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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
新学年を迎えた4月のオープニングマッチは春爛漫。頂上をも視野に捉える都立三鷹と東京朝鮮の激突は駒沢補助です。
昨年はリーグ戦全勝優勝の勢いそのままに、入替戦でも勝利を収めて堂々とトップディビジョンへ帰ってきた都立三鷹。完成度の高かった昨年のチームは、選手権予選でも帝京をあと一歩まで追い詰めるなど確かな存在感を披露しており、その時のレギュラーだった巽健(3年・S.C相模原)は今年のキャプテンに。「前線の方は面白くなってきた」と佐々木雅規監督も言及したように、今年もアタッキングフットボールを貫く覚悟はできています。
昨シーズンはT1で6位に入り、入替戦を経ることなくトップディビジョン残留を決めた東京朝鮮。ただ、インターハイ予選は駒澤大学高に1次トーナメントで敗れると、続く選手権予選も結果的にファイナリストとなった駒澤大学高とリターンマッチを行い、無念の返り討ちに。リスタートの今シーズンは「みんなが弱いと言っているので、1個1個強くなっていったらいいかな」と高隆志監督ですが、当然見据えているのは同校の悲願とも言うべき全国の舞台です。今まさに見頃を迎えている桜を一目見ようと、駒沢公園には朝から多くの家族連れも。華やかな、そして賑やかな雰囲気の中、ゲームは10時に三鷹のキックオフでスタートしました。
いきなりの決定機は三鷹。2分、1トップの長島潤也(3年・渋谷広尾中)のパスを引き出し、DFと競り合いながら河内健哉(3年・FC駒沢)が打ち切ったシュートは枠の右へ外れたものの、早くもどよめくスタンド。4分には東京朝鮮もSBのキム・ジョンホ(3年・東京朝鮮第五中)が右から繋ぎ、ニアでハン・ヨンテ(3年・東京朝鮮第一中)が角度のない所から狙ったシュートは三鷹のGK武田啓介(3年・東村山第二中)が何とかセーブ。6分は再び三鷹。1トップ下の渡部圭(2年・三鷹FA)が右へ浮き球を送ると、巽のシュートはクロスバーを直撃。こぼれに詰めた渡部の目前でキム・ジョンホが何とかクリアしましたが、いきなり撃ち合う格好でゲームは立ち上がります。
すると、早くもスコアが動いたのは6分。左サイドのスローインから、巽はゴールラインと平行に中央へドリブルで突き進むと中へ。ここにフリーで飛び込んできたのは渡部。左足でプッシュしたボールはゴールネットを鮮やかに揺らします。直前のチャンスも関与していた2人が、今度はきっちりと結果を。三鷹が1点のアドバンテージを手にしました。
「思ったより三鷹の生徒が動き出しも速くて上手だった」と東京朝鮮の高隆志監督も認めたように、もはや三鷹の1トップ3シャドーの流動性は強烈なトレードマークに。最前線の長島と、右から河内、渡部、巽と並んだその下の3人がタイミングを見ながら、クルクルと立ち位置を変えて迫る相手ゴール。16分には傳川祐真(3年・東村山第七中)の右CKをGKがパンチングで凌ぐも、上空を舞ったボールはクロスバーにヒット。詰めた金澤宏樹(3年・府ロクJY)のシュートはコ・スンドク(3年・東京朝鮮中)が体でブロックしたものの、あわやというシーンを創出。20分にも右SBの湯浅辰哉(3年・プロメテウス)が好フィードを裏へ落とすと、独走した巽のシュートはGKも見送りましたが、左のポストに跳ね返り、詰めた渡部のシュートは体勢を立て直した東京朝鮮のGKチョン・ジョンオ(3年・西東京朝鮮第一中)がファインセーブで阻止。33分にも巽が絶妙のスルーパスを通し、走った河内がスライディングで足を伸ばしたシュートはまたも右のポストに。今日3度目の"枠"直撃。追加点とは行きません。
早くも左WBのパク・ヒャンジェ(2年・東京朝鮮中)に替えて、2シャドーの位置にルーキーのリャン・ヒョンジュ(1年)を送り込んでいた東京朝鮮。そんな劣勢の中で輝いたのは10番の証明。36分、左サイドでボールを持ったカン・ドゥホ(2年・東京朝鮮中)が中へ付けると、エリア内で複数のマーカーに囲まれたハン・ヨンテは持ち前の体の強さでボールを守り、左に持ち出しながら左足でズドン。独力で三鷹ゴールを撃ち抜いてしまいます。「一瞬のスキ。大丈夫だと思って寄せ切れない所で行かれた」とは佐々木監督ですが、ここはゴールがスーパー。エースがワンチャンスを生かして、再びスコアに均衡がもたらされました。
ほとんど主導権を握り続けていた中で追い付かれてしまった三鷹。42分には中央でターンした河内が左へ振ると、巽のカットインシュートは枠の左へ。45分にはシンプルなロングフィードを金澤が触り、長島がトライしたミドルはチョン・ジョンオが何とかキャッチ。「3点くらい入れられていてもおかしくない。前半は完敗だった」と高監督も振り返りましたが、結局東京朝鮮がタイスコアに追い付いた格好で最初の45分間は終了しました。
