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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
クラブ新記録の開幕6連勝という圧倒的な数字を引っ提げた湘南が、昇格候補の一角に挙げられる千葉のアウェイに乗り込むビッグマッチ。舞台はフクダ電子アリーナです。
4位、6位、5位、5位。後者の2年間は昇格プレーオフでの敗退を強いられ、J2生活も5年目に突入した千葉。同クラブの指揮官としては4年ぶりに就任2シーズン目を迎えた鈴木淳監督の下、唯一無二の目標を掲げて入った今シーズンは、ここまで6試合を消化して勝ち点10と快調なスタートダッシュとは行かず。それでもここで無敗の首位をホームで叩き、浮上へ向けた格好のキッカケにしたい一戦に臨みまず。
1つの勝ち点すら落とすことなく、開幕からここまで全勝で駆け抜けているのは降格組の湘南。稀代のモチベーターであり、稀代の戦術家でもあるチョウ・キジェ監督が率いたチームは、もはや圧倒的な信念に貫かれた"湘南乃猛風"。「今日はあえて『クラブの新記録が懸かっている』と、『その記録と記憶に残るような試合をしよう』と言って送り出した」とチョウ監督。1500人近い人数で大挙して押し寄せた緑と青のサポーターを前に、難敵をアウェイで捻り潰す覚悟はできました。2年前にもこの舞台で死闘を繰り広げた両者の対峙は、間違いなく今節最注目カード。両サポーターが最高の雰囲気を創り出す中、ゲームはホームチームのキックオフでその幕が上がりました。
先にチャンスを創ったのは2分の千葉。中盤でボールを奪った町田也真人が縦へ送り、ケンペスがドリブルスタート。決定機になり得るカウンターに対応したのは丸山祐市。1人で遅らせ、戻ってきた宇佐美宏和との連携で追い込み、結果的にはゴールキックへ。「あそこで自分がうまく対応できたというのは、1試合のコンディションを確かめられたし、調子が良いのかなと思った」と丸山。3バックの中央に入った丸山のパーフェクトな対応で、まずは湘南がきっちり相手のチャンスを潰します。
すると、ここからは「リスクを冒す勇気を持ち続けること」を指揮官に刷り込まれている湘南のラッシュ。4分には永木亮太が右へ振り分け、宇佐美のクロスが中央にこぼれると、ウェリントンと競り合った兵働昭弘のクリアはゴールへ向かうも、岡本昌弘がファインセーブで回避。6分には相手のパスミスを大槻周平がかっさらい、菊池大介のミドルはクロスバーを越えましたが、果敢なプレスからのフィニッシュに沸き上がる湘南サポーター。6分には千葉もケンペスのミドルが枠の上へ外れるも、流れは完全にアウェイチームへ。
スタイル結実の始まりは「自分の持ち味はビルドアップ」と語る長身CB。11分、最後尾でボールを持った丸山は鋭いグラウンダーのクサビを縦へ。ギャップに落ちた武富孝介がターンして左へ流すと、菊池は運んで運んで優しく外へ。大外を回った三竿雄斗のクロスに合わせたのはウェリントン。パーフェクト。パーフェクト。これぞ"湘南スタイル"。5人の完璧な連動がもたらした先制弾。湘南が"らしさ"満載の崩しで1点のリードを手にしました。
14分も湘南。右サイドを上がってきた遠藤航のグラウンダークロスに、ニアへ突っ込んだ大槻のシュートはゴール右へ。21分も湘南。ボールを持った谷澤達也を3人で囲んで奪い切り、永木のロングドリブルで獲得したCK。三竿のキックは岡本のパンチングに遭いましたが、CKへの流れを創った守から攻への切り替えは抜群。23分も湘南。一度跳ね返されたボールを大槻が拾い、宇佐美と遠藤を経て、こぼれに走り込んだ菊地俊介のミドルは枠を越えるも、「向こうは守った所からの攻撃が非常に速くて、その違いが非常に出ていたかなと思う」と鈴木淳監督が話したように、何とか水際で耐える千葉を攻め立て続ける湘南。
