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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。

ワールドカップ 2014年06月24日

【12】取り戻した皇帝と忠誠。超えるべき"アステカ"への挑戦。

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取り戻した皇帝と忠誠。超えるべき"アステカ"への挑戦。


我が緑か。対峙する赤と白か。
扉の向こうへ生還できるのはどちらか1つだ。
新潟以来の再会は、レシフェで果たされた。
その出場したすべてで左腕に腕章を巻いてきた皇帝が、
ヘディングでヒビを入れる。
スペインとドイツで研鑽を積んだ左利きの男が、
その左足をしなやかに振るう。
最後は、発祥の地で感覚に磨きを掛けた男が、
複雑だったはずの鍵を軽やかに盗む。
"混乱の緑"を収束させた指揮官が、
その信頼すべき仲間と共に抱き合って歓喜する。
取り戻した絆。
"16"への扉はこの夜、
皇帝とその"忠誠"の士によって再びこじ開けられた。


1年前。
メキシコはかつてない"混乱"に陥っていた。
上から3つに入れば15回目の世界を
手に入れられるクオリフィケーション。
1つの引き分けすらなく
勝利のコンプリートで終えた"2次"を経て、
意気揚々と臨んだ"3次"は
とにかく勝ち点が積み上がらない。
引き分け。引き分け。引き分け。
最初の3試合はすべて1。
ようやく勝つが、再び引き分け、引き分け。
負けない。されど、勝てない。
それでもまだ、6大会連続でこの地域を潜り抜けてきた
緑の勇者たちに余裕はあった。


様相は、一変した。
9月6日。エスタディオ・アステカ。
ディエゴ・マラドーナが"神の手"を振るい、
ディエゴ・マラドーナが5人のイングランド人を翻弄した
太陽のスタジアムで73,981人が見守る中、
男たちは屈辱に震えた。
開始6分に描いた"2勝目"への設計図は、
ホンジュラスの64分と66分に書き換えられる。
逆転での敗北。順位が入れ替わる。
前年にロンドンの地で"未来"を確信したはずの国民は
男たちに容赦なく罵声を浴びせる。
翌日。
3年の月日を共にしてきた指揮官は、任を解かれた。
もはや、緑の勇者たちから余裕は消えていた。


さらなる屈辱も味わう。
4日前のそれより5万人も少ないコロンバスの地で、
彼らは合衆国が世界へと飛び出す手助けをしてみせる。
2つのゴールを陥れられると、呆気なく落ちた。
延々と続く宴を目の当たりにする。
1試合限りの契約でこの日を率いたのは、
ロンドンで母国を頂点に導いたルイス・フェルナンド・テナ。
"世界一"も特効薬にはなり得ない。
自らを守ってくれていたはずの太陽は、
とっくに姿を消していた。


1つ勝ち、1つ負けて、予選は終わる。
王国への招待状は、オセアニアの王者と一騎打ちで奪い合う。
ただ、1つ勝ち、1つ負けた間に、変化が訪れた。
かつてすべてを捧げた"緑"の窮状を憂いしあの男が、
一度は去った舞台へ帰還する。
その名はラファエル・マルケス。
母国を率い、3度出場したワールドカップの
すべてで左腕に腕章を巻いてきた男が
"混乱"の中に進んで身を投じる。
指揮官はクラブ・アメリカを率いるミゲル・エレーラが
兼任という形で命を受けた。
消えていたはずの太陽はこの時、
わずかに顔を覗かせていただろうか。


11月13日。エスタディオ・アステカ。
2ヶ月前、その辱めを堪えに堪えた
太陽のスタジアムで99,832人が見守る中、
男たちは歓喜に震えた。
クラブ・アメリカのパウル・アギラールが、
クラブ・アメリカのラウール・ヒメネスが、
サントス・ラグーナのオリベ・ペラルタが、
次々に"オール・ホワイツ"のゴールネットを揺らす。


ペラルタが"2度目"を記録した5分後。真打ちの登場。
クラブ・レオンでプレーする34歳の皇帝が、
2年半ぶりに"緑"へもたらしたゴールは
太陽のスタジアムを燃やし尽くす。


実はアステカには、自らを日常の住処とするクラブがある。
そのクラブこそ、この日のスタメンに7人もの選手を
送り出していたクラブ・アメリカ。
言わば二重の"ホーム"で"混乱"を振り切った指揮官の下、
アウェイの地でも4ゴールを叩き込み、
メキシコは32番目の切符をその手に収める。
皇帝の帰還が取り戻した"忠誠"。
消えていたはずの太陽は、再びその頭上で微笑んでいた。


不屈のライオンを退け、王国を懸命に凌ぎ、
レシフェの地へ乗り込む。
勝つか、負けるか。後者は大会からの"死"を表す。
6回続けてこじ開けてきた"16"へと続く扉の前に立つ。
4年前と、8年前と、さらには12年前と同じ男が、
その左腕に腕章を巻く。
"混乱"に喘いでいた1年前の姿は、もうなかった。


72分。
皇帝がレシフェの空に舞う。
遥か上空から撃ち下ろされた球体は、
赤と白の守るべき牙城を打ち砕いた。
82分。
皇帝がレシフェの空に舞う。
後方で待ち受ける仲間を信じて流した球体は、
その信じた仲間が確実に成果へ変えた。


両の拳を握り締めた指揮官。
その瞬間。
かつてクラブ・アメリカのゴールマウスを任されていた
ソバージュの守護神は、迷わず50メートルを全力で疾走し、
クラブ・アメリカを率いていた指揮官に抱き付いた。
両者にクラブでの"接点"はない。
でも、今は"接点"ならいくらでもある。
"混乱"に喘いでいた1年前の姿は、もうなかった。


6回続けてこじ開けてきた"16"へと続く扉。
ただ、前回までの5回に渡ってこじ開けてきたそれは、
その先の"8"まで続いてはいなかった。
最後に"8"へと続く扉を破壊したのは1986年。メキシコシティ。
その舞台は、11万を超える国民を集めた
エスタディオ・アステカだった。


彼らを常に守ってきたアステカは、
言うまでもなく王国にはない。
"16"で終わるか、"8"へ進むか。
あるいは、それは彼らにとって、
そして自身の4度目に挑む皇帝にとって、
"太陽のスタジアム"から脱却するための
大いなる試練であり、大いなるチャンスでもある。


土屋

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