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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。

その他の試合レポート 2014年07月14日

天皇杯2回戦 千葉×長野@フクアリ

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0713fuku.jpg日本最大にして最高のオープントーナメント。ジャイアントキリング上等の難戦に挑むのは千葉と長野。J2とJ3の意地と誇りを懸けた好カードはフクアリです。
下された決断。シーズン半ばにして、行われたのは指揮官の交替。ロンドン五輪で日本代表を率いた関塚隆監督を後任に指名し、難局を切り開くべく再び歩み出した千葉。「お互いに緊張感のある中でやった」(関塚監督)4日間のトレーニングを積み上げ、臨む初陣はスーツではなく、「針がそう触れたので決めた」というポロシャツとジャージ姿。ホームスタジアムで求められるのは勝利の二文字のみです。
J3リーグでは首位と5ポイント差の2位。今大会は初戦でJAPANサッカーカレッジを2-0で一蹴し、このステージまで勝ち進んできた長野。県代表として挑んだ昨年は名古屋と北九州を相次いで破り、敗れた横浜FM戦も延長までもつれ込む激闘を見せるなど大健闘。ただ、「トーナメント戦で勝ちにきているし、カテゴリーが違うとかそういうことは関係ない。経験とかはいらないので、しっかりと勝負事に対して取り組んでいく」とは美濃部直彦監督。「去年勝ったというのはあるけどまだまだ自分たちはチャレンジャー。やっぱり試合をやるからには結果が大事」とベテランの大橋良隆(31・NECトーキン)も気を引き締めるなど、いかに相手がJ2とはいえ、好ゲームで終わらせるつもりは毛頭ありません。アウェイのゴール裏には大挙して押し寄せたオレンジのサポーターが。獅子は千尋の谷を駆け上がれるか。注目の一戦は長野のキックオフでスタートしました。


開始28秒に滲んだ意欲。ルーズボールを拾った大橋はクロスバーを大きく越えたものの、積極的なミドルにトライ。「もっともっと上の年齢の僕らがやって引っ張ってかなくてはチームも強くならない」と言い切った31歳が、まずはファーストシュートでこのゲームへの意気込みを前面に押し出します。
ところが、先に沸いたサポーターはホームのゴール裏。3分に兵働昭弘(32・柏レイソル)が右から蹴ったCKを、ニアで叩いた山口智(36・ガンバ大阪)のヘディングがわずかに枠を越えたシーンを経て、10分に迎えた歓喜。右のハイサイドへ潜った田中佑昌(28・アビスパ福岡)が短く戻し、キャプテンマークを巻いた大岩一貴(24・中央大)がクロスを上げると、マーカーに競り勝ってヘディングを叩き込んだのは森本貴幸(26・アル・ナスルSC)。和製ストライカーの一撃で、幸先良く千葉が先手を取りました。
霧散した幸先。1分後の11分。千葉は自陣深くでボールを回すも、ややスピードが緩くなった瞬間を勝又慶典(28・栃木SC)は見逃さずに、決死のタックルを敢行。「カツさんがいい感じでプレッシャーを掛けてくれてチャンスだなと思った」佐藤悠希(26・ジェフリザーブズ)は左足を振り抜くと、激しく揺れたのは千葉サポーターの目の前に置かれたゴールネット。「トップを目指してやっていて上がれなかったというのがあったので、絶対勝ちたかった」というジェフリザーブズ出身の佐藤悠希が痛烈な恩返し弾。わずか1分でスコアは振り出しに引き戻されました。
以降は長野がボールを握って動かす展開に。13分には宇野沢祐次(31・JAPANサッカーカレッジ)のスルーパスから、右WBの西口諒(23・京都産業大)が折り返したボールは辛うじてDFがカット。18分には大橋、勝又、向慎一(29・FC町田ゼルビア)とスムーズにパスが回り、最後は大橋が枠の上へ外れるミドル。20分には千葉も「事前に左がストロングだと話があった」(佐藤悠希)と長野も警戒していたその左から、中村太亮(24・モンテディオ山形)が上げたクロスに、ケンペス(31・ポルトゲーザ・デスポルトス)が惜しいヘディングを放ちましたが、24分は再び長野。向のパスからエリア内で勝又が狙った左足シュートはDFにブロックされるも、2分後にも松原優吉(25・カターレ富山)が左へ振り分け、WBの有永一生(25・関東学院大)がカットインから枠外ミドルまで。長野が手数を続けて繰り出します。
実は長野は通常仕様の3-4-3ではなく、「1トップになるとなかなか攻めが入らず、千葉のような相手にはボールを動かされて、ゴール前にくぎ付けになるシーンが増えるんじゃないか」(美濃部監督)という考えから、「今までやっていない変則的なシステム」(大橋)の3-5-2を選択しましたが、これが結果的に奏功。「手探りな感じでやっていたが、いつもの3トップの時に比べればボールも動かせた」と通常とは異なるポジションを任された佐藤悠希が話せば、「3人で中盤の構成で主導権を握ることはうまくできたんじゃないかなと思う」と大橋も同調。「相手のFWのチェイスが少し緩かった」(大橋)側面はあったにせよ、ボールを中盤や最終ラインで主体的に動かせたことが、攻勢に繋がっていった印象です。
とはいえ、「得点した後にすぐ失点した、あの"バタバタ感"は二度とないようにこれからしていきたい」と関塚監督も振り返った千葉も、"個"の強みは常に懐へ。29分には兵働がエリアのすぐ外から直接狙ったFKはカベに阻まれるも、31分には中村の左FKを、ニアで森本が巧みにフリックしたボールは枠の左へ。36分にもケンペスが長野のGK田中謙吾(24・日本体育大)にファインセーブを強いるミドルを放つなど、ちらつかせる一発の脅威。
牙を剥いた橙の獅子。38分、左サイドで獲得したFK。スポットに立った向が柔らかいボールを中央へ放り込むと、こぼれたボールに殺到したのは数人のオレンジ。松原が触った混戦から、宇野沢がヒール気味に当てたボールはゴールネットへ飛び込みます。「メンタリティで負けてはいけないという所を強調した」(美濃部監督)という長野が、その強いメンタリティで逆転ゴールを叩き込み、1点をリードする格好で最初の45分間は終了しました。