28分に再び揺れたゴールネット。秋元陽太が蹴ったゴールキックの流れから永木が左へ流すと、菊池はドリブルで仕掛け、一度は天野貴史に奪われ掛けたボールも再び強奪して縦へ短く。回った武富のクロスがファーまで届くと、そのポイントへ50m近い距離を全速力で駆け上がってきたのは宇佐美。叩いたヘディングはファーサイドへゆっくりと吸い込まれるファインゴール。1点目に関わったパスの正確さを指揮官に賞賛された菊池が、ここも丁寧なショートパスでゴールを演出。0-2。点差が広がりました。
「なかなか最終的な所まで入れず、サイドを変えても数的優位の状況が創れない」(鈴木監督)千葉に、ようやく到来した決定的なシーンはやはりセットプレー。兵働のピンポイント左CKをケンペスが当て切ったヘディングは、しかし湘南のGK秋元陽太が驚異的な反応で弾き出し、カバーに入ったウェリントンが懸命にクリア。千載一遇のチャンスを生かせなかった千葉と、前半最大の危機を乗り切った湘南。
格言の証明。勢いで優った後者の追加点は32分。前線で収めたウェリントンが右へ流し、遠藤のアーリークロスは中央でこぼれるも、いち早く反応したのは大槻。きっちり繋いだボールに菊地が飛び込むと、こぼれたボールに反応したウェリントンは難なくゴール左スミへ流し込みます。一番シビアなゾーンでも反応で上回ったのはすべて湘南。「ピンチの後にチャンスあり」はやはり。早くも点差は3点に。
「いつも通りたくさん点を取っても関係なく攻めるというのが自分たちのスタイル」と丸山。4度目の歓喜は3度目の2分後。34分、右サイドで宇佐美の出した縦パスへ走った遠藤は、体勢不利も競り合った井出遥也をふっ飛ばしてボールを収め、ゴールラインと並走しながらクロス。懸命にDFがクリアしたボールへ、ここも真っ先に反応した遠藤が自ら左足を振り切ると、DFに当たってコースの変わったボールは岡本も弾き切れず、そのままゴールネットへ吸い込まれます。沈黙のフクアリに響くアウェイゴール裏の大合唱。0-4。信じられない数字がスコアボードに浮かび上がります。
一向に手を緩める気配のない緑と青。39分、永木を起点に菊地が右へ展開し、遠藤のこれまた絶妙のアーリークロスへ大槻が合わせたヘディングはわずかにクロスバーの上へ消えるも、決定機逸に本気で悔しがる複数人の緑と青。44分には千葉も兵働の縦パスにケンペスが抜け出しましたが、2点目同様に全速力で戻った宇佐美が完璧なカバーリングでスイープ。確かに数字上で考えれば想像を超えたスコアではあるものの、おそらくは両者のパフォーマンスを正確に映し出したそれがこのスコア。湘南が4点をリードして、最初の45分間は終了しました。
何とかファイティングポーズを取り直したいホームチーム。鈴木監督もハーフタイムで交替に着手。町田に替えて送り込むのは、負傷から復帰したばかりの山中亮輔。ケンペスの下には右から谷澤、井出、山中と並べ、「苦しい展開だが、諦めずに自信を持って後半に入ろう」と選手をピッチへ送り出します。
ただ、後半への決意を開始早々に表明したのも湘南。永木が小さく出したキックオフを、武富は後ろへ下げずに前へ持ち出すと、ウェリントンヘ。いったんはクリアされたボールを大槻が奪い返し、ウェリントンのミドルは岡本にキャッチされましたが、その間わずかに25秒。「取られたら追い掛けない選手は僕の中では何があってもダメ」というチョウ監督の選んだ11人に迷いなし。
47分には千葉も兵働のパスから、軽快なステップでマーカーを外した井出が枠内シュートを放つも秋元がしっかりキャッチ。48分には三竿とのパス交換から菊池がアーリーを放り込み、宇佐美の折り返しを大槻が狙ったシュートはDFのブロックに遭うも、左右に揺さ振ってフィニッシュを取り切ると、直後の"揺さ振り"はそのまま咆哮へ。50分、湘南が右サイドから入れたスローインは一旦相手に渡るも、中村太亮のドリブルを宇佐美がかっさらって鋭いクロス。ニアで大槻が潰れ、ファーへ流れたボールを倒れ込みながらゴールへ送り届けたのは菊池。「正直狙っていた」という3試合連続ゴールは、前日に迎えた誕生日を自ら祝うメモリアル弾。期せずして起こった湘南サポーターによるバースデイソング。0-5。終わらない湘南のフィエスタ。
