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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
高校サッカー界を代表するカナリア軍団と、昨年の東京を制した武蔵野の紫草軍団がこの段階で直接対決。舞台は引き続き駒沢補助です。
最後に伝統の高校選手権で全国制覇を成し遂げたのは22年前。「昔は俺たちは強かったんだよなんて言っても、彼ら選手は生まれてないですしね」と笑う、22年前のキャプテンを務めていた日比威コーチが監督に昇格し、名門復活へさらなる本気度が窺える帝京。現在リーグ戦は1勝2分け1敗と五分の星ですが、まずは「守備から攻撃、攻撃から守備という継続性と連動性を持ったサッカーを、90分間できるかというテーマ」(日比監督)を掲げる段階で、ディフェンディングチャンピオンに挑みます。
昨シーズンは圧倒的とも言っていい成績でT1優勝。ただ、本命視されていたプリンス関東昇格決定戦ではPK戦の末に涙を呑み、今年も東京での戦いを続けることになった横河武蔵野FCユース。「トータルフットボールという意味で、本当によく"サッカー"をしていると思う」と敵将の日比監督も賞賛するなど、都内ではもはや浸透し切っているスタイルを貫き、現在はイーブンの成績から一歩踏み出したいゲームです。会場となる駒沢補助の周囲はさらなる花見客で大盛況。平日正午。12時ジャストに注目の一戦はキックオフを迎えました。
お互いに1つずつ惜しいチャンスを繰り出し合ってスタートしたゲームは、序盤から明確な構図。「ビルドアップは両CBが相手の背中を取ってスッと持ち運んだりとか、斜めのパスを付けたりという所はバシバシ決めていた」と横河の増本浩平監督が話せば、「ウチはひたすら守備してカウンターでやるしかないが、守備から攻撃に変わった時のスイッチの入り方は長けている部分が帝京には伝統としてある」と日比監督。ボールを動かす前者と、引っ掛けて素早い攻撃を指向する後者。
10分は帝京。右サイドを長倉昂哉(2年・さいたま木崎中)がドリブルで切り裂き、上げたクロスは横河のGK吉江竜太郎(3年・横河武蔵野FC JY)が何とかキャッチ。14分は横河。中盤の見木友哉(2年・横浜FC鶴見JY)が右に持ち出しながら、枠の左へ外れるミドル。15分も横河。キャプテンの渡辺悠雅(3年・横河武蔵野FC JY)が左サイドをゴリゴリ運び、こぼれたボールを狙ったシュートは枠の上へ。先制点への意欲を早くも出し合います。
すると、先に持ち味を結果へと昇華させたのはカナリア軍団。20分、カウンターから長倉がクリスティアーノ的なシザーズを挟んで右へ展開し、SHの青野紘季(3年・波崎第一中)がピンポイントクロスを中へ。キャプテンマークを巻いた高橋優人(3年・横河武蔵野FC JY)のドンピシャヘッドは吉江がファインセーブで凌いだものの、ここへきっちり詰めていたのは長倉。「トランジッションの速さとカウンターは去年から継続してやっていること」と日比監督。帝京が鮮やかにリードを奪ってみせました。
直後のチャンスも帝京。22分にピッチ中央で獲得したFKは一旦フィフティボールになりましたが、拾った鈴木啓太郎(2年・ジュビロSS浜松)がクロスを上げると、高橋と長倉が繋ぎ、ボランチを務める古市拓巳(3年・岐阜VAMOS)のシュートは右のポストを直撃。25分前後に日比監督は「相手のCBの5番は跳ね返す部分が強かったので、外から外からということで考えればアイツをサイドに置いてそこから創っていったら、相手も引かざるを得ない状況になっていくかなと」、最前線の長倉と右SHの青野をスイッチする采配も。28分には逆に開いた青野がクロスを上げ切り、こぼれを狙った古市のミドルはヒットしなかったものの、カウンターとサイドアタックという2つのキーワードで帝京も攻撃の回数を増やしていきます。
