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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
通い慣れた"第二"や"補助"ではなく、トラックの付いたピッチへちょうど1年ぶりに帰ってきたのは東京のドイツ。近江の新鋭を迎え撃つ一戦は駒沢陸上競技場です。
昨年はインターハイ予選から東京のトーナメントコンペティションを無敗で駆け抜け、迎えた選手権本大会でも優勝候補の青森山田を向こうに回し、PK戦の末に惜しくも敗退しましたが、見る者に強烈なインパクトを残した修徳。今予選でも都の決勝では成立学園相手に残り5分で2点のリードを引っ繰り返されながら、最後は延長で競り勝っての連覇を達成。青森山田を追い詰めた1年前と同じ駒沢陸上から、今年も全国への挑戦がスタートします。
ファイナルまで勝ち上がること3回。そのいずれも野洲という高い壁に跳ね返され、全国のステージが遠かった綾羽。それでも四たび決勝で相まみえた"セクシーフットボール"を、キャプテン山本涼太(3年・セゾンFC)のドッピエッタでとうとう撃破し、この晴れ舞台に堂々と登場。「初出場だから初戦突破がイコールなのは違うと思っていて、全国優勝させてもらう権利は48チーム全部にある」と岸本幸二監督が話したように、初めての全国という引け目はチームに一切ありません。東京の空は雲ひとつない快晴。両校の応援団が互いに負けじと大きな声援を送る中、綾羽のキックオフで第1試合の火蓋は切って落とされました。
先にシュートを放ったのは綾羽。4分、ゴール左寄り、30m弱の位置で獲得したFKを山本が直接狙い、ボールはクロスバーの上に外れたものの、まずはキャプテンが勝利への意欲を自らのキックに滲ませます。ただ、「チームとしても緊張するから、最初の15分はシンプルに裏に蹴っていいというコンセプトでやっていた」とCBの渡邊黎生(3年・LARGO.FC)が話した修徳が長いボールを蹴る中で、繋ぎたい綾羽もやや付き合う格好になってしまい、お互いに手数を繰り出せないまま、序盤は時間が経過していきます。
12分は修徳。キャプテンの池田晃輔(3年・埼玉ユナイテッドFCフェスタ)が前線まで飛び出して奪った右CK。田上真伍(3年・FC東京U-15深川)が蹴ったボールを、ニアで合わせた渡邊のシュートは大きくゴール右へ。17分は綾羽。左から山本が入れたCKはDFにクリアされるも、奥井良樹(3年・FC湖東)が思い切って狙ったボレーは枠の右へ。19分は修徳。田上がハーフウェーライン付近から蹴り込んだFKはDFのクリアに遭い、池田が打ち切ったボレーはクロスバーの上へ。セットプレーからフィニッシュを取り合うも、決定的なシーンには至りません。
そんな中、「ちょっと蹴り過ぎだったのはあるけど、ムダに繋いで取られて失点するよりは今日みたいな感じでもいい」(池田)と割り切っていた修徳に傾き始めたゲームリズム。20分には渡邊のピンポイントフィードから田上が背後へ抜け出し、足が滑ったことでチャンスは潰えるも、悪くない形を打ち出すと、同じく20分には「アイツがいなかったらダメ。凄く助かっている」と渡邊も絶対的な信頼を寄せる久保祐貴(3年・習志野第一中)が得意のパスカットを敢行。すかさず繰り出したスルーパスは、走った1トップの加藤禅(3年・柏レイソルU-15)へわずかに届かなかったものの、この一連あたりから「もっと前でボールを取って攻めよう」という指揮官の指示もあって、修徳が積極的な守備からペースを掴み出します。
