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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
日本サッカーの殿堂と言うべき聖地で繰り広げられる最後の1試合。富山県47校の代表、富山第一。石川県40校の代表、星稜。共に悲願とも言うべき3度目の正直を成し遂げ、高校選手権のファイナルで実現した"北陸ダービー"。舞台はもちろん国立霞ヶ丘競技場です。
第78回、第79回と続けて国立まで駆け上がりながら、そのどちらも勝利を手にすることはできなかった富山第一。今大会は3回戦までいずれも1点差のゲームを粘り強くモノにすると、準々決勝では4ゴールと攻撃陣が大爆発。一昨日のセミファイナルで激突した四日市中央工業には2度のリードを追い付かれるも、最後は"PK職人"田子真太郎(3年・ヴァリエンテ富山)の活躍もあって、とうとう国立初勝利を達成。同校として、また富山県勢として初めて全国の頂点に立つ権利をその手で掴み取っています。
第83回、そして前回の第91回と2度の国立は揃ってPK戦での敗退を強いられた星稜。昨年度の"1つ上"を目指して乗り込んできた今大会は、5ゴールを挙げる大勝で初戦を飾ったものの、玉野光南、修徳と続いた2試合はいずれもPK戦で何とか勝ち上がってきました。ところが、セミファイナルの京都橘戦は優勝候補を向こうに回し、4ゴールを奪う見事な完勝で"昨年超え"を達成。「国立で勝利がない私にとっては時間が長くて長くて。54歳ですけどドキドキハラハラという感じでした」と笑った河﨑護監督に、もう1つ上の景色をプレゼントする覚悟は整っています。当日券は完売。スタンドを埋め尽くした観衆は実に48295人。「入場した時に今までとまったく違う緊張感が自分に襲ってきたので、やっぱり国立はコレだなと思った」とは富山第一の細木勇人(3年・UOZU FC UB)。完璧に舞台が整えられたファイナルは、富山第一のキックオフでその火蓋が切って落とされました。
2分に最初のチャンスを迎えたのは星稜。CBの藤田峻作(3年・友渕FC)が左から蹴ったFKはDFのクリアに遭い、直後に右から投げた森下洋平(3年・エスポワール白山FC)のロングスローもDFにクリアされますが、まずはセットプレーから窺う相手ゴール。4分には富山第一にもチャンス。ゴール右、30m弱の距離から細木が直接狙ったFKは星稜GK近藤大河(3年・名古屋グランパスU15)がキャッチ。6分にも中央、ゴールまで約25mのFKをトリック気味に大塚翔(3年・富山北FC)が蹴り出すと、最後は竹澤昂樹(3年・エスポワール白山FC)が枠へ飛ばしたシュートも近藤がファインセーブで回避。お互いにセットプレーから好機を創り合います。
そんな中、「相手は想像していた以上に出足が良く、1人1人がしっかりしていた」と河﨑監督も話したように、少しずつペースを掴んでいったのは富山第一。「ボランチも結構前目にプレスを掛けて、相手のボランチにボールが入った時に奪ったりしてチャンスも創れていたので、いい流れで試合に入れたと思う」とはドイスボランチの一角を占める細木。14分には中央から右SBの城山典(3年・富山北FC)が枠内ミドル。15分にも細木がカウンターの起点となり、左から渡辺仁史朗(3年・富山北FC)がカットインして放ったシュートは星稜の左SB上田大空(3年・鹿島アントラーズノルテJY)がブロック。17分には細木の左CKを藤井徹(3年・FCひがし)がキープし、野沢祐弥(3年・UOZU FC UB)のシュートはここも上田が体でブロックしたものの、「前から行ってショートカウンターで点を取って、勢いのままに点差を広げて逃げ切る」という指揮官のプランを体現すべく、国立のピッチで躍動する越中の紫軍団。
