初の相手はウルグアイだった。
その因縁の相手を危なげなく消し去り、
初めて世界の"8"へ手が届く。
"8"の先は、言うまでもなく"4"だ。
彼らの勢いは、王国ですらも飲み込んでしまえるように思えた。
しかし、やはり王国は王国だった。
届きかけたその背中は、わずかの差で飛び立った。
この日、彼らが纏っていたのは赤。
カナリアを纏っていたのは、世界に知られる"カナリア軍団"だった。


10番が泣いていた。
溢れる。押しとどめても、溢れる。
終焉の時をベンチで受け入れた43歳も、様々を思い出す。
勿論20年前に流した、
友人を失いし耐えざる涙のことも。
人生で男が涙を流す機会なんて、そうはない。
問い掛ける。
「俺も泣いていいのか?」
問い掛ける。
「俺も泣いていいのか?」
あるいはアンドレスも"弟"の涙を
空の上から見守っていただろうか。
フォルタレーザの夕闇は、心なしか笑っているように見えた。


土屋

  • Line