25分も修徳。峰和也(3年・Wings U-15)のスローインから、佐藤悠輝(3年・FC東京U-15深川)がエリア外にも関わらず、思い切って叩いたボレーはわずかにゴール右へ。26分には綾羽も右SBの平田聖弥(2年・MIOびわこ草津U-15)が右へ繋ぎ、山本がさらに右へ流れながら放ったシュートは、池田がしっかりコースに入ってブロック。32分は修徳。田上の右FKへ飛び込んだ渡邊は、頭に薄く当てるもボールはゴール左へ。40+1分も修徳。GKの高橋太郎(3年・すみだSC)が蹴ったボールはDFがクリアすると、田上がミドルレンジからチャレンジしたボレーは、綾羽のGK三谷盛心(3年・SAGAWA SHIGA FOOTBALL ACADEMY JY)がしっかりキャッチ。「こういう展開は予想していた」と岩本慎二郎監督。双方に動きの少ない前半は、スコアレスのままでハーフタイムに入りました。
田上のキックオフシュートで幕を開けた後半は、スタートから動いた岩本監督。「しっかり守備ができる」小野寺湧紀(2年・荒川第五中)に替えて、都予選ファイナルで決勝点を挙げた関秀太(3年・スクデット)を投入。綾羽の槍とも言うべき右SHの奥井に対する抑止力と、単純にチーム一切れ味のあるドリブル突破に期待して、そのまま左SHへ送り込みます。
42分には田上のスルーパスに走り込んだ池田は一歩届かず。44分にも田上のFKから、こぼれを久保がゴール前に上げたボールは三谷がキャッチ。後半もまずは修徳にゴールの予感が漂いましたが、50分前後から「あの時間は苦しかった」と池田も振り返ったように、完全に反転した両者の攻守。
51分は綾羽。高野大輝(3年・FC Mi-o Catfish Kusatsu)が1本で右の裏へ落とすと、奥井は得意のスピードで追い付き、シュートまであと一運びという所で修徳の左SB今野尚也(3年・GOODLY)にクリアされたものの、52分にも右サイドの奥井を起点に、奥村南斗(2年・MIOびわこ草津U-15)が放ったシュートはDFにブロックされましたが、にわかにチャンスを創出し始めると、55分には決定機。奥井が右に付けたボールを、平田は素早くクロス。ファーサイドへ届いたボールはフリーの北川純希(3年・FC Mi-o Catfish Kusatsu)へ。ワントラップから左足を振り抜くも、このボールを間一髪でブロックしたのは「見えていたというのもあるし、冷静に対応できた」という久保。昨年も全国の舞台を2試合経験し、今日も「緊張もなくワクワクしていた」という都内屈指のハードワーカーが絶体絶命のピンチを救います。
とはいえ、「バックラインも押し上げられなくて、前線も下がれなくて、結局真ん中でボールを拾われて、前を向かれていた」(渡邊)「前線の選手が前に並んでしまって、2ラインになってしまったのでセカンドボールを拾われてしまった」(久保)と2人が共通認識を口にしたように、間延びしてしまったライン間を使い、セカンドもことごとく拾った綾羽の続く攻勢。61分には山本が自ら蹴ったFKのこぼれをそのままシュートに変えるも、ここは渡邊が体でブロック。64分にも相手のクリアを平田がダイレクトで折り返し、山本のノートラップボレーは高橋が何とかキャッチ。「あの時間帯はボールが地面を転がっている時間が長かった。自分たちが地上戦で勝負したい中でうまく連動してできていたかなと思う」と岸本監督。69分には奥村と田中寛之(2年・MIOびわこ草津U-15)を入れ替え、1点を奪い切る采配を選手たち自身で決断します。
同じタイミングで動いた岩本監督。右SBの峰に替えて、ピッチへ解き放ったのは雪江悠人(2年・三郷JY)。マルチロールの池田が右SBへ移り、雪江が右SHに入ったため、佐藤が左SHへスライド。関を1.5列目に、田上を2.5列目にそれぞれ配置する、「ちょっとどうかなと思ったけど、PK戦じゃなくて1点を取りに行こうという積極的な采配」を振るいます。
