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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
「ありがとう国立競技場」。数々の記憶と記録に彩られたナショナルスタジアムでの代表戦も、改修前はこのゲームがラストマッチ。王国での祭典を3ヵ月後に控え、ニュージーランド代表を迎えて戦う一戦は国立霞ヶ丘競技場です。
本大会のメンバー発表までに残された国際Aマッチはこの1試合だけ。23枚に限定されたブラジルへと旅立つ航空券の予約オーダーを考えれば、ボーダーラインに立たされた選手にとっては、ただの1試合以上の重みを持つ大事な90分間。そんなザックジャパンと対峙するのは、大陸間プレーオフでメキシコ相手に世界への扉を閉ざされることとなったニュージーランド代表。個々の選手にとって自らの実力を改めて証明するには格好の相手を前に、モチベーション高く臨むことは間違いありません。
舞台は改修工事着工を目前に控えた、日本サッカーの聖地・国立競技場。代表としても約4年ぶり、ザックジャパンにとっては初めて開催された"コクリツ"でのゲームに、詰め掛けた青のサポーターは47670人。試合直前には朝から降り続いた雨もピタリと止み、ピッチコンディションも最高に。日本サッカー界にとってメモリアルマッチと言うべき一戦は、日本のキックオフでスタートしました。
4分のチャンスはニュージーランドのFK。左サイドからベガルタ仙台でプレーするマイケル・マグリンチィが二アサイドへ速いボールを入れると、クリス・ウッドはわずかに触れませんでしたが、セットプレーからこのゲーム自体のファーストチャンスを創出します。いきなりどよめいた4万7千の歓喜は、しかしその直後。
同じく4分、左サイドで長友佑都からのパスを引き出した香川真司は、ルックアップと同時にDFラインの裏へピンポイントフィード。完璧なタイミングで抜け出した岡崎慎司のトラップは流れ、GKとマーカーと三者がもつれたものの、最後に足を伸ばしたのはやはり岡崎。ボールはゆっくりとゴールネットへ吸い込まれます。「相手が警戒していなかったので、完全に自分がフリーになれた」と話す9番の動き出しは、さすがブンデスリーガを席巻している世界レベル。まずは日本がスコアを動かしました。
次に輝いたのは所属で苦境の続く10番。7分、高い位置でボールを奪った本田圭佑が短く付けると、受けた香川はドリブル、ドリブル。エリア内への侵入からルーレットを敢行すると、マーカーはたまらずタックルでストップ。アラン・ミリナー主審はペナルティスポットを指し示します。キッカーはいつもの本田ではなく香川自ら。左サイドを狙ったキックは完全に読んでいたニュージーランドのGKグレン・モスも手に当てましたが、勢いの勝ったボールはゴールへと転がり込みます。この1点はあらゆる"キッカケ"になるか。点差が開きました。
止まらないサムライブルー。11分には右サイドで獲得したFK。キッカーの本田がニアへ落としたボールに、絶妙のポジショニングと強度で突っ込んだのはCBでのスタメン起用となった森重真人。遅れてきた大器の代表初ゴールでスコアは3-0に。ニュージーランドも15分にはビル・トゥイロマのパスからマグリンチィが枠を越えるミドルでファーストシュートを記録するも、次のゴールもホームチーム。17分、吉田麻也のクサビを香川は運んで運んで中へ。本田はノールックヒールで右へラストパスを送ると、フリーの岡崎が蹴り込んだボールはGKのファンブルもあってゴールネットへ到達。"左で創って、右で仕留める"得意の形。4-0。早くも大勢は決してしまいました。
「経験不足でナイーブで、若い所がミスを生んだ」と話したのはニュージーランドを率いるニール・エンブレン監督。4-1-3-2で臨んだ"オールホワイツ"は、サイドバックも含めてかなり積極的に前へと出てきましたが、いかんせん攻撃から守備への切り替えが遅く、時にはCBとアンカーに入ったティム・ペインの3枚でカウンターに対応する場面も見られ、ピッチのそこかしこに穴を作ってしまいます。21分にも大迫勇也との連携で香川に枠内シュートを打たれると、「中盤が間延びしていた」とジャッジしたエンブレン監督は25分過ぎに決断。システムを4-1-4-1に切り替え、前線にはウッドを1枚残して、なかなか対応し切れなかったサイドのケアと、わかりやすいターゲットを生かしたアタックへの舵を切ってみせます。