後半もファーストシュートは長野。47分、右サイドをドリブルで運んだ勝又のシュートは、岡本昌宏(31・ジェフリザーブズ)が何とかセーブ。同じく47分にも宇野沢が左からカットインしながら、ワンターン挟んでクロスバーの上へ消えるミドルにチャレンジ。2トップの連続シュートで3点目への渇望感を隠しません。
ホームチームのしたたかさは"左"から。51分、タッチを割ったボールを中村は素早く縦へスローイン。相手の裏へ潜った大塚翔平(24・ガンバ大阪)はそのままえぐってクロスを放り込むと、ダイビングヘッドで突っ込んだのはケンペス。ボールは千葉サポーターの目の前に置かれたゴールネットに収まります。「自分たちの緩さで招いた失点」と大橋も悔やんだ一撃は、しかし千葉の強みの象徴。スコアは再び均衡状態へ入りました。
53分に大橋のパスから宇野沢がドリブルで運び、右のサイドネット外側を襲うシュートを放つと、千葉にアクシデント。直前に負傷していた山口のプレー続行が難しくなり、交替を余儀なくされてしまいます。ここで関塚監督は「中盤で構成力を持って逆転するためには必要」と、中盤の右サイドに井出遥也を投入。田中佑昌を右SBへ、大岩をCBへそれぞれスライドさせる、攻撃的な布陣変更を施します。
61分は千葉。中村の左FKを、ニアで森本がフリック気味に当てたシュートは田中謙吾がキャッチ。63分は長野。勝又、宇野沢、向、佐藤悠希と細かく繋ぎ、向のミドルはクロスバーの上へ。64分は千葉。兵働の右スミを狙ったミドルは田中謙吾がファインセーブで回避。直後に兵働が蹴った右CKを田中謙吾が弾き、キム・ヒョヌン(23・弘益大)が合わせたヘディングはゴール左へ。66分は千葉。大塚がルーズボールを拾い、ケンペスのミドルはクロスバーの上へ。67分は長野に決定機。左サイドで有永がマーカーとの1対1に競り勝って中へ。受けた宇野沢のコントロールシュートは、しかしクロスバーの上へ。一進一退。やり合う両者。
69分に輝いたストライカーの矜持。向のロストを見逃さず、千葉のカウンター発動。ケンペスが左へ大きく蹴り出すと、収めた森本はそのまま中央へ切れ込みながら、ミドルレンジから右足一閃。完璧な弧を描いた軌道は、ゴール右スミへ美しく飛び込みます。「仕掛けてシュートというイメージはできていた」という元日本代表が見事なゴラッソ。千葉が再逆転となる3点目でリードを奪いました。
さて、既に65分に勝又と高橋駿太(25・FC琉球)を入れ替えていた美濃部監督は、失点を見届けると75分に2枚目の交替を。3バックの右に入っていた川邊裕紀(27・FC町田ゼルビア)を下げて、松尾昇悟(26・アルテ高崎)を右SHへ送り込み、最終ラインは大島嵩弘(26・柏レイソル)と松原をCBに置いた4バックへシフト。中盤も大橋と佐藤悠希を3列目に、その前に右から松尾、宇野沢、向を並べ、高橋を最前線に頂く4-2-3-1気味の布陣で同点、そして逆転へと向かう態勢を整えます。
千葉も75分に兵働と佐藤勇人(32・京都サンガ)を入れ替え、中盤の強度向上に着手して残りの15分間へ。76分は長野。大橋の右FKから、こぼれを宇野沢が頭で残し、松尾がエリア内で敢行したボレーはヒットせず。78分も長野。宇野沢が無回転気味に打ち切ったミドルは大きく枠の上へ。80分も長野。向の右CKはDFが何とかクリア。「サポートの距離感とかも変わったし、パスを出して動く部分とか、前半の動けていた時に比べれば質も量も変わったかなと思う」とは佐藤悠希。崩し切れない千葉守備網。関塚監督は82分に森本を下げて、CBの竹内彬(31・名古屋グランパス)をクローザー起用。美濃部監督は83分に向を下げて、畑田真輝(23・ヴァンフォーレ甲府)をジョーカー起用。あとは最後の5分間とアディショナルタイムのみ。
終盤のゲーム運びは千葉に一日の長。エリアへ侵入させず、時間を着実に使い切り、追加された3分間もしっかり消し去ると三上正一郎主審が響かせたのはファイナルホイッスル。「今日は本当に修正して勝ってくれたという所が収穫だなと思う」と振り返った関塚監督の就任初戦を逆転勝利で飾った千葉が、3回戦へと駒を進める結果となりました。