18分も富山第一。左CKを細木が短く出すと、「フットサルが得意だったので、技術はそれで身に付いた」という竹澤は華麗な浮き球トラップでマーカーを外し、右足で近藤にセーブを強いるシュートまで。20分も富山第一。狙い通りに高い位置でボールを奪うと、大塚はすぐさまスルーパス。走った野沢より、飛び出した近藤が一瞬早く蹴り出しますが、21分にも左サイドで竹澤が巧みな縦パスを披露し、野沢のクロスへ渡辺が合わせたヘディングは枠の右へ。「今までに味わったことのないようなプレッシャーを感じた」とは河﨑監督。富山第一の時間が続きます。
さて、星稜はここ2戦同様にスタートは鈴木大誠(2年・SOLESTRELLA NARA2002)を相手の1トップに入った渡辺にマンマークで付けましたが、「中盤のセカンドボールが拾えなくなったので」(河﨑監督)、15分前後には鈴木をマンマークから解放し、渡辺は2人のCBが見る格好に。ただ、それでも肝心のセカンド奪取には直結せず、「自分たちの思うような攻撃ができなかったし、自分たちの所にもボールがこぼれてこなかった」と語るFWの森山泰希(2年・名古屋グランパスU15)も、左SHの寺村介(3年・FC四日市)とポジションを入れ替えながら、守備に奔走せざるを得ない状況に。25分に森下の縦パスから、寺村が上げたクロスもDFに当たってGKへ。28分には右FKを藤田がトリック気味に寺村へ付けるも、素早いプレスを掛けられボールロスト。フィニッシュへと持ち込むことができません。
しかし、「ちょっとした甘さが出た」と大塚一朗監督も言及したのは33分。右から前川優太(2年・セレッソ大阪西U-15)が入れたクロスはエリア内でこぼれると、DFが原田亘(3年・ヴィッセル神戸U-15)を倒してしまい、星稜にPKが与えられます。キッカーは言うまでもなく寺村。PK戦も含め、今大会5度目のキックは過去4回の"左、右、左、右"を踏襲する格好で左へ。GKが飛んだのは逆サイド。その蹴ったPKのすべてを成功させた、10番を背負うキャプテンの強靭なメンタルはファイナルの舞台ですら微塵も揺るがず。ファーストシュートで星稜が先制点を強奪しました。
押し気味にゲームを進めながら、1回のチャンスで失点を喫した富山第一。以降はそれまでよりも縦への推進力が減退し、手数を繰り出せなくなっていきます。42分には野沢のパスを渡辺が粘って繋ぎ、リターンをもらった野沢の左足ミドルもクロスバーの上へ。逆に45+1分は星稜。仲谷将樹(3年・ガンバ大阪堺JY)がラインの裏へ走り込み、ここは富山第一GK高橋昂佑(3年・FCひがし)が飛び出してクリア。直後も星稜。仲谷の右クロスに、下がりながら左足で打ち切った寺村のボレーは枠の左へ。「あそこで点を取らないと後々響いてくるとは思っていた」と細木。少ないチャンスをきっちりモノにした星稜が1点をリードして、最初の45分間は終了しました。
後半もファーストシュートは「『ここから逆転したらスゲーぞ』とみんなで話していた」(細木)富山第一。中盤のルーズボールを拾い、エリア内から川縁大雅(3年・FCひがし)が枠へ収めたシュートは近藤にキャッチされましたが、53分に大塚のパスから細木のミドルは藤田に当たるも、ボランチのラインから続いた積極的なシュートチャレンジ。55分にも竹澤のパスから野沢が狙ったミドルは寺田弓人(3年・ヘミニス金沢FC)をかすめて枠の右へ。同点、そして逆転への意欲を前面に打ち出します。
寺田と藤田の両CBを中心に、守備の集中は一向に途切れる気配のない星稜。57分には森下のアーリークロスに、寺村が懸命に頭を伸ばしたヘディングは高橋にキャッチされましたが、「後半になってちょっとずつ星稜ペースになってきた」と感じていたのは森山。確かに前半よりはサイドへ進出する回数も増加し、リードを生かしながら時計の針を進めていきます。
59分に決断したのは大塚監督。右SHの西村拓真(2年・名東クラブ)に替えて、そのままの位置に高浪奨(3年・ヴァリエンテ富山)を投入。「アイツが入るということはどういう指示なのかわかりやすいし、チームとしてもギアを上げて点を取りにいくという意識は全体が感じていた」と細木。3年生のスーパーサブに託された勝負。