すると、26分のチャンスはニュージーランド。左からウッドが速いFKを蹴り込むと、ニアで合わせたマグリンチィのシュートは枠の左へ逸れるも、ようやくゴールに迫るチャンスまで。27分には日本も長友のアーリークロスに岡崎がヘディングで合わせ、DFにブロックされる場面を創りましたが、29分もニュージーランド。右SBのストーム・ルーが縦へグラウンダーで良いボールを付けると、コスタ・バルバロウセスは少し運んで中へ。ウッドのシュートは戻った吉田がブロックしたものの、カウンターからあわやというシーンを創出。「20分が過ぎてから、ミスをしなくなったことが大きかった」とエンブレン監督。大量失点を食らい、ようやく掛かり始めたニュージーランドのエンジン。
「時に起こることだが、早い時間で4点リードしたことで、チームとしても少しペースを落としてしまったし、ケガのリスクマネジメントをしている選手もいた」とアルベルト・ザッケローニ監督も話した日本は、相手がバランスを是正してきたことと、ゲーム自体に慣れてきたこともあって、少しずつ全体の推進力は減退。攻撃も左からの仕掛けが多く、サイドのバランスが偏った形で時間が経過していきます。
40分の悲鳴と沈黙。タイラー・ボイドのパスを左サイドで引き出したウッドは、そのまま重戦車ドリブルにトライ。マーカーの酒井宏樹と山口蛍が一端は挟んでボールを奪ったかに見えましたが、酒井宏樹のクリアは山口に当たって再びウッドの下へ。ほとんど角度のない位置から思い切り良く振り抜いたボールは、森重をかすめてコースがわずかに変わり、川島を破るとそのまま右のサイドネットへ突き刺さります。昨シーズンのイングランド・チャンピオンシップで22ゴールを奪ったストライカーが、その持てる能力の一端を披露。「力の差はもちろんあったし、点差が早い段階で開くと難しい」という吉田の言葉にも頷けるものの、日本からすれば勢いをさらに削がれる失点に。4-1というスコアで前半の45分間は終了しました。
後半はスタートから日本に4人の選手交替が。攻撃への関与とバランス維持の両面で全体的に好パフォーマンスを見せた山口と青山敏弘のドイスボランチが下がり、遠藤保仁と細貝萌がそのままの位置に。相変わらずのダイナミズムと得点力で日本の攻撃を牽引した岡崎と清武弘嗣を、やや不安定なパフォーマンスに終始した酒井宏樹と酒井高徳を、それぞれ入れ替えて後半に挑みます。
後半のファーストチャンスもニュージーランド。46分、左からマグリンチィが蹴ったCKをトゥイロマがヘディング。ここは川島永嗣がキャッチしましたが、マルセイユ所属の18歳が果敢にフィニッシュ。48分もニュージーランド。右からルーがグラウンダークロスを送ると、ウッドはわずかに届かず。51分もニュージーランド。右から今度はバルバロウセスがグラウンダーのアーリークロスを送り込み、飛び込んだウッドはオフサイドになりましたが、「前半から何回か右サイドで基点を創られる部分もあった」と吉田も言及した通り、"修正後"のニュージーランドは右サイドをうまく活用して日本ゴールへ迫ります。
51分には遠藤の好フィードを最高のトラップで持ち出した長友が、カットインしながらクロスバーを越えるミドルにトライしたものの、ここからの手数もより繰り出したのはニュージーランド。主審交替という珍しいシーンを経て、56分もニュージーランドの"右"。SBのルーが縦に送り、ハイサイドに潜ったマグリンチィはマイナスの折り返し。フリーで走り込んだボイドは力んでしまい、シュートはヒットしませんでしたが、完全に崩した形のフィニッシュ一歩手前。「自分たちの方がまとまりが出てきて、プレーの内容が良くなった」とエンブレン監督。躍動するオールホワイツ。
選手交替が勢いに繋がらない日本は、左サイドからの攻撃が相変わらず多く、結果としてその裏を素早く突かれてカウンターを食らうシーンが頻発。遠藤の散らす意識は窺えるものの、前半に岡崎が再三見せたような"空走り"を流れの中に組み込んで、結果として相手の隙間を狙うアタックが出てこず、流れが停滞気味に。65分に清武との連携から本田が枠へ飛ばしたミドルはモスがセーブ。73分には左から長友がピンポイントクロスを蹴り込み、遠藤のワンタッチパスを叩いた清武のボレーも左ポストを直撃。5点目への道を切り開けません。
75分はニュージーランド。後半の選手交替でCBから右SBにスライドしていたマイケル・ボクスオールのアーリークロスは、中央を通過してファーサイドまで。収めたボイドのシュートはDFが体でブロックするも、79分にもイージーなフィードを森重がクリアし損ね、真っ先に反応したウッドのシュートは枠の上へ。「センタリングを上げられた時に、嫌な雰囲気が出たりする回数をもう少し減らしたい」とは本田。シンプルが故に突き付けられる脅威。
