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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。

ワールドカップ 2014年06月23日

【11】"送られる"側の既視感。"送る"ボールの行方。

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"送られる"側の既視感。"送る"ボールの行方。


送られる。送られる。
89分には右から"送られる"。
懸命に跳び付いたが、頭に当たらない。
94分には左から"送られる"。
懸命に跳び付いたが、頭に当たらない。
すぐ横には2番を背負ったCBがいきり立つ。
「コイツは今だけの"送られる"側か」
仲間は例外なく、焦っていた。
「俺はいつから"送られる"側になったんだっけ?」
もう時間は残っていない。
ボールが足元に届けられる。
いつからか"送られる"側にその立場を変えた男が"送る"。
3秒後。
送ったボールが狂喜を生み出す。
それは、かつて"送る"側であった頃に
見慣れた光景だっただろうか。


2002-2003。3得点。
まだ、覚醒の時は来ない。
12歳から順調に駆け上がった
リスボンの白と緑で、サッカーを生業とする。
初めてスターティングメンバーに
名を連ねた試合でゴールを記録する。
マデイラ島でボールを蹴り始めた少年は、
しかし"送られる"側ではなかった。
またいで、またいで、さらに、またぐ。
走って、走って、クロスを上げる。
クリスティアーノ・ロナウド。17歳の秋。
まだ彼は"送られる"側ではなく、"送る"側だった。


2003-2004。4得点。
まだ、覚醒の時は来ない。
"赤い悪魔"を30年近くの長きに渡り、
率い続けてきた老将の目に留まる。
世界にその名を知られたマンチェスターの"赤"と
5年の契りを交わす。
またいで、またいで、さらに、またぐ。
走って、走って、クロスを上げる。
突っかけて、突っかけて、また取られる。
クリスティアーノ・ロナウド。18歳の冬。
まだ彼は"送られる"側ではなく、"送る"側だった。


2004-2005。5得点。
2005-2006。9得点。
2006-2007。17得点。
もはや、覚醒の時は近い。
17のゴールに14のアシストも加わる。
リーグから、協会から、そしてファンからも
"最優秀選手"という称号が贈られる。
またいで、またいで、さらに、またぐ。
走って、走って、クロスに飛び込む。
クリスティアーノ・ロナウド。21歳の春。
彼は"送る"側から"送られる"側へ
その立場を変えつつあった。


2007-2008。31得点。
そして、完全に覚醒した。
出場した試合の数に、挙げたゴールの数は肉薄する。
欧州の舞台でも8度の歓喜をチームにもたらし、
その内の1度をモスクワでのファイナルで叩き出す。
またいで、またいで、さらに、またぐ。
走って、走って、クロスに飛び込む。
クリスティアーノ・ロナウド。22歳の夏。
彼はもはや"送られる"側として
確固たる地位を構築することに成功した。


2008-2009。18得点。
"赤い悪魔"となって、初めて数字が落ちる。
1年後。環境を変えた。
かつて母国を熱狂に導いた
伝説のウイングが袖を通した白いユニフォームに着替えると、
加速度的に"歓喜"の数が増える。
2009-2010。26得点。
2010-2011。40得点。
とうとう出場した試合の数を、挙げたゴールの数が上回る。


2011-2012。46得点。
もはやその数字はTVゲームのそれだ。
ただ、これだけ取ってもまだ上がいた。
2歳年下の、15センチは小さいアルゼンチン人は、
"46"の時に、"50"を数えていた。


2012-2013。34得点。
2013-2014。31得点。
3年ぶりに数字はアルゼンチン人を上回る。
5年ぶりにアルゼンチン人から自分の下へ
"黄金の球"が還ってくる。
意気揚々と王国へ乗り込もう。
世界一"送られる"男として。


4年ぶりの祭典。
目の前でドイツ人の3点を眺めた。
撃っても、撃っても、入らない。
最後の見せ場。
多くの守護神を震撼させたFKにも、
その壁の数は必要最小限に抑えられる。
蹴った球体は容易に弾き出された。
屈辱のサルバドール。その前日。
あのアルゼンチン人は、自らのゴールで世界を沸かせていた。


背水の陣で星条旗の国と対峙する。
2シーズンに渡って共にシアター・オブ・ドリームズを根城にした
"後輩"がゴールを記録する。
ただ"先輩"は、撃っても、撃っても、入らない。
いつの間にか、2点を奪われる。
敗北は、すなわち王国からの退場を意味していた。


送られる。送られる。
世界一"送られる"男に送られる球体は、
しかし悲劇が迫り来る焦りからかイメージとは程遠い。
89分には右から、94分には左から送られたそれも、
クリスティアーノの範疇を超えていた。
4年間待ち続けてきた舞台は、
わずか"180分"で終焉を迎えようとしていた。


"後輩"からボールが送られる。
すぐ後ろには、かつて背負ったラインがある。
中央を見据える。送られたい仲間の動きが見える。
送る。
送られた仲間のヘディングがネットを揺らす。
土壇場で"180分"は、ひとまず"270分"に伸びた。


チームを危機から救い出したクロス。
"送られる"側になった男の"送る"ボールは、
かつてとは比べることすらできないくらい、
正確なそれになっていた。
残された最後の90分。
彼は"送る"し、"送られる"。
その両方を遂げる覚悟は、できている。


土屋

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