61分は富山第一。細木の右CKをニアで合わせた野沢のヘディングは枠の右へ。64分は星稜。前川の右FKから、鈴木が左足で狙ったシュートはクロスバーの上へ。65分は富山第一。竹澤がヒールで残し、左から野沢が中へ入れると、上がってきた川縁のシュートは藤田が懸命にクリア。直後の左CKはキッカーの細木へ戻り、再び放り込んだクロスは渡辺へわずかに合わず。富山第一の"矛"と星稜の"盾"が真っ向からぶつかり合います。
"矛"と"盾"の反転。70分、鋭い出足で相手のパスを奪った上田は素早く裏のスペースへ。仲谷が左へ流れながらクロスを上げ切ると、ここへ飛び込んだのは「本当にストレスが溜まってキレそうになっていたけど、みんなが『大丈夫、大丈夫』と言ってくれたので落ち着いてやることができた」という森山。頭で方向を変えたボールは、緩やかに右のサイドネットへ吸い込まれます。「いいボールだったので、強い気持ちで決めるだけだった」と語る9番のストライカーが、この国立で2戦連発弾。スコアボードの数字は"1"から"2"に変わりました。
「2-0になった所まではプラン通り」と河﨑監督。72分にはルーズボールを回収した寺村が、高橋がファインセーブで阻止するシュートまで。75分には攻守に奮闘し、追加点までマークした殊勲の森山と長谷川朔太郎(2年・FC四日市)をスイッチさせ、前からのプレスと全体の運動量アップに着手。2失点目の直後から「システムを変えて、クリスマスツリーのようにした」(大塚監督)富山第一も、76分に自身7本目となる野沢のミドルが近藤にキャッチされると、その野沢を村井和樹(3年・富山北FC)と入れ替え、小さくないビハインドへ挑みます。
80分には村井のパスから大塚が放ったミドルも近藤ががっちりキャッチ。「『前半はいい内容だったが、内容で勝っていても負けたら一緒だぞ』と。『隣の県のライバルだし、ライバルに負ける訳にはいかないんだ』とハーフタイムにも話した」という大塚が必死にチームを鼓舞するものの、焦りからか取り切れないフィニッシュ。86分、「彼の疲労度を考えると、あの時間帯はもう(体力が)なかったと思います。ただ、結構引っ張ったんですよね」という河﨑監督は寺村を下げて、稲垣拓斗(3年・ヘミニス金沢FC)をピッチへ送り込み、遂行した「ゲームを終わらせるためのプラン」。
「失点の時にはみんなちょっとうつむいたけど、自分が絶対に点を取ってやろうと思っていた」というスーパーサブの存在証明。87分、竹澤の好フィードに走り込んだ村井は、自ら縦に運ぶとそのままクロス。逆サイドで待っていた高浪は、マーカーの頭をわずかに越えたボールを丁寧に止めると、冷静に素早くプッシュ。よく反応した近藤も一歩及ばず、白黒の球体はゴールネットを静かに揺らします。高浪の追撃弾で一気に1点差。風雲急を告げる国立劇場。
「2-1のままで終わらせようとなって、受けに回ってしまったので少し混乱もあったと思う」(鈴木)「残り時間は少なかったけど、『俺たちは行ける』という雰囲気がみんなから伝わってきた」(細木)。異様な流れに抗えなかった前者。90+2分、富山第一決死のアタックは星稜を押し込み、右サイドのスローインを渡辺が粘って収め、川縁が左へ流すと、「縦に抜けてシュートを打つイメージ」で突っ込んだ竹澤は森下と接触して転倒。山本雄大主審が迷わず指し示したのはペナルティスポット。「スライディングされたのが中学のチームメートで、その瞬間から下を向いて落ち込んでいたので複雑だった」と竹澤。サッカーの神様は時としてあまりにも気まぐれ。富山第一に最高の見せ場が訪れます。