「前の1トップと2シャドーの関わりの中で、入れ替わったりして出ていく所はできていた」(増本監督)中でも、フィニッシュをなかなか取りきれない横河。29分には3人に囲まれながらも、さすがのキープ力とパワーで跳ね返し、反転しながらきっちり枠へ飛ばした渡辺悠雅のミドルは帝京のGK渡辺聖也(2年・FC多摩)がしっかりキャッチ。36分には決定機。相手のお株を奪うカウンターから右SBの春日聖弥(3年・横河武蔵野FC JY)が中へ送ると、DFに競り勝った太田翔(2年・三菱養和調布JY)は1対1の局面を迎えるも、ここは飛び出した渡辺聖也が気迫でストップ。同点ゴールは生まれません。
38分は帝京。中盤でボールを引っ掛けた青野はそのままミドルを放つと、このシュートは吉江が冷静にキャッチ。39分は横河。太田とのワンツーでエリア内へ侵入した見木がDFともつれて倒れるも、主審のジャッジはノーファウル。42分も横河。太田が長い距離をドリブルで運び、マーカーのチェックでこぼれたボールを見木が左足ダイレクトで叩いたミドルは、わずかに枠の左へ。「狙い通りのゲーム展開」とは増本監督。その言葉が本音なのは間違いありませんが、スコアを見るとビハインド。帝京が1点のアドバンテージを握って、最初の45分間は終了しました。
後半はスタートから帝京がラッシュ。48分、青野が右からクロスを放り込み、ニアで合わせた古市のシュートは吉江がキャッチ。49分、長倉のボールキープから最後は高橋が狙ったシュートは枠の左へ。54分は怒涛の一連。左から鈴木が打ったシュートを芳江が弾き、再び鈴木が枠へ収めたシュートも再び吉江がセーブ。さらにこぼれを拾って左へ流れた高橋のシュートはクロスバーに当たり、弾んだボールを何とか吉江がキャッチ。3連続決定機にも横河ゴールは揺れず。ならば、まさに格言通りの『ピンチの後にチャンスあり』。
「オンのままのボールで、一度もアウトオブプレーにならないまま」(日比監督)迎えたのは横河の決定的なチャンス。右サイドへ展開されたボールを太田はそのままえぐって中へ。このボールをルーキーながらCFに抜擢された成実浩太郎(1年・Forza'02)が左へ流すと、待っていたのは真打ちの渡辺悠雅。豪快に揺らしたゴールネット。10番のキャプテンがさすがの一発。スコアは振り出しに引き戻されました。
ここからはやるもスリリング、見るもスリリングな撃ち合いがスタート。基本的には横河が攻め切ってフィニッシュまで行くか、帝京が良い位置で奪ったカウンターからフィニッシュまで行くかの展開。55分は帝京。右サイドから長倉が折り返したボールを、青野が狙うもDFがブロック。56分は横河。成実のパスを受けた太田が、巧みにワンテンポずらして放ったシュートは渡辺聖也がキャッチ。57分は横河。菅波錬(3年・横河武蔵野FC JY)、見木とボールを回し、渡辺の左クロスをファーで山田樹(3年・横河武蔵野FC JY)がかぶせたボレーはDFをかすめてサイドネットの外側へ。58分には両チーム通じて初めての交替が横河に。中盤アンカーの関口雄大(3年・横河武蔵野FC JY)を槇廉(2年・芝中)にスイッチさせて、「失った時にどうするのというリスク管理の所があまりにも少なかった」(増本監督)状況の修正に着手します。
61分は帝京の決定機。運動量の落ちない高橋を起点に、鈴木が左から中へ付けたボールを、日比監督も「去年で言えば武藤みたいな役割をしてくれる」と最大級の評価を口にした尾田雄一(3年・帝京FC)が狙ったシュートは吉江がファインセーブで応酬。64分は横河。右サイドのスローインから山田が粘って繋ぎ、菅波が思い切って狙ったミドルは枠の右へ。増本監督が成実と宮川湧弥(3年・JACPA東京FC)を、日比監督が古市と磯野拓也(3年・川崎フロンターレU-15)を相次いで入れ替えると、68分は横河の決定機。山田の極上スルーパスに抜け出した太田は、飛び出したGKも外して無人のゴールへ流し込むもやや勢いが弱く、全力で帰った吉田一貴(2年・府ロクJY)がきっちりカバー。届かなかったあと3メートル。