「勝つチャンスはあったけど、自分たちの気の緩みで負けた」という大橋の言葉にも頷ける、長野の奮闘が印象的なゲームでした。美濃部監督も「ある程度自信を持ってやってくれた所は評価したいなと思っています」と言及しています。ただ、同時に指揮官は「我々はJ3でやっているが、J2はこういう試合を毎試合リーグ戦で戦わなきゃいけない。その中で今日の負けは許されないということになる。ちょっとした隙や油断を相手に与えてしまったら、それで勝負が決まってしまうんだよということを、今日のゲームの中で学んで欲しいと思います」とも。大橋も「2失点目の隙のような部分をなくしていかなければ、この先も上ではやれないなと思う」と厳しい表情を見せており、この"善戦"で満足する様子は微塵も感じられませんでした。金髪の髪型以上に献身性が光っていた佐藤悠希も「J2でも通用する選手だと自分でも思ってやっているし、そこで戦えるような選手になりたいと思っている。毎日質の高いプレーを続けることが今後に繋がると思うので、今日1回良かっただけじゃなくて、毎試合自分が一番目立てるように、"頭"だけじゃなくて(笑)、プレーでももっと光れるようにやっていきたいですね」とキッパリ。このゲームを経験した長野の今後にも是非注目していきたいと思います。
最後に個人的な感想を。私が初めて長野を見たのは、2009年の全社準決勝。松本山雅FCとの"信州ダービー"でした。平日の市原臨海ということもあって、サポーターの数は限られていたものの、それでもそのチームをサポートしたいという熱さは十分にこちらまで伝わってきたのを覚えています。また、翌年の地域決勝でY.S.C.C.と対戦し、JFL昇格を決定させたゲームも再び市原臨海で取材していました。1年前と比較してもサポーターの数は格段に増えており、悲願達成に沸くオレンジの集団には、やはり見る者に感じさせる"何か"がありました。そして、この日。場所は市原臨海からフクアリに変わりましたが、同じ千葉の地で3年前のあの日以上に"厚さ"と"熱さ"を増したオレンジのサポーターは大声を張り上げていました。ふと彼らを見ると、その中央に掲げられていたのは、『獅子よ 千尋の谷を駆け上がれ』と書かれた横断幕。この90分間は私にとって、"蹴る"獅子と"支える"獅子が着実にその谷を駆け上がりつつあることを改めて確認できた、そんな90分間でした。       土屋

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