後半はスタートから東京朝鮮が意外な2枚替えを。共にコンディションが万全ではない中で奮闘していたCBのチェ・フィジョン(3年・神奈川朝鮮高)とボランチのリ・キョンチョル(2年・東京朝鮮中)を下げて、キム・ファンジ(2年・東京朝鮮第一中)とウン・ソンフィ(2年・埼玉朝鮮中)を送り込み、リャン・ヒョンジュをボランチに落とし、キム・ジョンホ(3年・東京朝鮮中)を挟んでキム・ファンジとウン・ソンフィをそれぞれ3バックの右と左へ送り込む、「ちょっとギャンブル的な采配」(高監督)に打って出ます。
この采配に120%で応えた両2年生。特にキム・ファンジは「コミュニケーション能力やコーチングが凄い」と指揮官も称えたように、最終ラインから常に効果的な声を出して味方を鼓舞。最後尾の安定がそのまま攻撃性にもつながり、ハン・ヨンテやリャン・ソッチュへボールも入るようになり、少しずつ東京朝鮮に傾き始めたゲームの流れ。
58分の狂喜と悪夢。カン・ドゥホが左へ送ったボールを、縦に持ち出したのはリャン・ソッチュ(3年・大宮アルディージャJY)。少し角度のない所まで持ち込みながら、左足でコースを狙ったボールは、GKの伸ばした手を掻い潜ってゴール右スミのサイドネットへ飛び込みます。「去年からのレギュラーで、ボールを持っても怒らなかったので、それが今生きているんですかね」と高監督も評した11番の力強い一撃が飛び出し、今度は東京朝鮮が1点のリードを手にしました。
好リズムのファーストハーフから一転、スコアを引っ繰り返されてしまった三鷹は、あれほど効果的だった流動性も鳴りを潜め、「相手のフィジカルの強さに弱気になった部分」(佐々木監督)も。60分にはボランチの堀田将弘(3年・FC.GIUSTI世田谷)が右へ振り分け、湯浅のクロスを河内がヘディングで折り返すも、最後はハンドの判定でチャンス逸。61分にもマーカーに体を当てながら、河内が狙ったループはやや弱くチャン・ジョンオがキャッチ。逆に65分にはコ・スンドクのCKがこぼれると、再びコ・スンドク、リャン・ソッチュ、キム・ソンサ(3年・埼玉朝鮮中)とボールが回り、キム・ファンジのミドルはゴール右へ外れるも、東京朝鮮に追加点のチャンス。なかなか有効な打開策を繰り出せません。
それでも終盤に差し掛かって、再び同点への意欲を前面に押し出した三鷹。75分、傳川の左FKをファーに入った金澤がヘディングで狙うも、ボールは枠の右へ。あわやというシーンに沸き上がる三鷹の応援席。ところが、直後に目の前で三鷹の選手が転倒したにもかかわらず、ノーファウルという判定に抗議の意を示した佐々木監督が人生で初めてという退席処分に。かなり厳しい判定でしたが、当然ジャッジが覆ることはなく、「これから選手を替えてという所」(佐々木監督)で三鷹ベンチに指揮官不在という緊急事態が訪れます。
そんな三鷹が最初の交替カードとして平光太一(3年・FC.GIUSTI世田谷)を送り込んだ1分後、今度は東京朝鮮の選手がやや不運な判定で2枚目のイエローカードを提示されてしまい、退場処分に。それほど荒れた展開ではなかったゲームでしたが、一方は監督不在、一方は数的不利という状況で、ゲームは最終盤へ突入します。
87分に傳川が蹴った右CKも、88分に湯浅が投げた右ロングスローもシュートには持ち込めず、89分に傳川が放り込んだ右CKを金澤がスルーで流すトリックプレーも、巽のシュートはDFがきっちりブロック。90分に左サイドから巽が上げたクロスを、ファーで叩いた湯浅のヘディングもクロスバーの上へ。90+2分には怒涛の波状攻撃。湯浅を起点に堀田が右へ展開し、傳川が上げたクロスはファーに流れるも、拾った金澤の繋ぎから堀田が執念で放ったミドルもクロスバーの上へ消えると、アディショナルタイムとして掲示された5分も過ぎ去り、駒沢補助に鳴り響いた長い笛の音。「今まで逆転負けはよくあったんですけど、逆転勝ちは久々なので嬉しいですね」と高監督も安堵の表情を浮かべた東京朝鮮が1点を守り切り、勝ち点3を引き寄せる結果となりました。
逆転を許しての黒星となった三鷹は、「やっぱり前半の決め時に決められなかったのがね。チャンスをモノにできなかったのが大きかった」と佐々木監督が口にした言葉がすべてだったなと。16分、20分、33分としっかりした攻撃の形を創ってのフィニッシュが、3度までも枠に阻まれる不運が、このゲームは最後まで響いてしまいました。ただ、裏を返せばそれだけのアタックはこの段階でも繰り出せているという証明でも。「チームとしてはこれでまた頑張るんじゃないかなと思いますけどね」と佐々木監督。三鷹のアタッキングサッカーは健在だったと強調したくなるような90分間でした。
「ケガでレギュラーが3人くらいいなかった」と高監督も話した東京朝鮮は、前半こそかなりの猛攻にさらされ、ひたすら耐える展開を強いられたものの、後半はハン・ヨンテやリャン・ソッチュに加え、1年生ながら前半からのロングリリーフとなったリャン・ヒョンジュにボールが入り出し、攻撃性の一旦も垣間見ることができました。「去年とその前の年が強いと言われていて結果を出せなかったので反省しているんですけど、『今年は強くない』と言われているので、そういう時の方が頑張るかなと期待しています」と高監督。真紅を纏う実力派集団はゆっくりと、しかし着実に悲願を達成すべくその鋭い爪を研ぎ続けています。 土屋
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