次に国立のゴールネットを揺らしたのはニュージーランド。80分、右のハイサイドからジェレミー・ブロッキーが戻したボールを、終盤まで脚の落ちなかったペインはダイレクトでクロス。中央で森重とのポジション争いに勝利したウッドは、そのままダイレクトボレーを敢行すると、ボールはゴール右スミへ吸い込まれます。「ファウル気味に押されているけど、あれで点を取られてしまっても1点になるわけで、どれだけプレッシャーを掛けても、あそこで一発で行かれると、それで試合に負けてしまうということはある」と本田。ディテールを詰め切る作業に関しては、「小さな差がゲームの中での差になっていくと思う。ミスすることはしょうがないし、そこからどう立て直すかが非常に大きくなってくる」と川島も言及。課題抽出という意味でも、個人というよりもチームとして今後へ確実に繋げたい失点だったのは間違いありません。
79分に齋藤学、81分に豊田陽平が投入され、6枚の交替カードを切り終わったザッケローニ監督。88分には「追加招集で呼んでいただいて、こうやって短い時間でも出場させていただいたというのは感謝しなきゃいけない」と話した豊田が、高校の後輩に当たる本田と華麗なワンツーからファウルを獲得。中央右、ゴールまで約30mの距離から"後輩"が直接狙ったFKは、枠を捉えるもモスがファインセーブで回避。89分にはカウンターで自陣から50m近く運んだ豊田が枠内ミドル。90+2分にも遠藤、本田と回ったボールを、齋藤は得意のドリブルシュートまで持ち込むも、DFが決死のブロック。このシーンは右にフリーで豊田も余っていたものの、「鳥栖だったらもらえたかもしれないですけど、お互いにこの時期はアピールしないといけないし、学とは色々な面で関わっていて仲も良いので、あまり強くは言えないです」と本人も苦笑い。結局日本のゴールは17分までで打ち止め。「最初の25分は良い時間帯が続いたので当然注意して見ていたが、それ以外の時間帯でチームがうまく回っていない時に何ができるのか、どういうリアクションをするのかを見るためにも役に立った試合」と指揮官も話した国立ラストマッチは、日本が4-2というスコアで勝利を収める結果となりました。
「今日は前半で引き分けるようなことがあれば、負ける可能性もあった相手だと思ったので、そういう意識で入ったのが逆に良かったかもしれない」と本田も認めたように、ニュージーランドは決してスパーリング相手として力の落ちる相手ではなかったと思います。ただ、「最初の10分がなければと思う。自分たちのプレーができる前に試合が終わってしまったのは残念」というエンブレン監督の言葉通り、勝敗という意味においてはあまりにも早い決着を迎えてしまいましたし、それが経験不足から来ていたのも確かだと思います。とはいえ、2点を奪ったウッドのポテンシャルはプレミアクラス。今後のオールホワイツには確かな希望が待っているような印象を受けました。
「ほぼ4年間言い続けてきたことで、もしかしたらまだ信じてくれていないのかもしれないが、フレンドリーマッチはテストの場だと考えている」と話したザッケローニ監督。ならば、勝敗が早い段階で決してしまったこの日の選手起用からは、本大会に向けてのメンバー選考に際する序列も垣間見えた気がします。中でもアピールに成功した感があったのはボランチで存在感を発揮した青山。広島で鍛えられたパスワークはもちろん、岡崎というダイナミズムが大事なポイントになってくるチームの中、ピンポイントでフィードを裏に落とせるスキルも大きなアドバンテージでしょう。また、失点シーンにこそ絡んでしまったものの、自らのゴールシーンも含めてフェアなフィジカルコンタクトに成長を感じさせる森重も、場合によってはスタメン争いに食い込んでくるくらいのパフォーマンスを披露していたのではないかなと。「1人1人がこういう中で感じた部分を、所属チームに戻ってやるしかないのかなと思います」と川島。23人にブラジル行きの切符が振り分けられるまで、残された時間は本当にわずか。「次にできることと言ったらリーグで頑張るしかない」と語った豊田も含め、王国のピッチに立つためのサバイバルはいよいよ第4コーナーを回りました。 土屋
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