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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
無敗の快進撃はさながら"イエローマジック"か。生まれ変わった北関東の雄がJ2の巨人を迎え撃つ一戦は栃木県グリーンスタジアムです。
同じ黄色をチームカラーとする昇格候補の千葉相手に快勝を収め、最高のシーズン開幕を飾った栃木。以降も横浜FC、京都とJ1経験者を向こうに回して勝ち点1ずつをもぎ取ると、前節は群馬を3-0と一蹴して北関東ダービーを完全制圧。阪倉裕司監督の下、得点ランク2位に付ける瀬沼優司がブレイクを果たし、ドゥドゥやイ・ミンスなど外国籍選手も早々にフィットするなど、これ以上ないチーム状況で元・J1王者をホームで待ち受けます。
まさかの降格から4ヶ月。大分でも実績のあるシャムスカ監督を招聘し、10年ぶりの国内復帰となった松井大輔やポポ、藤ヶ谷陽介といった即戦力を補強。1年でのJ1復帰が最大にして唯一の目標となる磐田。ところが、開幕戦は札幌にホームで黒星を喫すると、3連勝を狙った前節の福岡戦もホームで2点のリードを守り切れず、3-3という打ち合いの末にドロー。想像通りとなりつつある茨の道を切り開くためには、好調の栃木を叩いておきたいアウェイゲームです。スタジアムを包むのは試合前から降りしきる冷たい雨。15.7度という気温以上に寒さを感じる3月ラストゲームは、磐田のキックオフでスタートしました。
序盤のチャンスはセットプレーから。開始1分経たないFKは磐田。左から駒野友一が蹴り込んだボールを、フェルジナンドが頭に当てたボールはそのままゴールキックへ。6分のCKは栃木。近藤祐介が右から入れたボールがこぼれると、ワントラップで収めた大久保哲哉の左足シュートはゴール右へ。9分のFKは磐田。左からポポが速いボールを放り込み、松井のフリックに前田遼一がヘディングで突っ込んだ決定機は枠のわずかに左へ。10分のCKも磐田。一旦クリアされたボールを右から駒野が再び入れ直し、菅沼駿哉が頭で残したボールを前田が叩くも、栃木GK鈴木智幸がキャッチ。まずは両者に惜しいシーンが訪れます。
ただ、少しずつ押し込み始めたのは白いユニフォームを纏ったアウェイチーム。「普段組んでいるのとは違うフォーメーション」とシャムスカ監督も言及したように、ここまでの基本布陣だった4-2-3-1から、このゲームではフェルジナンドを中盤アンカーに置いた4-1-4-1へシフト。最前線に立った前田の後ろには右から山崎亮平、山田大記、松井大輔、ポポが並び、「我々が持っている質の高い選手を全員使おうと」(シャムスカ監督)、トライしたのは超攻撃的布陣。
「攻撃の時は流動的にチェンジしながら、相手がマークの付きにくい所にみんなそれぞれポジションを取ったり走ったり、そういう所をみんなできれば強いと思う」とは松井。22分にはその松井が左サイドで裏へ入れると、斜めに走り込んできた山崎は飛び出したGKをかわして中へ。前田に届きかけたボールはイ・ミンスが間一髪でクリアし、詰めたフェルジナンドのシュートもイ・ミンスがブロックしたものの、ビッグチャンスを創出。直後のCKから藤田義明が放ったわずかに枠の右へ外れるミドルを挟み、25分にも山田とのワンツーを敢行した松井のスルーパスから、山崎が打った決定的なシュートは鈴木智幸に阻まれましたが、「あの4人5人が攻撃の時にうまく絡んで行ければ、いい感じで攻められると思う」と語るキャプテンの松井を中心に、J2屈指のアタッカー陣がグリスタのピッチで躍動します。
さて、16分にドゥドゥがゴールまで30m近い距離から直接狙ったFK以降は、ほとんどチャンスらしいチャンスを創れない栃木。「押し込まれることは想定していたし、強い相手だということもわかって準備してきた」とは阪倉監督ですが、押し込まれる時間が長い中で手数を繰り出せず。この状況を「もう少し自分たちから動かしてという時間を増やそうと思っていた中で、キツかったらシンプルに前へというのはあったけど、受けに来る側と背後で欲しい側のギャップというのが一番良くない感じで出たなと思った」と振り返ったのは廣瀬浩二。守備時は4-1-4-1気味に、攻撃時は4-2-3-1気味になるチームの中で、特に前者の時間が長かったことで、1トップの瀬沼へのサポートも希薄になり、厚みのあるアタックを打ち出せません。
28分は磐田。前田が右へ振り分けたボールをポポがヒールで落とし、駒野の鋭いクロスは鈴木智幸が何とかキャッチ。31分も磐田。高い位置でボールを奪った山田がそのまま打ち切ったシュートはDFが何とかブロック。33分も磐田。アバウトな長いボールを山崎がしっかり収め、最後はポポが枠に飛ばした強烈ミドルは鈴木智幸がファインセーブで回避。「もっと攻撃的にしたかった」という指揮官の狙いを体現し続ける名門の圧力。
結実は36分。右サイドで駒野が縦に付けたボールを、松井は華麗にヒール。走り込んだ山田が小野寺達也に倒された位置はペナルティエリアの中。磐田にPKが与えられます。キッカーは前節こそ前田に譲ったものの、今回は「自分でボールを取りに行ったので蹴りたいなと」話した松井。ゆっくりとした助走から「GKをちょっとだけ見て、あまり動かなかったけど冷静に動かない方に蹴るという感じ」で蹴ったボールは見事にGKの逆へグサリ。「何とか崩されながらも凌いでいてのPK」(廣瀬)は栃木にとっても大きなダメージ。ゲームリズムのままに磐田が1点のリードを奪って、最初の45分間は終了しました。
