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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
遥かなるトップディビジョンへと続く扉を見据え、1年間を掛けて前進と後退を繰り返すであろう長き戦いの幕開け。8年ぶりのJ1へ。復権を誓うハマの"FC"と、J1での四国ダービーを実現させたい伊予の"FC"が対峙するオープニングマッチは伝統の三ツ沢です。
シーズン途中就任となった若き知将・山口素弘監督に率いられ、昇格プレーオフまで進出した2年前から一転。優勝を掲げて挑んだ昨シーズンはほとんど昇格争いに加わることなく、まさかの12位に沈んだ横浜FC。山口体制3年目となる勝負の年は、南雄太や松下年宏、飯尾一慶、アン・ヨンハといった30代の即戦力を積極補強。だた1つの目標へと辿り着くための1年は、俺たちの丘からスタートします。
ユースから昇格した石丸清隆監督を頂き、若い選手を中心に挑んだ昨シーズンは順位こそ17位だったものの、変革のタイミングとして次のステップへと進む土台は形成された愛媛FC。ただ、同じ四国のライバルとして切磋琢磨してきた徳島がJ1昇格を果たしたことで、自らのサポーターもより渇望するのはそのライバルと同じ舞台。原川力や堀米勇輝のような若駒と、村上佑介や西岡大輝、西田剛のような中堅を獲得した2014年は結果を求められるシーズンと言えそうです。朝から断続的に降り注ぐ雨もあって、気温も5.6度とすっかり戻ってきた冬の装い。そんな天候を吹き飛ばすような両サポーターが奏でる声援の中、横浜FCボールで開幕戦はスタートしました。
「オープニングゲームということと、この寒さで多少の硬さはあった」(横浜FC・山口監督)「開幕戦ということで、選手が少し硬いなという印象の中でゲームがスタートした」(愛媛・石丸監督)と2人の指揮官が声を揃えたように、スタートはやや慎重に立ち上がった両チームでしたが、10分を過ぎると少しずつ攻撃のリズムが出てきたのは愛媛。11分には左WBの三原向平が付けたボールを、CFの西田が丁寧に落とし、吉村圭司は右へ展開。WBの関根永悟が上げたクロスは、今シーズンから横浜FCのユニフォームに袖を通したGKの南がキャッチしたものの、まずは愛媛が複数人の連携からチャンスを創ります。
13分も愛媛。3バックの右に入った村上が左へサイドチェンジを送り、受けた三原は大きく枠の左へ外れるミドルにトライ。15分も愛媛。堀米が右から蹴ったCKはニアで寺田紳一が何とかクリア。16分も愛媛。原川が左から入れたCKもDFが何とかクリア。21分にもゴールキックにこそなりましたが、原川が左からFKを蹴り込むなど、「前半の最初にある程度こっちがやりたいサッカーができて、主導権を握れていた」と話したのはボランチの渡邊一仁。アウェイに乗り込んできたオレンジの躍動。
さて、「雨だったし、後ろでの繋ぎとかもシンプルにというか、気を付けようというのはあった」と右SBでスタートした小池純輝も振り返った横浜FCは、その言葉通り比較的シンプルに前線で聳え立つ191センチのパク・ソンホに放り込むシーンも目立つ中で、なかなか周囲の良いサポートが入らない状況に。最初のチャンスらしいチャンスは24分。左サイドで飯尾が粘ってクロスを上げ切ると、パク・ソンホのシュートはDFのブロックに遭いましたが、サイドアタックからようやく惜しいシーンを創出します。
すると、横浜FCに訪れた決定機。25分、小池が右サイドからアーリークロスを放り込むと、DFのクリアはエリア内でルーズボールに。落下地点に入った村上がGKに戻そうとしたボールは小さく、狙っていた小野瀬康介は抜け目なくヘディング。最後は愛媛のGK児玉剛が何とか反応して事無きを得たものの、意外な形からホームチームが掴んだ"あわや"。
前半のポイントとして挙げられるのは、「愛媛の攻撃はシャドーで決まると思うので僕たちに懸かっていると思う」と原川が自ら語り、渡邊も「あそこにどれだけ入るかがウチがうまく行っているか行っていないかのバロメーター」と認める愛媛の2シャドー。村上のクサビを引き出した堀米が、DFと入れ替わりざまに得意の左足アウトで原川を狙った31分のシーンや、バイタルで前を向いた原川がドリブルシュートを野上結貴にぶつけた37分のシーン、渡邊のクサビを堀米がワンタッチでラストパスに変えるも、西田がシュートまで持ち込めなかった39分のシーンなど、原川と堀米のシャドーを経由した愛媛には、フィニッシュ一歩手前のシーンが何回も生まれていました。
ただ、それはあくまでも"一歩手前"。「相手が3トップだと、どうしてもボランチの横は使われがちというか狙われるので、ボランチがシャドーに付いていけない時はCBに付いていってくれとは言ったし、そこから特に何かされたという訳ではなかった」と松下が話せば、「相手は戦術としてあそこにボールを入れたいというのがあると思うので、どうしてもすべてを防ぐのはムリだし、実際にわざと入れさせて奪ったりするシーンもあった」とは小池。確かに"シャドー後"に決定的なチャンスまで繋がるシーンはほとんどなく、見た目の雰囲気ほど、横浜にやられている感覚も、愛媛にやれている感覚もなかった様子。実際に原川も「もっと攻撃の質やアイデアを合わせていく必要があると思う」と言及していました。