すると、先制の大きなチャンスが訪れたのは74分。左に持ち場を変えた佐藤が、その左サイドで倒されて得たFK。スポットに立ったのは雪江と田上でしたが、キッカーは既に「狙おうというのは決めていた」田上で決まり。ゴールまでの距離は25m強。「GKが真ん中に立っていたので、壁の上を狙うよりは壁のない方に速く蹴れば入るかなと思って」右奥を狙った軌道は、狙い通りに壁のない方を通過し、そのまま右のサイドネットへ突き刺さります。「いいプレースキックは持っているが、あんなシュートは初めて見た」と指揮官は笑いましたが、「蹴った瞬間に入った感じがした」とは田上。「今年の修徳の10番はそうでもないなと思われたくない」と語っていたエースのゴラッソが飛び出し、修徳がこの時間で1点のリードを強奪しました。
「ある程度後半は押し気味の時間帯に持って行けた」(岸本監督)流れの中で、最終盤に来て1点のビハインドを背負うこととなった綾羽。75分には北川と小野山翔(2年・SAGAWA SHIGA FC FOOTBALL ACADEMY JY)、78分には清水章満(3年・セゾンFC)と北尾弘汰(2年・FC.SETA 2002 SHIGA)を相次いで交替させ、最後の反撃に懸ける姿勢を。一方の修徳はすぐさま佐藤を下げて、田原迫隼人(2年・Forza'02)を右SBへ送り込み、池田を再び中盤に戻して、時間を消し去る覚悟を鮮明に打ち出します。
しかし、ここからの手数はむしろ修徳。79分には関がヘディングで競り勝ったボールを加藤が拾い、エリア内でDFを引きずりながら、粘って粘って打ったシュートはわずかに枠の右へ。80+1分にも高い位置で相手ボールを奪い切った雪江は絶妙のスルーパス。完全に1人で抜け出した関はGKをかわすも角度がなくなり、詰めた加藤のシュートはDFにブロックされたものの、攻め切って時間を潰す理想的な展開で、3分のアディショナルタイムも刻々と経過。
80+2分にも雪江が果敢なプレスでボールをかっさらうと、そのまま枠の左へ外れるミドルを。80+3分にもゴールまで35m近い位置から、雪江は思い切った直接FKをクロスバーの上へ。途中交替の選手も役割をきっちり果たし、渡邊とこのシーズンラストに戦線へ帰ってきた大野翔平(3年・クリアージュ)の牙城も最後まで揺るがず。駒沢に轟いたホイッスルに喜びの声を上げたのは、「あの応援があるから選手たちが後押しされた部分は本当にある」と岩本監督も認めた黄色の大応援団。勝ったのは修徳。「勝ったってことで80点くらいはあげていいんじゃないかな」と指揮官も笑顔を見せた"東京のドイツ"が、全国16強へ名乗りを上げる結果となりました。
やはり修徳は修徳だなと、改めて思い知らされるような80分間だったと思います。「やれない相手ではなかった」と岸本監督が話したように、綾羽の時間帯も決して短くはなかったものの、勝ったのは結局1本のセットプレーをゴールに結び付けた修徳。「普段だったら焦りもあったと思うけど、『選手権は"うまくいかない"ので、そのへんでイライラしていたら負けだ』と監督に言われていたこともあって、自分たちで抑えながらやった」と田上。"うまくいかない"と折り合える力は、このチームが有する最大の武器と言っても過言ではないかもしれません。いよいよ次はベスト16。「とりあえずこの代は『去年の記録を超える』という所から入ったので、1つ目標を達成できたし、次に勝てば修徳史上初のベスト8なので、一戦一戦大事に戦っていきたい」と力強く語ったのは池田。「全員守備、全員攻撃の我慢強い修徳サッカー」(久保)が目指すのは、言うまでもなく"同校史上初"のその先です。 土屋
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