後半も最初のビッグチャンスは磐田。47分、おなじみポポキャノンは一旦DFに当たったものの、こぼれたボールは松井の下へ。素早く放ったシュートは鈴木にキャッチされましたが、いきなりの好トライに沸き立つアウェイゴール裏。ところが、「後半の立ち上がりは栃木も良かった」と廣瀬が振り返った通り、48分に近藤が巧みに出した浮き球のラストパスはオフサイドとジャッジされるも、前半は漂わなかったゴールへの可能性をわずかに覗かせると、直後に訪れた千載一遇の同点機。
50分、後方へのバックパスを処理した藤ヶ谷はまさかのキックミス。至近距離で拾った廣瀬は1対1に。「凄く冷静に落ち着いていて、脇へ流し込もうと思っていた」キャプテンのシュートは、しかし自ら責任を取る格好で藤ヶ谷がファインセーブ。舞い込みかけた幸運を生かし切れなかった栃木。スコアボードの数字に変化は訪れません。
「相手に押し込まれて、苦しいながらもクリアしたボールをマイボールにできないシーンがほとんど」(廣瀬)だった前半に比べれば、ややボールを持つ時間も出てきた栃木に対して、ややリズムを抑えられた磐田のチャレンジはミドルゾーンから。54分にはフェルジナンドを起点に、ポポの左カットインミドルは鈴木智幸がキャッチ。56分にもポポと山田を経由して、フェルジナンドが左足で狙ったミドルは枠の左へ。58分にもゴール左、約25mの距離からポポが直接狙ったFKは枠の左へ。お互いに決定的なシーンには至らないまま、進んでいく時計の針。
先に動いたのは60分の阪倉監督。右サイドで守備に追われる時間の長かった湯澤洋介に替えて、永芳卓磨を投入。永芳は小野寺と並んでドイスボランチの一角に入り、廣瀬を右SHへスライドさせて狙う同点と逆転。シャムスカ監督も相次いで交替策を。62分には先制弾の松井と小林祐希を、65分には前田と金園英学をそれぞれ入れ替える攻撃的な采配。王国の指揮官に1点差で逃げ切るつもりは毛頭ありません。
71分には磐田に決定的な追加点機。金園、山田とボールが回り、ポポは右サイドへ丁寧なラストパス。受けた金園は右足を振り抜きましたが、ボールは果敢に飛び出した鈴木智幸に当たって枠の左へ。金園の悔しさを滲ませた表情が、しかし満面の笑みに変わるのはその直後。左から駒野が蹴ったCKを、菅沼がきっちりヘディングで折り返すと、ゴールに背を向けて収めた金園は鋭いターンから左足一閃。ボールは栃木の選手をすり抜けて、ゴールネットへ飛び込みます。「結果を残していかないと試合に出ることはできない」と危機感を顕わにするストライカーの貴重な一撃。とうとう点差が広がりました。
76分には印象的なシーンが。磐田が高い位置でボールを失い、攻撃から守備へと切り替えるタイミングで、相手のパス回しに対してテクニカルエリアのシャムスカ監督は、山崎に大きなジェスチャーで"戻れ"と合図。これに呼応した山崎は、全力のチェイスで相手のフィードをブロックして、スローインへボールを切ります。このワンプレーに指揮官は大きな拍手。今の磐田を貫く規律と信頼が垣間見えた瞬間でした。
76分にイ・ミンスと鈴木隆雅を、84分に近藤と久木野聡をそれぞれ入れ替え、何とかホームで1点を返したい栃木でしたが、83分に山形辰徳が左から蹴ったFKは、いい位置に飛ぶもDFに当たってわずかにゴール右へ。90+1分にチャ・ヨンファンのフィードを大久保が落とし、瀬沼に到来した決定的なラストチャンスも、右足で振り抜いたボールが突き刺さったのはサイドネットの外側。「我々の目標は5試合で勝ち点10だったので、今日の試合は非常に大切だった」とシャムスカ監督も明かした磐田が勝ち点3を積み上げ、最初の5試合で掲げた目標をきっちりと達成する結果となりました。、
「今日の試合に関しては完敗なのかなと思う」(阪倉監督)「技術の差は凄く出ていたし、ファーストタッチの差が凄く出たなと思う」(廣瀬)と2人が話したように、このゲームからは非常に厳しい結果と内容を突き付けられた栃木ですが、「たらればですけど」と言いながら、「僕が後半の相手のミスをしっかり1-1にしていれば、絶対に状況は変わった」と続けた廣瀬の言葉も確か。流れを引き寄せる潮目もなかった訳ではありませんでした。「3月の5試合を通じて、いい守備からいい攻撃をすることはかなりあった」と指揮官も認めた通り、開幕5試合という観点で考えれば上々のスタートを切ったことは間違いない所。この5試合が"マジック"ではなかったことを証明するための4月攻勢は、次節から幕を開けます。
「フォーメーションに関してはその都度考えて使い分けていきたい」とシャムスカ監督も明言した磐田は、新システムの4-1-4-1も一定以上機能した印象。特に前述した「我々が持っている質の高い選手を全員使おうという意図」(シャムスカ監督)を反映しながら、今シーズン初の完封を達成したことも今後への大きな収穫と言えそうです。「まだまだ完成度は低いけど、やりがいのあるフォーメーションかなと思う」と4-1-4-1を評したのは松井。勝ち点3の獲得に加え、戦い方のバリエーションも広がった3月ラストゲームは、磐田にとってターニングポイントになり得るゲームだったのかもしれません。 土屋
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