とはいえ、横浜FCも34分には左サイドで中島崇典が縦に付けたボールを飯尾は華麗にヒール。パク・ソンホが中央へ流したボールは内田智也に届くも、タイミングを逸した内田はシュートまで持ち込めず。「フィニッシュの場面までなかなかいけなかったというもったいない前半」とは石丸監督の言葉。最初の45分間はスコアレスでハーフタイムに入りました。
後半はまず横浜FCにチャンス。47分、飯尾を起点に小野瀬が繋ぐと、パク・ソンホは強引にフィニッシュ。ここは飛び込んだ村上がブロックを敢行し、最後は野上が枠を越えるミドルを飛ばしましたが、「内容も前半から悪くなかった」(南)横浜FCが、後半へ懸ける意欲をスタートから前面に押し出します。
そんな中で試合の展開を大きく左右するアクシデントが発生したのは50分。横浜FCのカウンターが発動されると、まだ自陣でドリブルしていた飯尾に対し、3バックの中央を務める林堂眞がユニフォームを引っ張ってストップ。このプレーを見た高山啓義主審はイエローカードを提示します。既に前半にも警告を受けていた林堂へ突き付けられた赤いカード。「どちらかと言えば2枚目の警告は不用意だった」とはその林堂の弁。残された40分近い時間を、愛媛は10人で戦うことになりました。
すぐに動いた石丸監督の決断は55分。堀米に替えて河原和寿を投入し、両サイドのWBをそのままSBに落として、西田を前に残す明確な4-4-1にシフト。58分に左サイドを飯尾が崩し、小野瀬のヒールを経由したボールが小池の前に届きかけるも、間一髪でよく戻った原川がクリアしたシーンを経て、60分に内田を下げて市村篤司を右SBに送り込み、小池を左SHへスライドさせた山口監督の采配を受けると、石丸監督は62分に2人目の交替も敢行。西田との交替で送り出した渡辺亮太に「前線で起点を作って、タメを作ってもらうという役割」を託します。
68分は横浜FC。中島のパスから飯尾が左へ回し、小池のクロスをパク・ソンホが狙うもDFに当たったボールはゴール左へ。直後のCKを松下が蹴り込み、こぼれに反応した中島のミドルは吉村が体でブロック。69分は愛媛の後半ファーストチャンス。原川のパスカットから、渡辺亮太がドリブルで運んで運んで左へラストパスを送るも、ふくらんだ河原はわずかにオフサイド。愛媛にとって千載一遇の好機も潰えると、70分に小野瀬との交替で山口監督がピッチへ解き放ったのは、新加入のブラジル人FWホナウド。最前線にパク・ソンホと並べるツインタワーで勝負に出ます。
クリアが精一杯の状況下で前はボールを収め切れず、「0-0という結果を取りにいかざるを得ない展開」(石丸監督)の愛媛。「相手には食い付かないでカウンターと結構割り切っていた」とは渡邊。8枚でブロックを築きながら、滲ませたのは残る20分をやり過ごす覚悟。「相手が割り切ってああいうサッカーをしてきたが、待ち構えられている所にクロスを上げる感じだったので、跳ね返しやすかったのかなと思う」と小池。セットプレーは再三獲得し、松下が高精度のボールを送り込み続けるも、シュートまでは繋がらず。逆に79分には原川のパスから、河原がわずかに枠の左へ外れるミドルで愛媛の後半ファーストシュート。スコアボードの数字に変化はなく、いよいよゲームは残り10分間とアディショナルタイムへ。
80分にはルーキーの野村直輝を最後のカードとして起用した山口監督。村上と西岡のCBコンビを中心に集中力の続く愛媛ディフェンスをこじ開けられず、時間ばかりが経過していく中で、横浜FCに訪れた絶好の先制機は87分。寺田が左へ振り分けたボールを、中島は完璧な軌道でファーサイドまで。突っ込んできた市村のシュートは枠を捉えるも、今日がJリーグ初出場となった児玉が決死のファインセーブで回避。どうしても1点に手が届きません。
90+2分、右CKをショートで始めた松下が野村のリターンをそのままクロス。こぼれたボールを中島がダイレクトで叩いたシュートがDFにブロックされると、これが両チーム通じてこのゲームのラストシュート。「アウェイで勝点1を取って帰るということは、次のゲームに対して意味があることだと思う」(石丸監督)「勝ち切りたかったのが本音だけど、後ろの人間としては失点ゼロというのは1つの結果」(南)。三ツ沢を舞台に繰り広げられた栄えある開幕戦は、やや意味合いの違う勝ち点1が両者へ均等に振り分けられる結果となりました。
「1人少ない中で後半ああいう戦い方をみんなで統一してできたことは非常に良かったし、次に繋がる勝ち点1だったと思う」と原川も話した愛媛は、10人で戦った時間の長さを考えれば、決して悪くないドローだったのは間違いありません。また、原川と堀米という攻撃のストロングもこの一戦で明確に。あとは前述したように、"シャドー後"をどういうアイデアで彩っていくかが、今後の伸びしろになっていくような印象を受けました。
数的優位を生かし切れない格好で、勝ち点1獲得にとどまった横浜FCでしたが、「11対11でやった方がやりやすかったかなと思う」と南が話したように、あれだけブロックを築かれてからこじ開けるのは、やはりそう簡単なタスクではありません。ただ、6人の新加入選手がスタメンに名前を連ねる中でも、特に前半で披露した守備の安定感は上々であり、これが既にベースとしてあることは大きな強み。「チームは生き物だからまだ始まったばかりだし、そこからいかに良くしていくかという所だと思う」と南。ハマの"FC"が復権へ向けて静かに、かつ確実にその第一歩を踏み出しました。 土屋
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