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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。

ワールドカップ 2014年06月19日

【7】赤き落陽。無敵艦隊が"無敵"に戻る日。

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赤き落陽。無敵艦隊が"無敵"に戻る日。


また、リードされているのか?
点差は何点だ?前半か、後半か?
味方との距離が遠い。
相手ゴールまでの距離が遠い。
また、ボールを取られたのか?
また、ボールを繋げなかったのか?
16番のシュートは枠を外れた。
20番のシュートはGKに防がれた。
刻々と時間がなくなっていく。
ここで負けるのか?
前回大会でカップを掲げる決勝ボレーを
ゴールネットへ送り届けた6番は周囲を見渡す。
頼りになり続けた"最後の壁"もいない。
寄り添い続けた"頭脳"もいない。
そして、何より誰もがその漲る闘志を認めたあの男も、
その王国のピッチにはいなかった。


予兆は、あった。
1年前のコンフェデレーションズカップ。
PK戦にまでもつれ込むイタリアとの激闘を制した3日後、
スペインはマラカナンのピッチに崩れ落ちた。
フレッジに、ネイマールに、再びフレッジに、
次々とゴールネットを揺らされた。
スタメンの11人すべてが1年前に
アンリ・ドロネー杯を掲げたメンバーだったにもかかわらず、
開催国のブラジルを相手にして
完膚なきまでに叩きのめされる。
公式戦での黒星は、南アフリカ大会の初戦以来。
この時、カーリーヘアーの"闘士"はその場にいなかった。


予兆は、あった。
1年前のUEFAチャンピオンズリーグセミファイナル。
パリ・サンジェルマンとのクォーターファイナルを
アグリゲートスコアで辛うじて潜り抜けた
バルセロナはカンプノウのピッチに崩れ落ちた。
アリエン・ロッベンが先制すると、ジェラール・ピケがオウンゴールを献上。
最後はトーマス・ミュラーにとどめを刺された。
スタメンの中で実に7人が1年前に
アンリ・ドロネー杯を掲げたメンバーだったにもかかわらず、
ドイツの巨人を相手にして、
完膚なきまでに叩きのめされる。
バルセロナが180分間で7点差を付けられるなんて見たことがない。
この時、やはりカーリーヘアーの"闘士"はその場にいなかった。


元々"ティキタカ"を掲げていた訳ではない。
80年代にはエミリオ・ブトラゲーニョを、
90年代にはフリオ・サリナスを頂き、
まるでアスレティック・ビルバオのように
無骨なスタイルで世界に挑んできた。


負けた。とにかく負けた。
クォーターファイナルで。その1つ前で。
クォーターファイナルで。その1つ前で。
1998年のフランスでは
とうとうグループステージで姿を消した。
付いた異名は"無敵艦隊"。
無敵ではないが故の"無敵"。
痛烈な皮肉を込めたその名前を覆すだけの結果を、
まだ当時のスペインは持ち得ていなかった。


老将がチームに改革をもたらす。
ラ・ロハに"ティキタカ"がもたらされる。
その時期はカタルーニャのブラウ・グラナが
隆盛を誇った時期と合致した。
EURO2008で44年ぶりの欧州制覇に導いた
ルイス・アラゴネスの後を引き取り、
"エル・ブランコ"の指揮官ビセンテ・デルボスケも
その路線を継承する。
必然、バルセロナの選手がその中核を占める。
かのクラブでスペインの血を引くものがレギュラーを獲得することは、
すなわちラ・ロハへの門を開けることと同義になった。
両者はしばしば同一化された。
両者は世界中で憧憬の的として崇められた。
それでも、その両者では
常にカーリーヘアーの"闘士"が
怒鳴り声を轟かせ、カップを突き上げた。


ラ・ロハはかつてないほどに追い込まれていた。
初戦の"リベンジ"と、決勝の"再現"を誓い、
緑の芝へ飛び出したサルバドールの夜。
彼らを待っていたのは、5つの失点による屈辱の90分間だった。
背水の陣。
指揮官は決断を下す。
舞台はリオ・デ・ジャネイロ。伝統のマラカナン。
8番の"頭脳"と、3番の"最後の壁"は、
歌詞のない「国王行進曲」をベンチの前で聴くことになる。


先制点を奪われた。
2点目も奪われた。
セルヒオ・ブスケツの決定機は枠を外れる。
サンティ・カソルラのシュートもクラウディオ・ブラボに弾かれる。
時計の針は容赦なく、瞬間を刻んでいく。
この相手は4年前に倒したんじゃなかったのか。
赤き6番のユニフォームを纏い、そのすべての栄光を
ブラウ・グラナの同士と享受してきた男、
アンドレス・イニエスタは、ひどく孤独に見えた。


やがて、縮まることのなかったスコアのまま、
マーク・ガイガーが試合終了を笛の音で告げる。
早過ぎる王国との別離。
無敵艦隊が"無敵"に戻る。
イニエスタがうなだれたピッチには、
共にそのすべてを手に入れてきた
チャビの姿も、ピケの姿もない。
そして、2年前は不在でもその冠を戴くことができたが、
おそらくは今回こそ誰よりもこの場にいるべきだった
カルラス・プジョールの姿は、ベンチにも見当たらなかった。


土屋

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