恐ろしいほどのプレッシャーが掛かるこの場面。キッカーはキャプテンマークをその腕に巻く大塚。「初戦からPKが何度かあったが、ずっと右側に蹴っていた」状況を思い返し、「GKの顔を見たら自信を持っていそうだったので、逆に蹴れば入るなと思った」と下した判断。この土壇場で何という冷静さ。大塚が左に蹴ったキックは、見事にGKの逆を突いてゴールネットに飛び込みます。直後に鳴り響いたのは90分間の終焉を告げるホイッスル。カーテンコールはまだ先。ファイナルは前後半10分ずつの延長戦へ、そのステージを移すこととなりました。
まだどよめきの収まらない中でキックオフを迎えたエクストラタイムは打ち合う両者。93分は星稜。近藤のキックを寺田が頭で繋ぎ、森下が敢行したダイビングヘッドはわずかにゴール右へ。94分は富山第一。右サイドから城山が投げたロングスローはこぼれ、竹澤が叩いた30mミドルはストレートに枠の右へ。97分は星稜。大会直前にレギュラーの座を掴みながら、決勝進出へ大きく貢献してきた藤田がゴールまで40m近い位置から、突如としてトライしたロングシュートはクロスバーに激しくヒット。98分は富山第一。村井のパスを受け、右に流れながら渡辺が放ったシュートは近藤が何とかキャッチ。見応え十分の10分間を経て、いよいよゲームは正真正銘のラスト10分間へ。
103分は富山第一。高浪、村井と途中出場の2人が繋ぎ、渡辺が狙ったミドルはゴール左へ。106分には星稜が最後の選手交替。長谷川に替えて川森直威(3年・FC四日市)をピッチへ解き放ち、試合を決め切る姿勢を鮮明に打ち出します。拮抗の両雄。刻々と消えていく時間。富山第一の"職人"田子が早めるウォーミングアップのペース。大旗の行方は今年もロシアンルーレットに委ねられるのか。
「途中交替の選手が結果を出してきた。そういうチームが本当に強いチーム」(細木)。その時は109分。右サイドで獲得したスローイン。長めの助走から城山が投げ入れた延長3本目のロングスローは、エリア内で弾んでゴール前へ。「『来た!』と思った」村井が左足で振り抜いたボールは、あっという間にゴールネットへ到達します。紫の絶叫。紫の狂喜。みんなで話していた「スゲーぞ」は現実のものに。程なくしてその耳に届いたのは、最後の勝者を祝うファイナルホイッスル。「こんな感動的なフィナーレがあるのか」と大塚監督も涙を流す劇的な逆転勝利で、富山第一が日本一の称号に輝く結果となりました。
今から49年前。初めて全国大会に出場した富山第一は、初戦で0-2というスコアで敗れました。今から39年前。初めて全国大会に出場した星稜は、やはり初戦で0-2というスコアで敗れています。今回で25回目の全国出場となった前者と、24回目の全国出場となった後者。過去複数回に渡って、国立まで勝ち上がった北信越の高校はこの2校をおいて他にありません。試合後にどちらからともなく歩み寄ったのは、両校の歴史を創り上げてきた富山第一の長峰俊之部長と河﨑監督。16年前にサッカー後進地域と呼ばれた北信越地域におけるサッカーの発展を期して、2人の情熱溢れる指導者が立ち上げに関わった"中日本ユースサッカースーパーリーグ"は、その参加チームも4倍に膨れ上がり、「これは北信越地区の冬場のトレーニング、強化プランとして、永遠に続けていきたいと思う」と河﨑監督も話しています。
誰もが夢見る国立競技場の最蹴章で、ファイナルの舞台に立ったのは北信越の2チーム。準決勝後に「大変地味なカードになって申し訳ありません。国立最蹴章に"北陸ダービー"なんて有り得ない話ですよ」と報道陣を笑わせたのは河﨑監督でしたが、誤解を恐れずに言えば、国立ファイナル史上最も"地味なカード"が、ひょっとすると国立ファイナル史上最もエキサイティングな一戦として歴史に刻まれたのは、結果こそ富山第一にとって劇的な、星稜にとって残酷な結末を迎えたものの、北信越のサッカーをこの地位まで押し上げた両雄に対する、サッカーの神様からのご褒美だったのかもしれません。 土屋
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