「尾田、長倉、高橋は高い位置で最後の仕事をしようと狙っていた。簡単にボールを失わなければ、チャンスは来るという部分で前でよく体を張って頑張っていたと思う」と日比監督も称えたその3人が、同時に輝いた74分の閃光。右サイドで尾田が裏へ落とすと、残っている脚力を駆使して長倉はカットインから左へ。高橋はさらに左へ流れながら強烈なシュートを枠へ飛ばし、吉江もさすがのビッグセーブで阻止しましたが、こぼれを押し込んだのは鈴木。絶叫のカナリアがこの試合2度目のリードを強奪しました。
丁々発止をやりあう中で、またもビハインドを追い掛ける格好となった横河。76分には見木が中央を切り裂くスルーパスを繰り出し、宮川が抜け出すもGKとの1対1はわずかに枠の左へ。79分にもCBの小林雅実(3年・横河武蔵野FC JY)が素晴らしいクサビを打ち込み、宮川が左へ振ったボールを投入されたばかりの外山真永(1年・横河武蔵野FC JY)が折り返すも、山田のシュートは大きく枠の上へ。81分に菅波がトライしたミドルもクロスバーの遥か上を通過。両者を大きく隔てる"1点"の壁。
逆に冷静に守備を遂行し続ける帝京に続けてチャンス。85分には磯野の左CKがファーまで届き、フリーで笹沼和紀(3年・帝京FC)が合わせたヘディングは枠の右へ。88分にも尾田、桑島健太(2年・和歌山西脇中)、磯野のスムーズなバス交換から、尾田が放ったシュートは吉江が執念のファインセーブで回避。「途中から入ったヤツらもあの流れの中でよく耐えた」と日比監督。平井寛大(2年・帝京FC)と橋本希望(3年・帝京FC)のCBコンビも、時間を追うごとに研ぎ澄まされる集中力。時計の針があと6度進めば、残すはアディショナルタイムのみ。
90分の横河。1年生の外山が右から懸命にクロスを上げ切り、こぼれたボールを菅波が得意の左足で狙ったボレーも枠の上に外れると、これが横河のラストチャンス。「勝負はどちらに転がってもおかしくない内容でしたし、サッカーの質から言えば向こうの方が2枚も3枚も上ですからね」とは日比監督ですが、勝ったのはカナリアイエロー。帝京が白星先行となるリーグ2勝目を手にする結果となりました。
「色々なことをやってみて何がハマるのかということをやってきて、開幕が早いのでその分結果が出なくてもしょうがないんじゃないかなと」いうスタンスの中で、ここまで新チームを構築してきた増本監督。続けて「結果が出なさ過ぎたというのはありますけどね」と苦笑いを浮かべたものの、だいぶ進むべき道の骨格は見えてきている様子が窺えました。「悪い中でもやれることとやれないことがハッキリしてきたし、あとは"やらせてあげたいこと"と"やれること"はやっぱり違うので、そこの理解を自分の中でも消化していかなくてはいけないけど、彼らに何を伝えていけるのかという所も、整理ができたのかなというのはある」ときっぱり言い切った増本監督。都内屈指の知性派指揮官には我々に計り知れない"未来"が見え始めているのかもしれません。
「どれだけ強いチームとやっても、どれだけポゼッションされようが、それでもディフェンスを徹底してやっていくというのが今の帝京のあるべき姿かなと思っています」と現状を分析したのは日比監督。選手を入れ替えながら維持したかったプレッシングの速さと強度は、一定以上の水準を最後までキープ。その上で強豪相手に勝ち切ったことは今後に向けても大きな成果と言えるでしょう。「僕ら今スタッフができることと言えば、一緒にボールを蹴って、最後までアイツらと腹を割って話せるようになることぐらい」という青年監督に率いられた名門の今シーズンからは、早くもフレッシュでポジティブな空気を強く感じました。 土屋
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