「選手も思った以上に試合の中で相手の切り替えの速さを感じたんじゃないかなと思う」と鈴木監督。55分には山中のパスから、個でも奮闘していた井出が1人かわして中へ折り返すも、天野のミドルはイケイケのチームの中で「リスク管理をこまめに90分間通してやり続けている」と語る丸山が体でブロック。58分には菊池が、62分にはウェリントンが相次いで岡本にファインセーブを強いる枠内ミドルを。緩まない湘南。変わらない流れ。
63分に右SBを天野から竹内彬に入れ替えた千葉は、65分にケンペスが左足で狙ったミドルもゴール左へ。69分には決定機。井出を起点に山中がスルーパスを裏へ通すと、3列目から飛び出した山口慶のシュートは枠の右へ外れるも、若い2人の力で流れの中からはこの試合最大のチャンスを創出。72分には既に1枚目のカードとして藤田征也を送り込んでいた湘南が、大槻と中川寛斗をスイッチ。千葉も最後のカードとして森本貴幸をピッチへ解き放ち、ゲームは最後の15分間へ。
77分に藤田が右サイドで基点を創り、ウェリントンと菊池が絡んでこぼれたボールを菊地がループで狙い、わずかにクロスバーの上へ外れたシーンを経て、79分にチョウ監督が最後のカードとしてCFへ投入した梶川諒太も短時間で一仕事。81分、その梶川はカウンターから溜めて溜めて右へ。パス自体はキム・ヒョヌンに引っ掛かりましたが、強引に体をねじ込んでボールを奪った武富は、そのまま右足を素早く振り抜いてゴール右スミへ丁寧にフィニッシュ。ピッチイン直後のファンタジスタが舞い、この日は黒子に徹していたストライカーが一刺し。1点目とは対照的ながら、これも"らしい"ゴールと表現して差し支えない一撃は、祝宴を締めくくるのにふさわしい6点目。「今日の試合の内容に関しては、15分ぐらいだったらザルツブルクと良い試合ができるかなっていう風にちょっと思いました」と、最近のフェイバリットクラブであるザルツブルクの名前を出した指揮官の言葉は、間違いなく最上級の褒め言葉。0-6という衝撃的なスコアで、湘南が千葉を粉砕する結果となりました。
実は2年前。同じスタジアムで両者は対戦しています。スコアは1-1でしたが、まさに手に汗握る好ゲーム。シーズン終了後に、弊社のオフシーズン企画でチョウ監督にスタジオへお越し頂いた際に、シーズンのベストゲームとして挙げられたのがまさにその一戦でした。会見で当時と今の違いについて問われたチョウ監督は、「2年前は千葉さんに対して良い意味でのチャレンジ精神だけでやっていて、それこそ相手に向かって行くことよりもどっちかと言ったらもう必死で頑張ってプレーするという90分だったと思うんです。でも、今日は選手が"迎え撃つこと"も"仕掛けること"もやれるメンタリティになったというか、それは僕が何かしたというのは全くないと思うし、本当に選手がそういう風に思えるようになったというのが答えの全て」だと。相変わらずの謙虚な発言ではあるものの、今シーズンから加わった選手が4人もスタメンに名を連ねるチームで、そのメンタリティが打ち出せているのは、丁寧に積み上げてきたスタイルが"本物"である証だと思います。
かつてJリーグにはこのチームと同じようなメンタリティとスタイルを持つチームが存在していました。イタリアワールドカップでユーゴスラヴィア代表をベスト8まで躍進させたサラエヴォ出身の名将が、やはりハードワークとハイリスクハイリターンをベースにこつこつと築き上げたチームは、獲得したタイトルの価値以上にそのスタイルへ浴びせられた賞賛を携え、リーグ史上屈指の好チームとして今でも語り継がれています。それでも、おそらくはかの名将が目指していた到達点には、まだまだ先があったであろうと。翻ってこの日の湘南を見ていると、そしてそのチームを率いる指揮官の言葉を聞いていると、今後の歩み次第であるいはあのチームが辿り着いた"その先"まで届いてしまうのではないかという期待を、部外者にすら抱かせてしまうような、そんな魔法の夜だったように感じます。ひょっとすると我々は、Jリーグ史にとって歴史的な90分間に立ち会えたのかもしれません。 土屋
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